782 困難はいずれ終わる
神剣を断ち切ってもすぐに次の神剣が生み出される。
だが、そこまでゼロコンマ数秒の猶予が生まれる。
瞬きする暇もなく、姿勢を流しながら次の神剣に手を伸ばすことなく、残った剣だけで迎え撃とうとしているアイワが見える。
左足首を失い、体を切り裂かれ、あちこちに重傷と言えるような傷を持ちながらも、まだ笑みを絶やさず戦いに身を置くか。
「ハァアアアアアアアアアアア!!!」
横からの雄たけび、気合とともに放たれる何度目かのキオ教官の正拳。
『滅べ、滅べ!キサマとの因縁ここで断ってみせるわ!!』
キオ教官の攻撃の隙間を埋めるように、フシオ教官の魔法が迫る。
ゆっくりと、そう、ゆっくりとアイワが追い詰められる。
鬼の攻撃を躱すために身をよじれば、その身に不死者の魔法が飛び、魔法を振り払おうと剣を振るえば俺の斬撃が阻む。
その斬撃を受け流そうとすれば鬼の拳が飛んでくる。
負わせたダメージは間違いなく彼女を追い詰めるが、返す斬撃でこちらにも深い傷を残す。
「ガハハハ!俺はまだ生きてるぞ!!」
キオ教官の指が斬り飛ばされ、拳が作れなくなった。
『カハハハ!まだ死なんか!!不死者よりもしぶといな!!』
フシオ教官の右目に切り込みが入った。
「まだまだぁ!!」
俺の腹に剣を突き立てられた。
大丈夫、内臓には届いているけど、これくらいならまだ動ける。
全員わかっている。
ここをしのげばアイワは生き残れる。
ここで仕留めなければ俺たちは負ける。
先にへばった方が負ける。
もうこっちは連戦に次ぐ連戦で魔力がガス欠寸前。
体力なんてとっくの昔に底を突いて残された気力だけで全力疾走中。
魔力が尽きるか、意識が飛べばもう、起き上がることはできない。
「アハハハ!!あなたもまだ戦いますか!!」
フェリがアイワの左足に食いつく、そしてアイワの剣で左目を潰された。
だが、それを代価に渾身の力でアイワの左足を根元から食いちぎった。
『まだ、こっちにも余力はあんだよ!!』
魔力が尽きても、わずかに回復し竜の姿で突撃しアイワに襲い掛かる竜王。
「面白い、本当にあなたたちは私を楽しませてくれます!!」
両腕の爪でアイワを斬り割こうとしたが、巨体ゆえの鈍足で躱され片腕を切り飛ばされるが、竜王が口を開く。
「そんなところに巨人を隠せるのは竜族だけですよ!!」
ブレスを吐き出す魔力は残っていない。
できるのは、巨人王を届けるということだけ、竜王がプライドをかなぐり捨てて最後の力を振り絞った。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして竜王の口内に潜むという奇策を使ってアイワに肉薄する巨人王。
その両手で構える巨大な斧でアイワを両断しようとする。
「ですが私には届きません!!」
しかし、その両断する斧よりも先にアイワは巨人王の懐に踏み込んだ。
巨人王の斬撃の間合いの内側。
凶器を背後にすることで躱せるわずかな安全圏に入り込み、そのまま巨人王の心臓を剣で貫いた。
「っ!?捕まえたぁ!!」
心臓を潰されれば、さすがの将軍であっても無事では済まない。
だが、タフネスでは鬼族に並ぶ巨人族。
心臓を潰された程度で、即死はしない。
寡黙な巨人王とは思えない雄たけびを上げる。
「ヤレ!!」
「おう!!そのまま離すんじゃねぇぞ!!」
「無駄にはしません!!」
その意志を無駄にせんと、キオ教官とともに踏み込む。
「仲間の命を賭ける!それも良き戦い!!」
巨人王の耐久性というよりは生命力を信じての、一撃。
さすがのアイワも巨人に正面から抱きしめられれば、そう簡単に離れることはできない。
だが、仮にも太陽神の力を簒奪した存在。
「ですが!そう簡単に終わると思わないことです!!」
巨人王が抱き込むように拘束したなかで、その身から神炎を吹き出す。
「ぐぅ!?」
歯を食いしばり、その熱に耐えきる巨人王であるが、肉が焼ける匂いが踏み込んだ先から漂ってくる。
熱気を感じ、俺の肌も焼け始めるが、関係ない。
「とった!!」
「死ねや!!」
神炎で視界を奪われたが、それでも迷わず鉱樹を突き立てた先にアイワの心臓を捉え、反対側から来た教官の拳はアイワの側頭部を捉えた。
「あ、とは、頼む」
「おう!」
「樹王!」
「承知しています!!」
竜王は復帰しようとしているが、巨人王は無理だ。
それを即座に理解した俺たちは、逝き際の彼の言葉に背を押されアイワを仕留めにかかる。
心臓をえぐるために柄を回し、そのまま横に一閃。
キオ教官は巨人王の襟をつかむと、そのまま樹王のもとに放り投げた。
「カハ、血の味ですか」
心臓をえぐられて、ようやく血を吐き出した。
「久しぶりですね、ああ、これは、いい!!」
それなのに命の危機を感じるどころか、感情が爆発したか。
終わりを悟ったような奴の顔じゃない。
ここからでも勝ち切るつもりか!
