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753 休みの日の時間はあっという間に過ぎ去ってしまう

 

 意識が戻った瞬間、これは夢だと確信した。


 燃え盛る大地、戦いで倒れてしまっている将軍たち。


 そして滅び崩れ落ちている神。


 そこに膝をつき、鉱樹を杖にしてただ一人、もう息を引き取ったスエラを抱きしめて生き残ってしまった自分。


 なんだこれはと、思った。


 こんな光景は知らないと咄嗟に心で否定するけど、その叫びは口からは出なかった。


 ただただ、俺の耳に響くのは勝利への歓声ではなく、失った者への嘆きを現す慟哭の声だった。


 何度も何度もスエラの名を呼んでいる。


 左半身を神の炎で失いながらも、それでも美しさを保っている彼女の死に顔はなぜか満足気だった。


 なんだこの悪夢は。


 覚めるなら、早く覚めろと叫ぶも一向に目覚める気配がない。


 まるで、この光景を忘れずにしっかりと焼き付けろと言っているように、この悪夢からは目覚めない。


 徐々に、自分の視点から離れ、俯瞰していくような引きの目線で見れるようになっていく。


 そこに映ったのは地獄だ。


 下半身を失っても、なお、長い首を伸ばし神の喉に喰らいついた竜王、バスカル。


 きっと、最後まで背後の仲間を守り続けたのだろう、四肢を焼かれてなおこの炎の世界で樹木を生み出し続け燃え尽きた樹王、ルナリア。


 その巨大な肉体に見合った武具はすべて砕け散っても最後の一本であろう巨大な戦斧を神の体に叩きつけたまま朽ちた巨人王、ウォーロック。


 最早原型をとどめていないというのに、その存在が誰かと理解できる、威風堂々と拳を突き出し立ったまま往生している鬼王。


 あの強かった存在たちが、精鋭がすべて全滅。


 冗談にしては笑えない夢を、これから神と戦うというのになんという夢を見ているんだ。


 夢?


 もしかして。


『ヴァルス』

「はぁい、やっと気づいたわね」


 この光景と同じ現象、予知夢。

 それはヴァルスさんと契約し、神と初めて戦った時に見せてくれた光景。


 あの時はあわや娘がさらわれかけた。


 今回もそれに近い危機?


 寝ぼけていた頭が覚醒し、本当だったらこのまま夢から覚めるのだけど、普通にヴァルスさんと会話し、現状を把握し始めている。


『はぁ、これ、もしかしてこのまま作戦通りに進んだ結果?』


 大きく、夢の中でため息を吐く。


 いや、呼吸をしている感覚がないからきっと現実の方で吐いているんだろうなぁ。


「そうね、十中八九こうなる形ね。敵は神、むしろあなたたちはこのままいけば勝利という意味では最善と言えるくらいに完璧に勝利して見せるわ」


 だけど、溜息を吐いている場合ではない。


 ヴァルスさんは勝てると保証した。

 結果に関しては、納得も理解もしたくはないが、それでも魔王軍的には勝ちなのだ。


 なのに、なぜ、それを見せた?


『なんか含みのある言い方だなぁ』


 ぷかぷかと浮かび、世界が制止した光景の下で質問する。

 きっと俺の体感速度はとてつもなく引き伸ばされているから、のんびりと会話をしていても問題はないだろう。


 むしろ早々に話を切り上げて現実に戻る方が情報をもらえないという点で損失がひどくなる。


 ゆえに今度は溜息でなくて、大きく深呼吸して、さっきのスエラの顔を忘れるように心を落ち着ける。


「含みたくもなるわよ。あくまでいいのは神に勝ったという事実だけ、その後に待っているのは地獄よ」

『地獄?』

「そう、魔王の幹部が悉く全滅、それによって起きる残存勢力による内乱、魔王軍でまともな戦力であるあなたは心を殺して内乱鎮圧に繰り出すも、その間に弱った魔王は勇者という名の兵器に殺される。そしてあなたもスエラという大切な女性を失った心の隙間を狙われ暗殺。そのあとに待っているのは地球という世界を征服するという野心家がはびこる群雄割拠、イスアルだけの戦果が地球に蔓延し、魔王は地球でも悪の象徴になる」


