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706 事態の変化についていけ

 

 時間が有限だと、最初に言った人物は誰だったか。


 誰でも使うような言葉だが、これはある意味で真理だと俺は思った。

 少なくとも前職のブラック企業に勤めているときは毎度足りないと思っていたか。


「開戦してからの状況の変化がえぐい」


 それがだいぶ変わった職種となっても似たようなことを思っているのは何の因果か。


 人間というのは基本的に時間に追われる生き物なのかね。


「情報が武器って言われる所以がわかるな」

「そうですね、ですがこれでも日本の技術を取り込んでかなりまともになったくらいですよ」

「そうなのか?」

「はい、過去の戦争ですと魔法が届かない距離は飛竜や早馬による伝達が基本でした」

「おお、原始的」


 樹王が正式に宣戦布告して、イスアルと正面から渡り合っている。

 その戦況を軍で共有し、伝達され続けているからこの場所にも次々に情報が入り込み、それを予想して事前にこちらの動きを決めないと悪影響を戦線に及ぼすと認識している。


「技術の革新は凄いな、情報伝達手段が改善しただけでこれだけの戦果か。随分と戦況はこちらが優勢のようだな」

「はい、相手との情報伝達速度の差によってこちらは常に先手を打てるようなっています。おかげで、偵察による情報収集からの報告によって敵の行動が手に取るようにわかり、対処ができています」

「後に手を出して先に出せるじゃんけんをしているようなものだな」

「そうですね、加えて、今期の将軍位は次郎さんを含めて才能豊かな方ばかりです」

「巷では社長を大魔王と呼んで、今世紀の魔王軍は七人の魔王がいるって噂されているからな。過剰戦力って言われるくらいだ。ま、だからこそここまで荒れていても対処できて反撃できるくらいの余力が生まれたと言えるんだけど」


 スエラの言う才能豊かにも限度があるだろ。

 過去の歴史を紐解くと、元々将軍位につける魔力適正はそこまで純度が高くない。

 精々が、五か六、低いと四の将軍もいた。

 スエラクラスでも才能豊かな将軍とされていた。


 その理由はなぜか、高魔力適正を持っている輩はたいていが自分が頂点に着くべきと考え他の高魔力適正者と争い倒れるからだ。


 しかし、今世紀の魔王軍の将軍は過去最大の適正レベルを誇る。


「うちの社長はよく、まとめているよ」

「歴代最強の名を冠する日も遠くはありませんね」

「ついでに、世界統合を果たした魔王としても歴史書に載るかもしれんな」


 魔王が七人集まったような、才能の塊の世代。

 それの頂点に立った社長。


 敵からしたら悪夢だろう。

 なにせ歴史通りの戦力で考えるなら、すでに魔王が決戦上陸し侵攻を始めているのだ。


 配下には過去の歴史上の定義で将軍クラスの実力者が複数存在し、それを指揮をしている存在が魔王ではない。


 そう言えるような七将軍の一角が動いたのだ。


「忙しいが、辛いと言わないのは戦況が有利だからかね」


 過去の将軍と比べると質が段違い。

 支援さえしっかりとしていれば、一人でも普通に前線を維持することはできるのだ。


「そうでしょうね、戦況が不利の状況であれば心境的に苦労が重なりますから」

「コーヒーを飲む暇くらいあるのが救いかね」

「ええ、おかわりはいりますか?」

「ノンカフェインの奴で頼めるか?」

「はい」


 その代償として、次から次へと戦況の変化が目まぐるしいので情報の確認が大変だが、スエラに頼んでコーヒーをすする程度の余裕はある。


 俺の周りに書類を浮かべて複数同時の確認するという同時並列処理をしないといけないが、それも将軍位としての責務なのだろうな。


「しかし、結構激しい戦闘が多いな。むこうも本気で来ているから仕方ないけど威力偵察のレベルじゃないぞ。こっちの戦場だと推定三千人を討ち取った計算になる」


 随分と血なまぐさい情報も読むのに慣れたモノだ。


「樹王様は比較的温厚だと聞いておりましたが」

「あくまで、将軍の中では温厚ってだけで苛烈具合で言えば温厚だとは口が裂けても言えない戦況だな。敵に情けも容赦もかけず、地図の地形を物理的に変えて殺戮陣地を構築している。戦略的に有利な地形をいくつでも用意できるってことだ。そりゃ戦線の拡大さえ気を付ければいくらでも攻め込めるわけだ」


