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758 虎の子の親は虎

は、話が進まない(汗)

もう少し進めるつもりだったのに

 

 Another side



「なんというか、とんでもないメンバーでござるな」


 ケイリィによって招集された南の第一声は、集まった面々の組み合わせだった。


「よう!よろしく頼むよ若者たち!!」


 まず一人目が、妊婦であるはずの次郎の母、霧香。


「あ、よろしくお願いします」


 そして元気に挨拶する霧香とは対照的に大人しくあいさつをする次郎の父、伊知郎。


 この二人が一番気になるのか、普段ダンジョンに潜るための装備である杖を握りながら、どういうことだとケイリィを見つめた。


「私から頼んだのよ」


 かく言う、ケイリィはパンツスタイルのスーツ姿と武装している面々の中にいるには違和感がある。


 霧香と伊知郎も私服であるが。


「むぅ、なんだろう。なんとなく勝てなさそうな気配が……」


 それでも霧香のただ者ではないという雰囲気にアメリアは警戒してしまう。

 プライベートでは何度か顔を合わせているが、そこにはいつも次郎がいたから問題はなかった。


 だけど今回は、次郎抜きでの接触なので微妙に距離感を測りかねている面々。


 南はどうするかとのんびりと考え。

 香恋は、話しかけるべきかと真剣に考え。

 アメリアは、立ち振る舞いに隙がなさ過ぎて、普通に戦っても勝てないと感じている。


「どうもご無沙汰しております」

「ああ、これはこれはどうもご丁寧に」


 ある意味でぶれないのが勝であった。


 きちんと礼儀を通す。

 同性である伊知郎に挨拶をする勝を見て、伊知郎も最近の若い子はしっかりとしているなと感心するのであった。


「はいはい、勝、主婦っぷりを発揮するのは良いでござるが、時間に余裕がなさそうだし、話を進めるでござるよ。ケイリィさん、そこのごつい車って、道交法的に問題ない奴でいいんでござる?」

「しっかりと法律に遵守した物よ。運転手もしっかりと免許を取ってるわよ」


 そこでほんわかとした空気が漂いそうだったので、南が進路修正ということでパンパンと手を叩き、空気を入れ替えた。


 田中夫妻、海堂を抜いた南たち月下の止まり木、そしてケイリィと護衛たちという組み合わせは臨時パーティーとしてなんとも凸凹感が抜けない。


「それで、霧香さん先方にアポは取れたのですか?」

「ええ、取れたわよ。しっかりと霧江に迎えに来るように言い聞かせておいたから、県境のサービスエリアで合流できるわ」


 不安がありつつも、何とかなると思えるような組み合わせ。

 それをまとめるケイリィはひとまずは段取り通りに進める。


「ありがとうございます。こちらももう間もなく積み込みが完了しますので、終了次第出発します」


 刻一刻と戦況は変化し、変化すればするほど今の行動の意味が薄れる。


 時間との闘い、焦りは禁物ではあるがそれでも気が急いてしまう。

 自制心を効かせて、何か見落としがないかと確認作業をしようとケイリィは振り返るが、招集した面々は揃っているし、車両は現在進行形で厳重に封印した神器が積み込まれている真っ最中。


「わかったよ。ほら伊知郎それはトランクじゃなくて一緒に乗せるんだよ。それ大事な物だから肌身離さず持ち運びな」

「うん、いいけど、だけどこれなに?結構重いけど」


 神器を輸送する車に伊知郎は何かをトランクに乗せようとしたが、霧香に止められてしぶしぶ乗車席に運んでいる。


「秘密兵器をネタバレしちゃ意味ないだろ」

「もしかして、それが」

「ああ、そうさね」


 そのトランクの中身がもしかして神と交渉するために必要な物なのだろうとあたりをつけたケイリィはじっとそのトランクケースを見る。


 外見だけを見るなら、どこにでも売ってそうなトランクケース。


 古風な黒革製の旅行鞄だから探すのに少し苦労する品物と言えばいいだろうか。


 それを大事そうに抱える姿に、疑問と不安がケイリィの脳裏に入り混じる。


「そこまで重要な品物なら、護衛の方を」

「大丈夫大丈夫、むしろこんな頼りなさそうな男が抱え込んでいるトランクケースが重要な物なんて誰が思うかね」


 神との交渉のカギを握る代物を、この中で一番戦闘能力皆無の男が持っていていいのか?


