719 すれ違いからくる勘違いってよくあるよな
「ほう、今回の敵はなかなか手ごたえがありそうだな。アレを躱すなんてやるじゃねぇか」
「そうですね。それにしてあんな巨体で器用な動きを、参考になります」
盛大に魔力を消費して、それを補給するという奇妙な感覚に若干の虚脱感を感じつつ、教官と一緒に遥か彼方に浮かぶ敵に賞賛の言葉を贈る。
いやはや、本当にイスアルのというよりはトライス関連の奴と戦っていると大概碌な奴じゃないから精神的に疲れるんだけど、今回の敵はなかなか器用で大胆な行動に出てくるから戦ってて手ごたえがある。
それに教官は満足感を感じて、獰猛な笑みを深めているご様子。
「それにしても最初は油断しているようでしたけど、次の攻撃からしっかりと対応してきましたね」
「もしかしたら残ってる熾天使の奴が中にいるかもしれんな。それだったら余計に楽しめるんだけどな」
「将軍としてはそれは避けたいですね、こっちの被害が増えそうで」
「ふん、そんなやわな鍛え方をしてねぇよ」
なんか盛大に勘違いをしていそうな予感がするけど、俺がガチで殺しに行った魔法を結界を利用して必要最小限の行動で防いで見せた実力者が相手にいるのだ。
ここは気を引き締める方向で行った方がいいだろう。
教官も、なんか楽しそうに笑っているしそこに水を差すのも後々面倒になるし。
「っと、無駄話はここまでですね。さすがに向こうも反撃して来ますね」
「防御しながらあの攻撃を用意したか、ガハハハ!!最近手ごたえのない連中ばかり相手してたからな。久しぶりに腕が鳴るぜ!!」
「だったら、あれはお任せしますね。俺は攻撃に集中します」
「おう!てめぇら!!天使どもが来るぞ!!気合を入れやがれ!!」
「「「「おう!!!」」」」
さてと、こっちはこっちで対策を考えるとするかね。
さっきの攻撃は斬波を平行起動させて、無理やり攻撃力を上げた一撃なんだが、俺の体にもそこそこ負担がかかる。
魔紋にも負荷がかかって、次弾装填に時間が必要になる。
今は冷却期間で、体を休めて、じっくりと魔力を練る。
しかし、若干ハイペースの戦いになってきたな。
このペースで砲撃戦になると、さすがに機械と生身ではスタミナに差がありすぎてこっちが先にバテる。
いかに魔力が無尽蔵に供給されているといっても、その魔力を使うのは生身の俺だ。
社畜時代に培った根性もさすがに品切れを起こす。
耐久性がいろいろと頭おかしいレベルで強くなったこの肉体でも高出力の魔法を撃ち続けるのは、負荷のことを考えると効率的とは言い難い。
「うーん、このやり方だと相手を削りきるのに時間がかかりすぎるな。これだったら素直に転移して直接結界を切り裂いて乗り込んだ方が早いか?いや、敵がどんな戦力を抱え込んでいるかわからない状況で敵地に飛び込むのは良くはないよなぁ」
効率のことを考えるなら、俺と教官で乗り込んだ方が砦を責めるのは楽になる。
だけど、相手の支配エリアに飛び込むのはリスクが高い。
敵も侵入に対策をしているだろうし、俺たちが知らないような兵器を持っているかもしれない。
「しかし敵さんも、ずいぶんと気合の入った攻撃を、あれだけでどれだけの魔力が使われてんだ?」
「知らん」
ゆっくりと体をほぐして、ようやく次の攻撃の準備に移れそうになったタイミングで、砦の中央が開いて巨大な砲塔が出てきて照準はこっちを向いている。
この距離だと、こっちの攻撃が届くよりも先に向こうが打ち出す方が早い。
攻撃の出力勝負になると、放出系じゃなくて撃ち出し系の俺の魔法だと持続力で撃ち負ける。
防御面は、教官に任せるとするなら。
「カウンターでもう一撃いっとくか」
砲撃が終わった瞬間、もう一度全力で攻撃する。
教官も攻撃の迎撃のために肩を回している。
あれは結構集中しているときの動きだな。