 本部経由で、どこの土地を落として統治を始めたとか、どこの国とぶつかっていくらの兵士を倒したとか報告が上がってくるなかに、今回樹王が行った作戦の報告書も入っている。


 その書類を受け取り、目を通してみればその場にいないのにも関わらず口が引きつってしまいそうな作戦内容が書かれている。


「スエラならどう防ぐ?平地を行軍していた軍隊に所属していると仮定し、ダンジョンがあると仮定されていたエリアから十キロ先で野営を建設。その晩にいきなり野営地周囲が山となり、退路が無くなりその上から遠距離魔法の雨」

「戦力的に考えて、防ぐことは不可能です。おそらく見張りの人員も置いておりますが樹王様の実力から考えるとその見張りの役割は案山子ほどの役にも立っていません。十キロではあの方の射程圏内です。偵察も精霊を駆使していますから気づかれることもないので、あとは闇の精霊に頼み精鋭部隊を隠密で動かして、樹王様が山を作り出して物理的に不利な陣地を構築し圧殺。わざわざ遠距離魔法で部隊を全滅させたのは指揮官を捕縛し尋問をするためです。樹王様なら部隊ごと土石流で潰すことくらいはできますので」

「報告書読んだ?」

「ええ、それを踏まえて私ができることと言えば氷の魔法で体を冷やし仮死状態を偽装して死んだふりをして攻撃が当たっても致命傷にならないことを祈りその場をやり過ごし、生き残りこの情報を持ち帰ることくらいです」

「スエラでそれなら、この部隊はほぼできることはないな」


 その情報を元に地図に情報を書き込むが、すでに何枚もの地図が書き込みだらけになっている。

 樹王テリトリーで行動を起こすなら、範囲外から高速で接近し一気にダンジョン内に突入それで樹王に挑むという方法しか勝ち筋がない。


 報告書を振り、読んだか確認するとスエラは笑いながら頷いて新しいコーヒーを差し出しくれる。

 淹れたてのコーヒーと言うわけじゃなくて、ボトルに入っている奴だ。

 魔法で温めてくれているから湯気が立っているけど、この前線でドリップコーヒーは贅沢品だ。


 挽きたてのコーヒー豆を取り寄せるのも大変だしな。


 少し淹れたてのコーヒーが恋しいが飲めるだけだいぶマシだ。


「実力差というのは覆すのがそう簡単ではないと言うことです。不意を打たれた段階でそれを覆すことはほぼ不可能。奇跡に奇跡を重ねて手が触れる程度、そこからもう一度奇跡を重ねて部隊を半壊させて撤退ができる程度でしょうね」

