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703 嫌な結果を待つ時間程ストレスは溜まる

 

「教官、とりあえず集まった情報の中で発覚した生産地のリストです。どうやらかなりの戦力が集まっているようなので、この際に削れるだけ削ってきてこの後の仕事を楽にして来てください」

「ガハハハハ!お前も言うようになったな!!おう!任せとけ、今の俺の拳は容赦はないぜ?」

「それは頼もしいことで、あと、こっちも」

「あ?」


 今日は教官と約束した三日後。

 物資の調達とそして薬の生産地の調査を高速で済ませて、準備し、教官を送り出す日だ。


「万が一のことがあれば、樹王のエリアに避難できるように要請しておきました。その合流地点が書かれている地図です。もし、難民も一緒に引き連れる場合はこちらにお願いします。そしてこちらの魔道具に信号を発信してくだされば空輸で物資を輸送できるように手配しておきました」

「はっ、何でもお見通しってか?」

「あなたの気質を知って、無理と無茶をしそうだなと予想しただけですよ」


 最後に地図と魔道具の入ったカバンを渡せば準備完了だ。


「けっ、お前、最近生意気になって来たな」

「鍛えられてますので」

「もうちっと俺の方によってきてもいいんだぜ?」

「以前、フシオ教官にも同じことを言われましたよ」

「なるほど、なら帰ったら久しぶりにヤリ合おうぜ」

「楽しみにしてます」


 長話は今後の予定に支障が出る。

 コツンと拳を軽くぶつけ合ってから教官は馬車に乗り込み。


「行くぞ野郎ども!!」

「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」


 あれで一応隠密性と機動性に優れた面々なんだけど、どう見ても世紀末の暴走族のような集団に仕上がってしまった。


「まぁ、仕事はできる面々だから多分大丈夫だよな」


 頭をカリカリと掻きながら、きっと俺の顔は呆れ顔を浮かべているだろう。


「さてと、アン、報告を聞こうか?」

「はぁ、あたし、これでも裏社会でも気配を消すのは上手い部類だって自負してんだけど、なんでそう簡単に見つけられるわけ?」


 その顔のまま振り返って物陰に話しかけると、疲れた顔で腕を組んだアンが姿を現した。


「経験だな、なに、下手ってわけじゃないから安心しろ」

「見つかってる時点で安心なんて出来るわけないじゃない。上から訓練しろってうるさく言われる身にもなってよ」

「なんなら、レベル上げの教官用意してやろうか?命が、二、三個あればとてつもなく強化してくれる人だが」

「遠慮しておく、そんな訓練するような相手だとあたしの特技も通用しなさそうだし」


 そしてゆっくりと歩きながら俺に近づいてくる。

 重心をわざと崩して、暗器を隠していることを誤魔化しているのか。


 パッと見てわかるのは足首の所と、マフラーの中、あとは袖と背中もか?


