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722 敵がすごいと、やる気が満ちる時がある

 

 カハ。


 こんな窮地だというのに、俺の口元は自然と笑みを浮かべていた。


 それもそのはず、今回の戦いは正真正銘、本当の戦争なのだから。


 相手が薬漬けにされているわけでも、不本意で集められているわけでも、野盗崩れでもない。


 本気で俺たちに勝つために編成された、正真正銘の正規軍。


 最初は手ごたえのない雑魚ばかりかと思ったが、相手が本気になった途端に教官の軍が押され始めたのだ。


 下位天使を強化する上位天使によって、一気に兵の質が上がった。


 さらに最初の展開数と比べても数倍はいるだろう大軍。


 これだけでも大した戦力だ。


 それに加えて。


「教官を抑え込める一軍が用意されていたとはな」


 天を駆ける天馬の軍隊が、教官を抑え込んでしまった。


 いや、教官の方は攻めあぐねているといった方が正解か。


 教官に挑みかかってきた五人の特別な装備を着た部隊。


 武器の気配から、それが勇者部隊だというのはわかった。


 実力も相応、あの武器なら確かに教官の体に傷をつけることはできる。


 身体能力的に、タイマンは無理だが、部隊を全力で機能させれば戦いにはなる。


 その戦いも勇者側から、様子見という言葉が頭の辞書から抜け落ちているかのような全力攻撃から始まったのだから教官を一時的に抑え込めるのも納得できる。


 苦戦、それを感じたのはこの瞬間だ。


 徐々にだけど、戦場全体で劣勢の雰囲気を感じ始めた。


 今は大丈夫、全力で戦場を楽しんでいる鬼の軍団が早々に根負けするとは思っていない。


 潤沢にそろえた回復薬が尽きない限り、彼らは戦い続ける。


 今この瞬間、相手の最大戦力が揃ったと、どことなく直感で分かった。


 俺は俺で、襲い掛かってくる、天馬の軍団を一刀のもと切り捨てながら、戦場を俯瞰して指示を出すことに精を出している。


 このままいけば、間違いなく、こっちが勝つ。


 地力の差というのは、早々に覆ることはない。


 鬼と天使、向こうは下位天使の力を底上げして対応しようと考えているが、もともとの地力差を覆すほどではなかった。


 確かに倒すのに労力が必要にはなったがそこでおしまい。


 教官の方は、おそらくあと数分もしないうちに勇者を一人仕留める。


 そうなれば一気に形勢は教官の方に傾く。


 天馬の軍は、ここまで来るのに多少は損耗したが、それでもいまだ健在。


 勇者の支援に徹底しているから、長生きしている。


 教官を敵大将と見て全力で挑みかかり、そして邪魔をされないように配慮した配置。


 理にかなっている。


 問題なのは、大将であることは間違っていないが、ここにももう一人将軍がいることを理解していなかったということと、この程度の戦力で教官が倒れると思っていることだ。


 あの程度の実力なら、せめてあと三倍は勇者が必要だな。


 そうすれば片腕くらいは持っていけるかもしれない。


「裏切者め!!人でありながら、魔族に味方するか!!」

「裏切ってねぇよ」


 戦場全体を冷静に見つつ、口元の笑みを正していると、やたらうるさい熱血漢の叫び声が聞こえ、それと一緒に馬上槍が突き出されてきた。


 それに反応して、返す刃で首を切り捨てる。


 失礼な、こっちはまじめに面接を受けて正社員で入社した正真正銘の魔王軍だよ。


 そもそも、イスアル出身じゃないからそっちの宗教とかまったく関与してない。


 だから、裏切者呼ばわりは心外だ。


 それにしても、相手の勢いに押され、劣勢になってようやく戦っていると感じるのは俺の感性がおかしくなっているのが理解できる。


 結論から言えば、勝てそうな気がするが、その勝つまでの道のりはそこそこ面倒そうだ。


 その面倒を楽しもうとしている。


 いかんいかん。


 教官と俺が揃って、楽しんでしまったら、軍そのものの被害が増えてしまう。


