743 期限が来るのが待ち遠しい時、皆、何をする?
相手のトライスが太陽神を召喚するまで、俺たち側からの予測はおおよそ残り三日。
すなわち三日間は、この攻撃に耐えつつ包囲網を維持し、且つ相手を攻め落とさないように気を配らなければならない。
なんだそのふざけた設定は。
敵は神の塔の結界に守られ、神の城の召還陣から無尽蔵と言えるような数の天使を召喚し、さらに首都の城壁と神の城からの魔法と魔導砲の砲撃により、一方的に攻撃ができるこということがこっちの分の悪さを物語っている。
結界の外に出た天使は瞬く間に殲滅されるが、相手もバカじゃない。
城壁に攻め寄せる魔王軍の軍勢を結界の向こう側から迎撃する策に早急に切り替えた。
こっちが下がろうものなら、包囲網を穴だらけにするために遠距離から陣地を攻めてくる。
「鬼王軍の損耗状況は!?」
「負傷者多数!!されど継戦に支障なし!!」
「良し!!東門の方はどうなってる!?」
であるならこっちは果敢に攻めて、攻撃の的を最前線に集中することで被害を最小限に抑えるしかない。
幸いにして、今、真正面で攻め立てているのは疲れ知らずの戦闘狂の二人だ。
遠目に見るだけでも神の塔の結界を揺らしている鬼と不死者の姿が見える。
結界を破ろうという二人の気概が相手に恐怖を与え、あそこだけほかの戦場よりも相手の攻撃の層が厚い。
それなのにも関わらずあそこの損害はほかの軍の損害よりも少ないのだから笑えて来る。
「報告!!東門に力天使を確認!!数は三十!!」
「わかった!!上空の機王艦隊に通達、東門上空の力天使に向けて援護射撃!!その後、第八リッチ魔導部隊を投入!奴らに制空権を与えるな!!重力魔法で地面に叩き落とせ!!」
本当だったら俺もそっちの方で鉱樹を振り回して最前線で暴れたいところだが、生憎と俺は社長から魔力の温存を命じられている。
よって、前線で指揮を執り俺自身は戦闘に参加はしているが、積極的に攻めてはいない。
指揮車両に無線を準備させているが、この激しい戦闘をしている状況で気づいたら通信機が壊れているという状況が頻発し、それならと足が速くなおかつ頑丈な兵士に伝令させた方が効率が良くなっている。
唯一、上空の機王艦隊とは通信機がまともに使えるから、そっちとの連携は無線を使っている。
「畜生、空中戦力が足りん」
魔王軍で空を飛べる種族はそれなりにいるが、相手の天使のようにすべての兵士が飛べるというわけではない。
相手の地上戦力は神の塔の結界の頑丈さに頼り切り、城壁と結界の二重の防御を盾に迎撃に専念し、こっちへの攻撃は空中戦力でどうにかしようという魂胆だ。
こちらの空を飛べる戦力は、機王の艦隊とゴーレムがいる。
それで迎撃に向かわせたいが、艦隊は神の城の砲撃を受けるという役割に釘付け、さらに上空から結界を破ろうと一つの神の塔に集中砲火。
それを防ごうと相手は艦隊に大量の天使を向かわせ、その迎撃でゴーレムたちが出払ってしまっている。
せめてこっちの航空戦力である竜王か、陣地構築においては無類の強さを誇る樹王のどちらかが来ればこっちの盤面はだいぶ楽になる。
だが、後顧の憂いを断つために光の門の排除をしている二人はこの場にいない。
なら、この場で使える戦力で対処するほかない。
戦線は膠着を維持している。
本陣で待機している社長からの指示はない。
であるなら、このまま進行して問題ないはず。
「戦況は均衡を保てている。あの二人なら三日程度戦い続けてもへばる心配はない。兵士のローテーションを考えれば……持つか?」
魔力探知は周囲の魔力反応でごちゃごちゃしていて把握しにくいが、巨大な魔力は点々と配置されているので、それなりに場を把握することはできる。
そのおかげで、戦況は魔王軍が包囲を維持できていることを知ることができる。
首都からの攻撃範囲外にいる本陣の動きもないことも把握している。