「そうやって、視線で隠し場所を確認しないで、全部正解なのが腹立つ」

「あとは含み針か」

「撃つわよ?」

「躱すから無駄針になるぞ?」

「はぁ、これだけ接近して当たる気がしないような奴がいる組織に喧嘩を売ってるあいつらが馬鹿だと再認識したわ。はい、これ」


 分かりやすく視線で暗器の場所を確認しているので、さらに呆れた顔をされたが、次回はもっと気を配って隠そうと努力してくるから、結構楽しくて止められない。


 気だるげにしていて、目元にも隈を作っている。

 超特急で仕事を頼んだから仕方ない。


「勇者の伝承に関して裏どりしてくれてってことだったけど、教会の深部には流石に入り込めてないからわかる範囲の資料だよ。こんな資料、魔王軍でも手に入るでしょう?」

「いや、その思い込みを無くしたかったからこれはありがたい」


 あの日、嫌な予想を思いつき、そしてその可能性を否定したかったから俺の権限で暗部を全力で動かした。


 礼を言い、その調査結果を受け取り、先んじて読んでいた魔王軍の資料と照らし合わせて、俺は大きくため息を吐いた。


「その様子からして嫌な方向に予想は当たった感じかしら?いいの?部外者のあたしにそんな情報を渡して」

「どっちにしろ巻き込むことになるだろうから、知っておいてくれ」

「ちょっと用事を思い出したわ、そうね、半年くらいで終わる用事だから別の奴にお願いして」

「残念、魔王軍からは逃げられない」


 そして綺麗に踵を返したアンの肩をしっかりと掴む。


「止めておくれ!?あたしにだって惜しい命はあるんだよ!?あんたの言われた通り調べた内容に関係していることなら間違いなく厄介事じゃないか!!しかも、命がいくつあっても足りないタイプの話だろ?」

「良いことを教えてやろう」


 ジタバタと暴れる彼女を怪我させないように押さえつけつつ、笑顔を振り撒く。

 きっと俺はいつも以上に爽やかな笑顔を浮かべているはずだ。


 だから、アンよ、そんな怪物に遭遇したような絶望の表情をするんじゃない。


「人間、そう簡単には死なないぞ?死ぬほどつらい目にはあうかもしれんが」

「絶対に良いことじゃない!!知ってるけど!!というかその手の技があたしの特技だし!!」

「なら、俺がそんな便利な人材を逃がさないのも理解しているよな?」


 化け物染みた肉体を持っていても、心は傷つくことはあるんだぞ?


