697 初対面の心を掴むのは第一印象が重要だ
時間は有限なれば早速行動と、教官の許可の元俺の仕事を開始する。
スエラに政務関連の中央の動きを頼み、俺は脚を使って現場に急行。
事前にアポを取って、各国の要人に順番に会いに行くと伝えてあったが……
「ようこそ、おいでくださりました」
「出迎えご苦労、魔王軍七将軍が一人、人王だ」
怖がられているな。
民の一部には魔王軍は良い存在なのではと考えられる風潮が高まってきているが、それはあくまで一部だ。
こう言った貴族たちは未だ懐疑的という心境は抜けきっていない。
代表で前に立ち、王城の城門で出迎えたこの男もそうだ。
笑顔で顔を取り繕っているが、頬の筋肉が少々硬い。
圧倒的な力を前にして表情を取り繕えている丹力は大したものだが、感情が追い付いていないな。
「細かい話は中でやらせてもらおう、案内してもらえるか」
教官に体面を整えるための護衛で、オーガチャンピオンを二体背後に控えさせているのもその理由かね。
俺だけでも戦力としては十分なんだが、一人で来るというのは魔王軍として体裁が悪い。
見た目が派手でなおかつ、威圧感がある存在と言うことでの選出だ。
他にも一個中隊のゴブリン兵団が付いてきているが、こっちはどちらかというと物資の護衛がメイン。
「かしこまりました」
ハッキリとした態度を見せないが、ここもいずれは改善していかなければならないものか。
今はこちらが上の立場の方が都合がいい。
だから、俺も堂々とした態度をとる。
スーツ姿という奇抜な姿に見えるかもしれないし、魔王軍から派遣された交渉人が人間と言うことで虚を突かれているようだ。
少し戸惑った視線が周りから向けられている。
まぁ、気持ちはわかる。
魔王軍と言えば、傍から見れば人ならざるものが多い。
ダークエルフや悪魔と言った人の見た目に近い存在も多い。
だが、人の立場でしっかりとした地位、それも将軍という立場の存在は俺しかいない。
何より、力を重んじる鬼族のオーガチャンピオンが人に頭を垂れ指示に従っている。
それ自体が彼らからしたらあり得ない話なのだ。
俺からしたら、彼らは上下関係以前に飲み友なだけなんだがな。
教官と殴り合えるというだけで、尊敬され、どうやったらそのタフさが手に入るかと聞かれ社畜時代の精神論で冗談を返したりするくらいに気軽な関係だったりする。
そんな彼らの大きな足を音を響かせながら通されたのは、おそらく貴族たちが会議で使うだろう豪華な部屋だ。
そこで一同立ち上がり、頭を下げ俺を出迎えている。
そして玉座は無くなっているが、それでも上座と取れるような位置に用意された席に案内され、俺が座ると同時に彼らも頭を上げて席に着く。
「さて、諸君、今我らには時間がない。世間話をして交友を深めたいという心情はいったんしまい込み、この国のための話をしよう」
まずは、一手。
時間を無駄にしないために、単刀直入の話を切り込む。
上司から世事はいらない。
代わりに効率的に話を進めたい。
ある程度の無礼は許すと許可を出すことによって、発言できる空気を作り出す。
「では、恐れながら。最初にこれだけは確認させてください。これは我らの総意と思っていただいて構いません」
そのおかげで、一回貴族たちは顔を見合わせるという動作を挟んだが覚悟を決めた顔で頷き合い、一人の貴族が挙手し発言してきた。
俺の席に近いと言うことは貴族の中でも地位が高いのだろう。
「話せ」
「はい、魔王軍の方々はこの国をどのようにするおつもりか。正直、この国は腐敗が進みゆくゆくはいずれかの大国の一部に組み込まれる物だろうと私を含めここにいる皆は思っておりました。しかし、あなた方魔王軍は、その腐敗を民の被害を出さず少々強引ですが取り除きました」
だけど、その地位の責任と自分の命が天秤にかかっている現状は精神に大きな負担をかけ、そしてそれが肉体に影響を及ぼしている。
冷や汗と、震える瞳。
俺が人であることで多少の精神安定が見込めるが、それでもオーガチャンピオンが左右に控えている段階でそれもあまり意味がない。
呼吸が浅くなり、酸欠になりかねないほど緊張している。
そんな彼を見て、今の魔王軍の動きというのは不気味に映った理由を答える必要があると思う。
「端的に言えば、この方法が一番利益につながるからだな」
「利益、ですか」
ここで一つ、綺麗ごとを並べることはできる。
友好を結び長い年月の恨みつらみを清算しましょうと笑顔を浮かべて宣うことはできる。
だが、果たしてそれが正解かと言われれば、今回は違う。
この人たちが求めているのはきれいごとではない。
求めているのは納得と理解だ。
綺麗ごとの裏に、何かが潜む。
それを理解している輩に美辞麗句を言うことは効果が薄い。
逆に警戒心を煽る結果となるのは大陸の方の貴族たちを相手にしてきたからわかる。
善良の精神を持っているが、清濁を飲み合わせて来た彼らにとって、唯々友好的な甘い言葉は気持ち悪く感じるのだろう。
「そう、利益だ。一つ問いを投げかけよう。戦争によって一番得られる利益とは何だと思う?」
「利益、ですか」
「ああ、そうだ」
だからこそ、相手にとって一番理解し、飲み込みやすくそういう理由もあるだろうと共感しやすい答えを提示する。