 だけど、その落ち着けさせた心をかき乱すように淡々と簡潔にヴァルスさんは戦後の結末を語る。


 このまま戦えば圧倒的に魔王軍の戦力は欠ける。


 そこを突かない野心家はいない。


 話を聞けば当然だ。


 そう聞けば、この世界を見せた理由も納得だ。


「努力の結果が報われないのは嫌でしょ?」

『ああ、嫌だな』


 勝利しても、最後がハッピーエンドでなければ意味がない。


 ヴァルスさんの語る未来が本当だというのなら、ユキエラとサチエラ、そしてエヴィアのお腹の中にいる子供のためにもこの未来を変えないといけない。


 問題は、だ。


『これで完璧っていうのがなぁ』


 辛勝、本当にギリギリで神に勝利したというのにこれで完璧に近い最善。


 出せる将軍はすべて出した。


 フシオ教官とアミリさんは参戦できないが、それでも全力で挑める戦力はすべて出した。


 可能であるなら、将軍位である全員を生還させなければならないって言うことだ。


 戦力を極力削らないで神に勝つ。


 なんというか、悪夢だな。


 最初はそのつもりで戦おうとしたが、その気持ちで挑んだ結果が目下の光景という。


『頭が痛くなる』

「そう思えるだけ、マシね」

『全滅するが、刺し違えることはできるということは戦力的には互角っていうところで間違いないのか?』


 本当に頭が痛くなる光景だ。


 これだけ代価を払って、目的を達しても待っているのは地獄。


 世知辛い世の中はもう少し加減という言葉を学んだ方がいいぞ。


「いいえ、戦力的に言えば、うまくやれば殺せる程度の戦力が整ったに過ぎないの。力関係で言えば負けている。むしろあなたが加算されてようやく可能性が見いだされたレベルね」

『俺が?』

「ええ、あなたが加算されたからよ。あなたの事象を切るという才能は私でも見たことがないほど稀有な才能なのよ。成長速度も尋常じゃない。普通なら、概念を切るという行為そのものを成し遂げるのに長寿族の人生を捧げてもできるできないの世界なの」


 その世知辛い世の中をどうにか潜り抜けられた要素はどうやら俺だったらしく、呆れたと言わんばかりに大きくため息を吐いてくれましたねぇ。


 自分が異常だという自覚はあったが、ほかにもできるやつは探せばいるだろうとは思っていたが、まさかのオンリーワンだったか……


 おかしい、日本の漫画とかだったらこれくらいはできるヤツは……冷静に考えて切れないモノを切るって言うヤツはあんまりいない?


 そんなでたらめをできる次元にいると思い返せば、確かに呆れられるのも無理はないか。


『その理屈で言えば、鍵は俺になるわけか……』


 異常があったから、正常が乱れた。


 これにあてはめるのなら、元来神には勝てなかったが、俺というジョーカーを加えたから辛勝まで持ち込めたという理屈になる。


「そうなるわね、でもどう変えるかはあなたが考えなさい。さすがの私も変えた後の世界を見せることはできないわよ?だって私がこうやって未来を見せちゃったんだもん。私の観測領域を超えてしまったわ」


