772 見てはいけないモノを見てしまった……見なかったことにできない?
ハハハハハハハ!!
もう、自棄になるしかない。
『死ね死ね死ね死ね死ね!!死ねぇ!!』
神の殺意がやばすぎて、笑うしかない。
巨人王の攻撃も竜王の攻撃も一切合切無視して、さっき太陽神の魂の中に隠れる何かを俺が見つけてしまってから、神の攻撃はなりふり構わなくなり、容赦という言葉を辞書で調べてほしいくらいに殺意マシマシの攻撃の雨あられ。
神剣の物理攻撃に、太陽神の本領発揮の炎系統の攻撃、もう必殺技ゲージのチャージがバグっているのかと思うくらいの強攻撃のオンパレード。
下手に迎撃したらすりつぶされる、それくらいやばい。
『なにを笑っている!?我の、あの姿を見て笑うか!!』
自棄になった神の顔を見て苦笑するしかない俺は、さらに神の怒りに火を注いでしまったようだ。
もとから赤い顔をさらに顔を赤くし、強烈な圧を与えてくる
『おい、お前なにしたんだ。さっきからこっちの攻撃を無視してるんだぞ』
『異常だ』
竜王と巨人王が念話でこっちに何があったかを確認してくるのは、当然の流れだ。
さっきまで注意を向けていた二人の攻撃を無視し、神が俺を抹殺しようと躍起になっている。
流れが一気に変わった。
『なんか変なものを見ただけです。というかそれ以外に心当たりがありませんって!?』
その流れの変化の原因が、太陽神の魂の中にあったあの繭。
あれが神にとって、他者に一番見られてはいけないものだということなのは間違いない。
『変なものだぁ?』
『それは、なんだ?』
『あいつの魂の中にある、用途不明、存在不明、なんなのか一切合切わからない繭みたいなモノです。いや、繭かどうかもわからないですけど』
必死に攻撃を捌き、命を繋げている最中でも情報共有はしないといけないとは。
戦場は常にブラックかぁ!!
職場環境の改善には地力を強化するしかないという悲しき現実。
俺の報告に、思わず攻撃の手を止めて顔を見合わせて、のんびりと首をかしげている場合ではないでしょ!?
新人がピンチなんですよ!!
『おい、巨人王何かわかるか?』
『いや、皆目見当がつかん。そもそも、神の体の構造を見ることができる人王の能力が異常だ』
『だよなぁ』
『仕方ないでしょ!?こっちは斬ってなんぼの戦闘スタイルなんですから!!そのための能力がなんで非難される流れになってるんですか!?』
俺よりも先輩の竜王も巨人王も神の中にあった代物が何かはわからないようだ。
むしろ、そんなものが本当にあるのかと懐疑的な目をこっちに向けられても困る。
見えたものは見えた。
それを示せと言われても、この視界を第三者に見せることができないのだから証拠として提示することなどできない。
唯一の証拠と言えば、こうやって必死に俺を殺しにかかっていることくらいですかね。
『人王の変態っぷりは鬼王の野郎から散々聞いてるが、ここまでとはな』
『神の秘密を暴く眼力、恐れ入る』
『だぁ!?もう、信じなくていいですからとっとと攻撃逸らすの手伝ってくれませんかねぇ!?』
神の殺意がほほをかすめ、ジュッと肉体から発してはいけない音が聞こえて肝がさっきから冷えっぱなし。
『信じねぇとはいってねぇよ。むしろよくやったって褒めてやる。たぶん、それは神の格だ』
『格?』
その冷えた肝に竜王が火をともしてくれる。
『確信はねぇ。だがそこまでムキになって守るとしたらそれくらいしか考えられねぇ。俺が知っている中で神が絶対に守らないといけない心臓よりも重要な存在だ。てめぇ、新人の癖に大金星を挙げやがったな』
『神格とも言うその存在を叩けば、神という存在はその体を保つことは不可能。それを見定めることができるのは至難。まさか、貴殿が見れるようになるとは』
あれが、正真正銘神の弱点だと言われ、納得半分、なんか違うと思うという疑念が半分の気持ち。
