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746 焦りは禁物、と言うのは簡単

 

 Another side



 魔王軍と帝国軍の連合軍の本陣は蜂の巣をつついたかのように騒がしい。


 神の召喚、そして前線で将軍たちが戦闘に入ったことの通達。


 その報告を受けた両陣営の王。


「予想よりも早いね……あらかじめどこかにエネルギーをストックしていた?いや、完璧に召喚するのを諦めて召喚を速めた可能性もあるか」


 魔王は片目をつむり、使い魔越しに戦況を把握しようとしている。


「魔王よ、こちらの工作兵をそちらの救援に回すぞ。今こちらの陣の形成を続けても意味がない」


 そして帝国の王も自分たちができることをやる。


「そうだね、戦線はこっちで保つ、いまは少しでも早く策を完成させないといけない」


 優先順位の取捨選択。


 それをするのがトップの役目。


 神の召喚が早まったからと言って、すぐに瓦解するような組織編制はしていない。


「間に合うか?」

「彼のタフさは折り紙付きだよ。人王なら太陽神が完全召喚されても三日は持たせるさ」


 大樹が召喚され、天候が操作され、そしていま白蛇も呼び出された。


 特級精霊にそれに準じるような巨大な力を持つ精霊を駆使して神に抗う一人の男が今の戦場のキーマンだ。


「そうか」


 いたって真面目に答えた魔王の言葉を帝国の王は気にも留めず、本陣から戦場を見る。


「……皮肉なものだ。崇め祈り救いを求める民を無視する我欲にまみれた神と敵対している奴らに、我らは救われようとしているのか」

「救う気はないよ。今は横に並んでいるだけさ、もし向かい合ったときに互いに腰の剣に手が伸びたら同じことの繰り返し、それだけの話さ」

「……」


 遠くから見てもわかる巨体。

 焔の巨神とでも言えばいいのだろうか。


 上半身が姿を現しただけで、その威圧、迫力と言うべきか。


 戦場から距離を取っているはずなのにそれでもなお、体を押しつぶしそうな圧力を両王は感じている。


 神の力の一端。


 それだけで並の存在を超えている。


「ここからは時間との勝負か」

「ああ、神が姿を現しているということはおそらく世界の浄化も近い」


 その力がまだ解放されずにいるのは、遠目でもわかる巨大な斬撃を繰り出している人間のおかげ。


 それでも猶予があるわけじゃない。


「工程は?」

「確認しているが三割と半分と言ったところだ」

「普段なら感心している速度ではあるが……」

「間に合うかどうかは半々と言ったところだね。後々の段階のことを考えれば私が今戦場に立つことはできない。彼を戦闘に投入しているのだって予定外だ。だが、そっちはまだカバーが利く。しかし、私がここで消耗するのはカバーが利かない」


