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718 自信を持つのはいい、だけど過信するのはよろしくない

 

 Another side


 空中要塞ゴリステンデ。


 それが神から与えられた、対魔王軍の決戦兵器だ。


 神殿のような施設には、多くの神官が祈るような姿勢で膝をつき、その制御のための魔力を捻出している。


 さらにその上にはガラス張りのような部屋で、司祭たちがこの砦の運用をしている。


「いやはや、この砦があれば帝国だろうと魔王軍だろうと恐れるに足りませんな」

「然り然り、主神はやはり偉大な存在。これだけの設備をなんの迷いもなく我らに下賜してくださるとは」


 そして玉座の間ともいえるような場所で、三人の大司教が上機嫌を隠そうともせず、それぞれ聖女を引き連れ笑顔で語り合っていた。


「さよう、これも日ごろから神に祈りをささげてきた我らの献身がなした奇跡。であれば、この奇跡に見合う成果も我らは神にお見せせねばなりませんよ?」


 それぞれの容姿はとにかく、トライスでは上から数えた方が早いといえるほどの地位にいる大司教が三人も戦場に赴くというのは過去例がない。


 それほど今回の魔王軍の力が強く、帝国が厄介な存在になっているということでもある。


 それを見かねたというよりは、押されているという納得のいかない結果に神が我慢の限界を迎えて自分が作った兵器を送り出したという結果を大司教たちは神から愛されていると勘違いしつつ、神の敵を討とうとしている。


