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749 我慢を開放する、それは社畜の解放

 

「カハハハハハハハハハハ!!!!気持ちいぃいいよなぁ!!なぁ!!神よ!!」


 これが最高にハイって言う感情なんだろうな。


 頭は冷静なのに、気分はずっと上がりっぱなし。


 殺してはいけない。

 倒してはいけない。

 しかし、その場にはとどめておかないといけない。


 その無理無茶無謀の三拍子そろった指示を実直に守ってきていた。

 それが枷となって、俺にストレスを与え続けていた。


 ストレス耐性に関して言えば、前の職場でそれなりに耐性ができているから問題はないが、だからといって平気だと言うわけではない。


 ある意味でブラック、ある意味では超絶ホワイトなうちの会社に入ってからもそれは変わらず、ため込みため込みとストレスを抱え込んでいた。


 しかし、教官の一言で、もう我慢しなくていいと悟った俺は鬱憤とともに魔力を全開放した。


 ああ、俺のストレスが放出されるかのように俺の周りに魔力の波動が生み出される。

 その波動は神の炎と拮抗し、俺の安全地帯を生み出す。


 右腕に接続した鋼樹により魔力が高速で循環され、魔力純度を向上させ、さらにトファムが生み出した魔力がスエラを経由して俺に送り込まれている。


 妨害されていたラインは、制限していた魔力を開放する際に放った、空間を割断する斬撃でここら一帯の神の魔力を切り払うことで回復。


「さぁ」


 普段なら、無構えで突き進むのだが、今回は攻撃重視。

 ゆっくりと八相の構えを取り。


「行くぞ相棒!!」

 〝応!〟


 相棒に声掛けをした瞬間、爆発音でも響かせるかのように踏み込んだ。


 派手に、大胆に、正面からの真っ向勝負。

 不意打ちも何もない。

 強いて言うなら馬鹿げたような踏み込みの速さが不意を打つような動きになるくらいだろうか。


 ただ速いだけじゃ、当然神には通用しないだろうな。

 弾丸のようにただ速くまっすぐにいけばもちろん迎撃にあう。


 近づけないようにと考えたか、あるいは今度こそ飛び回るハエを焼き払うためか、さっきよりも気合の入った炎が空中を走る俺に迫る。


 目からの光線、多種多様な炎の魔法、放出され変幻自在に変化する炎に、剛腕と言えるような腕の攻撃。


 その威力は知っているが、加減をしなくていい今の俺なら一振り一振り、鋭い風鳴りが神の炎を払いのけ、消し去る。


 手ごたえとともに、ああ、ここから先は我慢しなくていいんだなと少しうれしくなる。


 ありとあらゆる神の攻撃を躱した俺の先にさらされた神の胴体を縦に唐竹割りにして、その瞬間血の代わりに吹き出る炎。

 魔力が潤沢に込められた炎は、相棒を熱し融かそうとするが、それすら切り払い確かに斬り割いた傷が、神に刻まれる。


 その時に鎖もついでに斬り割かれるが、それはもういい。

 この拘束にもう意味はない。


 作戦は次の段階に進んだ。


 戦場は徐々にだが、終局に向かっている。


 であれば、さらにギアを上げて、作戦を加速させる。

 ヴァルスさんの力を使う。


 思考速度が加速し世界の動きがゆっくりとなり、さらに魔力の使用度を上げる。


 体が軋み悲鳴を上げるが、まだ限界ではない。

 余力をまだ残しながら、さらにギアを上げ鉱樹を振り上げる俺の姿を見た教官がギョッとした顔で俺の方を見ているのが見えた。


 あの鬼の、喜ぶ顔ではなく驚く顔なんて初めて見たかもしれない。


 このまま連携して、神を殺すのかとも思ったが、とんと宙を蹴って教官が下がった。


 あの教官が?