「そうかぁ、まぁ、俺もその場にいても生き残れるかどうかだな」

「次郎さんならそのままダンジョンに突撃しそうですけどね」

「流石にそんなことはしない。むしろ全力で逃げて、対処方法を探す」


 ほろ苦い味わいを楽しみつつ、スエラと冗談交じりの対話。

 これが最近の癒しになっている。


 夜は夜で、楽しみはあるが万が一のことがあるから手加減しているし、少し欲求不満になっている。


 少しキリッとした顔で逃げるポーズを取ると彼女はクスクスと笑ってくれる。


「そうですね。普段からそうしてくれると私たちとしても安心できます」

「それができる状況ならな。さて、樹王の行動のおかげで別方向の作戦もうまくいっているな」


 そのまま流れで、別の報告書も手に取り仕事の続きをする。


「教官の方は、無事に薬の製造元を叩けているようだな。この調子だと、二、三日しないうちに帰還できそうだな」


 戦況的に見れば魔王軍優勢と言えるくらいの戦果は上がっている。

 だが決定打と言うにはほど遠い。


 まずは地盤固めのための牽制で、一度大きく攻めてから樹王は防衛戦に専念している。


 それは拠点であるダンジョンを防衛するための土地を作っているためだ。


 土地を作ると言うとおかしく聞こえる。


「教官の動きが目立たないほどに樹王の戦果があるうちに俺たちもできるだけやれることはしておかないとな」

「ええ、彼の方は地味だと言っていますが、地形を作り替えるような戦い方を地味だと表現するには無理があるかと」

「だなぁ、魔法の爆発のような派手さはないが地面が年月以外の現象で変化していくさまが目に見えてわかるのは派手だよな」


 普通なら整地して、砦などを作ることが定石なんだけど、樹王の場合は文字通り土地を作り出すのだ。


 やろうと思えばエベレストクラスの山を作り出すこともできる。

 文字通り地形を変化させることができるのだ。


 それを駆使し、ダークエルフの寿命の長さを生かして牛歩戦術のように徐々に徐々にと土地を侵略していく算段だ。


 本当に、気が長くなるような戦略だ。


 あくまで侵略のための地盤づくりでこの方法を使っている。


 本格的に侵攻するとなればもっと苛烈な攻めが待っているだろう。


「そんな自然災害を相手にしているのにも関わらずイスアルの連合軍の足並みはそろわずってか、数に任せて好き勝手に攻め込む連合軍のしりぬぐいを帝国軍がしている形と」


 その苛烈な攻めが行われるよりも前に、だいぶ敵さんは消耗している様子だ。


 教官が薬の生産地を次から次へと叩くことで相手の思惑を少しでも抑え込めようとしていることが霞むほどの戦果を樹王は叩き出している。


「勇者のような存在も確認していますが、ほぼ無策で攻めているようで我が軍の被害は軽微ですんでいるようです」

「まぁ、自分の陣地でガッチガチに守りを固めながら城壁を押し出して侵略しているようなものだからな」

「ちなみに次郎さんならどう対処しますか?」

「斬る」

「シンプルな答えですが、聞きたいのは具体的な話です」


 凡人では対処できないような戦略をする樹王の対処方法は限られている。

 少なくとも俺ができる方法はそこまで多くない。


「いや、本当にそうとしか言いようがないんだよな。本来であれば火が得意な魔導士を集めてその土地を焦土と化すような大魔法を昼夜問わず連発し続けるのが最適なんだが、俺1人で攻略するとなると、天照とかの熱系の装衣魔法を纏って木々を燃やし続けながら切り刻むしか対処できん。概念で切り捨てればどんなものでも斬れると自負していたが例外も存在することを最近知ったからな。具体的な方法となると、ヴァルスさんの次元結界で身を守りながら思考加速で限界速度を突破して最短最速で本陣に突撃するしかないな」


 その方法は脳筋と言うしかないゴリ押し戦法だ。


 そもそも、相手は自然災害を自由自在に操ることができる樹王だ。

 自然災害をどうにかするには、その自然災害を使わせないのが一番だ。


「この方法も樹王の居場所がわかっていることが前提だけどな。正直、正面からやり合うくらいなら暗殺する方が確率は高い」

「次郎さんを暗殺者として送るとは……悪夢ですね」

「趣味じゃないけどな」


 流石の樹王も、年から年中地形を操作しているわけじゃない。

 であれば、その防御が薄い時に攻めるのが定石。


「さて、味方の攻略方法は後回しだ。こっちはこっちでやることは多い。この戦況の変化は間違いなく周辺国の交渉に役に立つ。アンからの報告までに少しでも地盤を固めようか」

「はい、ではこちらの書類の決裁を」

「今日も山盛りだなぁ」


 そう考えたが、こっちの書類の山もできれば樹王みたいに形を変えることはできないだろうか。

 具体的には平地くらいには。



 今日の一言

 優勢に傾いたら、それに驕ることなかれ



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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