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711 堂々と名乗ろう

皆様の来年が良いお年になることを願いつつ、今年最後の投稿です!!

 

 教官と競争しているのだから、早々に決着をつけないといけないのだが、ここで堂々と名乗りを上げないのは将軍としての立場が許さない。


 鎧兜を身に纏い、そして移動している集団に向けて飛び込むように前に躍り出る。


「何者だ!?」


 いきなりの登場に、馬が嘶き、急停止するがこの軍を指揮している騎士はそこそこ優秀なようで冷静に俺に問いを投げかけて来た。

 警戒を怠らず、腰に下げている剣の柄に手が伸びている。


 見るからに怪しい奴が飛び出てきて、退くどころか堂々と立っているのだから当然の反応といえば当然の反応か。


 だけどそれ以外の反応は落第点だ。


 こっちの武具を見ればただ者ではないというのはわかるだろうに。

 目が肥えていないのか、それともたかが一人と油断しているのかもしれんが、この問いかけは俺にとって都合がいい。


「魔王軍」


 ゆっくりと背中に背負っていた鉱樹を抜き、魔力を解き放つ。


 重圧となった俺の魔力は周辺の空気を一変させ、個人なのに軍隊を圧倒する。


 そして魔王軍と名乗った段階で、相手は大きな号令をかけて弓を構え、そして矢を放ってきた。


「放て!!」


 名乗りを許さず、早々に葬ることを考える。

 なるほど、実戦経験が豊富な部隊と言うことか、そんな部隊が難民回収を言い渡される。


 世も末。

 国として終わっている。


 あの難民たちの姿を見て、何とも思わないのか。


 沸々とこみ上げてくる怒りをぶつけるように、躊躇いのない暴力に対して鉱樹を一閃。


 片腕で振るったのにも関わらず、その一刀で雨のように降って来た矢を消し飛ばした。


 どよめきが走る。


 たった一撃で格の違いを見せつけたんだ。

 怖気づくのも理解はできる、だけど、残念だ。


 今回ばかりはお前たちを見逃すことはできないんだ。


 一歩前に進む。


「魔法部隊詠唱開始!!盾構え!!矢を射続けろ!!」


 それだけで、相手は俺の実力をおおよそ把握したのだろう。


 少なくとも個人で勝とうという気概を見せないだけで及第点だ。


 個人にぶつけるにしては過剰とも言える攻撃と防御。


 みるみるうちに大盾の壁が出来上がり、人がその盾の壁に隠れていく。


 個人でそれに挑むことなどおこがましい、盾の隙間から長槍が突き出され、瞬く間に槍衾が形成される。


 その槍の砦を飛び越えるようにさっきの倍はあるだろう矢の雨が降り注いでくる。


「人の名乗りは最後まで聞いてくれよ」


 こっちはこっちで都合がある。

 だから、再び来た暴力に対してお構いなしに、俺は前にゆっくりと歩いていく。


 魔道具でも何でもない物理的な矢の雨なんて気にする必要はない。

 当たっても体に膜のように張り巡らせている障壁で弾ける。


 だけど、一々当たるのは魔力が消費するし、なにより鬱陶しい。


 再び鉱樹を振るって矢を消し飛ばしてその槍衾に向けて歩き出す。


「魔王軍、七将軍が一人人王だ。正面から行くぞ?」


 そして必要最低限の宣戦布告をした。

 名前を教える気はない。


 ただただ役職だけを魔法を使って声を拡大して指揮官には聞こえるように伝えたら礼儀の部分は終了。


 将軍と名乗って相手の動きが鈍った。

 まさかの魔王軍の最高戦力がこんなところでたった一人で行動しているとは露とも思わなかったのだろうな。


 彼らは俺からしたら運が悪かった、いや、従った相手が悪かっただけの存在だ。


 だけど、容赦をするかどうかは関係ない。


 ゆっくりと動くのはここまでで、魔力を回し、身体強化。

 大きく息を吸い込み、腹に力を貯めこむ。


 それだけで相手との距離を一瞬で詰められる脚力を得られる。


「キエイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 そして魔力を含んだ猿叫は空間を揺らし、叫ぶことによって得られた力をそのまま脚力に伝える。


