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748 時間があっという間に過ぎる時と過ぎない時がある

遅れました(汗


すみません

 

 息が苦しい。


 体が熱い。


 汗臭い。


 ぜぇぜぇと息切れする呼吸音を他人のように聞き。


 俯瞰しながら自分の体調をデータのように見つめる。


 神との戦いを繰り広げて、熱により腕時計が溶かされ無くなってからどれくらいたったかは体感でしかわからない。


 だが、少なくとも二十四時間は経過している。


 スエラの召喚してくれた精霊たちのおかげで、魔力の供給に天候の支配。


 この二つがアドバンテージになってくれていたおかげで、不眠不休で戦い続けれたと思う。


「ぷは」


 荒い呼吸を整える暇もなく、体から抜けきった活動エネルギーを補給するポーションを口に含んだのもすでに八本目か。


 戦闘に関する情報だから、八本目と正確に数えているのだが、このポーションの摂取カロリー量から推定するととんでもない熱量をこの体で消化したことになる。


 これでも体は足りないと言い。


 そして休めと訴えてきている。


 だけど、状況がそれを許してくれない。


『消えろ!!』


 拘束が崩壊していくにつれて、神の動きも自由になっていく。


 ゆえに段々と攻撃が正確になり、さらに言えば、どんどん激しくもなっていく。


 そうなれば相対的に体力の損耗は増えて行く。


 鬱陶しいという煩わしさを隠しもせず、今も神は自由になった片腕を振り回して俺を払いのけようとしている。


「……」


 その言葉に反応する必要はない。


 むしろ余分な言葉を吐き出すだけ、呼吸が荒れ、体力が消耗するのだから無駄な労力は避けるべきという判断で、次第に無口になっていく。


『じ…う……ぶ……』

『問題ない。まだいける』


 そんな最中でも、ぶつ切りで通信が届かないような雑音交じりの念話だけはしっかりと答える。


 神の支配能力というのは並大抵のことじゃない。


 熱波自体に神の力が混じっているからか、周囲に漂う魔力濃度がえげつないことになっている。


 おかげで魔王軍内の念話通信網はここいら一帯はほぼ機能していない。


 契約を通じているスエラの念話だけ、かろうじて届く程度。

 魔力供給も徐々にだけど、無線ではか細く途切れそうになっている。


 戦っている途中まで余裕を感じていた理由が断たれているが、鉱樹による周囲の魔力吸収能力を駆使して同じように戦えている。


 さて、あとどれくらい戦えばいいのかという問い掛けは飽きるくらいした。


 払いのけるような腕とともに放たれる熱波など、すでに何度も斬り捨てている。


 その攻撃の対価として、返しの刃で神の腕を斬り捨てることもすでに慣れてきた。


 と言っても、腕の太さが太さだ。


 深く切り込んでも物理的に切り飛ばすには刃の長さが足りず、概念的に切り飛ばそうにも存在力が強すぎて切り飛ばせず、魔力の刃で伸ばしても出力が足りず。


 結論、深く切り込むだけで終わってしまう。


『!?』


 この分身体に痛みがあるかはわからない。


 だけど、腕が一瞬でも使い物にならないことに神は不快感を示しているのはわかる。


 そしてだんだんとこの神を斬る方法が体にしみ込み始めているのも感じている。


 最初よりもだいぶ手ごたえを感じるようになった刃。


 神という概念を捉え始めている証拠だ。


 最初はより深く、概念を認識できるようにしなければならなかった。

 だけど、徐々に、本当に少しずつ、その認識を薄く、より浅い状態でできるようになってきている。


 一刀、また一刀、鋼樹を振れば振るほど、刃は正確に神の体を斬り、余分な力は一切要らなくなる。

 されど必要な力は込める。


 その繰り返しは、俺の体力の損耗を抑えるためだけにやっていた行為なんだけど、これがまぁ、すっごい効率的な鍛錬方法になってしまっている。


 なんていうか、高効率の経験値を常時供給されている状況と言えばいいんだろうか?