 その理屈を実行しようにも、どういう風に戦ったのかすらわからない現状ではどうするかすら判断もつかない。


 戦わないという選択肢も一瞬考えたが、それは愚策だ。

 呪いという弱体化を与えた千載一遇のチャンス、それを逃してしまったら一生かかっても勝つ機会はやってこない。


 であれば、ない頭を捻りだして俺ができることで未来を変える方法を考えつかないといけないのだが。


 生憎と戦いに関して言えば、斬ること以外に能のない男が俺だ。


 魔法も使えると言えば使えるが、基本斬撃に付与する装衣魔法が基本だ。


 それ以外の魔法となると神には通用しないだろうな。


 となれば……


 ちらっと隣でふよふよと浮かぶ年長者にお伺いを立ててみるが、無理とあっさりと首を横に振ってきた。


「あの時と一緒よ。あなたが何かしないと変えられないの」

『あの時は契約でパワーアップしたじゃないか』


 そこを愚痴っても結果は変わらない。


 自力でどうにかしろとの一点張り。


 どうにかって……あの様子を見る限りぶった切ってどうにかできた様子はない。


 となると他の方法を考えるしかないんだが……


『あ』


 一つ、心当たりを思い出した。


 ここで考える時間ができたから思い出すことができたのだろうが。


「何か思いついたのね?」

『いや、これアリなのか?』


 パッと直感で思いついた割には確信に近い発想なのではと思える。


 ヴァルスさん的にもこの戦いで世界が荒れることは望ましくない。

 だからこそ、少しでも勝率を上げたいと思ったのだろう。


 だが、もし可能ならという前提で言うのであれば、これ以上にない戦力が加算される。


「思いついたのなら行動しなさい。それができるできないの状況じゃ済まないのよ」


 直感で物事を考えたのにも関わらず、それでいいとヴァルスさんはなぜか太鼓判を押し、そしてさっきまで一向に目覚める気配がなかった夢から目覚めそうな気配を感じる。


「次郎さん!」

「スエラ?」


 そして、気づけば心配そうに俺の顔を覗き込むスエラがいて、咄嗟に彼女を抱きしめてしまった。


「きゃっ!?」


 ぎゅっと彼女の熱を感じるように抱きしめ、生きていることを実感する。


 あんな悪夢を見てしまった後だ、ついそんなことをする気分にもなってしまう。


 戸惑うような気配を感じた。

 だけど、すぐにそっと背中に腕を回して安心してと言うように背中を優しくたたかれる。


「ありがとう」

「いえ、何か、見たのですね」


 それがどういう意味かを察してくれた彼女には本当に脱帽するほかない。


 苦笑一つ残して、そっと離れると彼女の真剣な瞳が俺を見つめる。


「ああ、ちょっと。いやかなり厄介な夢をな」


 ヴァルスさんの力で俺が未来を見ることができる。

 使える時は限定的で、なおかつ、もっと言えば窮地の中でもとりわけきつい窮地でないと発動してくれない。


 それでもこうやって土壇場のピンチには教えてくれるのだから親切仕様なんだろうな。


「ケイリィに連絡をしてくれ、あと、エヴィアにも緊急コードを使えば連絡はつくはずだ」


 今が何時かちらりと時計を見て確認するが、思ったよりも時間に余裕はある。


 だが、確認に確認を重ねないとこれは実行できない。


「わかりました」


 そっと念話でスエラが海堂に連絡をつけているのだろう。


 その間に俺も頭を必死に動かす、何か見落としていないか。


 他にできることはないかそれを黙々と考えても、自分の手札というのはそう簡単には増えはしない。


「海堂さんから緊急回線を開いてもらえそうです。ブリッジの方に上がってきてもらえば連絡をつけるそうです」

「了解、それじゃ、時間もないし手早く済ませるか」


 休める時間は思ったよりも少なく、思っていたよりも素早く過ぎ去ってしまった。


 これからやることを考えればもう休んでいる暇はないだろうな。


「?どうかしましたか?」


 だけど、ふと立ち上がってブリッジに向かうよりも、スエラの方を見つめてしまう。

 あの戦いでスエラが死んでしまう。


 その現実がつい、戦ってほしくないという願望を生み出して、そしてそれが私的には正しいと思ってしまう自分がいる。


 だが、社会的な自分の見解からするとスエラという戦力を除外することはできない。


「いや、なんとなくスエラの顔が見たかっただけだ」


 結局は、不安を抱え込んで誤魔化すことしかできない。


 これでいいとは思わない。

 だが、こうしないといけない。


 そんなジレンマを考えないといけないって、本当に未来を見るっていうのも楽ではない。


「なんですか、もう」


 だけど、彼女のこの笑顔を守るためならその苦労も必要なんだろうな。



 今日の一言

 休みの日は時間経過が早い




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] エヴェアの神殺しの魔剣を使用するのかな? エヴェアで魂も概念切れるほどなら、次郎さんが使ったらどうなるか、怖すぎるな。
[一言] ここで満を持して鬼王さんちのお姫さんが参戦っっっ! ……今、おひいさまは何やられてはるんでしょ?
[一言] 確かにこのままスンナリいったら面白くないよね。どう転ぶか楽しみだ。
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