横っ面を殴られながらも、俺を殺そうと必死になっている神の顔を見てみれば、それが妥当だと今は判断するしかない。
『そうと決まれば話は早え、おい、人王、お前はそれを切り飛ばせ。そこまでの道筋は俺たちで作ってやる』
『それが、妥当か。残り二人が来るまで待つ必要もなし』
『わかりました』
相手を殺すことができる方法を見つけたのだ。
大きく深呼吸を一つ混ぜ、集中。
再び、概念の世界へ。
『させるかぁ!!』
神剣に力がこもって、振るわれる側からしたらより一層凶悪なとしか形容できない攻撃がやってきた。
首の皮一枚で躱したが、それだけで首が落ちそうなほどの風圧。
さすがにこれを余裕をもって躱すのは無理。
少し大げさに距離を取りながら刃から身を躱したというのに鎧からチリッと何かが掠ったような音がした。
おいおい、この鎧結構高かったんだぞ。
まぁ、すでにどこもかしこも傷だらけだけど。
竜王のフォルムが、漆黒に染まる。
攻撃寄りのスタイルになったって言うことはだ。
神殿がより一層原型をとどめなくなるってことで。
「ふん!」
巨人王もなんかパンプアップしちゃったよ。
気合一つで、体のサイズが一回り以上大きくなるってどういう身体の神秘だ。
おっと、いけないいけない。
集中集中っと。
これから仕掛ける竜王の攻撃と、巨人王の変化に気を取られかけたけど、ここからは少し神だけに集中しないといけない。
「あ?」
そう、しようと思ったんだけどな。
凝視し、概念の認識から始めようとしたけど、何かにはじかれたかのように認識ができない。
いや、認識はできる。
だけど、さっきは海の中に潜り込むような抵抗感だったのが、今度は泥沼に潜り込むような視界の悪さと抵抗感を感じさせる。
そうなった理由はすぐにわかった。
概念同士の戦いはより強い概念の方が勝るという条件下で戦う。
その理屈で考えるなら、今この一時は神の概念の方が俺の概念を防げるほど強固になっているということ。
ズキズキと痛む脳に負荷をかけて、ようやくゆっくりと前に進み、認識できるようになってくる。
神以外の世界の認識はスムーズにできるのと対照的に神の認識だけできない。
にやりと笑う神の顔がいやらしい。
俺が自由には何もできないことがわかったのだ。
そこから慢心して、手を抜いてくれればいいのだけど、俺が脅威であることは変わらないようで手を抜く様子が一切ない。
ここまでかと、諦めてもおかしくない場面だけど。
『海堂!!』
まだ、手はある。
『うっす!!待ってたっすよ!!』
手札は尽きていない。
頼れる後輩に合図を送る。
そして聞こえる飛翔音。
『アミリちゃん特製!対神用兵器とくと味わうっすよ!!』
念話越しで神には聞こえていないというのに、誰に言っているのやら。
ミサイルの形状をしたそれを感知した神はそれを迎撃しようと赤く目を光らせる。
『甘いっすねぇ!!』
その程度の反撃は予想していた海堂は、そこからミサイルの弾頭を一気に展開して細かいマイクロミサイルを広範囲に展開した。
放射状に展開したミサイルを見て俺たちは一旦距離を取る。
『その程度の攻撃が我に効くと思ったか!!』
大型ミサイルが一転して小型化したことで、神は侮りそのまま無視するようだが。
『物理ダメージだけがこっちの本領だと思ったら大間違いっすよ!!』
その小型ミサイルがプロペラを展開、そして計算されたかのようにネットのように横に光のラインを展開して。
『くらえ!!魔力吸収ネット!!』
『ぐお!?』
一気に神の魔力を吸収するためだけの結界を展開する。
それは一瞬の拘束、ビクッと一瞬の痙攣の時間だけを稼ぐためだけの兵器。
『こざかしいわ!!』
そんな結界をものともしない神は、結界を紙切れのように神剣で斬り割くが。
「一瞬あれば!!」
その隙があれば、再び俺たちが全力で攻撃するには十分な時間は確保できる。
一瞬の脱力でほつれた神の概念の壁。
まずはその概念の壁を斬り裂く!!
「キエイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
初手から一気に斬り裂くのではなく、表層の壁を斬り裂くイメージは、泥のような分厚くへばりつくようなものを斬り裂くという手ごたえとともに成果を果たす。
「見えた!!」
そして斬り割いた先に、さっきと同じ視界が開ける。
『させるか!』
『こっちのセリフっすよ!!ロマン兵器は一発屋じゃないところ見せてやるっす!!』
即座に概念防御の回復をしてきて、開けた視界に濁りが生じ始めた。
さすがに対応が早い。
だけど、ウチの後輩の追撃もまた早い。
マイクロミサイルが撃ち出されて、空になったと思った大型ミサイルの本体が再度火をともす。
『吸収した魔力を装填、さぁ、ドリルのロマンを受け取るっすよ!!』
螺旋回転をし始めたミサイルはその場からゼロマックス加速を披露した。
『ぬお!?』
そんなロマン兵器のおかげで神の驚く顔というものを見ることができ、慌てて神剣で叩き落とそうとするが、高速で回転している物を切るというのは考えるよりも難しい。
おまけに魔力でコーティングしているから簡単に切れないし。
神剣を滑らせるように弾いたドリルミサイルはそのまままっすぐ神の心臓にめがけて飛ぶ。
コンマ数秒の攻防。
そっちを躱す余裕のない神は、それを受け止めようと身構え、その間に俺と巨人王が跳びかかり、竜王は口元に魔力をため込んだ。
片腕でドリルを鷲掴みにするという荒業を披露したら、さすがに隙ができる。
巨人王の鉄球が神の右脛を打ち付け、バランスが崩れる。
そこに竜王のブレスが顔面に叩き込まれ、さらに神の体勢が崩れる。
「無駄に頑丈なその体、掻っ捌いてやらぁ!!」
そこに俺は跳びかかった。
一刀両断。
この太刀に斬れぬものなどない。
両手で鉱樹を上段に構え、太陽神の首から斜めに切り裂くように刃を振るう。
豆腐を切るように、その刃は抵抗なく、神の体を切り裂いていく。
違いは、さっきまでは一瞬で再生したその肉体が、再生しないこと。
代価として。
もう、俺の脳みそがやばい。
ハンマーで直に頭を殴られているくらい痛い。
一瞬、意識が飛びかける。
鼻血で、なんか口元がぬるぬるしているし、拭っても出血が止まらん。
「カハ、見えた」
そんな状況でも笑えるって、俺も相当狂ってるよなぁ。
僅かな攻防、その刹那の時間、白く輝く、繭を再びとらえて、そこにめがけて跳びかかる。
他は認識できていない。
だけど、そこだけを突き進むためだけの下地はできている。
俺が迷わず、そこに飛び込むのを見て、ほかの二人が合わせに来ていると勝手に信頼している。
「……!」
この土壇場でフラグなんて立ててたまるか!!
この一刀を叩き込んで確殺したと確信するまで、歯を食いしばって斬撃を放つ。
視界がゆっくりになる、もっと早く、もっと、もっと!
遅い、何もかもが遅い!!
あと少し、あと少し!
刃が繭に触れる。
これを振り切れば!!
『死んでたまるかぁ!!!』
その刹那だった。
確かに刃が繭に触れた。
その時に俺は確かに神の魂からの叫びを聞いた。
ありふれた、死への恐怖。
生への執着と言えばいいだろうか。
なりふり構わない、個の叫び。
瞬間的に光に包まれ、激痛を伴い、俺は吹き飛ばされる。
「そら?」
気づけば、俺は大の字になって空を見上げていた。
天空を覆っていたはずの太陽の光が無くなり、曇り空。
何が起きた?
俺は、戦っていたはず。
体中の感覚がない。
これはまずい、指一つ動かない、視覚だけかろうじて生き残っている。
呼吸が浅い、でも肺は生きている。
一つ一つ、体の情報を拾っている最中に、それは見えた。
顔を横倒しにしたとき、何もかも吹き飛ばした後かのような爆心地に、一人の少年がそこに立っていた。
今日の一言
結果は変えられない。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




