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712 そうは問屋が卸さないと言われた経験はあるだろうか

新年あけましておめでとうございます!!


本年もどうかよろしくお願いします!!


 


 手土産が、涙と鼻水で顔を汚した中年のおっさんというのはセンスの欠片もないだろう。


 冷静に見下ろして、腰が抜けて動けなくなっている三人の男たちはさっきから助けてとか、隣にいる男たちを互いに差し出し合って命乞いに精を出すことしかしていない。


「少し黙れ」


 聞いてて耳心地が良いとは口が裂けても言えないような言葉の掛け合いに、ただ一言で沈黙させて。


 軽い魔力の波動で意識を飛ばしておく。


「さてと、あとはここら辺の死体を処理しておくか。放っておいたら疫病の原因になるし魔獣も呼び寄せちまうからな」


 そして異空間から自動的に体にまとわりつき拘束してくれる紐を取り出して三人の男に向けて放り投げる。


「絵面が最悪だな」


 その結果、素直に気持ち悪いとしか言えない光景が生み出されてしまった。

 これを持ち帰る必要があるのかと、一瞬この場で処理しようかとも思ったが、情報源はいくらあっても問題はないかと思いなおして。


 魔法でここら一帯の死体を焼き尽くす。


「新手か?」


 そう思って魔力を練ろうとした、だけど、その瞬間遠くの山で魔力らしきものを感じた。


 それもかなりの距離があるのにもかかわらず感じ取れるほどの巨大な魔力。


 じっとその方向の山を見る。


「随分と手荒い挨拶だな」


 目元に魔力を供給してその山の方を見ようとした瞬間黒い閃光が光ったと思った。

 その直後に、黒い魔砲が放たれた。


 このままだとせっかく生け捕った人質が死んでしまう。


 だからそのまま鉱樹で切り裂くために魔力を練ってその魔砲に振り下ろした。


「なかなか」


 さっきの魔法とは打って変わって、随分と手ごたえを感じさせてくれる。

 ずっしりと感じる重さ。


 切り裂いてはいるが、次から次へと補給される魔力。


 なるほど、魔力でゴリ押しするタイプか。


「長距離タイプの魔導士か」


 それもこっちが近距離主体だと判断して、そう簡単に詰められない距離で狙撃できるほどの魔導士っていうとこっちの世界でも有数の使い手じゃ。


「後ろか!?」


 ないかと思った瞬間に背筋に走る怖気。


 嫌な予感という言葉に従って、即座に魔砲を押し返すのを諦めて人質を無理矢理掴んで横っ飛び。


 多少地面をこすっていようが生きていれば治療はできる。


 問題なのは。


「黒い鎧の騎士……こいつらの仲間ではなさそうだな」


 神の使徒にしては随分と禍々しい鎧を着こんだ来客の方だ。


 さっきの長距離魔砲はこいつじゃない別の奴がやって、こいつはさらに別の所から空間転移でやって来た。

 さっきの攻撃は空間転移特有の魔力の揺らぎを隠すための陽動攻撃か。

 いや、あれで人質を殺せるなら御の字といったところか。


 山の方の気配は今は隠れている。


 恐らく狙撃位置を悟られないように移動していると言ったところか。


「なら、その間にお前を倒すとしようか」


 援護までどれくらいの時間が必要か、そう時間はかからないだろう。


 軽い結界を男どもにかけてそこから、一気に相手の間合いに踏み込む。


 さっきの騎士レベルなら間違いなく仕留められるレベルの攻撃だけど、手ごたえは伝わってこない。


「受け流すか!」


 斬撃は斬る相手に刃を突き立てないと意味がない。

 鉱樹の刃を滑らせるように剣を巧みに使った防御に、目を見開かせて勢いを握力で方向を変えてそのまま相手の首に向けて跳ね上げるけど、それもバックステップで躱される。


 さっきの攻防は本気ではない様子見のやり取りだが、中々様になっている受け流しを披露してくれ相手の技量の高さを知れた。


 力を横に逃して、返す刃を準備できるようにしている用意周到さもわかった。


 さて、さっきの攻防で実力的に俺とどれくらいの差があるか。


「カハ」


 さっきまでそんなことを考える必要はなかったけど、こうやって手応えのある敵と出会えると言うことになると自然と口元に笑みが浮かぶ。


『……』


 そんな俺の感情の発露に対して相手は随分と寡黙な人物のようだ。

 いや、そもそも魔王軍に所属している相手と会話をしたいとも思わんか。


「これも躱すか!」


 だったら少しでも反応させてやろうと踏み込み、だらりと下げていた状態から切り上げ、その攻撃を見切った相手の反撃に合わせて、それよりも早い返しの刃、燕返しを披露したがそれを躱して見せた。


