771 工程を変える時は事前に相談を
俺、竜王、巨人王。
魔王軍の中でも屈指の実力者が揃った。
たった三人だけでも、国一つを落とせるレベルの戦力。
俺の記憶の中でもこれだけ揃えば頼もしいと断言できる。
その戦力をもってしても。
『フハハハハハハハ、数が揃ってもこの程度か!!』
天狗になっている神の鼻一つへし折ってやれない。
「はっ、力自慢の脳筋神様は現実が見えてない様子!!人間の俺をまだ殺せてないぞ!!」
攻撃に攻撃を重ね、さらに追撃するけど、ダメージを通してもその通したダメージがあっという間に再生してしまえば調子にものるだろうな。
皮肉や挑発を繰り返し、少しでも注意力を散漫にして隙を作り出して生物的には致命傷であろう傷を何度も負わせるが、それでも攻略ができない。
まったく、腐っても神か。
俺の斬撃、竜王のブレス、巨人王の打撃。
全てが地形を変え風景すら変えることができるほどの威力を誇っているのにも関わらず、それを幾度となくその身に浴びても、神には呪いのダメージ以外堪えた様子がない。
虚勢交じりの挑発だけど、それでもこっちが殺す気でいるのは伝わっているようで、鬱陶しそうに足で払いのけられそうになるが、それを躱して、アキレス腱を斬ってみる。
概念攻撃で斬り込んでも、骨を断ち切ることができず、肉体もあっという間に回復してしまう。
純粋にステータスで負けている。
文字通りのけた違いの体力を見せつけられて、いったいどれくらいの時間が経っただろうか。
『ほざけ!!』
斬られた仕返しに、足を持ち上げ俺を踏み潰す動きに転じられても、そんな直線的な動きで俺が潰されるわけもなく。
ましてや。
「ふん!!」
『隙だらけだ!!』
俺以外の二人がそのあからさまな動作を放っておくわけがない。
顔にブレス、反対の軸足を崩すための殴打。
この二つの攻撃でまたもや神は膝をつく。
『おのれ、またしても、我に膝を』
「学習しろよ」
こいつ、能力は高いが、賢くない。
それが短慮なのもそうだが、一度失敗したことをどうしてか何度もやる。
一体何なんだこいつは?
戦っている最中は、確かに攻撃に危機感は感じるが、三対一と注意力を分散させてしまえば、神の攻撃への対処は格段に簡単になった。
能力に対して、技術が全くと言っていいほど追いついていない。
これが神?
本当に神なのか?
そんな疑問を抱いてしまうほど、神の適応能力の低さが目に余る。
膝をついてからも対処がお粗末だ。
まるでゲームのようなモーションだ。
一定の攻撃を与えると、露骨な位に一気に反撃をする隙を与えてくれる。
相手の動きから、それを感じ取れてしまう。
『鬱陶しいわ!!』
今もだ。
復帰してからの全体攻撃。
太陽の炎をまき散らすだけで、致死性の火力はあるが、モーションが単純すぎて動く前に避けれてしまう。
まるで、追撃しすぎたプレイヤーを狩るためだけのモーション。
こっちは自由に動けるけど、相手は自由に動けない固定の動きしかしていない。
なんだ、このちぐはぐな動き。
これが本当に神なのか?
疑念に疑問が重なり、困るわ。
飛び去り、着地し、円を描くように、神の体を凝視する。
視界による情報を少しでも多く獲得して、概念部分で斬り割くための下準備。
それで何かわかればいいと思ったんだが、頭痛が増すばかりで、巨大な情報を受け止め切れていない脳内キャパに嘆きたくなる。
この情報量から、この決戦前に見ていたスサノオ神よりも格上の存在であると認識はできる。
だけど、その情報量に反比例するようなこの動きの拙さはなんだ?
ギャップで混乱を狙うという目的ならすでに達成できてしまっている。
しかし、本当に悔しがっている姿を見ると、故意にそれをやっているようにも見えない。
なんだ?
何を見落としている?
違和感が徐々に、嫌悪感に変わり始めているのがわかる。
その嫌悪感が、警鐘を鳴らし始めている。
何が欠けている?
