721 勘違いによる過大評価は時に人の首を絞める
更新遅れました(汗)
そして気づいたらPVが一億の大台に…
皆様のご愛読に感謝の念が尽きません
今後ともに本作品をよろしくお願いいたします!!
Another side
「天使部隊の損耗率まもなく三割を突破します!?」
「主砲復帰まだか!?」
「高密度の魔力によって凍結されているため復旧の目途が立っておりません!」
浮遊要塞ゴリステンデの中は絶賛混乱中であった。
神回避を披露した所為で、敵は全力を出してきてしまった。
それで危険だと判断して、即座に撤退できれば被害はそこまで出なかったかもしれない。
だけど悲しいかな、そこで英断できない面々が勢ぞろいしてしまった。
「召喚陣の稼働率を上げろ!!下位天使だけじゃだめだ!!上位天使の召喚を試みるのだ!!」
「それですと、今の前線が持ちませんぞ。今は少しでも多くの天使兵を召喚すべきでな」
「いや!!やはりここは勇者を投入し、起死回生の一手を打つべきだ!!」
何とかなってしまった。
それがかえって彼らに自信を与え、そして攻撃を防ぎ続けてこれたことでゴリステンデは不沈の城塞と思い込んでしまった。
敵将軍の大魔法を散々浴びても、浮遊ユニットは健在。
城壁は凍り付いてしまったが、大結界ユニットはいまだ健在。
凍り付くことによって、いくつか生活に必要なユニットは使えなくなってしまい、さらには神力を循環させる回路も機能不全を起こしているため全力を出すことが難しくなったが、それでも勝てると頭の中で算段している大司教三人。
誰もかれも、これが一番だと意見を譲らず、その意見を部下たちは懸命に全部反映させようと必死になっている。
上と下の温度差がどんどん広がっていくのは第三者が見ればわかる。
頭に血が上って、これしかないと視野狭窄に陥っている大司教。
これもあれもと、指示されたことを必死にやることしか考えていない応用力のない司祭。
そして、さらに最下層の信者や神官たちは。
「こっちがこうで、あっちが」
「喉が、でも私が歌うのをやめてしまったら」
「おお、神よ、我らを救いたまえ」
何が正しくて、何が必要なのかと考えてすらいない。
戦うための歯車と化した彼らは、それをやることが神の意志だと疑わず、懸命に働き続ける。
だけど、気づいていないのだろうか。
全力で歯車を回し続けることで、確かにパフォーマンスは上がり、戦線維持を可能にしている。
だけど、余力がない全力疾走を果たしてどれだけ続けることができるだろうか。
実際歯車はすでに軋み、悲鳴を上げている。
どこか一か所でもひびが入り、砕けてしまえばたちまち崩れてしまう。
それがわからない。
これが当たり前だと言わんばかりに、みな必死に悪を滅することを考えている。
この光景を仮に次郎が見たのなら。
『前職の職場みたいだな』
と感想をこぼしただろう。
いや、次郎じゃなくとも神殿関係者じゃない、それこそ一般的な感性を持った人物がこの場にいれば、こんなことは間違っていると誰かが指摘できた。
しかし、集団意識がそれを許さない。
魔王という悪、そしてその先兵が今この場にいる。
神の城を与えられて、負けるはずがない。
神は絶対。
この教えを守っている彼らは、この苦労も神からの試練だと解釈してしまい。
全力でその試練に挑んでしまう。
もし仮に、その試練が達成できなかったら修行が足りなかった。
その一言で済んでしまう。
「皆様、大聖歌の準備を、そうすれば神へ私たちの声が届きます」
「「「はい!!」」」
歌い続けて、もう何時間になるだろうか。
喉はまだ枯れていないが、それでもつらいことには変わりない。
聖歌隊の少年少女たちは、さらに城へエネルギーを供給するために声を張り上げる。
「こっちの修理が終わった!!そっちは!?」
「もうすぐ繋がる!!そうすれば召喚陣を同時に使える!!片方は火急用として割り切って使うんだ!!もう片方で上位天使の準備を!!」