 身体能力、とりわけ反応速度がかなり高い、こりゃ油断したら普通に死ぬ。


 実力の底を見せていないのがわかるが、今のところの実力を加味すれば、この戦いには勝てる。


 そう確信できるが、相手の隠し玉次第ではその確信もひっくり返ることになるかもしれない。


 相手の装備もかなり優秀だ、じわりじわりと鉱樹を振るって相手の剣を削るが折れる様子は欠片もない剣に、掠って切れたはずの鎧が気づけば再生している。


 勇者か?


 いや、違う。

 闇堕ち勇者と言われればそれっぽいと思えるけど、雰囲気が違う。


 どちらかというと俺たち側の力のように感じる。


 だったら貴族連中の差し金?


 それも違う気がする。


 少なくとも俺と切り結べるような手練れが刺客として使える余裕はないはず。俺を仕留めることに労力を割くくらいならフシオ教官の前線に投入したほうが納得できる。


 だったら誰だ?


『……』

「たく、本当に面倒なことだなぁ!!」


 寡黙すぎる襲撃者の斬撃は思いのほか鋭く、そして重い。


 だけど教官と比べればまだ脅威は少ないと感じる。


 スウェイバックで切っ先を目の前で躱して、即座に踏み込み袈裟切り、それを半身になって躱され、返す刃で足を狙われる。


 正道の剣技をベースに、邪道も取り入れている実戦的な剣。


 相手の致命傷を常に狙うような剣術ではなく、手足といった戦うに不可欠な場所を狙ってきている。


 その点も勇者っぽくない。


 何というか、勇者たちの戦い方は基本的に派手なんだ。

 相手を倒す、そのことに重きを置いているような戦い方で、一撃必殺とかそう言う技を好んでいる。


 だけど、こいつは小手先の技と言えばいいのだろうか。


 よく言えば細かな技、悪く言えば卑怯な技。


 それを多用し、俺の攻撃の勢いを削ぎ、体力を削ろうとしている。


 そしてさっきから付きまとってくる違和感、いや既視感と言った方が良いか。


 俺はこいつを知っているような気がする。


 戦えば戦うほど、俺はこいつの剣を知っている。


 顔は黒い兜に覆われ見ることは叶わない。

 体捌きはかなり洗練され、こんなに戦える相手なら忘れるはずがない。


 だからこそ、こいつは誰だと思わざるを得ない。


 寡黙な騎士。


 それは自分の情報を与えないように立ち振る舞っているからか。

 それとも元からの性格か。


 特徴を掴ませてくれないから、どんどん疑問が俺の脳裏に溜まっていく。


 誰だ?


 その疑問がある意味でこいつを知っていると確信させてくれる。


 イスアルでの知り合いはほぼいない。

 その中で実力者となると、本当に知らないと言わざるを得ない。


「ちっ時間切れか」


 様子見をし過ぎた。


 咄嗟に飛び退き、さっきまで立っていた場所に再び魔法が突き刺さる。


 威力、射程ともに俺にダメージを与えられる魔砲。


 どれだけの実力者が送り込まれていたのか、そして俺がわずかに距離を開けた隙を目の前の騎士は見逃さない。


「させるか!!」


 片手で魔法を展開し、紫色の稲妻が程走り寝転がしていた人質に迫る。


 しかし全員を庇うことはできない。


 一番偉そうな男が稲妻に焼かれ、痙攣した後に肉に焼ける匂いを漂わせている。

 あれはダメだ。


 完全に致命傷になっている。


「目的はこいつらの口封じってところかね」


 どうやらこいつらは口を割ってしまったらなかなかマズい情報をお持ちのようで。


 それなら俄然こいつらを回収したくなってきた。


 おまけにこいつの手札を見ることができた。


 純粋な剣士かと思ったが、違う、こいつは魔法剣士だ。


 魔法と剣を使うオールラウンダー。


 俺と似たような系統戦闘スタイルの持ち主?