「なに、これだけの軍勢そしてその軍勢を維持する設備、さらには勇者を兼ね備えた我らに負けるなどということはありませんぞ」


 慢心ともとれる言葉であるが、一人の大司教は口にした言葉はほかの二人の代弁でもある。


 大勢の天使を天界から召喚できる大型召喚陣、どんな攻撃でも防ぐといわれる大結界。

 さらには砦内では時空魔法を駆使した食料生産設備に、ライフラインの自動整備能力という生活基盤も充実している。


 砦自体にも、様々な防衛設備という名の攻撃兵器が搭載されており、そのどれもが神自ら作り上げた兵器だ。


 人が使えることが前提であり、様々な面で封印措置が行われ性能は下がっているが、それでも人には過ぎた兵器の数々が揃っている。


 さらには熾天使が鍛えてきた勇者の中でも選りすぐりの精鋭が砦の中に待機している。


 過剰と言えるような戦力。


 これで負けるなんてありえない。


 慢心ではなくて、自信。


 それが大司教たちの心情だ。


 過去歴史をさかのぼってみたとしても、これだけの大戦力を見たことがないと思っているからだ。


 それも当然の気持ち。


「大司教様!正面方向から膨大な魔力反応!!おそらく魔王軍の将軍の一人の魔力かと!」


 そのすがすがしいほどの超越感に浸っている大司教たちに水を差すような報告が入る。


「愚かな、神の城であるこのゴリステンデに攻撃しようと考えるなど。不敬な」

「然り、そのまま神の裁きを大人しく待っておればいいものを、なんと度し難い」

「さよう、しかし、同時に哀れでもある。神の怒りに触れようなどと愚かなことをせねば生き残れないのであるから」


 絶対的である神の城に守られた故の余裕。


 例え相手が魔王軍最強格の存在であっても負けるとは思っていない。


 戦場においては連戦連敗、敗北の報告ばかり聞き続けてきた。


 だけど、それもここまでの話。


 大司教たちは、逆転からの快進撃が始まると疑っていなかった。


「神の城を魔族の汚らわしい攻撃で汚されたらたまらん。ここは一つ、神の威光を見せるとしよう。大結界を展開せよ。その後、砲門展開し塵も残さず滅せよ」

「かしこまりました」


 戦略級の魔法を用意しようとも関係ない。

 そして今から放たれるであろう、先制攻撃こそ魔族の希望だと判断した大司教は相手の攻撃をあえて受け止め、絶望を与えてから滅ぼそうと考えた。


 だが、それは過信だ。


 魔王軍は神よりも下だという発想から、神の使徒である大司教たちも魔王軍よりも上だと錯覚した慢心だ。


 そもそも、祭事を司り、宗教分野のエキスパートである大司教という存在が戦の分野でもエキスパートであるはずがない。


 神の力があればそれ以上はないと思い込む、いや、信じ込むといった方が正解か。


 彼らにとって神の力は絶対だ。


 神の塔が敗れたことは、帝国の使い方が悪かったと思い、神の真の使徒である自分たちが使えば間違いは起きない。


 そう、信じている。


「攻撃来ます!!」


 だからこそ、攻撃を結界で正面から受け止めるというしょうもない見栄を張る。


 司祭からの報告に、悠然と待ち構える大司教たち。


 当然、彼らとて外からくる攻撃は見えている。


 巨大、ただただ巨大な斬撃が目前に迫っている。


 常人であれば慌てふためく映像が、立体的に映し出されている。


 それを前にしても堂々としているのは大した度胸だと言える。


 けれど、彼らは知らない。


 この世には、神以外にも理不尽というのが存在するということ。


 物理的にも魔力的にも、概念的にもゴリステンデの結界強度は並外れている。


 しかし絶対ではない。


 大司教たちは、結界に触れれば儚く散る程度の攻撃だと思い込んでいた。


 だけど、結果は。


 轟音ととともに、ゴリステンデを揺らす大打撃となった。


 悲鳴が飛び交う、神殿。


 空中で揺れるというのは心理的に恐怖が増す。

 飛ぶことがかなわない人にとって、何もできず地面に叩きつけられるという恐怖はぬぐえないのだ。


「何が起きた!?」


 大司教たちも、よろめき、地面に手をつくことでこけることは防ぎ、そのままの姿勢で何が起きたかを聞いた。


「だ、大結界消滅!?西部城壁に亀裂が、西部付近にいた天使たちが消滅しました!」

「な、なんだと」


 その報告を聞いて、瞬間的に信じられないとつぶやいてしまった。


 神の奇跡が詰まった浮遊要塞の大結界がこうも簡単に貫かれるとはだれが考えるか。


「だ、第二波来ます!!」

「!防げ!!何としても防ぐのだ!!」


 大結界を破壊した攻撃がもう一度来てると聞いたら、さっきの余裕の態度などどこに消えたのか。


 怒鳴り声に近い声量で大司教は指示を出す。


「大結界を正面に集中させます!」


 さっきは広範囲の球体のように結界を展開したから強度が足りなかった。

 そう判断した司祭の一人の判断は英断だと言っていい。


 次に来た攻撃を正面から受け止めることに成功した。


「大結界強度、六十パーセントに低下!!復旧まで三十秒!」

「大結界の修復に神力消費増大!」

「防ぐな!!回避しろ!!天使部隊を突入させろ!!何としてもあの攻撃をやめさせるのだ!!」


 それでも被害は出る。