凍り付いた城壁の内側では、寒さに凍えながら神術を使って氷を懸命に溶かし、城壁の修理作業に従事している神官たちがいて、その先には外部へ召喚するための魔法陣を命綱一本で懸命に修復している神官がいる。
「くそ!!こっちの通路はだめだ!!迂回路を使え!!そのあとに勇者様たちに悪辣な魔王軍の手先のもとへ出撃して頂くのだ!!」
「降下準備をしろ!!出せるペガサスは全部用意しろ!!」
「神の意志に背く逆賊を撃つのだ!!」
そして城壁の下層部では、ペガサスを収納している入り口が凍り付き開かなくなり、うまく移動できていない神殿騎士たちが出撃準備をしている。
希少であるペガサスをこれでもかと用意し、この城塞の中にいる二百のペガサスナイトたち。
国でもこれだけの騎馬兵を用意できる機会は少ない。
そのペガサスナイトに護衛されるのは勇者たち。
寡黙に、その出陣のタイミングを待ち、聖武具を携えた彼らはただただその光景を感情のない瞳で兜越しに見ているだけだった。
この時の城塞の中は間違いなく、最高効率で動き続けている。
持てるポテンシャルを間違いなく最大限発揮し続けている。
それでも、鬼たちはそのポテンシャルと張り合うだけの力を持っている。
だけど、彼らはそれを信じない。
彼らの頭の中では、死ぬのが怖く、裁かれるのが怖く、神に反逆するのを楽しむ魔王軍が無駄に抵抗しているだけと認識している。
いかに抵抗しようが、こちらが本気になれば勝敗は決すると疑っていない。
この反撃も悪あがき。
きっと、もうすぐ静かになる、そうなればこちらのものだと疑っていない。
城塞内で休んでいる存在はいない。
休憩も取らずに、全力で悪を討とう。
その意志の元、全力でみな働いているのだ。
ブラック企業とは違う形のやりがい搾取の到達点が、もしかしたらここなのかもしれない。
悪を討つ、正義は我にあり、神は絶対。
この三要素を教え込まれた彼らは、この苦労を苦労だと気づいてない。
これは試練だ。
であれば、信徒である彼らはその試練に喜んで身を捧げよう。
それだけの意志で、がけっぷちの危うい全力疾走を続ける。
彼らは破滅の時を待つ全力疾走をしていることに気づかず、そのために命を賭けていることに気づかず、ただ、信じた道を突き進む。
「大司教様!!上位天使の召喚準備が整いました!!」
「そうか!!」
「大司教様!!天使兵の増援が来ました!!その数五千!!追加で増援もこの数倍は見込めます!!」
「誠か!!」
「大司教様!!勇者の出陣準備が整いました!!ペガサスナイト二百騎とともにいつでも出れます!」
「大儀である!!」
その信じた先に勝利を望み、だれもが全力で突き進んだ。
その成果を聞いて、三人の大司教はさっきまで言い争っていることなど忘れたかのように満面の笑みを浮かべた。
優先順位を決めることなく、同時に報告が来たことがよほど嬉しかったのだろう。
冷静に考えれば、部下の独断専行で勝手に指示が出されているのだが、それは各大司教の立案が実行されているから、彼らは気にしない。
喉を押さえ、懸命に歌う少年少女たちなど目に入らず。
命綱が繋がっているロープが城壁の崩壊の所為で外れ落ちていく神官など知らず。
これから死地に向かう騎士たちの尊い志など気に留めることもせず。
「では召喚を始めよ!!」
「うむ!!全軍出撃!!悪を滅するのだ!!」
「神の意志の元、勇者の力を見せつけるのだ!!」
その努力が当たり前のように、大司教たちは成果を消費する。
蓄えられた神力が、瞬く間に消費され、それが神々しい光となりたった一人の天使を召喚する。
召喚陣がフル稼働して、そこから現れる天使の軍隊が空を覆い、魔王軍に襲い掛かる。
ゴリステンデの下部ハッチが開き、そこから勇者を乗せたペガサスナイトたちが空に舞い出る。
この要塞で用意できる最大戦力がそろった瞬間だ。
