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768 アウェイそれは胃にダイレクトアタックしてくるストレスの源

 

「ああ!もうしつこい!!海堂!!もっと高度を上げられないか!?」


 天界は敵のテリトリーだというのは理解していたが、ここまで数で押されるとさすがに面倒という気持ちが浮き出てくる。


 斬り飛ばしては、次の首に斬りかかる作業。


 強い個体でも、教官たちと連携してどうにか瞬殺してはいくが、後々のことを考えるとここではできるだけ消耗を抑えたい。

 それなら地上からの攻撃を少しでも減らそうと提案してみるも。


『無理っすよ!!高度を上げようにも、あの山から空を飛べるやつらが次から次へと来るっす!!頭を押さえられている今の状況じゃ』


 悲鳴のような海堂の声が現状それはできないことを説明してくれる。

 相手も俺たちが消耗を嫌っていることがわかっているんだよなぁ。


 だから上下挟み込むように神獣を布陣して、対応させ、消耗戦を強いている。


 少しでもこっちを消耗させられれば後々の戦いが楽になる。

 これが神の指示か、あるいは別の誰かの指示かはわからんが。


「個として強い奴がいないのがせめてもの救いか……最悪を想定しておいた方がいいか?」


 一日待った結果、対応させる時間を作ってしまったと嘆くべきか、それとも元からこの通りだったかと考えても無駄だ。


 若干鎌首をあげた心の中の後悔をポーションと一緒に飲み干し、怪鳥のような神獣の目に瓶を叩き込みひるませて首を叩き切る。


「そんなことを考えるより最善になるように努力した方がマシか!」


 段々と神獣を屠ることも流れ作業になりつつあるも、それは神の力を分け与えられた獣の割に弱いと感じられるからだ。


 空を駆けながら上空を見上げる。

 過去に対峙した神獣たちよりも力が弱いが、数を揃え、群れと化した神獣たちが空を覆っている。


 あれを殺し切るのは骨が折れるどころの話ではない。


『人王!遅れるな!』

「わかってます!」


 嫌気を感じつつも、アレを相手にしないといけないかとあきらめが入るころ、空中を走る俺をめがけて、近くにいた竜王が飛んでくる。


 気づけば、戦艦からだいぶ離れた位置にいたようだ。


 背後の掃討は終わっていないが、竜王の背中に乗って一気に追いつく。


『しつけぇんだよ!!』


 その背中に追いすがろうとした空を飛べる神獣たちを、竜王のブレスで追い払う。


「竜王は空に、俺は正面の鬼王と合流します」

『そうしろ!そうしろ!!』


 そのまま回頭して、一気に戦艦まで追いつくと俺を放って、一気に高度を上げていった。


「教官!!」

「遅かったな!!」


 そして、災害は神獣だけではないんだよなぁ。


 ここは天界、神の本拠地。

 当然だけど、そこにいるのは神獣だけではない。


 山のふもと付近までもう少し。


 目と鼻の先まで進むことができているが、その先にいる軍隊、いや群体と言えばいいだろうか。


「ここで天使どものお出ましだぜ?」


 かなり見覚えのある姿の敵のお出まし。

 山の穴から出てくる霧のような光景全てが敵。


 遠目で見ているからこそ、霧のように見えているが、いったん視界を強化してやれば、アリの巣から無数に出てくる軍隊蟻のごとく次から次へと出てくる天使の群れに、一瞬だけどため息を吐いてしまう。


