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729 全力を出すのは年齢を重ねるごとに難しくなる

 


 ああ、くそ。


 頭痛い。


 脳を散々酷使した結果、ズキンズキンと響くような頭痛が収まらない。


 光の門を切り裂くところまではギリギリ我慢できるレベルだったけど、斬り割いてもう無理はできないと通常モードに戻ってきた途端にこれだ。


「ああ!うざい!!」


 おまけに俺の不調に気付いたた天使たちが光によって来る羽虫のごとく襲い掛かってくるから対応が面倒くさい。


 つい、怒り口調で八つ当たりに似た感覚で斬り裂く。


 今度は綺麗に切るのではなく、普通に肉体を切っている。


 血は出るし、無残な死体は残る。


 天使という生き物がどう人間と違うのかはわからんが、少なくとも首を斬り落としたり、胴を両断したり、肩口から袈裟斬りで斬り裂けば普通に死ぬのはわかっている。


「お疲れ様、やっちゃったわね」

「おう、ご苦労」


 雑魚殲滅が面倒くさくなっていたころ合いにヴァルスさんと教官が割って入ってきて、雑魚を請け負ってくれた。


「あー、ヴァルスさん頭痛薬ない?」

「あるわけないでしょ」


 そのおかげで、いい加減しんどくなってきた頭痛に鉱樹を杖にするように項垂れ、頭痛薬を所望してみるが現実は残酷なり。


「あ?だらしねぇな。頭痛くらい根性で何とかなるだろ」

「普通の頭痛ならそれでいいんですけど、この頭痛、普通の頭痛じゃないんですよ」


 頭痛薬が効くかどうかわからないが、ないよりはまし程度の気休めすら許されない現実にどんどん気分が悪くなってきた。


 タフネスが売りの俺の体でも、ダメなのかと顔色を真っ青にさせて情けない声が出ているのが聞こえる。


 前に神の塔を切り裂いたときは魔力のオーバーロードによる物理的肉体の酷使、ついでに魂の方にも負荷が出た。


 その方法がかなり危険なので、スエラたちに非常時以外は使用を禁止されてしまったのだ。


 俺個人としても、昏倒するような技は継戦能力的にダメだろと使いにくさを考慮し別の方向で改善案を出した結果がこの技だ。


 無理に手数を増やすくらいなら、質を増やしてやればいいと斬撃の質を極めようとした。


 その結果が脳であっちの世界を認識できるように魔法を行使することだ。


 こういう言い方をすると、脳に魔法をキメて、頭をパーにするようなイメージを抱くかもしれないがそういう代物ではない。


 麻薬とは違ってこの魔法は効能的には脳の情報処理に新しい情報の受信機能を付けるようなイメージだ。


 五感の情報を細分化し情報として認識、そのおかげで魂のようなあやふやな概念を強制的に現実として認識できるようなものなのだ。


「…あんな無茶な戦い方をしたんだからそうなるのも仕方ないわよ。今はどんな感じ?」

「今も、記憶領域に入った情報処理を脳がしているから、正直、五感がぐちゃぐちゃでまともじゃない」


 ただ、使ってみてわかったが使ってるときは根性でその変色した五感と向き合ったが使い終わった後が大変だ。


 情報が普段と違う。

 その情報が異常だと脳が認識しているから、排除しようとする。


 だけど、すでに記憶領域に入り込んでいるから元の記憶とごちゃ混ぜになりそうになっている。


「時間がたてば治るわよ、逆を言えば時間経過でしか治らないわよ。自然と体になじむのを待つしかないわね」

「うぇぇ」


 ヴァルスさんが心配そうに見てくるが解決策はないようで、自然治癒に身を任せる他ないと首を横に振る。


 そんなやり取りをしている間も白蛇が天使たちを圧倒している。


 頼みの綱であった神獣は全滅。

 援軍を期待できる光の門は全損。


 天使たちにもう勝ち目はない。


 なのに機械的に俺たちに襲い掛かってくるのは何故だろうな。


 頭痛を堪えながら、そっとその天使たちを観察する。


 機械的な目、無機質な表情、ころころと表情が変わっていたヒミクとはえらい違いだ。


「おう、今援軍呼んだぞ。もうしばらくすれば俺の軍が来てここら辺一帯の天使どもを殲滅してくれるだろうよ」


