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742 祭りだ祭りとつらい仕事を楽しい表現に変えようとするのは何故だろう?

 

 呪物の収集、そして配置。

 あからさまな厄介な作業であるにもかかわらず、それは順調に進む。


 それもそうだ、魔王軍の軍隊と、帝国の精鋭部隊。


 その二方面からの進軍はいかに強国と名乗っていた大国のトライスであっても対応は難しく。


 なおかつ、これまでの戦いで疲弊しきっていては碌な抵抗もできない。


「……」


 強行軍に近い移動であっても、時間を気にすることが優先となった今ではその抵抗の薄さが味方をしてくれていると実感できる。


「スエラ、軍の配置は?」


 馬の魔獣にまたがって、小高い丘に布陣した軍の状況を見ていると余計にそれが実感できる。

 風に乗って流れてくる、戦場の匂い。


 これから決戦に入るからか、参戦している兵士たちの一人一人の気合が違う。


「はい、トライスの首都を包囲する形で西に不死王様、東に巨人王様、北に鬼王様の軍が配置済みです。南は魔王様と人王様、そして帝国軍の部隊が展開しています」


 その気合のなせる業か、予定よりも迅速に進軍することができて、神の召還を予想された残り期日の二日前という時間の余裕をもって、トライスの首都を包囲することに成功した。