 神の守りを削る攻撃、その攻撃に背筋を寒くした大司教は顔を赤くしてさっきまでの優雅なしぐさをかなぐり捨てて指示を出す。


 第二波を防いでそれで打ち止めならよかった、だけど、遠目からでもわかる。


 第三、第四の刃が打ち出されている。


 そしてそれが、迷わずこっちに来ていることを誰もが理解していた。


 さっきまで静かだった神殿内部が騒がしくなる。


 祈ることによって神力は回復する。


「聖歌隊を出せ!!天使を援護させよ!!」

「それよりも先に勇者にも準備をさせた方がよろしいですな」

「いやゴリステンデはもっと高度を上げて一方的に攻撃できるようにした方がいいのでは?」


 その力を増加させる、聖歌隊を待機室から呼び出し、そして配置している間に砦を守っていた天使たちが空を駆ける。


 大結界で攻撃が防げて、なおかつ向こうからの攻撃は今飛び交う大魔法のみ。


 その大魔法を発生源を防げれば何とかなると踏んだ。


 しかし、その防ぐ手段に対して意見が分かれた。


「怖気ついたか!?敵を前にして高度を上げるなど逃げるのと一緒!神の意志に背く行為ぞ!!」

「その考えもいささか性急すぎますな。わざわざ敵の手の届く距離に身を置く必要ありますまい。神は天高い位置におり、そこから沙汰を下す存在です」


 背を見せず、堂々と正面から打ち破る。

 あくまで優位を維持し、その力を見せつける。


 どちらも神の意志に沿ってと口をそろえて言うが、正反対の意見に一時的に神殿の頭脳は麻痺する。


 本来なら、トップがここで一括して指示を出すのだが。


 出世欲にとらわれた存在が三人も現れた所為で、同格が三人もそろってしまった。


 船頭多くして船山に上るとはこのことか。


 一瞬の判断を求められる最中で、この意見割れは致命的だ。


 幸い、追撃に飛んできた魔法は回避することができた。


 だけど、それ以後の指示がない。


 神を信奉するあまりに、彼らは上からの指示に従うことに慣れすぎた。


 それも大司教の派閥の人間で神殿内を染め上げてしまったことが仇となった。


 指示には即座に反応し行動は出来ても、自分で考え行動することを放棄してしまった人というのは茫然自失と言わんばかりに立ち尽くすしかない。


「高魔力反応!?先ほどの数倍の魔力を感知!」


 言い争いをしている場合ではない、だけど、攻撃を防げたことによって一時の猶予ができてしまったことがダメな方向に流れを作ってしまった。


 反撃をしないのなら、敵は一方的に攻撃をするだけのこと。


 先ほどの攻撃は様子見と言わんばかりに、さっきよりも魔力を込めた攻撃が用意された。


 それはより一層、大司教たちに判断を迫る結果となった。


「ええい!こっちも攻撃の準備だ!!」

「馬鹿ですか!?あんな攻撃を正面から受けて立つ必要などありません!!回避です!!即座に回避です!!」

「回避が間に合うわけないでしょう!?防御に全神力を集中させなさい!」


 だけど、性格が違う三人ががやがやと騒ぐだけで、決断をするという流れが来ない。


 おろおろと取り乱す聖女、指示がなくどうすればと困惑する司祭たち、神に助けを乞う神官、ただただ懸命に聖歌を歌う少年少女。


 神聖な場所なのに、どこよりも混沌と化す神殿の空気。


「攻撃、来ます!!」


 そんな空気の中で張り裂けそうな声で、攻撃の報告をする司祭。


 攻撃が打ち出され、そしてそれはさっきよりも威力が高いことが証明されている。


 刻一刻と時間だけが消費される。


 無駄な時間は、窮地を作るだけ。


「大司教様!?ご指示を!」

「迎撃だ!!」

「いいえ回避です!!」

「防御結界を!!」


 だけど、ここにきて土壇場で窮地をひっくり返すような行動を起こすことができてしまった。


 指示に従うことに特化した人材ゆえか、だったら全部やればいいのでは?とだれかが行動を起こしてしまった。


 回避しながら防御結界を展開し、攻撃をするという離れ業を。


 ゆっくりとだが、浮遊要塞ゴリステンデは空を横に動き、それによってわずかであるが攻撃の正面から離れることができた。


 完全回避とまではいかない。


 だが、攻撃を逸らすこと自体は可能な範囲に行くことはできた。


 回避をしながら大結界を展開。

 結界に角度をつけて、斜めに配置することで、正面から飛んできた大魔法を結界で逸らす。


 それによって大魔法を正面から受けることなく、結界消耗を最小限にして攻撃を防ぐことができた。


 そして聖歌隊によって神力が貯められ、その貯められた神力を砦中央に設置されている主砲に装填する。


「発射体勢整いました!!」


 結果的に、大司教たちの横暴は最高の形で結果を出してしまった。


 カウンター気味に用意された報告に、大司教は一瞬、唖然としたが。


「う、うむ!神の威光を魔族どもに見せつけてやれ!!発射!!」


 結果良ければすべて良しと、姿勢を取り繕って堂々と宣言するのであった。



 今日の一言

 自信と過信は違う。




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] ミラクル現場対応。 ちなみに一度でもこれができちゃうと、以降その水準を求められるので注意
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