 一番近い状況は、キオ教官と本気で殺し合ったあの日、いや、正確には死なないと思って殺す気で戦った将軍選抜試験の戦いに近いと言えばいいだろうか。


 命がけの戦いというのは、本当にもう、経験値という分野においては並外れた恩恵をもたらしてくれる。


 死ぬか死なないか。

 殺すか殺されるか。


 その狭間の戦いでは、脳は常時最高効率の状態を維持しようと奮起して、体は最小限の力で最高の成果を求めるように進化する。


 それを実感できるほど、神との戦いは俺をもう一つ上のステージに跳ね上げている。


 熱波、レーザー、物理的な攻撃に、魔法。


 方法は多々あるけど、どれもこれも、まともに受ければ俺の体を容易に消し炭にできるような熱量を持っている攻撃たち。


 おまけに相手は概念そのものの神。

 攻撃全てに概念が付与されていて、まともに受け止めるということができない。


 教官の攻撃だったら、鍛え上げ多少は防げるだろう概念防御も、相手が神では文字通りの紙装甲にしかならない。


 ゆえに、防ぐには同じく概念で攻撃し相殺するか、回避するの二択。


 当たれば終わり、されど引けば軍の被害が増大する。


 頼みの綱の教官二人は別に相手取る担当があるから、交代要員はいない。


 海堂の艦隊も、空中要塞の相手をしていて神相手どころではない。


 すなわち、交代要員のいない状況で俺は必死に戦っているわけだ。


 そりゃ、技術の進歩の一つや二つするもんで、たぶんだけど現在進行形で魔紋が成長している。


 魔力適正十というバカげた適正は、本当に俺の体に制限なく成長を促してくる。


 一刀に違和感を覚え、修正する。


 次の一刀で修正してみれば、手ごたえと疑問を同時に感じる。


 なんという成長に対する理不尽。


 できればうれしい、されど、できてしまうともどかしい。


 その矛盾する感覚。


 ああ、疲れているのに、この成長があるから止まれない、止められない。


 浅い呼吸。

 必要最低限の体捌き。


 骨に負担のない動かし方、必要最低限の筋肉の躍動。


 これは、斬れる。


 その確信を持った俺の一刀は、撃ち出されてきたレーザーを綺麗に縦に割断する。


 背後に飛び去るレーザー。


 連続で放たれようが関係ない、撃ってくるのがわかっているなら、それが斬れるモノであるなら。


 怖くはない。


 撃つ呼吸、放たれる攻撃のタイミング。


 それを相手は隠そうとしない。


 神の傲慢と言えばいいだろうか。


 あの時、イシャンの体に入り込んでいた神と同一存在とは思えないほどの神の傲慢。


 すべての攻撃がテレフォンパンチ。

 ただそのテレフォンパンチの水準がクソみたいに高すぎる。


 常人では反応できない攻撃を繰り返せばそれは当然勝てるよな。

 けど、ここに技術が組み込まれればもっと厄介なんだけど、それをやってくる様子がない。


 そのおかげで、俺は高効率のパワーレベリングという名の、斬撃練習台に恵まれているわけだ。


 なんで?と、戦っている最中に疑問は抱いたが、すぐにその疑問は氷解した。

 あの時は人の体という制限があったから、出力で負けるから技術という小手先技に頼ったという結論。


 むしろ神にとって人の技を使うというのは、人と同じ土俵に立つということだから屈辱でしかないのかと、いろいろと理由が思いついた。


 それでここまで翻弄されていては世話がないと思うのだけど、そこには触れず。


 俺はゴリゴリと神の体を切り刻む作業に従事している。


 高濃度の魔力を吸収させている相棒もなんだかいつもよりも切れ味が上がっているような気がする。


 もしかして、刀身に神から放たれている魔力を吸収して耐性がついた?