 だが、それがすぐに俺が神を斬ることを存分にできるようにするための配慮だとわかった。


 獲物の横取りは教官が嫌う行為の一つ。


 だったら、その好意に甘えるとしよう。


「キエイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 猿叫を響かせ、空間の空気を振動させ、神が鎖を引きちぎるよりも先に横一閃に薙ぎ払う。


 スッと包丁で豆腐を切るよりもスムーズに相棒が神の体に切り込まれる。


 一瞬、刹那の時間に迫る勢いで振り払った一撃は、神に十文字の傷を刻み付ける。


 さっきまでは手加減していた。


 回避や迎撃は全力だったけど、攻撃に関しては加減しないといけなかった。


「細切れになれやぁ!!」


 だけど今度は正真正銘の全力攻撃。


 制空権は確保できていないが拮抗し、敵主力はフシオ教官が抑え、神の塔の結界はこの場を譲ってくれたキオ教官に加え呪物の設置作業を終えた巨人王が参戦することでいずれ解決する。


 であれば、俺は太陽神を斬り捨てるのが仕事というわけだ。


 新しい召喚陣が出てきて、下半身が召喚されてきているが、そんなもの関係ない。

 炎の腰布一枚の変態神など物の数ではないわ。


 腕がクロスされ、神が防御の姿勢をとった。


 障壁と言えばいいのだろうか、膜のように張り巡らされた炎が物理的な防御力を生み出し、俺の斬撃を防ぐ。


 相当力を込めている。


 俺の斬撃でも、はじかれる。


 だけどなぁ!!


「この程度の防御、斬れない道理はない!!」


 この程度と口にしたが、脳裏では、神の防御を斬れないかもと疑念がよぎった。


 だけど、それを俺は鼻で笑い、口で吹き飛ばし、冗談と嘲り笑った。


 俺に斬れないモノはない。


 すぐに切っ先が、障壁に切り込みを入れ、返す刃では刀身が深く入り込み、一枚目を突破。


 後は空中で踏み込み、神速の斬撃を繰り返すだけで障壁なんぞ、紙切れのように斬り割いてくれるわ。


 ああ、いい表情だ神。


 さっきまで鬱陶しいハエのような存在だと思っていたやつが、喉笛を嚙みちぎれる狼だとようやく理解したか。


 それもただの狼じゃないぞ?