問題があれば、そっちから伝令がくるはず。
念話は傍受される危険性があるから、暗号文のみの通話になる。
『A-3』
それも俺への直通念話は限られた人物のみ許されている。
今回送ってきたのは前線で暴れまわっているはずのフシオ教官からの定時報告というやつだ。
A-3
Aってことは戦闘行動に支障なし、3ってことは結界の突破は時間がかかるというところか。
突破がすぐにできない状況を教えてくれたわけで、それが教官たちの主観であるなら信頼に値する情報だ。
こんな感じで各部署に、事前に通達した記号と番号で定時報告ができるようにしていて、アルファベットと数字の組み合わせでもそれぞれの部署で内容が違う。
『チェック』
短いやり取り、それだけで十分だ。
確認したと返した後は、前線はこのままでいいと判断。
であれば。
『アンダー、チェック』
他の進捗状況を念話で確認。
地下にいる巨人王たちはさすがに隠密の魔道具で気配を消し、そして慎重に作業をしているようで把握はできないが、そこは確認する手段をしっかりと確保することで把握している。
本陣を経由した念話網。
『アンダー、C-5』
『チェック』
「さすが、うちで一番の工作兵を抱え込む軍だな、作業が早い」
それを使って確認した結果は、Cライン進捗率三割を終えて、5工程目の呪物の設置作業に移っているという。
その進捗速度はさすが巨人王の配下たちと言うべきか、豪快なパワーと繊細な手加減を駆使し猛スピードで魔法陣を描くように坑道を作っているのはわかった。
このペースで行けば俺たちの予想では早ければ明日の昼、
遅くても夕方には首都地下の呪物の配置が完了する。
であるなら、それまで何人たりとも地面に巨大な攻撃を当ててはいけないのだ。
少しの衝撃なら大丈夫でも、大魔法の直撃でも受ければ落盤を起こし、そこでの作業に支障が出てしまう。
補強はしているだろうが、万全ではない。
無茶な横槍は入らないようにするのが俺の役目か。
「獣人強化外骨格部隊に通達」
ここは守りではなく、攻めに入るべきだ。
航空戦力の予備戦力は少ない。
だが、いないわけではない。
海堂がデータ取りをしてくれたおかげで、飛べない獣人が飛べるようになった。
元々ゴブリンたちに使わせる予定だったが、それよりも適応する集団がいる。
それが獣人だ。
獣の姿のまま二足歩行に進化した彼らは、人間の何倍もの身体能力を叩きだす。
欠点として魔法関連の才能に偏りがあることが上がるが、それでもゴーレムで作った鎧、強化外骨格と呼ばれるロボットスーツを着込む適正はずば抜けて高かった。
ここで戦果をおさめて手柄を挙げれば、将来の将軍の地位にも手が届くということで戦意も高い。
『待ってたぜ!!』
その部隊の隊長に任命されているのは、どこかで見覚えのある獣人だ。
確か、カーターと戦って、負けた獣人だったような……
その彼が気合を入れている姿を見て、もしかしてフラグなのではと一抹の不安を感じたが、それでも訓練ではしっかりと俺と戦えていた。
であれば、問題はないと思いつつ。
鎧で覆われたくぐもった声に向けて命令を出す。
「第一部隊は機王艦隊に近づいている天使たちの排除、第二部隊は西門に、第三は東門に行き制空権の確保。第四は第二の援護、第五は第三の援護だ。残り部隊は待機」
『『おう!!』』
その命令に即座に反応した彼らは、機械の翼をきらめかせ陣地から飛び出して行った。
ファンタジー世界にSFが混ざってしまった景色を生み出してちょっと微妙な気持ちになったけど、それは仕方なしと割り切る。
「これで、しばらくは攻めているように見せて膠着させられる」
制空権を確保できれば、こっち側が一方的に攻撃できているように相手に思わせることができるはず。
相手は勇者も熾天使も損耗して、ほとんど戦う力がないはず……
「問題は、残った第一位の熾天使と神獣、あとはトライスの教皇と呼ばれる存在か……」