 土を蹴り飛ばし、地面を抉るほどの脚力で得た速度はそのまま槍衾に向かい。


「ふん!」


 正面から鉱樹を叩き込み、槍もろとも大盾に守られていた騎士を切り飛ばした。


 叫び、踏み込み、そして切る。


 たったそれだけの動作が一瞬で行われ、隣の仲間が切り捨てられた騎士たちは、ほんの数秒遅れて現実を認識した。


 横目に見る騎士たちの眼は大きく見開かれている。


 いつの間にと疑問を抱くような視線、なぜそこにいるという驚愕の視線、あり得ない物を見つけた恐怖を抱いた視線。


 様々な視線を背に受けて、その場を制圧するために返しの刃を振るう。


 慌てて盾をこっちに向けようとするが、その程度の動きで俺が止まる物か。


 もし仮に、俺の斬撃を防御するなら概念防御くらいは施した魔道具を用意しろ。


 鉄の盾程度じゃ俺の斬撃は防げないぞ。


 燕返しは俺の十八番。考えるよりも先に体が刃の軌道を描くために筋肉と骨を動かし、振り下げた刃は地面スレスレでその軌道を翻し、そのまま横薙ぎへと軌道を変える。


 刀身を魔力で覆い、そして切っ先より先が魔力によって伸びた刃は、槍以上の攻撃範囲を誇る。


 盾の壁を切り裂いた上段からの振り下ろしで道を造り上げ、空間を造り上げた。

 そこに踏み込んで横に切り払えば騎士たちが上下に切り裂かれて血の噴水が出来上がる。


「魔法か」


 刃にはついていないが、飛び散る血を浴びたくないからその血を吹き飛ばして辺りに散らした。

 その一瞬だけの停滞を相手は見逃さなかった。


 いや、正直に言えば相手の実力を知りたかったから少しだけ様子を見た。


 本気で殲滅する気ならもっと奥まで切り込んでそのまま斬撃の嵐と化してこの騎士たちを蹂躙していた。


 だけど思ったよりも敵さんは思い切りが良かったようだ。

 味方を巻き込む範囲で空に魔法陣が展開されてそこから稲妻が降り注いだ。


「この程度」


 しかし、その稲妻も期待外れ。


 展開速度は並、威力は並より少し上程度。

 数を用意できたわけじゃない。


 たった一撃の雷を切り裂き、縦に切れ込みの入った稲妻は魔力へ還り、その上の魔法陣も切り裂いた。


「ま、魔法を切った?」

「化け物め」


 奇人変人の集まりである魔王軍であればこれくらいは常識なんだけどな。

 さすがにここまで斬撃特化に振り切ったような奴は少ないけど。


 エヴィアだったら同じことができたはず。


 人の形をしている人ではない物を見る騎士たちは、勇気を奮い立たせて剣を抜き、槍を構え、魔法を唱える。


「怯むな!!我らには神の加護がついているぞ!!敵将はただ一人単騎で軍に突撃してくるような愚か者!!我らの敵ではない!!」


 今のを見せても士気は高いか。


 何のために難民を追いかけてきたのやら、薬も決めている様子もない。

 だけど、宗教特有の狂気は感じる。


 なるほど、こりゃ意識高い系という名の頭がお花畑の軍ってことか。


 こりゃ、もしかして当たりを引いたか?


