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734 足りない日常、不足する分野

 

 Another side


「勝~退屈でござる」

「そういうなら、こっちの書類を片付けろ課長」

「うへぇー、なんか想像していたのと違うでござる。リーダーは毎日毎日こんなことをしていたのでござるかぁ。というより、花の女子大生のすることじゃないでござるよ」


 ダンジョンテスター第一課。

 その課長席でうがぁと、テーブルに突っ伏す一人の女性。


 まだ正式に辞令が出たわけではないが、実質この部署のトップになった南は、想像と現実は常に異なるということを実感していた。


「それを言うなら高校生が手伝うような内容でもないぞ」


 その隣にはケイリィというダークエルフが座っていた席に、ムスッとしたしかめっ面が似合うようになってしまった小柄な少年が座っている。


 南と勝。

 公然の仲ではあるが、幼馴染という距離感でめでたくゴールした二人は、なんとなく社畜というのはこういうものなんだなというのを同年代のだれよりも早く体験している真っ最中。


「海堂さんも前線に行ってしまったから人手がシンプルに足りないんだ。俺たちのパーティーも戦力が激減して開店休業中」

「そもそもの話、ダンジョン自体が本格的に稼働して戦争に駆り出されちゃったから、拙者たちの仕事自体ができなくなっちゃったでござるよ」

「できてはいるだろ。まだ戦争に投入されていないダンジョンもいくつかある」

「そのダンジョンも投入されるのが秒読みに入っているでござるよね」


 そんな彼女たちの仕事は次郎から引き継いだダンジョンのテストという、世間からすればゲーム会社でしか聞かないような言葉が表す仕事だ。


 しかし、それも過去のデータから参照し、改善案を提出するという稼働していたころとは打って変わって消極的な内容に様変わりしている。


 ダンジョンに入り、そこで生の空気を感じ取り、それを体験した南からすれば退屈極まりない日々。


「仕方ないだろ、戦力が少しでも必要なんだからな」


 本当だったらこんな仕事をするために次郎の後釜に収まったわけではなかった。

 むしろ引継ぎを了承してからはバリバリに働く意欲があったのだ。


 働いたら負けだと豪語していたあの南がだ。

 過去を知る勝からすれば、その意欲を前にして体調不良を疑ったほど。


「ぶー、海堂先輩も戦場に行っちゃたでござるし、テスターの人たちの活気もなんかないでござるよ」

「そりゃ、戦争だし」


 そのやる気をぶつけようにも、現状まともにできる仕事がほぼない。


 ダンジョンを実戦導入する段階でテスターたちをダンジョンに招きいれるわけにはいかないという現実は南にストレスを与えていた。


「……なんでそんな面倒なことをするんでござる?」

「俺がわかるか。ただ、昔からの恨みって聞いている」

「そんなの拙者も知っているでござるよ」


 あの日々は楽しかった。

 次郎がいて、海堂がいて、南がいて、勝がいて、北宮がいて、アメリアがいて。


 時間というのは残酷だ。

 移ろい続けるから変化が起きる。


 その変化に流されて、結局は望まぬ形に落ち着いてしまう。


 それを受け入れられないと南は思った。


「うがぁあああああ!!ああ、やめるでござる!!こんなじめじめとした考えは……」

「南らしいじゃないか」

「そうでござるがぁ!!うん、自分で言っておいてなんでござるが、むしろこうやってテンションが高くなる方が拙者らしくないでござるが!!」


 何かを変えたいが、何をすればいいかわからない。

 ガタンと席から立ちあがって、南は歩き出す。


「おい、どこに」

「散歩でござる!!」


 とにかくこのいら立ちをどこかにぶつけたい。

 そう考えて、南は歩き出す。


 勝はそんな彼女を見て。


「書類、片付けるか」


 後で苦労する彼女のことを考えて立ち上がった腰を下ろしてせっせと仕事を進めるのであった。