 油断も慢心もない。ここで妨害されることのないように十全に注意を払い、こちら側で用意できる戦力を全力で投入した。


「しかし、さすがに相手も最後の抵抗ってことでえらい数の軍勢だなぁ」


 対籠城戦は相手に援軍が来ることを想定しないと意味がない。


 その可能性もこちらで潰せる限り潰した。

 同盟国である王国や、属国の小国群の援軍に対しても帝国と魔王軍が協力して道を封鎖している。


 トライスの援軍は、天界からの援軍しかない。

 その援軍もいつまで続くか。


 決戦だとわかっている。

 だからこそ、トライスの首都に浮遊する、俺が斬り落としたものと瓜二つの城が三つも浮かんでいることにさすがに皮肉をこぼさずにはいられない。


 天使の数もあの時とは比べ物にならないほどだ。


 だけど、決戦に用意された戦力は目視できた。


「あそこを落とされれば間違いなく太陽神の本山としての機能は低迷を迎えます。それに加えて召喚陣の役割も果たしているので、何が何でも防衛したいのでしょうね」


 秘書官として一緒に来ているスエラの報告を聞けば聞くほど、相手のガチさ具合が理解できる。


「こっちは包囲できるだけでも十分なんだけど、あれの砲撃でせっかく用意した呪物を消し飛ばされたらシャレにならん」

「そうならないように現在進行形で、巨人王様の配下が地下に坑道を掘り進め、ひそかに首都の地下に呪物を設置している最中です」

「数年単位でやるような工事も、あの人なら数日で終わらせるか……気づかれたら大変なことになりそうだが、そこは俺たちがけん制して気づかせないようにするしかないか」


 トライス側の戦力で言えば過去最高。

 それもそうだ、ここまでの道中にある防衛用の砦の兵も全部撤退させて、首都に集結させた兵力を出し惜しみして負けてしまえば世話がない。


 ゆえに全力、神さえ召喚できれば勝ち筋があるという根拠から、何が何でも都市を守ってやるという気概すら見えてくる。


「……向こうから打って出てくる気配はないか」


 その気概があるものの、向こうから攻撃するそぶりはない。


「相手側からすれば、下手に攻撃をして開戦するよりもにらみ合いを維持して時間稼ぎをした方が都合がいいですからね」

「そりゃそうだ。無傷でいられるのならそっちの方が都合がいいわけだ」


 あれだけの戦力を温存できるなら、それの方が都合がいいに決まっている。

 こっちもこっちで静かに時間が過ぎるのを待った方が都合がいいと言えば都合がいい。


「こっちの都合的には、ぶつかる前に全戦力をかき集めたいところだなぁ」


 俺たちの足元にはスエラが言った通り、坑道を掘り進める作業があるから時間が稼げるのならそっちの方が都合がいい。


 後顧の憂いはない。

 アミリさんとエヴィアを守りに残して、残った戦力である樹王と竜王が光の門の対応中。


 時間が経過すればするほど、こっちの戦力は増え続け、最終的には合計六将軍が揃う。

 おまけに空中を見上げればアミリさんから預かっている魔導艦隊が、ずらりと空中で待機している。


 三十隻の魔導戦艦に、地上攻略用の巨大ゴーレムを満載した八隻の魔導空母、それを護衛する八十隻の護衛魔導艦。


 合計百十八隻のアミリさんが保有する最大戦力が海堂に貸し出され、あいつが機王の名代になっている。


 実質戦力で言えば、七将軍と魔王が勢ぞろいするというRPGでは負けイベントではと思われるような戦力が揃った上に、帝国からも精鋭の兵士が送り込まれている。


 宮廷魔導士団と近衛兵、帝国の用意できる最強装備で参戦し、現在進行形で、アミリさんから提供された強化外骨格で武装中という名の魔改造が施されている。


 正直いま攻め込めれば、召喚前に都市を制圧できる。


 だが。


「太陽神を召喚させることも作戦のうちか」


 社長は、召喚することを阻止する気はないと断言した。


 それは神と対峙することを意味する。


 できるなら、神を召喚する前に相手を制圧した方が損耗は少なく、決着がつくかもしれない。


 だけど、それでは意味がないと社長は言った。


『いいかい、決して太陽神の召喚を阻止してはいけない。万が一、召喚を阻止してしまえば神を殺す機会は二度と無い』


 これは社長自ら、俺たち将軍全員に通達した事項だ。


 これがあるから、戦好きの将軍たちが開戦を今か今かと待ち続けている。


 とくに教官二人は、その我慢しているという雰囲気を醸し出しているのが顕著だ。


 キオ教官は、元来の戦好きがあるから。

 フシオ教官は、トライスという国に対して何やら因縁がある様子。


 それも重なって二人の陣地からの気配がおぞましいことになっている。


 キオ教官の陣地からは紅の闘気があふれ出しているのが見え、フシオ教官の陣地からはおぞましいというのも足りないほどの混沌と化した瘴気が醸し出されている。


「スエラ、あの二人はあとどれくらい我慢できると思う?」

「開戦までは堪えるでしょうね。ですが、開戦したら止まることはないでしょう」

「だよなぁ」


 苦笑一つこぼして、彼らの心境を察するしかない。


 神との決戦。

 軍歴の浅い俺からしたら、すべてを理解することはできない。


 しかし、それでも共感できる部分はしっかりと存在する。


「帝国の方は?」

「我らの背後に布陣して、術の準備をしております」


 そしてその共感の輪にはこの世界の人間も参戦している。


 神にただ滅ぼされるのを是とせず。


 立ち上がった、人間の軍隊。


 宮廷魔導士を中心としてこちらの作戦に合わせての行動の準備をしている存在たちは、過去の歴史にはいったん蓋をして、俺たちの力になろうとしている。