一気にトップギアに上げ、全力突撃。
突風を身にまとって、近づいた瞬間に居合。
「キエイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
猿叫とともに繰り出した一刀は、地面についた神の手首を斬り飛ばし、起き上がろうとする姿勢を崩した。
邪魔をするなと返しの攻撃を放ってくるが、それも躱すことはできる。
まただ、また違和感がある。
何が足りない?
竜王を見る。
怪訝な顔はしていないが、苛立っている。
巨人王の顔を見る。
仏頂面は変わらないが、時折目が細まっている。
二人も何か感じている。
そして、それが何かわかっていない。
けれど、攻撃を止めるわけにもいかない。
倒せない、殺せない。
しかし、こっちがピンチになるわけでもない。
一体何なんだ。
ゾクリ。
そんな疑問を抱いていたからだろう。
背筋を走る、怖気。
その直感に従って、思わず後ろを振り返り、思いっきり鉱樹を振り切った。
そこには何もいないはずだった。
そこに何かあってはいけないはずだった。
だけど、そこには、ないはずの神剣の刃が迫っていた。
間一髪。
鉱樹と神剣が切り結ぶことができた。
それによって、俺の体は健在。
「おいおい、斬り飛ばした手が動くって……」
けがを負うことはなかったが、代わりに、俺の攻撃が無意味だったという証拠を見せつけられてしまった。
手首から斬り飛ばし、地面に転がったはずの神の手。
その手が意志をもって、神剣の柄を握り、そして宙を飛び襲い掛かってきた。
俺の斬撃は概念攻撃。
こと斬ることにおいては、無類の効果を誇る。
すなわち、斬り飛ばした物体に意志を繋げることなんてできないはずなんだ。
それができ、背後から不意を打ち、さらに元の位置に戻って再生した。
神だから文句は言わないが、チートにもほどがある。
「……」
雨雲の展開は遅々として進まず、ダンジョン経由の世界浸食も芳しくない。
「手札を隠したままでは、動かないか」
展開は膠着状態。
このままいけば、体力が底をついて負ける。
であるなら、まず一つ手札を切る。
「巨人王!」
「む」
異空間に収納しているアイテム、そのうちの一つ、ただただ大きいだけの巨大鉄球。
能力は頑丈、ただそれだけを追求した質量兵器。
加工における過程で付与した術式がすべて破壊防止に特化し、こと壊れないことだけを追求した一品。
巨人族製のそれが、普通の鉄球なわけがなく、こんな見た目でも魔剣。
能力はいたって単純、壊れないためならどんなこともやる呪われた鉄球。
その巨大な物体にふさわしい鎖とともに、地面に放りだされた物体を躊躇なく巨人王の方に向けて放り投げる。
質量的に見れば、狂気の沙汰ともいえる蛮行。
だが、そこはさすが巨人王。
躊躇いもなく、鉄球を片手で受け止め、それがどんなものであるか把握し。
「ふん!」
その巨体に見合う武器となり、鎖を握って振り回し思いっきり神に向けて叩きつけた。
『その程度の鉄球で何が、ぁ!?』
単なる物理攻撃と思うなよ。
俺が、普通の鉄球を用意することなんてあると思うな。
そもそも変態ぞろいの巨人族に採算度外視で神に通用しそうなもの作ってくれと依頼してまともな物ができると思うな。
わが社の技術力はな、変な方向で世界一が取れそうな人員がごろごろいるんだぞ。
破壊耐性に極振りした鉄球のデメリットはフラッシュバック。
その鉄球に触れた瞬間に自分の黒歴史を強制的に思い出させるという物理と精神面から攻撃するという恐ろしい兵器と化した。
その能力はほんのちょっと触った俺や巨人王ですら、一瞬眉間に皺が寄るほど影響力が強い。
鎖で振り回している間はいいが、直接触れようものなら。
『ぐ、なぜだ、この、忌々しい記憶は』
思い出したくないような記憶を強制的に思考に挟み込む。
巨人王が連打で神に叩き込み続ける限り、嫌な記憶をフラッシュバックさせ続ける。
『何故思い出す!?おのれ!!それの所為か!!』