 そんな彼を見て、あとで一緒に苦労すればいいのにとついてきてくれない男の子の行動に溜息を吐きながら、後ろから前に目を向けて南は部署から出て行った。


 会社内は普段よりも閑散としているような気がする。


 人はまばらではないが、普段あっていた人が何人かいないそんな記憶。


「およ、藤レンジャーじゃないでござるか。平日に揃っているとは珍しいでござるな」


 第一課の課長として顔は認知されているから、様々な人から挨拶されて、それに対応している南は自分ってこんなにコミュ強キャラだったかと自分のアイデンティティを疑いつつ歩いていると自販機の前にたむろっている面々を見つけた。


 戦隊物をこよなく愛する藤レンジャーこと、苗字に藤が揃っているメンバーが一堂に会していた。


「おお!知床課長!!おはようございます!!」

「おはようでござる。相変わらずの熱血キャラでござるな」


 それに気づいて、南はどうせならと立ち止まって挨拶をしてみる。

 南に気づいて最初にあいさつした、藤レンジャーのリーダー加藤炎侍は元自衛隊員ということでハキハキを通り越して暑苦しいと言えるような熱血漢を披露した。


 若干引き気味に、その人物像を言ってみたが。


「それが俺です!!」


 ある意味で開き直っている彼にとってそれは誉め言葉だった。

 この会社に入ってからより一層暑苦しくなったような気がする。


 立ち止まったことを若干後悔し始めている南は、そうでござるかぁと対応しつつ。


「そういえば例のスーツの使い心地はどうでござるか?データの方と報告書は定期的に出してもらっているでござるが」


 どうせならと現場の声を拾っておこうと普段は見せないやる気を発揮した。


「完璧です!!と言いたいところですが、なぜ合体ロボが呼べないですか?」


 それは機王こと、アミリ・マザクラフト監修の強化スーツ。


 通称ヒーロースーツの開発経過の確認だ。

 最初は趣味全開の海堂専用のワンオフとして開発した代物であったが、意外と応用が利くことが判明し、予算が下りてしまった。


 今ではゴブリンやオーガ、悪魔にダークエルフと人型の種族に着せることによって劇的な強化を得られないかと思うような計画にまで進化してしまっている。


 色々な事件の所為でたびたび頓挫しかけているこの計画、量産性に優れないプロトタイプの実験計画段階から南は携わっているから、もちろん藤レンジャーとのつながりも存在している。


 なんとなく切れそうで切れないこの縁。

 始めはただ説得するだけの関係であったが、気づけばズルズルと長い付き合いになった。


 最初はスーツを作るための資金が足りなくて買えなかった彼らであったが、条件付きという話でアミリさんは彼らにスーツを作った。


 データを取れれば、ダンジョン内に配備してゆくゆく戦力として加算するつもりだったのだ。


 そのための実験台として、嬉々として参加した。


 彼らは今では海堂とは違って量産型ではあるが、最新のヒーロースーツを着てダンジョン攻略に勤しんでいた。


「そこは各々好きに作ると良いでござるよ。格納庫の方が欲しいのなら申請すればしっかりと作るでござるし、ダンジョンに転移する術式とか開発すればいいでござるよ。たぶん、召喚魔法でどうにかなると思うでござるし」


 そして今では、博士キャラが欲しいと嘆願書を出すほど仕事を楽しんでいる。


 そこに会社の開発部の一人が名乗りを上げようとしたが性格がマッドすぎるという理由で南が却下した経緯がある。


「予算が……」


 その経緯を知るからこそ、南は淡々と対応ができる。


 後ろできらきらと目を輝かせ、戦隊ヒーロー憧れの合体ロボが実現するかと思ったがさすがの南もロマンに経費を使うわけにはいかなかった。


 ゴーレムでダンジョンに挑めて、かつボス戦にも対応できるような巨大ロボットを再現するとなると相応の素材が必要で、作るだけで相当の予算が必要になる。


 そこに格納庫の維持費、整備する人件費、さらにロボットの修繕費を加えたり、今後もアップデートのことを考えるととても世間のサラリーマンの平均年収の五倍以上稼いでいる彼らであってもそう簡単に出せるような金額ではない。