 ヒミクの場合は愛嬌があって、可愛いと思える部分があるけど、こいつらは容姿は整っているけど、そこらへんに好印象を抱くことはない。


 ただただ邪魔。


 だから、教官が事後処理のために部隊を呼んでくれたのは助かる。


「結局、援軍要請要りませんでしたね」

「そうだなぁ、もう少し骨があると思ったんだけどよ」


 しかし、やばいと思って本部の方に援軍の要請をしたけど、編成され終わる前にこっちの片がついてしまった。


 どうするか、今さら要らないですと言うのもなんかなぁ。


「どうします?素直にやっぱいりませんって言います?」

「んや、どっちにしろこいつの調査がいるしな。機王なら、そこらへんもうまくやるだろ。こっちの方にまた変なのが来るかもしれんしな。手勢は多いに越したことはない」

「それもそうですね」


 戦い自体は一旦の終息を見せたけど、これで終わりとは限らない。

 相手の重要な兵器はぶっ壊したけど、それでさすがに終わりとは思えないしな。


 こっちに攻め入ってきたということはあれが先鋒ということだろうし。


「実際、どれくらい被害出せましたかねぇ」

「知らねぇよ。情報収集はお前の方がメインだろうが」

「そうですねぇ、ええと」


 今回の戦闘で与えられた被害を計算しようとするが頭痛がそれを邪魔して、うまくできない。


「おおよそ、全体の被害から見て三パーセントくらいですかねぇ」

「あ?たったそれだけか?」

「おおよそですし、全軍の規模から見たら三パーセントってバカにできない消耗ですよ」


 おかげでどんぶり勘定での計算になってしまう。


 全軍の数パーセント被害というのはあくまで少なめに見積もった数値で現実的に考えればもっとたたき出してもおかしくはないと思う。


「そういうもんかね」

「一応一軍を預かる将軍なんですから、そこらへんは計算できてくださいよ」

「今はお前ができるからいいだろ!!」


 相手の損耗率を考えて、こっちの動きを変える必要があるのだから教官も少しは考えてほしい。


 いや、本気でやればできる鬼なんだよ。


 やる気がないだけで、できる人が側にいるとその人に丸投げするだけで。


「実際そこらへんどう?結構いい被害を出せたと思うんだけど」

「そうねぇ、この程度の被害であの神が堪えるとは思えないのは確かね。一つの国が滅んでも別の国にやらせればいいと考えそうだし」

「うへぇ」


 しかし、教官以上に損耗率を気にしない存在がいたな。

 神のその対応に頭痛が悪化したかもと思うくらいに痛みが走った。


「そこらへんも考えないとダメそうですね」


 戦いは終わったけど、戦争は終わらないってこのことか。


「被害報告と、戦況報告、あとはこの後の戦後処理の報告と……」

「おう!任せた!!」


 おまけに書類の山が確定した瞬間。

 迅速に終わらせないといけないので、教官にも手伝ってもらおうと視線を向けると笑顔でサムズアップする大鬼がそこにいた。


「はぁ、わかってます。わかってました。だけど、最後の決裁はやってくださいよ。俺との連名で送るんで」

「おう!」

「返事は元気ねぇ」


 これは完全に手伝わない流れだな。

 その分現場指揮はやってくれそうだからいいかと割り切り、遠くから来る鬼たちの気配を感じ取る。


「援軍が来ましたね」

「あいつら、近くまで来てやがったな」

「戦好きが多い、教官の軍らしいじゃないですか」

「違いねぇ」


 戦後処理は彼らに任せて、俺たちは一旦引くとしよう。


 鬼と天使の軍が再び激突する。


 だけど、今度は鬼の方が苛烈に攻め立てている。


 相手は敗残兵、逃げないのなら容赦しないと果敢に鬼たちが攻める姿をわき目に俺たちは後方に下がる。


「それじゃ、俺たちはこのまま後方に下がる感じですかね?」


 一応、何かあった時用にすぐに駆け付けられるポジションに移動した。

 そこは普通の人ならまず近づかないような崖、戦場が見渡せるようになっているからと言って身体能力のごり押しでとんでもないところに来たな。