 それのおかげで斬りやすくなっているとしたらかなり助かっている。


 しかし、延々と続くこの作業が苦痛ではないかと聞かれれば苦痛と答えてしまう程度には肉体的疲労も溜まってきている。


「……」


 そして、もうすぐ拘束が壊れるよと前兆を知らせるかのように砕け始める鎖たち。


 ヴァルスさんの言う通りの時間が経過しているのならいいのだけど、それ以上の前倒しが起こっているのならここから先が本当に地獄なのだ。


 作業終了の念話はまだ来ていない。


 さらに言えば、本陣からの支援もあれ以降ない。


 神に有効な手段が少なすぎるというのもあるだろうけど、ここまで拘束しているのなら遠距離からフルボッコにするくらいのことはしてほしいと思う。


 だけど、拘束にほころびが出てしまったら問題なんだろうな。


 下手な攻撃が悪影響を与えてしまう。


 俺だって突きで拘束の隙間を攻撃することはあっても、拘束をぶった切るようなことはしなかったしな。


 さてさてと、どうするかと悩むこと数分。


 その間も手足は全力で動き回り、攻撃を繰り返し、手ごたえを増やし続ける作業。


 拘束を解除されれば、すぐに残った下半身が召喚されるはず。


 そうなると移動始めるよなぁ。


 それまでに巨人王たちが作業を終わらせてくれればいいんだけど、それも難しいかな。


 念話が途切れてから進捗状況も確認できなくなってるし。


 俺の役目は作業が終わるまでこの神を足止めし続けること。


 鬱陶しいと煩わしいと、延々とウザがられるのが仕事。


 あれ?


 嫌がらせをすると喜ばれる仕事ってある意味最高では?


 俺個人的にかなりいい感じの仕事のような気もする。


 体はまだまだ動くけど、寝不足でなんか変な方向にテンションが振り切れているような気もするけど、冷静さが欠如し始めているような気がするけど、集中力はまだ切れないから問題ない。


 徹夜明けのブラックスケジュールをこなしているときの社畜時代のテンションになり始めているけど、そこを気にしたらダメなような気がする。


「ふぅ」


 炎天下と文字通り、炎で囲まれて酸素欠乏症になりかねない空間でため息を吐くことで冷静さを保ち。


 高速で斬撃を飛ばしながら、ジト目でこの神の処分をどうするか頭を悩ませる。


 そんな折。


「待たせたな次郎!!」


 炎を突破して待望の援軍がやってきた。


「教官!?」


 腕をクロスして、炎を突破した大柄の鬼。


 鬼王ライドウこと、キオ教官。


「念話が届かねぇから俺が伝令としてやってきた!!待たせたな!!準備ができたぜ!!」


 そしてそれは待ち望んだ声だった。


 ニタリと俺の口元が三日月を描く。


「遠慮するな、ぶった切れ!!」


 そして教官の後押しもあって、俺は迷わず、魔力を開放し、そして概念認識を変換する。


 深く、深く、何よりも深く。


 意識を深く入れ、頭痛を感じる頃合いに、俺は斬れると認識した。


 その体に巻き付く鎖ごと、その概念を上乗せした俺の斬撃は、濃くなったこの空間の魔力ごと太陽神を縦に肩口から両断して見せた。


「カハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!きもちいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」


 鬱屈した気持ちを開放する、一刀両断。


 神を斬り裂き、神が目を見開き、拘束が解かれているのにも関わらず、大きな傷を抱え込み、身動きが取れなくなっていく姿を俺は見下ろすこともなく天に向けて解放の快感を叫んだ。


 もう、手加減しなくていい。


 その手加減さえなければ、この神を滅多切りにすることくらいいつでもできた。


 いや、正確には最初はこんなことができるとは思っていなかった。


 徐々に徐々に、本当に少しづつ、神の体を斬り続けることで、できそうができるになる、ああ、もうできると確信するまで至ってしまった。


 なんていうか、我ながら斬ることに関しては本当に天才通り越して天災の才能があったんだなと思わされる。


「立てよ神、ここから先は本気で切り刻んでやるよ」


 解放感と徹夜明けのテンションというのは恐ろしい、ずいぶんと気が大きくなってしまったなぁと大口をたたく自分に笑うしかなかった。



 今日の一言

 時間の過ぎる感覚というのはまちまちである


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 650話に出てきたエヴィア秘蔵の魔剣に出番はあるのだろうか? 神を呪う呪物の中核になっていそうな気もする。
[一言] 人(神)の嫌がることを進んでヤりましょう。
[一言] 終わったら、次郎が神化していたり、鉱樹の方も刀神とでもいえそうな存在になっていたりするのもあるかもな。おそらくスエラの方もそのままではいられまい。夫婦そろって末永くいられる変化であることを期…
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