「うえ、あそこまで揃えるとか頭おかしいでしょ」

「はっ、神に俺たちの常識を当てにしても無駄だろうよ」


 圧倒的ともいえる天使による物量攻撃。

 最終防衛ラインと考えれば、納得の物量ではあるが、それを温存せずすべてぶつけてくるというのはどう考えても非常識だ。


 質を見ても、過去一だな。


 強化した目で遠くを見れば、二対の翼をもつ天使がちらほらと混じっている。


「どうします?」


 土地勘のない俺たちが、その災害級に多い天使たちを避けるために進路を変更しても変なところで迷子になるだけ。


 であれば、このどうするという質問は。


『俺がどうにかするっすよ!!先輩たち前を開けるっす!!』


 誰がここで活躍するかの質問。


 相手が数で来るのなら、ここで一つどでかい一撃を放つ必要がある。

 そこに真っ先に挙手したのが海堂っていう話。


 戦艦の艦首が口を広げるように割ける。


『魔力充填完了っす!!魔導砲発射っす!!』


 すでにチャージしている魔力を放出するだけだから、攻撃までのラグはない。


 俺と教官が左右に避けた瞬間に、巨大な魔力の光線がその空間を貫いた。


「おーい、海堂、風穴を開けるのはいいが焼け石に水だぞ」


 その威力によって、百どころか数百単位で天使が蒸発したのはいいが、貫通能力よりも面制圧しないと意味がない。


『そ、そういわれても、これでも結構魔力を注ぎ込んだんっすよ!?』


 次々に補充されてしまえば、その穴もあっという間に埋まってしまうわけで。


 教官は避けた割には大した成果がないと溜息を吐く始末。


 海堂の慌てぶりに同情をする。


「ま、後輩のしりぬぐいは先輩がしますかね」


 同情するなら、助け船の一つや二つは出してやる。


「行くぞ相棒!」

 〝応!〟


 過去最高に握り心地が良くなった相棒に対して、一気に魔力を送り込み、刀身を帯電させる。


「毎度おなじみ建御雷だぁ!!!」


 練りきった魔力を放つ要領で、雷に属性変換した魔法をぶっ放せば、戦艦が放った魔導砲よりも強大になおかつ広範囲に、魔法が広がる。


「うはぁ、これでも焼け石に水か」


 この雷系統魔法は総じて、範囲魔法との相性がいい。


 何せ、一直線に向かったと思えば対象に当たれば、そこから放射状に飛び火してくれる。


 感電につぐ感電。


 雨水でできた水たまりに電源コードを放り込んだ時のように天使どうしで感電してくれるからおのずと被害は広がる。


 それでも。


「連射します。教官はそのまま戦艦の護衛を。海堂!針路そのまま!」

『了解っす!』


 物量という抵抗は突き抜けられなかった。


 海堂が放った攻撃の数倍の成果は見せた。


 だけど、本当に数っていうのは厄介だな。


 羽虫の群れに殺虫剤を振りまいた時のように天使が墜落していくが、空いた空間が、物の数秒でもう半分以上埋め尽くされている。


 本来、広範囲魔法は連発するようなものじゃないんだ。


 範囲と威力を両立させればさせるほど、その分の消費する魔力は格段にと言っていいほど増える。


 シンプルに倍々方式で燃費が悪くなる。


 だけど、ここは単一火力ではなく、範囲火力が求められる場面。


 正面を焼野原にする勢いで、建御雷を撃ち続けるしかない。


 降り注ぐ雷は、山肌すら削り、飛び立とうとしている天使をも焼き払う。


「全く、数が多くていけねぇよ!!」


 個人で相手取るには数が多すぎる。


 それでも削り続ければ、どうにかなる程度の質だ。


 あとでスエラに魔力供給を受ければ、補填はできる。


「次郎!!」


 そう思っていた時に、教官の警告する声が響き、咄嗟に放とうとした魔法を霧散させてその場から飛び退いた。


 そして退いた瞬間に、黒い影が空から降ってきた。


「……かははは、おいおい、マジか」


 同時に振り下ろされた斬撃のような風圧を感じ、それを避けるために大きくのけ反った体を戻して攻撃をしてきた正体を目視した瞬間思わず口が引きつった。


 乾いた笑い声を出してしまうのも無理ない。


「獅子の胴体に、竜の尾、鳥の翼に……どこまで神は傲慢なんだ」


 そこにいるのはあり得てはいけない存在。


 神獣の体をつなぎ合わせたかのような個体。


 獅子の胴体に無理やりほかの神獣を組みわせた異形。


 巨大な鳥の翼は怪鳥の物か、尻尾はドラゴンの奴っぽいけど、蛇かもしれん。