「今度の魔法は特別製だぞ」
なら、こっちも少し趣向を変えて、攻撃をしてみるか。
装衣魔法を展開、属性を雷から闇に変更。
光属性には闇属性が相場ってね。
「相棒、少しきついがへこたれるなよ」
〝承知〟
闇魔法は生きて意思のある鉱樹には少し相性が悪いけど、それでも進化し続けているおかげか闇耐性が徐々にだけどつき始めている。
フシオ教官に習ったあの魔法はまだ使えないが、その代わりの魔法をイメージして足元に魔法陣を展開する。
今回展開するのは三つだ。
纏う魔法が増えれば増えるほど、付与する鉱樹に負担が増えるし用意にも時間がかかる。
負担に関しては相棒のタフさは俺と同じで折り紙付きだから一発や二発じゃびくともしない。
時間に関しては。
「ガハハハ!!こいやぁ!!」
こんなに楽しそうにやる気に満ちた教官が正面に立っている段階で心配するだけ無駄だと理解している。
そもそも、砦からの砲撃に、正面から打ち勝とうとする御仁の背後で魔法を準備する方がおかしい話だけどな。
いや、教官の背後ほど安心できる場所も早々ないから合理的な判断ともいえる。
教官が腰だめに魔力をチャージしてるってことは、正面から拳で打ち勝つってことだろうな。
「魔力構成、闇魔法で氷結魔法をコーティング、過程に次元魔法を使用」
相変わらずの脳筋戦法。
それが教官らしいところだ。
こっちはこっちでその力のおかげで安心して、プログラミングみたいに、魔法陣のシステムを組んで、建御雷以上のやばい魔法を生み出している。
相手が魔法を横に逸らすというのなら、その結界を侵食する魔法を使って結界を無力化して、その中に隠した魔法で連打すればいいだけのこと。
これ、フシオ教官から教えてもらった魔法なんだけど、なかなか準備が面倒くさいんだよね。
少なくとも、フシオ教官みたいに戦闘しながら並行で組み上げるなんて器用なことはできない。
「来たぜ!!」
だからと言って、騒音程度で術式構築が遅れるようなことはしない。
轟音が遥か彼方から聞こえてきた。
それはすなわち、砲撃が来たということ。
轟音が先に届いたということは、砲撃は音速の壁は突破していない。
威力重視の攻撃ということか。
冷静に敵の動きと攻撃を分析しながら、反撃用の魔法をどんどん鉱樹に付与していく、青黒く染めあがってく相棒。
闇と氷が入り混じることなく闇が氷を包む奇麗な層になっていく。
魔法の構築は六割ってところ。砲撃に当たらないように左右に分かれた天使の軍団が到着する頃には発射できそうだな。
それよりも先に、砲撃が来るけど。
ちらっと、砲撃という名の極太の白金光線を見る。
あれは直撃したら、痛そうだ。
たぶん聖属性をふんだんに込めた攻撃だろうか。
あのエネルギー量なら、都市部を消し飛ばせるような威力はあるだろうと考えられる。
そんな攻撃に対しての感想が痛いか、普通に考えたら痛いですまないだろうな。
痛みを感じる前に消し飛ぶのが普通か。
だけど、そんな脅威を前にしても死ぬ程まで行かずズタボロになる程度で済むとわかってしまう。
今の俺の肉体は数々の激戦を経てタフさでは魔王軍の中で五本指に入り、その中でも上から数えた方が早い将軍である。
そんな俺にダメージを通せるのはなかなかの威力と感心することができる。
ただ、逆に言えば、その程度の感想だ。
今回それを受け止める相手が悪い。
なにせ。
「砕け散れや!!」
俺の目の前で全力で前方にジャンプして、白金色の光線上に伸びる砲撃の前に躍り出て、拳を振るった大鬼は俺以上のタフネスを持つ御仁だ。
俺が痛い程度で済む攻撃なら。
「ガハハハ!!いいぜ!!もっと来い!!俺を楽しませろ!!」
それを凶悪な笑顔で楽しむ程度の攻撃でしかない。
普通に込められている魔力っぽいエネルギー量を考えれば、まず間違いなく一軍を簡単に屠れる威力だ。