 替えの利く人材を投入して、一時の猶予を買うことはできたが、代わりに余裕を失った。


 ハンジバル王の工作部隊はこの決戦に連れてくるほどの信頼がある。

 すなわちかなり高度な魔法を駆使して作業を進めることができる。

 しかし、それでも肝心要の策が間に合うかどうかは魔王の計算ではかなりギリギリだ。


 神と戦える戦力は限られている、魔王軍の最強戦力である将軍が一人でようやく足止めができる程度。


 それも時間制限付き。


 であれば、他に七人もいるのだからそれを投入すれば倒せるかと思うかもしれないが、今回の作戦は倒してはいけないのだ。


 あれは影法師。


 本体ではないのだ。


 だが、それでも問題ないと魔王の頭の中での作戦は進んでいく。


「魔王よ、必要なのは時間か?」

「そうだね、余力を削らなければなおいいよ」


 そして作戦を共有している相手は即座に今この場で必要な物を把握している。


「であれば、こちらも出し惜しみをしている場合ではないな。おい」


 作戦に必要な戦力はハンジバル王はすでに拠出し、そして使ってはいけない戦力も把握している。


 戦力の出し惜しみ。魔王軍も帝国軍も互いにすべてを開けだして信用しあっているわけではない。


 隠し事、いや、隠し札の一枚や二枚当然持っている。


 魔王軍で言えば、エヴィアやアミリ、そして神殿関係者。


 おいそれと使うことはできないが、それでも動かそうと思えば動かすことはできる。


 そしてそれを使えば、今の戦場に大きな余力ができる。


 しかし、それは今ではないと魔王は判断している。


 であれば、ハンジバル王が動かそうとしている策略を利用するほかない。


 伝令兵に鍵のような物を持たせ走らせた。


 王が直接管理する代物。


「何が出てくるんだい?」

「古代兵器だ。遥か昔、我が国の祖が開発し、いざという時に使えと歴代の王にのみその内容を口伝で伝え続けられた兵器」


 次郎がこの会話を聞いていたら、いや、エリクサー症候群かよと心の中でツッコミを入れていただろう。


 何度も何度も魔王軍と戦い、魔王を討伐した歴史を持つこの世界で、神に効果がある兵器を温存し続ける理由が思いつかない。


 それを承知しているのかしていないかはわからないが、王として今こそ使い時なのだろうとハンジバル王は決断した。


「名を」


 それをこの戦場に持ち込んできていた。


「天縛の鎖」


 ゴロゴロと何かを転がすような音。


 陣幕の外、魔王はそこで帝国軍の陣営にある巨大な箱を思い出す。

 攻城兵器を用意するとハンジバル王は言っていたが、その中にこれが紛れ込んでいたのかと思わず感心する。


 無表情、無関心、とポーカーフェイスを崩さないハンジバル王。箱を押す台車が、ゆっくりと止まり、広場の中央に置かれ兵士たちが設置作業にかかる。


「対魔王を想定された、古代文字で封印術式を刻み込んだ砲弾を撃ち出す兵器だ。残っているのはたった一発。弾速はそこまで早くはない。だが、当たれば効果はあるはずだ」

「……どこの文明だい?」


 ハンジバル王の説明を聞きつつ、その兵器の効果を考える。

 古代文字と言っても時代はいくらでもある。


 何千年も過ぎ去った時系列の中の文明であると、それでは神に対してそこまで効果が見込めるものではないと魔王は思っている。


「神話の世界の遺物。創世前の代物だ」

「!?」


 しかし、ハンジバル王が説明した内容は、魔王の理解の斜め上を行くもの。

 文明前の遺物。


 それは魔王軍であってもほぼないと言っても過言ではない。


 世界創成期の話、そんな時代に文字があるはずないと思われるかもしれないが、あるのだ。


 あってしまうのだ。


 神聖文字。


 神が使う文字、そして未だ魔王軍でさえ完全に解読できておらず、神も秘匿している秘文。


 その時代の遺物が現代まで残っていること自体が奇跡、そしてそれを加工して兵器にできているのがさらに上回る奇跡。


 さすがの魔王ですら閉じていた目を見開いてまで驚いてしまう。


「本物かどうかは聞かぬのだな」

「見ればわかるさ」


 そんな遺物を持っていると影たちが調べきれなかった事実もそうだが、それを惜しみもなく使いどころだと踏んだ彼の王の差配に魔王は笑みを浮かべ。


 箱から解放される兵器を見て、ああこれは本物だと確信した。


 一見すれば、巨大なバリスタ。


 発射台の中央に設置された、神々しさ感じさせる粉雪のような白い光をあふれ出さしている白色の宝玉が、きっと遺物なのだろう。


 赤が太陽神の色なら、青が月神の色。


 であれば白の神の気配は何か。


「創造神の遺物か」

「この世に二つとない代物だ」


 魔王ですら実物を見たことがあるのは数回。


 そしてこんな実用に耐えうるものは初めてだった。


 神々の上位者の遺物。


「ふん、こっちに気づいたようだな」