しかし、油断ができる状況ではない。
相手の戦力は削ってはいるが、まだ底を突いたわけじゃない。
まだ姿を現していない敵が存在する。
それが姿を現さなければ、こっちもうかつに全力を出すわけにはいかない。
予備戦力はまだまだあるが、兵士たちの休憩も兼ねて、交代する戦力を残さなければならない。
腕を組み、戦場を見下ろして、ほころびがないかを探り続けるのは本当に神経を使う。
時間が過ぎるのが遅い。
なにもしていないというわけではないのに、もどかしさを感じるのはなぜか。
いや、それを感じるのも慢心か。
何度も何度も戦場を確認し、工程に問題がないかを見定めるのも将としての役割か。
空を見上げれば、雲がどんどんと空を覆い始めている。
そうなればこの世界で言う、夜がやってくる。
だが、俺からすれば、いや、魔王軍からすればまだまだ明るい世界だ。
昼夜問わず攻めるには、十分な明かりが存在する。
「スエラ、交代のタイミングを見定めてくれ」
「わかりました。不死王様と鬼王様はどうされます?」
「あの二人は自分たちのタイミングで休憩をとるだろう、こっちで合わせる」
「わかりました」
しかし、教官たちと違ってずっと攻めている兵士たちにも疲れが見えてきた。
精鋭と言えど一日中戦い続けたら、さすがに疲れる。
ゴーレムも疲れ知らずであるが、損耗はする。交代で空母に戻り修理と補給を受けている。
待機していた戦力を前に出し、伝令で現在戦っている戦力を後退させる。
混乱していない戦場から、整然と後退してくる兵士たち。それを追撃しようとしてくる余裕は相手にはないのか、一戦目は見た目ではこっちが攻め切れていないという結果となった。
勝ち負けがあるというなら、引き分けと言ったところか。
変わらず、空では機王の魔導艦隊と神の城による砲撃戦が繰り広げられているが、こっちに被害はない。
「下がってきた兵士たちを安全地帯に誘導後、順次食事と休息を」
「はい、準備は整っています」
「ああ」
撃ち合いと言っても砲撃の数はこっちが圧倒し、相手の一撃はしっかりと防げている。
このやり取りなら、問題はない。
「さて、さて、攻撃を始めた理由をそろそろ知りたいところだが……」
だが、相手の開戦の意図がいまいちつかめない。
あの光の門の時のように、魂を増やすという意図ならば今回は意味がない。
「対策を打ったから、空振りに終わっている?いや、それならあっちは戦力投入を止めて持久戦に移行すればいいだけ……なぜ、天使たちの損耗を出させる?」
上空を飛び回っているのは、獣人たちや天使たちだけではない。
半透明の浮遊霊たちも戦場の空を駆け巡っている。
彼らの役割は戦闘ではなく、天使を倒したと同時に、天使の魂を確保し、魔石に封印している。
これは先日の戦いで経験した光の門を産みださせないための対策だ。
こうすれば相手は魂を確保することが難しくなり、よって、それを再利用して光の門を生み出すことはできなくなる。
光の門を経由して神獣が出てこないというのは、こちらとしてはかなりのアドバンテージになる。
しかし、それでも攻め手を緩めないというのなら何か別の意図があるはず。
「考えなしのバカ攻めなら、杞憂で済むけど」
チリチリと首筋に走る、嫌な気配。
相手が考えなしに、天使を放出しているわけじゃないのが確信できるほど嫌な予感。
それを確認するまで休むことができないのだが。
「この勘が杞憂で済んだことはないよな……」
戦場で兵士を撤退させているという格好の隙を相手も見逃すはずもない。
神の城に見たことのない新たな魔法陣が展開されたことに、俺は溜息を吐きたくなるのを我慢するのであった。
今日の一言
我慢の時、それがある意味つらい時期
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