実際、これが地面に着弾していたら俺たちが布陣している山ごと消え去っていた。
だけど、その威力を後方に伝えず、しっかりと正面で衝撃を殺している。
その鬼の拳に何が宿っているか。
少なくとも、膨大としか言いようのない魔力と、エネルギー体である砲撃を砕くという破壊衝動は籠っているだろう。
普通に慣性の法則に則って考えるなら、ただのジャンプで永続的に押し寄せる攻撃を止めることはできない。
跳びあがった慣性で一時的に拮抗することはあっても、そのあとは押し返される未来が待っている。
だけど、現実は空中で固定されているかのように、教官はその砲撃を拳一つで受け止めていた。
どういう原理だ?と普通なら考えるだろうが。
「気合とかの次元じゃなくて、そもそも根本的に戦う次元の構造が違うから理解が及ばない。だから将軍が理不尽の代名詞なんだよな」
そこを考えるのは無駄だ。
俺が斬りたいから何でも斬れるように、教官もなんでも殴り飛ばしたいから殴り飛ばせる。
それだけの事。
あれも立派な概念攻撃。
暴力をそのまま具現化したのが教官の攻撃。
だからこそエネルギー体を物理的に正面から殴りつけることができる。
そしてそんな鬼が空中に足場を気合で作ることができないわけがない。
簡単に説明しただけでも、疑問符がいくつも浮かぶだろう?
だけどな、教官と戦うのならそういうものだと考える他ない。
むしろ深く考えれば考えるほどドツボにはまる。
であるなら、そういうものだと考えて、前向きに考えた方がいい。
「なかなか根性見せるなぁ」
でなければ拳一つで魔王軍の頂点に挑みかかろうとする狂人と渡り合えない。
威力を増した砲撃を正面から受け止め、全軍に一ミリも被害を出さない。
その背中で実力を語る大鬼を倒すことなど夢想すらできない。
「おらぁ!!」
その強さを信じるから、こちらの軍はあんな大規模攻撃を前にしても動揺を一つも見せず、大鬼を信じて天使の迎撃準備を進める。
気合一閃、拳を振りぬいた大鬼は本来ではありえないエネルギーを拳一つで霧散させて見せた。
ダイヤモンドダストが光で反射したかのような煌めきをあたりに散らしながら、俺が生涯教官だと尊敬し続ける大鬼は相手からの破壊を文字通り粉砕して見せた。
「次郎!!」
「準備はできてますよ」
だったら、今度は俺の番。
攻撃が防がれたのだったら、次弾が来るはず。
それよりも先に、こっちが攻撃して相手の防御を上回らねば。
「この切っ先に宿るのは三途の川の雫、渡る先に黄泉があり、万物ことごとくその川底に沈め」
短い詠唱、されど建御雷とは違う別の次元の破壊力を備えた魔力が今解放される。
「黒河」
速度は建御雷に比べて圧倒的に遅い黒い波が鉱樹から出てくる。
「波走!!」
その黒い波が空を疾駆するという珍妙な光景を作り上げ、それを再び回避しようと砦が動き出す。
だけど。
「無駄だ、黒河は追尾機能があるんだよ」
その黒い波はゆっくりと進路を変えていき、目標にめがけて追尾する。
高速で進路変更することはできない、だけど相手もそこまで早く回避できるわけがない。
何人かの天使が、黒河波走の前に躍り出て、結界を展開したがそれは悪手。
結界を溶かし、その魔力は天使を侵食してその体を朽ちさせる。
「あんまり趣味のいい魔法じゃないんだよなぁ、これ」
魔法の効果は、吸収。
スポンジが水を吸収するかのように、この魔法は魔力を吸収する。
ミイラとなり、地面に落下する天使たち。
躱せないと判断したのか、相手の結界がより一層強固になるけど、さて、どうなることやら。
今日の一言
何か違う、そう思う時は勘違いしている。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