諦めの色を一切感じない。アイワはそのズタボロな体でもまだ健在な翼を羽ばたかせて、距離を取る。
「もう一度です!!」
そしてすぐに踏み込んで、最初の時よりもキレを増した斬撃を放ってきた。
「っ!?」
未来予知をしても完全に躱し切れない。
左肩が逝った。
斬り飛ばされ、俺の左腕が宙を舞う。
回復は、間に合わない。
だったら。
「まだ、右腕がある!!」
お返しをしないといけないよな。
斬られたと感じる直前に、躱せないとわかった。
だったらと、返しの刃で鉱樹を握っている右腕を唸らせ、アイワの左腕の肘に刃を走らせその腕を切り飛ばした。
「ええ!そうです、私もまだ右腕があります!!」
「俺はまだ両腕が残ってるぞ!!」
『片目を奪った程度の傷でワシが止まると思ったか!!』
止血している暇はない、下がるわけにもいかない。
「ヴァルス!!」
「はいよ!!」
俺の傷口を時間停止させ、出血を防ぐ、これで戦える。
痛みなんてとうの昔に麻痺している。
教官二人が前にでて、猛追する背中を追いかける。
指が欠けた手で打撃を繰り出す大鬼が正面に立ち、そして大鬼を盾にした不死者が魔法を繰り出すが、それでも。
「まだです!まだ終わりませんよ!!」
片足を失い、体を割かれ、心臓を貫かれ、左手を失い、それでもアイワは戦う。
この戦いよ終わってくれるなと、願うような歓喜を込めて、笑みを携え戦い続ける。
その気迫に押された大鬼の膝に剣が刺さる。
大鬼の姿勢が崩れた。
まずい。
流れるように、アイワはキオ教官の肩を残った足で踏みつけ、乗り越えた。
「滅びましょう!!」
『生憎と、最期は妻の腕の中と決めておるんじゃ!!』
接近戦に対応できると言っても、超越した戦巧者のアイワを相手にするにはフシオ教官でも厳しい。
教官の城の尖塔からの魔弾の銃撃も翼で防ぎ、後衛のフシオ教官にアイワは迫った。
杖が両断される、部下の肉体で防御するもそれも斬り割かれる。
「させるかぁ!!!」
体当たりする勢いで、フシオ教官に迫る三度目の斬撃に体を差し込み、片腕でアイワの斬撃を受け。
〝っ!?〟
鉱樹にひびが入った。
〝まだだ!!まだいける!まだ終わらぬ!!手を緩めるな!!相棒!!〟
そこに危機を感じ、そうなった俺の気持ちの未来を悟った相棒が叫ぶ。
「応!!」
相棒を信じて、緩めぬまま、鍔迫り合いを切り払って打ち返す。
腕が重い、だけど速度を落とすな。
片腕だとバランスがとりにくい。
すぐに修正しろ!
魔力が底を尽きそうだ。
最後の一滴まで振り絞れ!!
後のことなんて後で考えろ!!
今この瞬間、瞬間が大事なんだ!!