 少し、もったいないと思うけど、ここは利を優先しますか。


「とりあえず、あれを打ち落とすこと考えないと」


 状況は芳しくないのなら、問題点を根本から解決するしかない。


 ブラック時代は、対症療法しかやらせてくれなかった。


 それは頭の固い上司が、新しい効率的なやり方を理解できなくて、それをやろうとするとすぐに止めにかかって、その場しのぎの対処しかできなかった。


 ここでは、俺が責任者で抜本的に解決をするための行動をすることもできる。


「ああ、鬱陶しい!!」


 その解決行動に移るにはまずは、付きまとってくるペガサスに乗った騎士たちが邪魔だ。


 強さは確かに、今まで戦ってきた兵士とは比べ物にならないほどの練度を誇っている。


 だけど、返す刃で一人、また一人と切り殺せるレベル。


 実力差がわかってから、遠距離で弓矢や魔法で攻撃でやってくるようになって余計に鬱陶しさが増した。



 俺の攻撃手段が、基本的に鉱樹を使った近接戦だというのも分かっているようで。


 空を飛び回るペガサスの所為でチャージ系統の魔法が使いずらくなっている。


 このままだと、相手の砦からまた攻撃が再開してしまう。


「援軍が来るまで時間稼ぎをと考えたが、ここまで相手が手早く攻めてくるとはな。もしかして、こっちに援軍が来ることを読んでいるのか?」


 最初は様子見で互いの戦力を小出しにする前哨戦になる展開を読んでいたけど、それがまさかここまで激しくぶつかり合う戦場になるとは思わなかった。


 こっちの山に作った簡易砦で迎撃しているが、急ごしらえの所為でそこまで耐久力はない。


 いろいろとやらかしている所為で、そこらかしこで壊れているのも見える。


 その部分を見れば、相手は攻めれば攻めるほどこっちに被害を与えられることを考えているようにも見える。


 その点と相手の動きから、こっちの援軍が来る前に短期決戦を挑んでいるように見えた。


 そうなる理由もおおよそ理解できる。


 こっちは防衛戦、それも砦にこもっての籠城戦を仕掛けている。


 まだ開戦して日がたっていない状況で、後詰の軍が存在しないわけがなく、援軍が存在する可能性は十分に考えられる。


 しかし、国としての基盤を生成し、難民の受け入れもできるようになっている状況を考えれば放置はまずできない。


 それを考慮したら、まず真っ先にこの土地は奪還すべき場所である。


 しかし、相手に援軍が来られてしまえば問題がある。


 であれば、戦力を出し惜しみせず、全力で戦って短期決戦をした方が結果的に損害が少ないと見たか。


「となると、あんまり悠長にしているのは得策じゃないか」


 豪雨のように降り注ぐ強弓の矢を鉱樹一本で対処しながら、時折うかつに俺の間合いに入り込んだ敵を切り捨て、俺の周りに死体が積み重なり始めた。


「しかし、どうするか」


 持久戦に持ち込めば、倒れるのは相手が先。


 だが、間違いなく、相手を倒し切るよりも先に向こうは砦から攻撃を再開させる。


 そうなるとこっちの被害が甚大になる。


 うーん、根本的な解決をするならあの砦を落とすのが早い。

 だけど、その砦を落とすには決定打のある攻撃手段がない。


 そもそも、俺は近接型の戦士。


 超長距離、それも対空攻撃をできる方がおかしい。


 こういうのってフシオ教官とか、アミリさんとかが得意な分野だと思うんだよなぁ。


 まぁ、前職だと担当じゃない仕事すら振られて、気づいたらできるようにはなっていたけど。


「まさか、同じことをやらされる羽目になるとは」


 何の因果か、前職の呪いはまだ解けていなかったか。


「何をぶつぶつと!!」

「はいはい、飛んで火にいるなんとやら」


 とりあえず、この混戦を解消するには敵の切り札を叩き落とす必要性があるというのは理解した。


 こらえが利かなくなった一人の騎士をベガサスごと両断してやり、大好きな神様のもとに送り届けてやる。


 それでひるめばこっちも多少は楽になるのだけど。


「よくも!!」

「敵は討つ!!」


 士気が上がるだけであんまり効果はないようだ。