「とりあえず、あそこのうるさい指揮官は生け捕りか。ほかは……適当に地位が高そうなやつらだけ生かす感じでいっか」


 練度の高い軍を率いる指揮官は欲しい情報を持っているかもしれない。


 だけど、その情報を持っている奴だけを捕まえてさよならしても難民たちを捕まえる仕事は続行するかもしれない。


 仕事は難民の保護だけど、あんな姿の難民たちを見た後だ。


 それに俺も少し頭に来ている。


 冷静にこいつらと戦うための思考を働かせ、その結果考えたのは。


「うん。全部切り殺す」


 脳筋、ケイリィに聞かれたら間違いなくバカと言われる選択だ。


 普通に広範囲魔法を使った方が効率的だ。

 だけど、広範囲魔法を使ったら指揮官ごと殺してしまう。


 だからと言って中途半端な範囲魔法を使うと騎士たちが逃げ出してしまうかもしれない。


 だったら、一人一人地道に切り殺していた方が相手が勝てるかもしれないと希望を持つかもしれない。


「ただなぁ、相手が認識できるかね?」


 けれど、どちらにしても絶望は味わうだろう。


 勇気を振り絞って、雄叫びを上げながら切りかかってくれるのは良いけど。


「え」

「あえて聞いてやるよ。そんな装備で大丈夫か?」


 相手が切りかかるにはもう五歩ほど踏み込まないと俺に刃は届かない、だけど、俺はそれよりも外の間合いから切りかかることができる。


 踏み込み速度もそうだし、魔力によって伸ばした刃の長さがそれを可能にする。


 そもそもの話し、切り合って剣同士でぶつかったとしてもぶつかった瞬間に相手の刃は俺の鉱樹で切り裂かれ、その先にある鎧も紙切れのように斬り、そして体も両断する。


 それこそ俺の手元に感じる感覚は豆腐を切るよりも抵抗が少ない。


 相手からしたら、痛みもなく、いや、切られてから痛みを感じるくらいの感覚で切り飛ばされている。


「さてと、ざっと残りの兵士は三千とちょいってところかね」


 このペースで戦えば一時間もいらないだろうな。


 教官は容赦もなく、さっさと蹂躙するかもしれないな。


「少しペースアップするか。もし切り札があるならさっさと出すことをお勧めするよ。じゃないと、すぐに全滅するぞ」


 虐げて来たアホに対する気遣いはここまで、頭のスイッチを切り替えて、思考を戦闘に傾ける。


 日本人としての常識は今は眠っていてくれ。

 罪悪感はこいつらに抱かなくていい。


 こいつらは、死ぬことを覚悟して騎士になった。

 だったら、こいつらは敵だ。


 戦闘モードの自分を呼び出し、大きく、見せつけるようにため息を吐いた後の俺の顔はきっと能面のように無表情だっただろう。


 なにせ、こんなに心躍らない戦場なのだから。

 口元がピクリとも動かないほど、俺の表情は無を表現している。


 ただただ、鬱陶しい敵を屠るだけのマシーンと化している自覚が、ちょっと気持ち悪く感じる程度で、これも必要な戦いだと認識している。


 剣圧で敵の肢体を吹き飛ばし、足の踏み場を確保しながらの蹂躙。


 敵が泣き叫ぼうが、逃げようとしても聞き届ける耳は生憎と持ち合わせていない。


 鉱樹を振るったら再び地面を蹴り抜き、土が舞い上がり、爆音を響かせて騎士たちの横をすり抜けて、そこに血しぶきの泉を生み出す。


 その繰り返しだ、


 交差する間に鉱樹を何回も振り抜いているのにもかかわらず、騎士たちは気づいた様子もない。

 そして気づいたときには死が訪れている。


 これが実力差、これを防げるやつが果たしてこの軍の中にいるか。


「おいおい、どうした。手柄は目の前だぞ。この首取れればお前らが崇める神とやらは喜んでくれるぞ!!」


 油断はしない、慢心はしない、そんなくだらない感情で怪我をしたらスエラたちが悲しむからな。

 挑発をして相手を怒らせて冷静さを奪いつつ、こっちの思考は冷静に、そして相手の指揮系統を丸裸にしていく。


 最初に声を張り上げていたのは前線指揮官。

 それをよりも上の立場の人間がいるはず。


 それを見つければ、この戦いはもっと楽になる。


 もっと奥にいるのだろうけど、このまま奥に突き進んだら敵兵を取り逃してしまう。


「なら、もう一段階ギアを上げるか」


 ウオーミングアップにはちょうどいいか。


 ただ高速で踏み込み、鉱樹を振るうだけの簡単なお仕事、運よく剣を防御に回せてもその剣ごと切り裂いてしまえば仏が一人出来上がる。


 周囲の光景がゆっくりと進む最中、俺だけが通常の速度で戦場を駆け抜ける。


 脅威となるような魔力反応はない、このままいけば全滅させるのもさして時間もかからない。


 その予想は外れない。


 たった三十分の蹂躙で、一つの軍が全滅した。


 そして目の前に残っているのは、腰が抜けて命乞いをする醜い男が三人。


 勇敢に挑んできた前線指揮者とは比べることもできない権力にしがみついた愚者。


 そいつを手土産に帰還するかと思うのであった。









毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] まさかのエルシャダイネタがここでくるのか(歓喜)
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