負けるはずがない、これが神の奇跡だと、涙を流す信徒もいた。
ここから先は魔王軍を討ち滅ぼす英雄歌が紡がれると誰もが疑わなかった。
試練に打ち勝った。
その達成感がゴリステンデに満ちた。
「まだ勝ってはおらぬ!!気を引き締めよ!!」
その達成感に水を差すかのような一喝が現実を突きつけて、再びあわただしく信徒たちは動き始める。
確かにその通りだと思い出し、ゴリステンデの復旧作業に戻ったり、再び聖歌を歌いだした。
戦力の投入は間違いなく、戦場の天秤を傾ける要素になる。
車輪のような武器を携えた第三位である座天使が砦から飛び立ち、これが太陽だと言わんばかりにその車輪を掲げ、まばゆい光を解き放った。
その光は天使兵たちに力を与える。
先ほどよりも早く、力強くなった天使たちが魔族に襲い掛かり、魔族に苦戦を強いる。
大軍を強化することによって、間違いなく魔族たちをくぎ付けにした。
そしてくぎ付けにされた魔王軍の後方、将軍たちが待機する陣地にめがけ天馬の部隊が突き進む。
それに気づいた敵部隊が対空迎撃を行うも、強化された天使兵の方に人手が割かれ反撃はまばら。
その少ない攻撃も天馬が纏う光の膜にはじかれ、天馬の勢いを削ぐことにはならない。
希望の光が信徒の心の中にともる。
そのまま敵本陣に食らいつき、悪を滅ぼせと祈りの手に力がこもる。
「主砲の凍結が解除されました!!回路の方も迂回路を経由し、充填に遅れはありますが打てます!!」
朗報は続く、修理班の懸命な努力によって、敵の攻撃によって機能不全を起こしていた主砲が復活した。
それによってゴリステンデの攻撃力が劇的に回復したということになる。
おおという歓声が響き、大司教の顔にも笑みが浮かぶ。
「主砲に神力を込めよ!!その一撃をもってこの戦を終結させる!!」
終わりが見えた。
それすなわち、勝利が目前に迫っているということ。
全力疾走は終わり、苦労が報われる。
これで良かったと正しさが証明される。
そういう心理が働くと人は自然と、疲れていた体から一時的にだけど疲労が消え去る。
精神論で抑え込んでいた体に、もう少しだからと、終わりは目の前だと活を入れると、自然と最初よりも機敏な動きをしてくれる。
それに満足げにうなずく大司教は、こちらの勝利を見守るために大きな映像へと視線を向ける。
相も変わらず、天使兵が苛烈に魔族の軍を攻め立て、天馬の軍が敵本陣に突撃し、その本陣で勇者たちが暴れまわっている。
どっちが優勢で、どちらが劣勢なのかは明白。
このままいけば、世界で蔓延している劣勢論を払しょくできるかもしれないと大司教は心の中で笑う。
「フハハハハ!!見たか!!これが神の力!!魔族など恐れるに足らず!!」
「然様、まったく、勢いがあったのは最初だけですな」
「然り然り、帝国の姫は何を恐れておるのでしょうな。これだから野蛮な帝国は」
余裕ができたとたんに、手のひらをひっくり返す彼らの態度。
それを指摘するような人物がいない。
結果的にうまくいったのも、すべて大司教たちの手腕だと思い込んでいる。
神を信じ、突き進むことこそ正しいことだと。
あとはゆっくりと戦場を眺めるだけ。
それだけで、終わると疑わず、大司教は側仕えをしていた聖女に酒を用意させようと一瞬視線を逸らした。
その時、流れが変わった。
「きょ、巨大な魔力反応!?敵本陣に、先ほどよりも高出力の魔力反応があります!!」
「なんだと!?」
「落ち着きなされ、悪あがきよ」
「然様、そのように慌てると器が知れますぞ?」
それでものんきな大司教たちに向けて、目にものを見せよと、天高く届けと巨大な刃が作り出されるのであった。
Another side End
今日の一言
過大評価は、基本的にしんどい。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