 だとしたら余計に誰だと言う話になる。


 魔法剣士というのは意外と少ない。シンプルに魔法と剣技を両方を鍛えないといけない分労力がかかる。


 実際、教官二人も魔法と体術を使うことはできるがどっちがどっちを極めているかは明白。


 魔王軍でも、魔法剣士は珍しい部類に入る。


 ましてや、俺の知っているイスアルでの魔法剣士なんていない。


 俺たちの邪魔をするのだから敵側の戦力であるはず。


 なのに相手の正体がわからないというのはどう言うことだ?


 この既視感が勘違いという線も考えたが、それはないと直感が囁く。


 遠距離から援護が入るようになってただでさえ厄介だというのに、それに加えてこっちは人質を抱え込んでいる状態。


 普通に考えて撤退したほうがいいんだけど、この既視感を無視し撤退するのはしてはいけない気がする。


「相棒!」

 〝承知!〟


 だったらその既視感の正体を確認するだけのことだ。


 鉱樹と接続。

 魔力循環の強化。


 さらに、装衣魔法を展開。

 属性は雷。


 遠距離攻撃は黒騎士を巻き込まないように配慮されて攻撃をしている。


 だったら、攻撃するために相手と息を合わせる必要がある。


 黒騎士が攻撃し、密着しているときは援護攻撃は手薄になる。


 そして黒騎士が崩されそうになっている時には援護が入る。


 絶妙に息があったコンビネーション。


 それを崩すのなら。


「多少の無理はする必要があるよな!!」


 必要経費として割り切り、横薙ぎで黒騎士を退かせると、俺は歯を食いしばり。

 あえて、狙撃の攻撃を身に受ける。


 鎧越しに感じる衝撃、内臓にズシンと響くダメージ。


 痛みを感じるが、想定していた痛みよりはだいぶ少ない。


 これなら、耐えきれる。


 姿勢を崩すことなく、そしてわずか、そう、一秒にも満たないほんのわずかな時間。


 それがあれば。


「建御雷」


 狙撃手の方向に向けて雷を放つことができる。


『!』

「ようやく反応を見せてくれたな!!」


 そして、黒騎士を無視した攻撃は明確な隙になる。


 黒騎士よりも狙撃手を優先した攻撃によって、背を向けた俺に向けて剣が迫るのを感じる。


 このままいけば片方の肺は持っていかれる。


 だけど、それを読んでいれば。


「素直なやつだな!!」


 その攻撃を躱すことくらい、造作もない。


 右肺を貫こうとしていた刺突を魔力で保護した肘で逸らし、そのままの勢いを利用してその場で回転。


 下から上へと切り上げる逆袈裟を体を貫く刃の返礼として送り付ける。


 カウンターになる一撃を相手は躱すことは難しい。


 無理矢理体をずらすことで致命傷を避けようとしているのが見えた。


 だけど俺の狙いはお前の命じゃない。


 命を守ろうとする体の動きは自然とそれ以外の動きを抑制してしまう。


 すなわち。


「お前の面、拝ませてもらおうか!!」


 正体を隠す兜を切り払うことができるようになる。


 流石に顔を切り裂くような斬撃を容認するようなことはない。

 だが、顔を覆う部分を切り裂くことはできた。


 切っ先が顔を覆う部分の金具を切り裂く感覚を伝え、そして金具を切り裂いたことによって覆面が取れた。


「お前」


 剣を構えることを解かなかった黒騎士の面は割れた。


 そしてそこに出て来た顔に、俺は思わず目を見開く。


「火澄、なのか」


 そこにいたのは行方不明になっていた火澄だった。


 斬った時に、顔も切れていたのか血が滴り、顔が赤く染まっているが、それでもその容姿を見間違うはずがない。


 若干顔色が悪くなっていたが、そこにいたのは間違いなく俺の同期のダンジョンテスター、火澄透がそこにいた。






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あけましておめでとうございます。 そろそろ火澄の出番だと思っていました。
[一言] 火澄、お前ここで出てくんのか…
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