 彼らが裏切ることを一瞬考えたが、それをしてしまえば世界の滅びに彼らは巻き込まれる。


 そんな無駄なことをすることをあの王が許すはずがない。


 もし仮にあるとしても決戦が終わった後だろう。


「しかし……する事が何もないという事実に苦痛を感じる日が来るとはなぁ。こんな状況じゃなければ大歓迎だったんだが」


 ため息を一つこぼして、相手の動きを警戒し続けるという任務は想像以上に俺には合わない作業だったようだ。


 基本的に忙しい日々が日常だった俺の弊害と言えばいいのだろうか。


「嵐の前の静けさは将軍様達には苦痛のようですね」

「違いない」


 俺や教官たちにとって待ち時間というのは苦痛の時間でしかない。


 巨人王の方はまだ作業があるから気を紛らわせることができるけど、こっちはただただ待つだけの身。


 いや、相手の動きを牽制するという重要任務であることは理解している。


 だが、それを好ましいかと思うかどうかは人それぞれだろう。


 そうやって他愛のない会話をし続けている時間があるだけマシだと思ったが。


「……マジか」


 残り時間はまだあると思っていた。

 それは当然向こうも同じ認識であるはずだ。


 しかし、ちょっとした齟齬があったようだ。


 ほんの僅かの変調。


 空気が変わった。


 それを感じ取って、首都の方に目を凝らすとぐらりと地面がわずかに揺れた。


 地震かと一瞬思った。


 しかし、揺れ方的にそうじゃないとわかった。


 同時に直感的に嫌な予感が走った。


 それは視覚で現実に現れた。


 白亜の塔。


 それが首都の四方に出現し。


「面倒なことになったな」


 結界を展開、防御面では俺でも厄介な物体が出て、さらに上空に待機していた城にも動きがあった。


「スエラ!!」

「戦闘準備!!戦闘準備!!」


 浮遊城の魔導砲が起動に入ったことを皮切りに、俺は叫びスエラは周囲の部隊に行動を指示する。


 このタイミングで開戦するというのはどういう意図があるかはわからない。


 だが、少なくとも長い戦いになるというだけの予感はある。


 俺の視界に飛び出す影が二つ。


 その二つが誰なのかを理解した俺は、そっとため息を吐き。


「念話通信網で伝達!!これより我らは神の塔の攻略に入る!!巨人王には作業の前倒しを依頼しろ!!帝国軍へ魔導士師団を向かわせ防御の陣を敷かせろ!!空中の艦隊に通達!!砲撃戦だ!!相手の城に仕事をさせるな!!」


 一息で指示を出す。


 本来であれば年長者であり、先達である教官たちが指示を出すはずなのに、我先に飛び出してしまったのだ。


 そうなったら俺が指示を出すほかない。


 側に仕えていた魔導士が俺の言った言葉をのそのまま伝えたのだろう。


 軍が機敏に動く。


「鬼王軍に伝達、突撃せよ、鬼王に続けと不死王軍に伝達、鬼の背後に付き援護されたし、我らは後詰に付くぞ!!」


 だれが何をするかを把握している。


 指示に疑問を抱かず、迷わず行動してくれる。


「「「おう!!」」」


 鬼王が一番槍、不死王が援護、人王が本陣の守護。


「浮遊城の周囲に召喚陣!!」

「空はあいつらに任せろ!!」


 これはまた派手な開戦だな。


 浮遊城の主砲が魔導艦隊にめがけて放たれる。


 しかし、護衛艦が前に出て、障壁を展開。

 それを防ぎ、空に眩い光が散る。


 それを皮切りに、浮遊城の周囲に召喚陣が展開され相手の動きが活発化するのが見えた。


 撃たれたのなら撃ち返す。


 機動艦隊の本領発揮と言わんばかりに、主砲が城に向けられそのまま放たれる。


「こちらの攻撃、結界に阻まれました!!」


 白亜の塔こと神の塔の結界は上空にまで伸びているようで、城まで攻撃が届かない。


 全く、厄介なことをしてくれる。


「攻撃の手を緩めるな!!相手の結界は堅牢であっても無敵ではない!!」


 こっちはできるだけ被害を抑えつつ、相手の戦力を削らなければならない。


 その匙加減が難しい。


 しかし、できないとは思わないのは不思議だ。


 自然と口元に笑みが浮かぶ。


 ああ、大丈夫だ。

 まだ笑えている。


 土壇場で指揮を執る羽目になっているが、それでも冷静に物事を見極めることができている。


 上空では浮遊城と魔導艦隊による砲撃船が勃発、目の前ではもう間もなく鬼が結界に取りつく。


 この後の激戦が予想できる最中で笑っている。


「なんとかなる」


 それを自分に言い聞かせて、準備が早く終わってくれと切に願う。


 相手の軍勢は都市の城壁から迎撃を始めた。


 だけど、それで鬼を止めることはかなわず、むしろ背後から迫る不死の軍団によって迎撃が撃ち落とされる光景が広がる。


「さてと始めようか」


 それを見て、少しだけ興奮した気持ちを落ち着かせるように深呼吸を一つ。


「神殺しを」


 大事の前の小事。


 こんなでっかい戦が前座なんてなんの冗談かと思いつつ俺は思いっきり笑うことにした。



 今日の一言

 大変さをごまかすため、それは必要なことなのかもしれない。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] あーコレあれですね ちょっとうっかり悪い癖で戦後を想像しちゃったりすると 次期魔王ってもう内定したりしちゃったりしてないのかと 鬼不樹機王は協力的というかむしろ勝手に後ろ盾したり 竜王なんか…
[良い点] かっこいい!! 陳腐な言葉しか出てこない 最終決戦、楽しみしかない。
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