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747 山を越えたらまた山がある、人それをデスマーチという

すみません、少し体調を崩して投稿ができませんでした。

この時期はやっぱり鬼門です。汗


皆様も寒暖差にはお気をつけください。

 

 思わず、というよりも条件反射で、会社に入社して初めて社長のことを罵倒してしまった。


 いや、俺の気持ちも察してほしい、こっちは文字通り必死で神と殺しあっている最中の無茶ぶりだぞ?

 しかも前振りなし、相談なし、できるできないの拒否権なしのブラック論法の三段撃ちだぞ?


 怨恨の籠った罵声を思わず吐き出してしまっても仕方ないだろ?

 それほど、ついさっきまでの俺は切羽詰まっていた。


 何せ相手は神。


 殺る覚悟は決めていたが、さすがに技術云々じゃなくて、純粋なスペックが俺を上回っている相手はしんどいを通り越して無茶。


 多少の差であるのなら根性で埋めるのが信条である俺ではあるが、さすがに埋めがたい差はどうしようもない。


「一息つく暇くらいくれよな!!」


 どうにか社長の指示に従って、太陽神の顔面をパイルリグレットでぶん殴って、神の体をいきなり飛んできた白い光の矢にぶち当てて、突き立った矢が変化した大量の光の鎖に神を拘束させられたのが御の字かと思って、地面に着地。


 異空間からポーションを取り出して一気に煽るように飲んで、瓶を神に向かって投げつける。


 当然そんな投擲じゃダメージすら入らないが、それでも気分の問題だ。


 携帯食料として開発したこのポーションのおかげでカロリーと言う名のエネルギーは補給できた。


 しかし、食事というには味気なさすぎる補給で少しは休息が取れると思ったが、光の鎖で拘束されている体でも動かせる部位があったらしく、太陽神の顔がこちらを向くとその目から熱線が放たれた。


 休憩時間はわずか数秒。


 いや、むしろ一息入れられる時間をもらえただけ、良かったのか?