「ま、あの太陽神からしたら脅威以外何物でもない代物だろうね」


 その気配は、距離を置いていても神に気づかれる。


 さっきまでは鬱陶しい蠅を叩き落とそうとしている作業であったが、この兵器の気配を感じたとたんギョッと目を見開かせて遠くであるにも関わらずこちらに視線を向けた。


 神の余裕を砕くような仕草。

 ある意味で神にあるまじき仕草。


「さて、こっちに気づいたわけだけど……」


 周囲の魔力をどんどん吸い取って、発射体勢を整えている。


 魔王からしたらこんなあからさまな兵器は欠陥兵器だ。

 なにせ堂々とこれから厄介な攻撃をするから避けてみろとテレフォンパンチをするようなものだ。


「策は用意した、あとは当てろ」

「ふん、わかった。わかってたさ。そういう無茶ぶりには慣れっこさ」


 そのテレフォンパンチの威力は保証された。であれば魔王はそのテレフォンパンチを当てるために策略を練らないといけない。


 接近する?とそのあとの被害を考えれば無理無茶無謀と余計なことを考える暇もなく、魔王は瞬時に判断を下し。


『人王、聞こえるかい?』


 今直下で、善戦しているであろう配下に仕事を投げる。


『聞こえてますけど!?なんですかこの気配!?背筋がぞわっとしたんですけど!?』

『うん、神を足止めする兵器をこれから撃ち出すから当てて』

『はぁ!?』


 魔王の見込んだ結果、一番成功率が高いのが人王にサポートさせることだった。


 時間がない、見るからに太陽神を攻撃する気だという気配を滾らせている状態をいつまでも放置するわけにもいかない。


「ちなみに攻撃範囲は?」

「着弾した周囲一帯は停止するであろうな」

「具体的には?」

「わからん。口伝では魔王を空間ごと封印するとしか語られていない」


 ハンジバル王の適当さに魔王は溜息を吐きたくなった。


 なんでこんな信用の欠片もないような兵器を使わないといけないのだと、頭を抱えたくなる衝動を堪え。


「仕方ないね」


 それでも使わないという選択肢を取れない段階で諦める他ない。


『ちなみに着弾したらすぐに逃げてね』

『え!?ちょまっ!?』


 彼ならできると信じ、ハンジバル王に視線を向けると頷き彼は容赦なく発射を命じた。


 光が収束し、その宝玉にため込んでいた魔力を開放した。


 白き光の矢と言えばいいだろうか。


『ふざけるなぁああああああああああああああああああああ!!』


 人王の叫びを魔王は受け流し、不敬罪については今回の無茶ぶりの達成でチャラにしようと心に決める。


 光の矢はまっすぐに神に向かうが、その神がやすやすとその矢を受けるはずがない。


 迎撃をしようと火球を作り出す。


 あれは小さな太陽の様なものだ。

 あれを放たれれば瞬く間に矢は燃え尽き、その直線状にある本陣は消え去る。


 そう、そのまま撃たれれば。


「さすが」

「見事と言っておこう」


 火球が横にずれる、それは斬撃による切断だと気づく。

 両王は感心するかのように頷き、続いての斬撃で、腕が斬り裂かれ、矢が届くまでの迎撃が難しくなるようにした。


 であれば今度は体をよじり、射線からか逃れようとする神であるが。


「「!?」」


 魔王も帝国の王も目を見開き驚いた。


 なにせ、小さな人間が巨大な太陽神の頬をグーで殴り飛ばしたのだから。


 よろけるように体が下がり、そこはちょうど矢の射線上。


 姿勢を正すにはもう時間がない。


 それでも最後の悪あがきと、姿勢を崩すように倒れこむがそれでも肩めがけて光の矢は飛び。


 突き刺さった。


「……あれは封印するための代物だったよね」

「そのはずだ」

「んー封印まではいかないようだね」

「対魔王用だからな、神相手には想定していない」


 それで決着するはずだった。

 矢は瞬く間に鎖となり、数百の細かい鎖が突き刺さった神を封じようと体に絡みついた。


 そして鎖の先端は地面へと飛んで食い込み、神の体を中心にそこら中を鎖だらけにするという結末を見せるのであった。


 しかし、神は身動きが取れなくなったというだけで意志は残っている。


「これで時間が稼げればいい、作業を進めよう」


 それを好機と取った魔王はこのまま時間稼ぎをするのであった。



 Another side End



 今日の一言

 無茶ぶりは土壇場で来る


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] うちの主人公の強さが魔王様や神様に一歩ずつ近付いていくわww
[良い点] Another sideがこんなに面白いとは。 早く本編始まらないかなと思っていたけど もう少し2人の王のやりとりを見たいかも。
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