即座に鉄球の効果に気づいたようだけど、神剣で叩き斬ろうとしてもそう簡単に壊れないのがその鉄球の恐ろしいところ。
この傲慢な神のことだから、思い出しても何ともないと効果が見込めるか怪しい魔剣だったけど、意外と効果があった。
神にも嫌な思い出っていうのはあるんだな。
おかげで嫌がらせは大成功。
徐々に巨人王ばかりに攻撃を集中させ始めているほど、あの鉄球が嫌なようだな。
個人的に神がトラウマになりそうな記憶というのは気になるところだが、それを知るための余裕はない。
『それを、それを止めろ!!』
あの無表情をいく巨人王が楽し気に振り回しつつ、襲い掛かる光景をわき目に。
俺は攻撃の手を緩め、眼球に魔力を集中、さらに脳の強化を行って思考を加速させる。
世界がゆっくりとなり、脳に熱が集まる。
いかに、嫌がらせがうまくいこうとも相手に致命打を与えないと意味がない。
であるなら、その致命打になる一撃を入れるための方法を見つけないと。
大きく深呼吸を繰り返し、攻撃よりも、観察、観察をより深く、深く、深く、深く。
色が濁る。
いや、色合いが変わるか。
世界の色合いが、概念の色に染まり、この世界を彩る。
深く入り込んでいる証拠、同時に、頭痛がひどくなる。
つーっと鼻から赤い液体が垂れた。
天界門を斬った時よりも短い時間だというのに、一気に脳への過負荷が認められた。
思考を最小単位に。
言語や視覚情報を最小限に。
距離を取るな、必要最小限の距離で、情報を収集。
色合いから、意味を取得。
失敗。
斬れない。
さらに深く。
視界が狭まる。
脳が処理しきれていない。
身体強化の割合を、脳に集中。
焼け石に水だとわかっていても、これで見えなきゃ意味がない。
徐々に、徐々に、牛歩のペースで神の色が、存在の色が見えてくる。
呪いと入り混じって、不純物が多く、それでも白の基調が多い魂の色。
だが、なんだ?
その中央に、何か、何か、ある?
それはまるで小さな繭。
いや、卵か。
魂の色合いの中に存在する、一筋の別色。
卵の殻は半透明で、うっすらと、金色の光を放っているそれ。
その中の色合いが、ボケて何も見えない。
だけど、今もせわしなく、うごめいているのは見えた。
ズキン
これ以上見るな。
これ以上見れば、ただですまない。
まるで、その色を保護するかのごとく、薄皮一枚に覆われた色合いが気になりすぎて、そこに集中した途端、本能が警告を飛ばした。
一歩引く、それだけで脳の負担がだいぶましになった。
深層世界から僅かに浮上する。
それだけで、呼吸がしやすくなった。
代わりに、さっきまで見えていたものが見えなくなった。
「……」
『……』
そして現実の色合いを戻した世界に戻ってきた瞬間、俺と太陽神は目を合わせた。
巨人王の嫌がらせを拒んでいた神が、俺の方を見ていたのは正直驚きだ。
だけど、同時に、アレを見てしまったからだと納得した。
太陽神の魂の奥に潜む、ナニか。
それが違和感の正体だと俺は確信した。
『見たな』
「さてな、はっきりとは見えていないな」
戦いが一時とはいえ、止まった。
だけど、この瞬間確かに雰囲気が変わった。
さっきまで激情に任せて暴れまわっていた神から表情が消えた。
焦りも、怒りも、嫌悪も、敵意も、すべてがそぎ落とされたその顔は無機物だと言われてもおかしくはなかった。
確信が混じった質問に、肩をすくめて答えても大して差はないだろう。
『どちらでもいい、アレを知られたのなら』
ゾクリと、初めて、神は俺を個として認識し、殺意を向けてきたのだから。
『お前は生かして帰さない』
今日の一言
現場判断でするしかないときは仕方ない
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パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