 一発だけじゃなくて、神の目から放たれる熱線は寸分の狂いもなく俺の体めがけて連射される。


 そりゃ、神だし目からレーザーくらい出すよなぁ。

 やろうと思えば俺もできるだろうけど、下手したら眼球焼けるし、やる意味がない。


 正確無比の攻撃を全力疾走と全力停止の緩急で躱す。


 ゼロマックスの加速によって生まれた残像を撃ち抜かれ、背後に熱を感じる。


 間違いなく地面が融解した。


 それを瞬時に悟って、とにかくあの顔面をどうにかしないといけないと判断した。


 片腕だけの召喚だったころは五感が完全じゃなかったからか、俺への認知能力が低かった。


 だけど、頭部まで召喚されてからは、俺への認知能力が格段に上がった。


 となれば、あの顔に五感があるのは間違いない。


「問題は……斬るときに注意がいるっていうことだよなぁ」


 そこを斬りたいところだけど、見上げるような巨体の神の顔にたどり着くのは一苦労。


 途中肉体を斬り捨てて注意を逸らしたいところだけど、下手に光の鎖の封印を切り捨てて神を自由にさせたらそれはそれで大変なんだよなぁ。


 苦労は慣れている。

 であれば、あとは挑むだけ。


「なんとか、するさ」


 タイミングよく、しゃがみ、一気に空へと跳躍する。


 そんな単調な動きはあっさりと神に見透かされ、再び熱線を浴びせようと俺に視線を向けてくるが。


「ヴァルス!!」

「はいはい!!大盤振る舞いよ!!」


 白蛇から放たれる白い光が神の顔に当たる。


 神相手には効果が下がるが、それでも時空魔法。神の目から放たれる熱線が硬直し、固体化した。


 目元を固着された太陽神の視界が閉ざされた。


 足元の空間を固定し、そのまま前に踏み込む。神からの反撃はない。


 周囲を高温に上げようとしているが、それでも俺の方が一歩早い。


「キエイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 概念を込めて。


 ただ横一線に斬る。


 殺したりしてはいけない。

 倒してはいけない。

 召喚を妨害してはいけない。


 それを守り、それでも殺意を上乗せした気合の一閃は。


『■■■■■■■■■■■■■!?』


 神の両目を切り裂くという快挙を成し遂げる。


 本来、神の肉体を傷つけることなど不可能。

 仮に斬れたとしても、瞬く間に再生してしまうはず。


 だが、こと、斬るという分野においてその領域を侵すところまで進化した俺の斬撃は、分身とはいえ神の肉体を、多少の頭痛を堪える程度で切り裂いた。


 だけど、きついことには変わりない。


「っ!」


 ずきりと痛む頭。

 脳に負荷がかかっている証拠だ。


 それを身体強化で無理して脳障害が残らないレベルの負荷で済むようにしている。


 もし仮に何もしないでこれをやったら間違いなく廃人になっている。


 光の門を斬り捨てた時と同じ深度、あの時とは違って、視界がすべて極彩色に染まるのではなく、まばゆい真紅に染まっている景色であるからまだましである。


 これが神の色かと感心半分、これ以上は負荷が大きすぎる。


 脳への負担を考えると長時間入り込み続けることはできない。


 概念世界に深く入り込みすぎるには今は早すぎる。


 言語化できない神の叫びは間違いなく痛みを発散するかのような雄たけび。


 それすらノイズになる俺の脳みそが正常な景色を取り戻すまで数分の時間がかかる。


 あの光の門で感覚を掴んでおいてよかった。


『なぜ、なぜ治らぬ!?』


 おお、おお、戸惑っている戸惑っている。


 炎の血を両目から垂れ流している姿を見れば、本来であればありえない光景なのだろう。


 光の鎖に雁字搦めにされて、身動きが取れない最中で視覚を失うのは一体どういう気分だろうか。


 そんな疑問を投げかけたい気持ちをぐっとこらえて、顔面付近が高温になりきる前にいったん離脱する。


「良い一撃ね」

「そうだと良いけどな」


 空中で白蛇が待機し、俺を受け止めてくれる。


 そしてそのわずか数舜後にやってくる熱波。


 金属であっても溶かしそうな熱量は一時とはいえ、視界を覆う。


 時空を這う白蛇は、いったん時層をずらしそこに潜り込むという荒業でそれを避けて見せる。


「このままダメージを蓄積させて、時間を稼ぎたいところだな。ヴァルスさん、あの拘束どれくらい持ちそう?」

「そうねぇ、ざっと見積もって三十時間ってところかしら?多少は前後するけど、大きく削られることはないと思うわよ」

「距離を取って、静観すると?」

「もって、数時間ね。あなたが妨害し続けているからあの拘束に意識を割けていないようね」

「さようで」


 若干景色が変わった風景越しに、神が所かまわず周囲を融かしているのを間近で見つつ、やれることが妨害オンリーであることに気苦労が絶えない。


 妨害も役に立っているとヴァルスさんは言い、聞こえはいい。


 だが。


 概念で斬り割けば、神にもダメージを蓄積することが可能なのか。


「とりあえずわかったのは、今の俺の実力なら神を斬ることも不可能じゃない」


 それはひとまず置いておく。

 見つめるのは結果の方、神を切り裂いた事実。


「拘束への負荷を減らせる箇所を選んで斬り続ければ何とかなるだろう」

「そのためにはまず、この灼熱地獄をどうにかしないといけないわよ?あなたのお味方さんたちにも被害が出始めているわ」