 俺の牙はそんじょそこらの狼なんて目じゃない位に鋭利だ。


 ああ、屈辱だって思っているな。

 ふざけるなって怒っているな。


 万事物事がうまくいくことなんて、神でも不可能なんだな。


『消えろ!!』

「お前の命令に従ってたまるか」


 本体ならともかく、仮初めの体で弱体化したお前じゃ、今の俺は止められないよ。


 圧倒的火力なんだろうさ。

 触れれば俺の肉体なんて灰すら残らないんだろうさ。


 でもな、そんな攻撃でもさ。


 俺は。


「黙って、斬られてろ」


 切れるんだよ。


 風切り音一つで、炎の波は斬り割かれ、そして意味を切り捨てられた炎は無と化す。


 概念攻撃同士の削り合いっていうのはこういうことになるんだよ。


 意味を斬り捨てる、意味を燃やす。


 どっちも攻撃的な概念だから、勝った方が負けた方の概念を打ち消す。


 だからこそ。


「死ね!!!」


 炎の障壁を切り裂き、間に何もない空間となった神めがけてもう一歩踏み込み、首を切り取ろうと横一閃を放つことができる。


 一気に首の半分は切り取れると思ったんだけど、神め、一歩引きやがったな。


 もう一歩踏み込めば……


 いや、それは、危険だな。


 嫌な予感を感じた瞬間、身を引くように空間を蹴り、その場を飛びずさる。


 吹き出る炎が、俺がいた場所を焼き尽くすのを目の当たりにしながら、完全に体が召喚されたのを見下ろす。


『不敬、不敬、不敬!!なんとも度し難い!さすが、下賤な奴に頭を垂れる矮小な存在だ!!この我を見下ろすとは、何たる不敬か!!』

「そんなクレームをこっちが受け付けると思ってんのか」


 怒りに満ちた顔。

 ようやく俺を一存在と認識し、殺しに来てくれたか。


 その気があるのなら大いに結構。

 無駄話をするつもりもなければ、こっちも俄然、殺る気は満載なんだ。


 なにせ、お前には家族をぼこぼこにされた挙句に、大事な大事な娘を拉致されそうになったという恨みつらみがたくさんあるんだからな。


「こっちもクレームが山のように積みあがってんだからよ!!」

『痴れ者が!!』


 怒りに任せて飛び込むようなことはしないが、その体を切り刻む気は満々で、突進するかのように進めば、熱波と、レーザー、そして四肢による攻撃が俺を襲う。

 属性魔法は基本的に炎。

 何か別の攻撃がないかと警戒しているけど、撃ってくる気配はない。


 使うことにプライドでもあるのかと、疑問に思い、同時にあるんだろうなぁと確信し。


 唐竹割りで、一気に足元まで下りた俺はそのまま神のアキレス腱を切り、バランスを崩そうとするが、さすが神、普通に立ってる。


 タフさだけで言えばまさに神級。


『この場にいる汚らわしい存在ら諸共消し去ってくれるわ!!』


 そしてそれに反して、器はなさそう。

 堪忍袋の緒が切れたと、両手を掲げて、その両手の先に炎が集まる。


 再び登場する神造太陽。


 さっきよりも大きさも、込められている魔力の量もけた違いに多い、あれが地面に叩きつけられれば、少なくともここら一帯にいる魔王軍が消え去る。


 スエラが召喚しているトファムであっても無事では済まない。


 ああ大変だ、ああ大変だ。


「その程度で慌てるとでも思ったか?」


 地面に一瞬しゃがみ、今度は天に向かって駆け出す。


 傍から見れば、飛んで火に入る夏の虫って感じだろうな。


 だけど、相手がやろうとしていることを考えるとこれが最善。


 ただ、俺がたどり着くよりも先に、太陽が生成され、落とされる方が早そう。


 太陽生成を妨害されないように、障壁が展開されて、それを切り裂くのにコンマ数秒の時間を使ったのが痛かったな。


 半端であっても太陽。


 その威力は地表には決して落としてはいけない凶器だと断言できるほど。


 目算でそれであるから、当然のようにそれを上回る可能性が付きまとい。


「ま、問題はないんだけどな」


 その可能性を発生させないために、俺がいる。


 俺めがけて落ちてくる太陽。


 なんというか、過剰な威力としか言いようのない物体。


「天照」


 その太陽に対抗するのは、かつて勇者の体に入り込んだ神に無駄だと一蹴された一刀。


 太陽神に太陽の神の名を冠する攻撃をぶつける。


 それが無意味であるかのように、神が笑ったように見えた。


 その笑みも、太陽に俺の刃が触れた瞬間に消えるけどな。


 俺の相棒にあるアドサエルの杖の応用でついた魔素吸収能力、これに天照を付属して展開してやるとあら不思議。


「お前の魔力いただくぜ?」


 同属性の魔法であれば問答無用で吸収してしまう。


 みるみる相棒に吸収される太陽。


 そして小さくなる太陽。


 僅かな拮抗、わずかな抵抗。


 そんなものは無意味と言わんばかりに、太陽のエネルギーは丸々俺の物になり、シュッと熱を発散するかのように鉱樹は元の色に戻る。


『……』


 ありえないと目を見開く神。


 隙だらけだぜ?


 大量に吸収した魔力はどこに消えたか、それは当然現在進行形で俺の体内を暴れまわっている。


 正直ハイテンション任せで、無理やり制御して、俺の魔力に馴染ませている。


 純度を上げるどころの話じゃない。


 邪神っぽいけど、もとは神からのエネルギー、元から純度が高い。


 これ以上純度を上げることも難しく、暴れまわる魔力を即座に放出しないと俺の体が変になる。


 だからこそ、容赦もためらいもなく、時空魔法を展開。


『!?』


 パクパクと口を開き何かを発しようとしている神の間抜け面。


 時空停止結界。


 さっきまで自分の力だった神の魔力をふんだんに込めた結界はたとえ神であってもすぐに解くことはできない。


 もって数秒だろうが、神が数秒とはいえ、魔王軍の将軍の前に無防備をさらすのは致命傷だ。


 吸収した残りの魔力は鋼樹に循環されその切れ味を増し、俺の脳はさらに深く概念世界へ没入。


 意趣返しも済んだ。


 であれば、この一刀で終わらせる。


 一気に空に駆け上がり、そして振り上げる一刀。


 ゆらりと視界の色合いが変わる、深く、深く、さらに深く、そして見えてくる概念のほころび。


 見えた。


 仮初の体の核。


 太陽神の本体とつながる、ライン。


 そこをめがけて、俺はスッと静かに鉱樹を振り下ろすのであった。



 今日の一言

 我慢しなくていいというのは最高だ。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次郎ぱねぇー。 ここらで Another sideかな? いずれにしても楽しみだけど。
[一言] カッケェー!
[一言] 魔王軍がホワイト……だと? どこが!?
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