 社畜時代に鍛え抜かれて、防弾ガラス以上にタフになったガラスのハートだが。


「あーあーあー、聞こえない!!聞こえないったら聞こえない!!」

『大丈夫、脳内に直接語り掛けてやるよ』

「こいつ、念話で!?」


 とにもかくにも、話をしないとことは進まない。


「いやぁ!?犯されるぅ!?」

「はははは!安心しろ、ここに居る奴らは俺の性格と愛妻家なことを知ってるからな。仕事漬けにされるってことは理解していても、俺が犯罪者になるとは思ってはいないぞ」

「ちくしょう!!クソ、悪魔!人でなし!」

「悪魔じゃないが、半分以上人ではないのは確かだなぁ」

「こいつ最強か!?」


 結局強制連行で引きずる形でアンをとある一室に連れ込む。


「……優しくしてね」

「次郎さん?さすがに見境が無くなるのは困りますが」

「こいつ手段を選ばなくなったな。スエラを的確にたきつける方法を見つけやがった」


 その先で資料を用意していたスエラを見つけた途端に、ソファに座り胸をはだけ始めるアンを見てスエラがニッコリと笑いかけて来た。


「そこまで嫌なのか?」

「嫌だね。何が悲しくて、勇者に関わらないといけないんだよ。前の件で心臓を突き刺されたんだよあたしは?」

「良く生きてましたね」

「死ぬのは得意でね、そこから再生できるように技術を磨いただけさね」


 流石にそれはないと、ひらひらと手を振ってスエラの感情を鎮静化すると、舌打ちの音が聞こえる。

 生憎と色恋に関して言えば、高校生みたいにはしゃぐような歳ではないし、浮気したらとんでもないことになるデメリットも知っている。


 色仕掛けが通用するような関係でもないしな。


「その技術が必要になるかもしれないんだよ。ほれ、俺がまとめた資料だ。それを読んで気が変わらないなら帰っていいからよ」

「……読むだけだよ」

「それでいい」


 とにもかくにも、資料を読ませることは成功した。

 怪訝な顔で資料を読みだしたアンの前にスエラが紅茶を出してくれるが、どんどん眉間に皺が寄っていくアンはその紅茶の湯気が消えるまで一向に手を付けることはなかった。


「頭が痛い」

「わかる」


 何度も読み返していたから、随分と時間がかかったが、無言になってからの第一声は頭を抱えて頭痛を訴えることだった。


「バカげてる」

「それもわかる」

「アホだろ」

「だよなぁ」


 次々に出てくる言葉には同意するしかない。


「バカだバカだとは思ってたけど、もういっそすがすがしいほど馬鹿らしいことをやってるねあの国は」

「戦力を整えるという意味では間違ってはいないが、その後のことを考えるのなら馬鹿馬鹿しいほど愚かだ」


 それは、魔王軍側から見たイスアル、いや太陽神教の教えを調査した結果、見えた物を見たアンの言葉に俺も同じ感想を覚えたからだ。


「はぁ、やっぱり厄介事じゃないか」

「でも、見過ごすことはできないだろ?」

「それをわかってて見せたあんたは間違いなく性格が悪いね」

「善人だという自負は、生憎と持ち合わせていないな」

「けっ、良かったね、そういう顔をする奴ほど長生きするよ」

「そいつは重畳」


 その厄介事を聞いても退出しないと言うことは、彼女も今回の件に関してすぐに何とかしないといけないし、それに関われるのが彼女たちということは理解したからだ。


 諦め交じりのため息にも笑顔で答えてやると皮肉で長生きすると言われたので、それは素直に受け止めておいて。


「さて、うちの戦力が近いうちに暴れまわってそっちに注目が集まる。その間に敵の本拠地を探り当てたい」

「それがあんたらが負け続けた理由だね?」

「ああ、魔王軍は過去何度もこの大陸に攻め続けているが、一度も太陽神の喉元まで刃を突きつけたことがない。この戦争の終結はどちらかの神が倒れるかで決まる。ハッキリ言って向こう側が人の命をないがしろにするのはそこら辺が関わってくる。神にとって人は勝手に増えるモノだ。信仰というエネルギー源扱いをしているが、それでも自然回復できてそこまで重要視するものではない」

「重要なのは、自分だけってかい。宗教のトップたちは自分たちは安全だと思い込んでいるようだけど実際はいつ首を切られるかかわからないってのにね」


 彼女たちに頼みたいのは、神の居場所の調査。

 そう簡単に見つかるとは思っていない。


 なにせ、数千年単位で魔王軍が探しているのに見つからないからだ。


 しかし、今回は流石に派手に動きすぎた。


「その保身のための勇者の大量生産だ。向こうも一人の勇者に世界の行く末を任せるのが怖くなったようだ。質が多少悪化しようとも数で押しつぶせるようにしてきたと言うことだ」

「そこから情報が洩れちゃ意味ないだろ」


 頭が痛いとアンが言ったのはその情報管理がずさんだったからだ。


 過去の魔王軍の情報とは勇者との交戦履歴。


 当然の話だが、魔王軍ほど勇者と戦い続けた敵はいない。


 勇者の情報を誰よりも求め調べてる組織は、魔王軍が一番と言っても過言ではない。


 過去に魔王軍に合流した勇者もいるが、彼ら彼女らからの情報は言っては何だが色々と偏った知識ばかり植え付けられていて頼りにならない。

 だけど、戦った実績は嘘をつかない。


 その軌跡をまとめて、相手の本拠地を割りだそうとした。

 だけど、そう簡単には相手の本拠地は割り出せない。


 しかし、今回の勇者大量生産の動きで相手の動きと情報にほころびが生まれた。


 怪しいと思えるような箇所がいくつか浮かび出るほどに。


 罠ももちろん混じっている。


 逆を返せば罠を張らないといけないほど、相手はボロを出したと言うことだ。


 最強の防御は何かと考えればわかりやすい。


 それは居場所がわからないと言うことだ。


 どこにいるかわからない。

 それこそ最強の防御だと俺は考えている。


 闇雲に探すよりも焦点があっていた方が、探しやすい。


「それだけ、向こうが追い詰められていると言うことだろうな。こっちもその情報を拾うのはそう簡単ではないだろうけどな」

「援護はしてよ」

「もちろん、そのために最高戦力に暴れまわってもらっている。注意は自然とそっちに向くさ」


 さて、尻尾は掴んだぞ?



 今日の一言

 ストレスの原因は排除しろ。






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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