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704 派手に動きまわっていると自然と注目は集まる

 

 Another side



「ガハハハハ!!オラオラオラ!どうしたどうした!!」


 災厄というのは突如として現れるモノだ。

 空からやってきた巨体は、瞬く間に荷馬車を破壊しつくした。


 その巨体から振るわれる拳は、暴風を生み出し辺りにいる人間を紙吹雪のように吹き飛ばす。


 たった一撃、それだけで大鬼は目的を達成したが、それで満足せず唖然としている兵士たちに踊りかかって、一人、また一人とその命を散らせる。


 それに激怒した騎士たちは槍をもち、剣を持ち、杖を掲げそれを倒そうと行動した。


 しかし、無知とは罪。


 彼らの頭の中ではオーガが無謀に襲い掛かってきたと思っていた。

 その程度なら自分でもなんとかなる。


 なら過信は何だろうか。

 少なくとも言えるのは、自分の技量では何ともできない災害級である存在に挑んだことは無謀だったのだろう。

 その鬼こそが鬼の総大将だと知らずに攻撃を仕掛けたのが運の尽き。


「ケッ、歯ごたえのない奴らだな」


 ものの数分で全滅し、彼らの言う神の元に旅立ってしまった。


「おい!例のブツはあったか!?」


 その光景に戦っていた時は楽しそうにしていた大鬼は一気に冷めたと言わんばかりに冷たい視線を肉塊となった物体に向けている。


 しかし、戦いというよりは蹂躙という言葉が似合いそうな過程に不完全燃焼の大鬼は、すぐに興味を失い本来の目的の確認に移る。


「大将!ありやしたぜ!!」


 待機させていた部下たちを突入させれば、荷馬車の中から目的の粉を見つけ出して見せた。


「ふん、情報通りってか、全部燃やしておけ」

「あいあいさー!!」


 荷車を破壊したのはその中身を取り逃がさないようにするためだ。

 この薬が蔓延すれば、大鬼の求める戦いができなくなるのは目に見えている。


 誰が好き好んで、狂った女子供と戦いたがるって言うんだと、苛立ちを隠しもせず部下が確認した物体を見て、より一層機嫌を悪くして、鬼王ライドウは部下に指示を出す。


「随分と大事に抱え込んでたようだが、次はもう少し手応えがあると良いんだけどな」


 今回の襲撃で三回目、襲われているという情報は伝わっているはずだ。

 一般の部隊というにはかなり戦力が揃っていたが、手ごたえがあるようには感じなかった。


 これなら部下に任せても良かったかと思っていたが。


「あ?」


 遠くから何かが高速で飛んでくるのを感じ、その魔力の強さに少しだけ頬が上がるのをライドウが感じた。


「少しは手ごたえがありそうなやつらが来たか?」


 まだ薬の処分に時間がかかる。

 これの処分に動いているので撤退するのはまだ時間がかかると、心の中で言い訳を作りこの場に留まった。


「神の敵を滅せよ」


 一分もしないうちに、その魔力の正体は現れる。

 見上げた空の先に、白いローブに身を包んだ人物は減速せず、その大空から重力加速を利用して一気にライドウに切りかかる。


 その速度は、間違いなく人外の領域に踏み込んでいる。


 きっと、騎士たちがいたら歓喜の叫びをあげてこう呼んだだろう。


 勇者と。


 しかし、勇猛果敢に挑みかかるはずの勇者は、呟くような言葉に感情はなく、曇った瞳、幼い顔つきがローブの奥から現れてなお機械的に敵を排除しようとした。


「はぁ、んだよ。聖剣もそこまでいい出来じゃねぇし。外れかよ。いや、こいつが次郎が言ってた劣化の量産品ってやつか」


 その顔を見て、大いに溜息をライドウは吐き出す。


 一般人に対しては絶望の斬撃かもしれないが、大鬼にとってはたかが人外の領域。


 その鋭い斬撃も、ただ速いだけで機械的過ぎてその軌跡も簡単に読めてしまう。


 故に簡単に親指と人差し指で聖剣を白刃取りができてしまう。


 そのライドウの動きに、襲撃者は感情を表に出すことなく、光魔法を展開して攻撃をしようとした。


「アホか、そんな展開速度で俺に当たるかよ」


 さらに、無詠唱とはいえ展開速度が遅いことにさらにため息を吐き、ライドウは指を弾いた。