 後ろ足は馬のようにも見える。

 前足は最早足としての役割を放棄している。


 目と鼻と耳を削ぎ落した顔が左右の前足に一つずつついている。


 そして首から上に生えているのは人の体。


「見た目からして同郷の人間だよな。心の底から同情する」


 その容姿は見慣れた日本人顔であるが、その表情は狂ったような笑みを浮かべている。


 腰の部分から獅子の首の根元と融合していて、両腕は肩の先から機械のようなアームが伸びて両腕が剣を模した三本爪を形成している。


 まともな神経でこれを作り出す奴はいないと言えるような生命の冒涜。


「こ、こここここ、ころ、ころこころ、すすすすぅうううううう!!!」


 理性や知性なんて最早持ち合わせていないんだろうな。


 口元から涎をまき散らせて、こっちに向かって翼をはためかせて飛んでくる異形キメラ


「思ったよりも早いな!?」


 その巨体にして偉く機敏な動きに一瞬虚を突かれたが、迫る牙を迎撃しようと一瞬構えたが。


 ゾクリ


 背筋が凍るような嫌な気配を感じて瞬間的に再び飛びのくことで躱した。


 キメラの右前足が空に噛みついた。


 ただそれだけだというのに、まるで空間を捕食したかのごとく、俺の目には一瞬だがその場が無くなったのが見えた。


「捕食の概念かよ!?」


 いかなる物も食べる。

 その意味を持っていると実感した瞬間、あれだけは絶対に受けてはいけないと直感した。


「おらぁ!!」


 こっちに注意が向いているなら、教官への注意がおろそかになるかと思ったが。


「ちぃっ」


 竜の尾が教官の拳を迎撃した。


 いや、迎撃はし損ねた。


 竜の尾の耐久力が、教官の拳の威力を受けきれなかったんだ。


 本当だったら胴体を殴りつけるつもりだったんだろうが、間に入った竜の尾が緩衝材代わりになった。


 衝撃を受け流すように横に教官の攻撃を逸らした竜の尾は受けた場所からはじけ飛んだけど、即座に再生した。


 その再生能力は逆再生ビデオを見ている気分になるほどの速度。


「教官後ろ!!」


 それだけなら何ら問題はなかった。


 個体としては強いかもしれないが、俺と教官なら秒殺できる。


「おらぁ!!」


 それは他に敵の個体がいなければの話だ。


 パーツが違う別の個体が現れれば、状況というのは変わるんだよ。


 慌てることなく、迎撃した教官が見えた。


 そして教官を心配している暇は俺にはなかった。


 なにもいないはずの空間から、殺気を感じ取り、鉱樹を背後に向けて振るって斬り飛ばせば、感じないはずの手ごたえを感じた。


「透明化?いや、違う」


 姿を消せる奴がいるのか!?


「面倒」


 土壇場にそんな個体を出してくるなと悪態をつきたくなったが、敵に加減を求めるのも筋違いか。


 問題は、ここで足止めされてしまえば物量で抑え込まれてしまうということ。


「次郎!ここは俺が仕留める!!お前は先に行け!!」

「教官!?」


 どうにか打開できないかと思っていたら、まさか教官が死亡フラグを建たせるようなセリフを言ってきた。


 敵の能力もわかっていない状況で、そんな危ない言葉を吐き出して思わずギョッとそっちを見てしまった。


「俺一人でもこれくらいどうにでもなる、だが、あいつらを突破させるとなるとお前の範囲攻撃の方が役に立つ!!」


 しかし、肝心の教官が死亡フラグを建てていることを気にしていなかった。


 楽しそうに敵をぶん殴る姿はいつも通り、そしてそれを見て冷静に考えればあの教官がそう簡単に死ぬわけもないかと思い至るのも自然。


「あまりにも遅かったら俺が太陽神を仕留めちゃいますからね!!」

「ほざけ!!」


 だったら、今は少しでも前に進むことに専念した方がいいか。


 透明な奴の攻撃を勘で躱したら、少し前を進む戦艦に追いつくべく空を駆ける。


「お前らの相手は俺だぁ!!!」


 そして、その場から離れた俺を追いかけようとする敵に向けて教官が気迫とともに大声を放つのがわかった。

 敵の注意を自身に集める教官を一瞬だけ見た後に全力で天使の軍団に突撃するのであった。


 今日の一言

 慣れない場所での作業はストレスの元。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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