「ま、気長にがんばるでござるよ」


 これはまた熱いプレゼンが展開されるなと予想を立てつつ、これ以上は戦隊物のプレゼン会になるなと予想した南はがっくりと肩を落とす加藤の肩を叩き、その場を立ち去る


 ああ予算がと嘆く彼らの言葉はしっかりと聞こえているが、それはそれと立場を明確にした南は当てもなく散歩を続ける。


 道中、加藤達以外のダンジョンテスターたちと会うこともあったが、他所の課であったりとあまり親しくないテスターたちからは嫉妬の視線を浴びることもあり、そこまで話すことはなかった。


 今日はテスターたちの出勤率は悪いのか、それとも稼働していないダンジョンに入っているのか。


「あまり、いい収穫はなかったでござるなぁ」

「何黄昏ているのよ。さぼり課長」

「ああ、香恋でござるか。大学お疲れでござる」

「あなたもあるでしょうに」

「ほとんど単位は取り終わってるでござるよ」


 さてどうするかと、悩み、エントランスを見下ろせる位置で手すりに寄りかかりぼーっとしていると下から声がかかり、南がそっちに視線を向ければ私服姿の北宮がいた。


 その北宮は慣れた動作で魔法陣を展開。

 そのままふわりと浮かび、飛行魔法で隣に着地する。


「そう、なら仕事はどうしたのよ?次郎さんから引き継いでいろいろと仕事があったはずだけど」

「気分転換は時に仕事の効率を上げる効果があるんでござるよ」

「要は、さぼりと。そんなことばかりしていると勝君に愛想つかされるわよ」

「生憎と拙者と勝はラブラブでござるよ」


 昔の彼女たちであったら、ここいらで一つバチバチとやりあうのであるが、とあることを境に一人の男を共有する関係になってからは、なんだかんだ歯車がかみ合ったかのように二人の距離感が縮まった。


「なら、その彼が苦労しているところに私が助けに行けばわかるわよね?」

「今晩は香恋の番でござるから拙者は寂しく残業しているでござるよ~」

「はいはい、拗ねない拗ねない」


 こういった冗談を言い合えるような関係をなんだかんだ南も心地よく感じ。


「拗ねてないでござるよ~。ただ、退屈だって思っているだけでござる。大切だって思われるのって嬉しいでござるが、寂しいと思うこともあるんでござるなぁ」


 だからこそ、好きな男の前では言えない本音を言えてしまう。


「海堂さんのこと?」

「それと、リーダーのことでござるなぁ」


 後は任せたと、大事な仕事を任されたのはいいけど、それはそれとして仲間として一緒に来てくれと頼んでくれても良かったのではと南は思ってしまう。


 仲間であったのではと、疑うことはないけど、かといって全面的に次郎の行動に賛同できるかと言えばそういうわけではない。


「納得できない?」

「できすぎて、逆に疑問が浮かんだんでござるよ。危険性やストレスやその他もろもろのデメリットを勘案してみれば拙者たちが戦場に行く理由は、偽善の心による満足感しかない」


 しかし、だからと言って、駄々をこねて感情任せに行動をとれるかと言えば、思考を分離することができてしまう南はそれを良しとしなかった。


「はっきりと言うわね」

「はっきり言う事が拙者の役目でござるよ。リーダーたちが後ろを心配しないで安心して戦える。それも立派な仕事でござる」


 自分にしかできない戦いをここでしているそれを自覚しているから。


 Another side



 今日の一言

 例え離れていても、一緒に戦うことはできる。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 偽善だと? 君たちが勝くんを二人で囲えているのは魔王軍の会社のお陰だとわすれたのかね!?
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