 空気の弾が指からはじき出され、幼い顔の顎に当たり、そしてガクンと意識が落ち、魔法が霧散した。


 たった数秒の交差、その戦いはまたもや大鬼の求めた戦いではなく、不満を貯めこむ結末となった。


「大将!こっちの処理は終わりやした。で、そいつどうします?」

「あ?こうするんだよ」


 そのまま意識が落ちた少年の心臓をライドウは貫いた。


「ま、そうっすよね」


 幼い少年を殺したというのに、部下は咎めなかった。

 部下は気づいていた。


 少年の魂はすでに消えかけの灯火かのように擦り切れていたことに。

 魂を燃やし続け、最早生きる屍に近い存在に成り下がっている。


「葬ってやれ」

「ういっす」


 こんな状態で生きていても、ロクなことにならないのだから、せめて引導を渡してやることが鬼たちができる優しさだと。


 部下に穴を掘らせれば、数分としないうちに簡単な墓が出来上がる。


「大将、こんな戦いばっかだと詰まんないっすね」

「わぁってるよ。んなことは」


 せめて来世はまともな人生を送ってくれと、願いを込めて酒をその墓にかけて、それで終わりにして。


「おし、次に行くぞ」

「おお!!」


 鬼たちの次の獲物に向かって移動を始める。


 街道は使わず、森の中を移動しているからその動きは相手側からも見つかる心配はなかった。

 しかし、被害がでているのなら敵も本腰を入れて捜索を始める。


「大将、最近検問が厳しくなってますな」

「そこまで無能じゃねぇってことだろ」

「山の中まで手が届いてないのはどうかと思いますがね」


 敵の情報をできるだけ手に入れて、相手の動きの裏をかく。

 それが戦の常道だ。


 本当だったらすべて真正面から打ち破りたいと言うのがライドウの本音だが、それをやるとこの薬の生産地が隠蔽されてしまう。


 だからこそ、こうやって奇襲をメインに戦っている。


「俺たちなら間違いなく山狩りを始めてますぜ?」

「ふん、あいつらにそんなことをできる根性があるかよ」


 怒りというのは持続させるのは難しい。


 最初に抱いていたライドウの怒りも、ここまで来るとある程度は治まっている。


 許したというわけじゃないが、激情は無くなっている。


 もっとも、もっと手ごたえのある敵がいればきっと別の意味で激情を抱いていただろう。


 こうやって森の中をスムーズにと言うには些か早すぎる徒歩移動で呑気に会話をできるくらいには穏やかな感情に落ち着いている。


「ですな!むしろ俺たちを見つけるくらいなら、そもそも拠点に大部隊を集めた方が効率がいいってもんですぜ」

「ちげぇねぇ!そっちの方が大将も楽しめるってもんで」

「あのへんなやつも多いかもしれねぇけどな」


 先頭を駆ける大鬼の背後で鬼たちが騒ぎ立てる。

 百鬼夜行とも取れる一行であるが、その音が外部に漏れることはない。


 術師が複数人で隠形の魔法をかけているためだ。


 術師当人たちからしたら、自分たちが宴会で騒ぐ際に周りの客に迷惑をかけないように身に着けた術であるが、戦闘でも役に立てるくらいに熟達している。


 宴会芸の延長線上にある術。

 彼らは元々正面切って戦うことを至上としているので、戦闘でこの術を使うことはまず無い。敵からしたらその思い込みから鬼族が隠密移動できると想定していない。


 騒ぎを聞き駆けつけてみれば鬼の姿が跡形もなく消えている。

 追跡しようと、その気性から予想して街道を捜索しても姿は見えず。


 いっそう混乱していることなどつゆ知らず、騒ぎながら鬼たちは行軍する。


「ちと、止まれ」


 その行軍を大将である大鬼が止め。


「樹王からの連絡か」


 空から飛んでくる大鷲を腕に止まらせて、手紙を受け取る。


「……俺もそっちに行きたかったぜ」

「なんですか大将?」

「樹王のやつ、開戦しやがったぜ?大々的に宣戦布告してダンジョンで拠点も作って敵の注目を集めやがった」

「てぇ、ことは、敵はそっちに集中してこっち側は手薄になるってことですかい?」

「ああ、つまんねぇ戦いがより一層つまんなくなるぜ」

「次郎のアンちゃんなら楽できて嬉しいって言いそうですが」