 しゃがみこんで、戦場を見渡してみるが、戦況は圧倒的にこっちが有利。


 向こうの飛行能力もこっちの対空迎撃でどうにかなっているようだし。


「そうだな、もう楽しめるようなことはなさそうだしな。帰るか」


 思ったよりも早く終わったが、俺も教官も思いのほか消耗している。


 敵の増援がなさそうなら、このまま撤退していいだろう。


「撤退するなら、乗っていく?」

「そうするか。教官もどうです?」

「酒は出るか?」

「出ませんよ」

「んだよ、なら、ここで戦を眺める。一応、後詰がいるかもしれんからな」


 戦場の見届け役として教官が名乗り上げてくれたから、俺は一旦報告を兼ねてダンジョンまで下がることにした。


 完全に気を抜いているわけではないだろうが、戦いは終わったと思っている教官はその場に座り込み、ひらひらと手を振って俺に行けと言う。


 たぶんだけど、面倒な報告関連を俺に押し付ける気なのだろうな。


 代わりに、戦場の事後処理をしてくれるということだろう。


 俺はその好意に甘え、ヴァルスさんの乗る白蛇の頭に飛び乗った。


 この頭痛がする状態で、緊急事態で転移妨害の結界を張っているダンジョン付近に転移するために魔法を行使するのは怖すぎる。


 ぬるりと荒れた道を進み始める白蛇。


 普通に車よりも快適な、その白蛇の頭に大の字で横になる。


「はしたないわよ」

「ヴァルスさん以外いないから勘弁してくれ」


 頬に当たる風が、今は心地よい。


 頭痛が多少マシになる感じがする。


 気休めかもしれないが、そう思っていないとやっていけない。


「はぁ、戦争ってしんどい」


 戦場という非日常。

 戦いに身を置くと人は狂うと聞いていたが、本当にその通りだと思う。


「しんどいと言っておきながら、そこまで辛そうに見えないわね」

「肉体的には頭痛以外はそこまで辛いってわけじゃないよ。精神的にも……まぁ、開き直れる程度のしんどさかな」


 今の俺は過去の俺とは別の方向で狂っている。


 人を殺すのは何度か経験している。

 罪悪感はあるにはあるが、嫌悪を抱くほどではない。


 むしろ、今日に関して言えば、積極的に効率的に殺す方法を模索していた節すらあった。


 そっと天に伸ばすように手を挙げる。


 この手には物理的には血はついていないが、それでも幻想で血がついているように見えるようになるのだろうか。


「戦争をしたことを後悔している?」

「色々ありすぎて、ついていけていない部分はあるけど、不思議と後悔はしていないなぁ。結局のところ自分で決めて、自分でやっていることだから責任は取らなきゃって気持ちの方が強い」


 悲劇のヒーローのように嘆き叫び、常識を訴えるような性格ではないのはわかっている。

 この戦いが無駄ではあるが、必要であることも理解しているからだろう。


 結局のところ、自分の行いに納得できているから後悔が少ないんだろうな。


 やらないと、俺の知らないところで、とんでもない被害が出る。

 負ける姿は、予想できないが、あの浮遊城の攻略に教官が苦戦していた未来もあるかもしれない。


「割り切っているならいいわよ。ここからさらに大変になるんだから」

「うへぇ」


 その未来を俺の力で変えられたと思えている時点で、この現状を前向きに受け入れられているということになる。


 もっとも、ヴァルスさんの言う通り、苦労するのはこれからだ。


 嘆きたい気持ち、休みたいという欲求、そのどれも質は違うが前の会社で感じたことがある感覚に、嘆きつつも笑うしかなかった。



 今日の一言

 全力が無邪気にだせないのが大人というものだ。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、逃げて引き籠ってくれるならいいが、あの自尊心の塊のようなイスアリーザが、このまま終わるわけないよなあ。
[良い点] 魔王様、お褒めの言葉を次郎にかけてやって下さい。
[一言] 熾天使と違って意思の無い機械の様な量産型なんかな。
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