アイワの剣と打ち合い続けるたびに、最初にひびが入った箇所から刀身にひびが広がっていく。
〝まだだ!まだだ!!もっとだ!!もっと攻めろ!!〟
気力を奮い立たせる相棒の声に前に踏み込み。
「覚えておきましょう!!あなたは私の知る中で最強の人間でした!!」
だが、いかに決死の覚悟を決めようとも、年月に裏打ちされた技量を覆すには時間が足りなかった。
鉱樹が打ち払われ、そして姿勢が完全に崩れた俺に向けられるアイワの刃。
『弟子をやらせるかぁ!!』
転移魔法で回り込み、俺とアイワの間に立ったフシオ教官はアイワの刃をその身で防ぎ。
『死なば諸共よ!!』
アイワの顔を鷲掴みにし、至近距離で極大の闇魔法を放った。
フシオ教官の体が胴と下半身に別れ、上半身が宙に舞う、魔法を放った腕は消し飛んでいる。
「師弟、愛、見事」
渾身のフシオ教官の魔法を受けても、その顔の右半分を削るだけで済ませたアイワは、魔法によって吹き飛ばされて髪留めが取れ、失った右半分を髪が覆った。
「見事です!!」
「だったら!さっさと死ねや!!」
その称賛を浴びながら、教官が作り出してくれた隙を逃さず、アイワの胴体を上下に斬り裂いた。
繋がりかけていた体とはまた別の箇所への切れ込み。人体構造を考えるのならとっくの昔に倒れてもおかしくないのに、それでも芯が残っていれば戦えると言わんばかりに、刃を返してくる。
鉱樹を間に差し込み、そして受け流す。
「ああ!残念、本当に残念です!!あなたよりも先に相棒の方が逝くとは」
だが、受け流し切るにはタイミングが悪かった、鉱樹が砕ける。
その破片が俺の頬を切り裂いた。
大丈夫だと健気に支え続けてくれた、相棒が砕けた。
「終わってねぇ!!!」
それを終わりだととらえたアイワの言葉を遮るキオ教官の声。
「全身全霊、欠片も残さねぇ!!」
その声を聴いて、俺は咄嗟に鍔本に半分残った相棒を使ってアイワの剣を払った。
「俺の全部、くれてやる」
鬼の全力、その波動を感じた。
「持ってけヤアアアアアアアアアア!!!」
片腕に収束した全魔力を込めたキオ教官の一撃。
それを腹に受けたアイワは吹っ飛び、そしてその腹に風穴を開けた。
「ああ、すっからかんだ」
そして、今まで見たことのないほどやせ細ったキオ教官は倒れた。
「行け、次郎」
しかし、倒れる直前の言葉に俺は砕けた相棒の半身を握りしめて、最後の魔力を込め走り出した。
「あ、ははははは、これが、戦い、これこそが本当の、戦いです」
腹に風穴をあけ、それでも剣を杖にしてアイワは立ち上がる。
「互いのすべてをぶつけあって、互いの命を賭け合った」
そして、走り寄ってくる俺の姿を見て、最後の最後に彼女は残った瞳から涙を流した。
「だからこそ、思います、間違っていても、私は、勝つ、勝たねばならないんです!!」
絶叫と同時に、どこにそんな底力が残っているのかと思うくらい、俊敏に跳びかかってきた。
最初ほどの力はなくとも、それでも技術のすべてを駆使して俺を殺しに来る。
「それはこっちも同じなんだよ」
ぼそりとアイワの叫びに返事を返す。
ダメだ、こんな気合じゃだめだ。
振り絞れ。
どこでもいい、どこからでもいい、命を削ってもいい。
「俺が、勝つ!勝って」
だから、俺の体、持ってくれ。
いや。
「この戦いを終わらせるんだぁああああああああああ!!!!」
持たせろ!!
終わりは目の前だぞ!!
砕けても残された俺の鉱樹の半身と、アイワの剣が正面からぶつかり合う。
「はあああああああああああああああああああああ!」
「キエイヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
何度も、何度も、何度も。
相手を殺すためだけに、互いが全力で、全力を振り絞りあい。
体を傷つけ合い。
そして。
「あ」
アイワの剣が、砕け散った。
それを見た彼女の瞳は見開かれ、そして最後に笑みを浮かべた。
「見事」
その言葉を最後に聞いて、彼女の体の中に視える、神核めがけて俺は鉱樹を突き立てるのであった。
きっと、俺はこの時の感触を永遠に忘れないだろう。
これで、長い、長い歴史の中の神との戦いは終わったのだという感触を。
今日の一言
終わりは終わりでしかない。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