 その内容は開戦の知らせ。

 樹王の性格上、好戦的な動きはしないと思っていた。


 しかし、ライドウの予想を上回って彼女は開戦に踏み切った。


「その次郎が手を回したんだろうよ。きな臭い動きでも掴んだろうぜ」


 戦線が大陸から、イスアルに動いた。


 ここから先は止まるのは終戦する時だけだ。


「急ぐぞ、こんな面倒な仕事とっとと片付けるに限るぜ」

「へい、と言っても、もう目と鼻の先なんですがね」


 本格的な大戦に出遅れるのは正直ライドウからしたら良くない展開ではある。


 だが、仕事を放り投げるようなことはしない。


 この鬼たちにとって山の一つや二つ、どんなに険しくたって走って超えることなんて造作もない。


 山の頂上から見下ろしたのは麦畑のような光景。


 ただ、そこで働いている奴らが騎士と司祭でなければ農村としてライドウたちも見逃していただろう。


「ここか、随分と辺鄙なところに作ってやがるな」


 山の頂上からだとかなり離れているはずなのだが、彼らの視力は余裕で陣営を見通すことができる。


「お、こっちに気づいた奴がいるな」

「向かって来ますぜ大将」

「そいつはいい、ここから先は真正面から行くぜ」


 その農地を守るのはさっきの輸送隊とは比べ物にはならないほどの数。


 数千単位で展開する部隊に対して、鬼たちはニヤっと笑って。


「いよ!待ってました!!」

「さっきは暴れられなかった分ここで晴らすぜ!!」


 こっちが少数であることを忘れたのではと思うくらいに、歓喜の声を上げるのであった。


 ある鬼は拍手し、ある鬼は指笛を拭く。

 ある鬼は武器を掲げ、ある鬼は獰猛な笑みを浮かべる。


 意気揚々、戦うことに対して彼らに躊躇いはない。


「おし!行くぞ野郎ども!!銅鑼を鳴らせぇ!!」


 大鬼の掛け声一つで雄叫びを上げて、開戦の銅鑼を慣らす。


 山の頂上からけたたましい音が鳴り響き、騎士たちが慌て防備を敷くが、それよりも先に鬼たちはふもとまで降りていた。


「大将!勇者モドキが来やしたぜ!!」

「俺が相手する!!お前らは雑魚を蹴散らせ!!」

「あいさー!!」


 前線に立つのはどっちも最強戦力、殺気と魔力を滾らせて正面からぶつかり合う光景はこれぞ戦の花形。


 一番槍として突撃してくる能面のような無表情な少年少女は、機械的にその身体能力に物を言わせた高速戦闘で鬼王に切りかかってくるが。


「しゃらくせぇ!」


 瞬く間に蹴散らされる。


 全て心臓を拳で一突き。


 こんな虚しい戦いなんてすぐに終わらせてやると、容赦を一切捨てた鬼の拳は命を狩るには十分な威力を披露した。


 そして鎧袖一触で最強戦力を倒されてしまった相手側に動揺が広がる。


 その隙を他の鬼たちが見逃すはずがない。


「ハハハハ!こんなつまんねぇ戦しかできねぇお前たちは死んじまえ!!」

「ガキの未来を潰してまで戦いたいんだろ!?ああ!?」

「女子供を盾にしないと前に出てこねぇやつはどこだ!」


 怒りに身を任せるのではなく、怒りを活力にした鬼たちの蹂躙。

 そこに数の差なんて関係ない。


 相手の方が多かろうと、怯みもせず敵を屠る。


 彼らだって怒りを感じる。


 自分たちが配った野菜を、涙を流しながら頬張り、明日を生きようとしていた光景を知っているからだ。


 だからこそ、こんな狂気に染まるようなもので人生を壊す輩を鬼たちは許さない。


 それに関わった奴らを全員屠る。


 それだけだ。



 今日の一言

 大々的に注目を浴びる必要がある時がある



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] キオ教官と鬼達かっこいい。 次郎が師と仰ぐ理由がわかる気がする。 敵なら生粋の武人であるキオ教官に葬られて幸せかも。 [一言] マジで更新楽しみにしてます。 お身体ご自愛ください。
[一言] 鬼王の怒りが晴れる時は来るのか? 現実でも戦闘薬と称して兵士に薬物投与している戦場もあるからなあ。宗教が絡んだ戦争なんてろくでもない。
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