 そう思いつつ、霧香にも何か意図があるという気持ちから、これ以上の詮索は無意味だとケイリィは考えた。


「そう、ですね。わかりましたでは、そのままお持ちください。積み込みも終わったようですので」


 そんなやり取りをしている間に神器の積み込みも終了したと部下から報告を受けた。


 そこからの動きは迅速だった。


「総員乗車!!護衛車に分乗する者は班ごとに乗り込みなさい!!」


 あらかじめブリーフィングで決めておいた通りに車に乗り込む。

 そのどの車も、特殊な装備が施されている。


 社外でも魔力が使えるようにしているのもそうだが、車の見た目をしているがこれもゴーレムで、いざという時は戦場に投入したパワードスーツにも変形する。


 車検を偽装し、表向きは問題ないようにしている。


「ケイリィ様、監視への偽装完了しました」


 当然、世界中から注目を集めているこの会社から出る車はすべて監視されている。


 それをごまかす方法などいくらでもある。


 透明化が一つ、そして熱量偽装もそうだ。


 地下駐車場から一台、また一台と姿を隠し、互いに魔力感知で位置を把握、そして先頭車両がゆっくりと動き始めると、エンジン音を響かせず、静かに動き始める。


 その隠密効果によって、監視の目には出てくる車はいないまま車列は主要道に出て、そのままゆっくりと曲がり角で姿をくらますと、その車体を魔法で偽装し、ミニバンとトラックというどこにでもいそうな組み合わせに変化した。


「順調でござるなぁ、とここでフラグを立てることであえてフラグをへし折るスタイルの拙者をどう思うでござる?」


 ここまでは順調、何かの横槍を警戒しながら動くのだからそれはありがたいことと思っていたケイリィの耳に緊張を弛緩させるような声が響く。


「真面目にやれ」

「空気読みなさい」

「南ちゃん、さすがにこのタイミングでそれは……」


 パーティーメンバーから冷ややかな視線を受けつつ、ブーイングを上げる南をちらりと振り返ってみてみれば。


「良いじゃないか!私は嫌いじゃないよ、面白い考えじゃないか」

「おや、拙者の感性に共感してくれるとは嬉しい誤算でござる」


 堅苦しい雰囲気をぶち壊すならこの二人だという組み合わせが和気あいあいと話し込んでいる。


 最後尾の座席に陣取っていた霧香は、前の席に座っていた南の頭に手を伸ばし、ワシワシと少し乱暴に頭を撫でる。


 親の愛を受けてこなかった南であるが、その手のひらには不器用で乱暴であるが確かな親愛を感じた。


「あの子の周りにあんたみたいな面白い子がいるなら安心だよ。あんたらももう少しこれくらい肝を据えた方が人生気楽に楽しめるよ」


 霧香がカラカラと快活な笑い声を響かせると、ニヒヒといつも通りの彼女らしいオタクの笑い方を南はする。


 正反対の二人なのに、妙にウマが合う。


 そのやり取りのおかげで、ケイリィは自分の肩に力がこもっていることに気づいた。


 らしくないと思いつつも、気づかぬうちに緊張していたことに気づけたことに安堵した。


 苦笑する勝に、そういうものかと納得する香恋、そうなのかと疑問を浮かべるアメリアとこれから神と交渉する一行にしては緊張感に欠けるなと笑いつつ、ケイリィは道中をさっきよりもリラックスしてた状態で過ごすことができた。