「わかってるよ」


 ならば、基本的に斬れないという思考が挟まることは金輪際ない。

 俺は神を斬ることができる。


 そう認識、大きく深呼吸して。


「出てくれ」


 休憩時間は終了、打ち合わせなんて贅沢な時間は今の俺にはない。


 やることを軽く打ち合わせたあと。


「俺を放り投げたらすぐに潜航して援護に回ってくれ、絶対にスエラの方に被害を出させるな」

「わかっているわよ」


 俺は灼熱地獄に放り込まれる。


 呼吸一つするだけで肺が焼ける。


 それどころか生身の人間がこの空間に放り込まれたら、あっと言う暇もなく炭化したたんぱく質になってしまう。


 だが、それは熱があるから、炎があるから、突き詰めて言うなら。


「ふん!!」


 そこに魔力があるからそういう現象が起きるだけだ。


 全身全霊の唐竹割。


 元の空間に出現した瞬間、俺の範囲百メートルの炎が裂けて、消え去る。


 それによって、気温が通常に戻る。


 物理現象を考えるのなら、それはあり得ない。


 熱が急激に冷める現象が、斬撃で引き起こされるなんて本来であればあり得ない。


 だけど、意味を切り裂く概念攻撃であるなら、熱、炎といった現象にすら干渉し、そこから派生した現象にすら影響を及ぼすことができる。


 人が生存できる温度まで一気に下げて、急激に上がる気温に対抗して、こっちの腕を振るうスピードも跳ね上げる。


 すべて切り裂く、斬れないモノはない。


 神が切れると認識した状態の俺は、斬れないという思考を挟まない分、人外の現象を引き起こすことができる。


 斬って切って斬りまくって。


 安全地帯を確保しながら、空間を跳び、そして再び神に肉薄する。


 概念が薄くては神の体を切り裂くことなどできない。


 けれど深く踏み込めば踏み込むほど、脳への負荷が大きくなる。


 その塩梅を見極めながら、相棒を振るう。


 巨人王の作業完了の連絡が来る時間までのペース配分を考えながら、体を動かし、神の体の表面に刃を刺しこむ。


 接触時間は一秒にも満たない。


 むしろ、一秒にも満たしてはいけない。


 俺の相棒であっても、神の炎をまともに受け止めてしまえば刀身にゆがみが出る。


「いけるか!?」

 〝無論!!〟


 魔力を循環させる根はすでに腕に巻き付いている。


 さらに、スエラからの魔力供給のおかげで、魔力の問題はほぼない。


 ヴァルスと契約して得た未来視を駆使して相手の動きに反応する。


 光の鎖の拘束の隙間を縫うように刃を走らせ、人間で言う筋肉の筋を断とうとするが、瞬く間に回復してしまう。


 唯一回復が遅いのは、全力で斬り割いた目元だけ。


 そこもじわじわと治っているようだな。


 となるとこのままいくとじり貧待ったなし。


 はたして、こんな感じで戦って時間まで持ちこたえることができるだろうか。


 まぁ、やるのが仕事なのでやるけどさ。

 残念なことに神を相手にしてなお、抑え込むのが〝不可能〟とは思えないんだよな。


 実際、こうやって戦いながら翻弄できてしまっている段階で無理とは言い難いし、教官と戦っていた時のように正面切って殺しあっているわけでもない。


「問題は、この拘束が途切れた時だよなぁ」


 その条件下であればこそ、可能であると判断できるのだ。


 しかし、ついさっきまで拘束なしで戦っている経験を踏まえると、持ちこたえられるかどうかは五分五分に戻る。


 ワンミスが致命傷になりかねないこの現実は変わらないわけで。


 そして、戦闘狂のやる気の原動力である戦いを楽しむこともできない。


 本当だったら神相手の戦いなんて燃える展開と言い切っていいはずなんだけど、それがない。


 なんでだろう?と思えば、すぐに見当がついた。


 単純に相手が俺のことを鬱陶しいハエ程度にしか認識していないからだ。


 ハエに目を潰されたことをバカにしたいが、不快に思っても相手は俺のことを敵と認識すらしていない。


 対峙していないんだ。


 認識していないんだ。


 俺はただの障害物。


 ああ、なんていうか。


 本当に神というのは傲慢であるとつくづく思い知らされる。


 俺という存在が邪魔で仕方ない。


 だが、存在を認知しない。


 戦いを楽しむということに値しない存在。


 そう思われていると、少し、腹が立つな。


 戦いを通じて、理解できることというのは意外と多い。


 これは数々の戦いを経験してきたからこそわかることだ。


 だからこそわかる。


 このクソは戦ってきていない。


 ただただ蹂躙し、屠ってきただけだ。


 ああ、なんだそのクソみたいな現実。


 ちょっとだけ楽しみにしていた俺が馬鹿みたいじゃないか。


「OK、わかった。こっから先は、俺もただの作業で乗り切ってやるよ」


 だから、ほんのちょっと苛立ちを込めて、目の前の神に宣言してやった。



 今日の一言

 山を越えれば一息つける。









毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘狂モードも好きだがマシンモードも捨てがたい [一言] 無理せずに体調を整えてください。
[良い点] 次郎サイドも面白い。 拘束が解けたとき、さぁどうする次郎。 次回更新楽しみにしています。
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