 殺しに来てるんだから、そっちも殺される覚悟はあるでしょうに。


 なんで恨まれるんだろうね。


 まぁ、その恨みに付き合っている暇は今の俺にはないんだけど。


 体はさっきから忙しなく攻撃を避けたり、防いだりしつつ相手の数を減らすことに従事して、それと同時に頭の中でこの状態でも使えそうな対城魔法を検索している。


 どれもこれも近接戦闘で使うこと前提にしている魔法ばかりで、使える手段がない。


 そもそも、建御雷を防がれてしまった時点でそれ以上の火力を出せる俺の遠距離攻撃っていうのはそこまで多くはない。


 アメノヌボコを使うかと一瞬考えたが、あの城に届かせるだけの力がない。


 最大火力は間違いなくあれなんだけど、あれをぶつけるには距離が…ん?


 待てよ、攻撃に関しての問題は俺の攻撃射程が短いからだ。

 距離が離れれば離れるほど、俺の斬撃概念が薄れて相手の防御を突破できなくなる。


 すなわち、それさえ解決すれば問題なくぶった切れる自信があるということになる。


 何をいまさらアホなことを言っていると思うかもしれないけど、この気づきは重要だ。


 そもそもの話、なんで俺は遠距離攻撃にこだわった?


 俺は言うまでもなく、近接戦の方が得意な戦士だ。


 今もやっている通り、鉱樹を振るって敵を切り倒すことが得意な戦士。


 そんな俺が、何で魔法使いのように遠距離攻撃で相手を倒すことにこだわらないといけない。


 斬撃が届かないから?


 だったら〝届かせる〟


 俺の斬撃の間合いを増やしてやればいいだけだ。


 幸い、魔力なら十分にある。


 そしてやれる手段は存在する。


 これならやれる。


「シンプルイズベストとはよく言ったものだ」


 そうと決まれば即行動だ。


 まずは邪魔な周りのハエどもを悉く斬り落とすとしよう。


「なんだ!?」

「急に動きが早くなったぞ!?」


 足場に魔力の板を作り、相手の空という領域を蹂躙する。


 ペガサスの機動力は確かに継続的に空を飛ぶという点では優れている。


 最高速度も速い。


 だけど、こうやって一か所にとどまって、移動するには狭すぎて動きが窮屈だ。


 それを補うための集団戦法なんだろうが、こうやって足場を作ってやれば瞬間速度で上回ることは簡単にできる。


 縦横無尽、重力を無視して、魔力の板をそこらかしこに作り、最短距離でペガサスまで接近して、その体を斬り、斬った体を次に跳びかかるための足場にしてやる。


 そもそも単一で俺を抑え込めるような存在がいなければ削られるだけだ。


 部隊員だけじゃなくて、隊長らしき人間の実力も測ることができた。


 次々に切り捨てて、その隊長に斬りかかると。


「化け物め!!」

「その化け物にも意志があるっていうのを忘れてるぞ」


 怒り心頭と言わんばかりの罵声をプレゼントされた。

 そのプレゼントは、丁寧に返却し、耳心地が悪い怒鳴り声が上げられないように首を切断しておく。


「隊長!?」

「キサマぁ!!!」


 指揮官の死亡は一瞬、部隊に動揺を走らせたがすぐに回復した。


 だけど、その一瞬のスキがあれば十分。


「ほい、止まったらおしまいっと」


 鉱樹に魔力を流して、魔力の刃を形成、その場で回るように横一閃で薙ぎ払えば、あっという間に十騎のペガサスが地面に落ちていく。


 そして数が一気に減らされたことによって、ペガサス騎士たちは俺からさらに間合いを取ろうとする。


 その時間が欲しかった。


「魔力収束」


 自由落下している間にスエラとつながりをたどり、一気に魔力を練り上げ、鉱樹に伝達。


 練り上げろ、最高の刃を。


 そして。


「抜刀」


 地面に着地した瞬間、その練り上げた魔力を爆発させた。




 今日の一言

 張り合いがあるって、いいよな





毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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