 高速道路に乗り、そして徐々に目的地に近づいてもそれは変わらない。


『ポーンから、クイーン。目標の団体だと思われる車両群を確認、近くに警察車両も確認した』

「クイーンからポーン全車に通達、こちらからの攻撃は禁止、全車結界の展開準備。もし万が一相手から武力行使があった場合転移魔法で帰還する」

『了解』


 横槍はなく無事に目的地のサービスエリアにはついたが、問題はサービスエリアの方にあった。


 サービスエリアの一角を占拠するように検問を施す警察車両、そのそばに控える黒い車の軍団。


 物々しいその様子に一般人はサービスエリアで休憩せず、そのまま出ていく始末。


 例え後ろめたいことがなくとも、その場に長居をしたいとは思わせない。


「派手な出迎えだねぇ」

「お忍びっていう概念はどこに消えたのでござろうか」

「……胃が」


 そこに今から飛び込むと考えると、ケイリィも胃を抑えている伊知郎と一緒の気持ちになる。


 ただ、並みの人間以上に頑丈で健康な肉体は胃痛など引き起こさないが。


 ゆっくりと近づく、車。


 その姿が瞬く間に別の姿に変わってしまえば、警察の様子も一気に変わる。


「全車停止」

『了解、全車停止します』


 警戒態勢に入った警察。

 機動隊が瞬く間にサービスエリアを封鎖にかかる。


 交通機動隊の白バイたちが一斉に動き出し、誘導規制をかけ、一般車両の侵入を防ぐ。


 包囲を敷かれ、一瞬罠かと思ったが。


『相模霧江を確認、こちらに近づいてきます』

「出迎えるわ、南さんと香恋さんは護衛として来てもらっていいかしら?」

「了解でござる」

「ええ、わかったわ」

「総員警戒態勢」

『了解』


 どうやら、協会の方が手配したようでこっちを捕まえる意図はないようだ。


 敵意がないことは物々しい雰囲気に反して、こちらに丁寧な対応をしようとしている段階で気づけた。


「お待ちしておりました」

「思ったよりも大所帯でびっくりしましたよ」

「それに関してはそちらの急な連絡が問題ですよ」


 車から降りて、五メートル程の間隔をあけて、霧江と相対したケイリィは、周りの警官隊の様子に肩をすくめて見せる。


「こちらとしても神に携わる、神器の復元を成し遂げそれを早急に引き渡すと言われたのです。かき集められる戦力はすべて集めましたが、これでも準備が足りないと思っているのですよ?」


 魔王軍からしたら、無茶ぶりをこなした程度の認識だったが、日本側からしたら神秘の復元。


 奇跡を前にした彼女たちは、居ても立っても居られないのだった。


「何があるかわからない、あなた方が現れてからそれが顕著に出ている。ただでさえ他国のスパイが例年の数倍に増え、公安に所属する方々が過労死するかもと言われている現状なんですから」


 そんな大事を打ち合わせもなしに、あっさりと返すなと皮肉交じりの言葉に内心では同意しつつ、ケイリィは臆面にも出さず、こっちは悪くないとポーカーフェイスを決め込む。


「こっちは頼まれたものを用意しただけのことですよ、なんですかあの物騒な物。いつまでも保管し続けることなんてできませんって」


 霧江の段取りを取らせろというクレームを華麗にスルーして、むしろこっちが被害者だと主張する。


「それともここで物を引き渡しましょうか?」

「結構です、姉からとんでもない代物が完成したと聞いていますので」


 そして、互いに苦笑しあって、ひとまずの雑談は終了。


「……本題に入りましょう。ここから先は我々が周囲を警戒し護衛します。あなた方はその誘導に従ってください」

「わかりました。ただ、こちらも余裕があるわけじゃありません。余計な接待はご遠慮願いますよ?」

「問題ないように手配はしました。いざとなればこちらも手段を選びませんので」


 ここからの流れを軽く打ち合わせし、互いの車に戻る。


 そして、先頭にパトカーを走らせた集団はそのサービスエリアを立ち去るのであった。


 今日の一言

 血は争えない。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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