こちらとしても本来の理由を語ることはできないが、目的の一部を公開することは俺の権限でできる。
俺が視線で問いを投げかけてきた男に向けて利益という答えを与えて、その代価として問いを投げ返した。
そして、根本的になぜイスアルと魔王軍は戦っているかではなく。
イスアルと魔王軍が戦うことによって生まれる利益はなにかと聞いてみる。
「……戦争特需と言うことで、鉱物や食料などの戦時物資が交易として行き交うことによる経済の活性化ですか?」
「それもある。では、そっちはどう考える?」
「わ、私ですか?」
「ああ」
「……」
少し考えた後に出てくる手本のような答え。
そうだ、戦争をすることによって武器や食料は高く売られるようになる。
それによって儲けを出す輩はいる。
それが利益になることもある。
その答えは間違いじゃない。
だけど、利益はそれだけじゃない。
他の人の答えも聞きたくて、隣の貴族に聞いてみると驚いたあとに真剣に考え。
「新たな土地を手に入れられることでしょうか」
「そうだな、それも答えだ」
そして戦争が一番おこりやすい理由として挙げられる土地があげられ、俺は頷く。
土地が欲しい、そこにある資源物資が欲しい、その理由で戦争を仕掛けたのは人類の戦争の歴史で多く語られる。
「では」
「ま、まだあるのですか?」
「ああ、むしろもっと上げてもらわなければこの後の俺がいう理由を納得してもらえないからな」
しかし、それだけでは足りない。
魔王軍が求める利益。
その一部を公開するにあたって、これだけの理由では足りない。
次々に、この場にいる貴族たちに答えを求め段々と答えが減っていく中で彼らは真剣に考えた。
一人は言った。
美しい姫を手に入れられる。
間違いではない。
一人は言った。
復讐という達成感を得られる。
間違いではない。
一人は言った。
武功を上げることができる。
間違いではない。
一人は言った。
家格を上げることができる。
間違いではない。
次から次へと上げられる戦争で得られる利益。
それを一切否定せず、聞き続け。
一通り指定し終えた。
二週目がないことに安堵する表情を見て、俺はこういう。
「では、最後にこの場にいる皆に聞くが、今さっき全ての利益を重ね合わせすべて得たと仮定して。その利益は戦争で失ったものを補填できるほどの価値があると思うか?」
椅子に座りながら前かがみになり、テーブルに肘をつき、手を組み、口元を隠し、眼光を鋭くし、前を見る。
声を低くしているのは自然とそうなった。
「戦争で破壊された街、死ぬ兵士、巻き込まれた民、荒らされた畑、消費した食料、上がった物価、苦しんだ時間、失われたものを上げればきりが無くなるのが戦争というモノだ。ただ一つ勝利という結果を求めるだけの中で最悪中の最悪の行為が戦争だ。それで得られた利益と損失を天秤にかけて、それが満足し納得できる利益を出せると思うか?」
「……いえ、おそらくそれで喜ぶのは暗愚だけかと」
「俺もそう思う。世の中戦争を起こす奴らはこういうさ。必要だったから、国のため。そういう利益と損失の天秤が狂ったやつらが戦争を望む」
正直、日本人としての常識も混ざっているが戦争という行為に対して価値を俺は見いだせない。
戦って得られるものは、多大な犠牲と時間を費やして、生活を圧迫した結果で相手に暴力で勝利し、服従させるという乱暴な結果だけだ。
禍根と恨みを残し、世間からも後ろ指を指される行為。
これに何の意味があるのだ。
「そんな狂った損しか生み出さない。戦争を俺たちは今やっている。その中で俺たち魔王軍が得られる利益とは何か」
大義名分がなければ、ならないのだ。
「次代に、俺たちの子供たちに無駄をさせないための土台だ。恨みや禍根、聖戦なんてくだらない理由で命と時間を無駄にさせないための常識という名の土台を作ることだ。血を流して、命を失った。それの対価となるのはそれしかないと我らは考えている」
ユキエラとサチエラが、戦争というバカげたことを気にしなくていい世界。
気にしなくていい時代。
それを作るのが俺たち大人の仕事ってものじゃないか。
さっき、綺麗ごとを宣うことは確かに彼らの警戒心を煽ることだといったが、最初に利益と言う言葉を使ったことによって彼らも受け入れやすくなっている。
「戦争なんて、バカらしいことをしている暇があるなら。平穏な時代を作り田畑を耕せる時間を増やしてやりたい、そうすれば腹いっぱいになれる。戦争がなければ好きな女を口説いて幸せな時間を過ごせる可能性が生まれる。歌を歌って酒を飲んでも奥さんに叱られるだけで済む」
甘い言葉ではない。
いかに戦争が無駄かを説明するだけの話だ。
戦争をすればこれをすべて失うのだと、目で語りつつ言葉にする。
「俺たち魔王軍もその時間を望んでいる。そのために邪魔なのが、魔王軍という悪をすべて絶滅させれば解決だと思っているそんなバカみたいな思想を持っている奴らだ。俺たちはイスアル全人類を絶滅させる気は毛頭ない。なら、無駄な労力を割いて、戦う必要はない。この国を支援する理由は、最後に平和という最終目標を達成するために魔族と人が手を取り合うための場所をつくるためだ」
「……」
その言葉に難色を見せるのは予想通り。
俺の語った言葉など、所詮は理想論。
手を取り合って、仲良くしましょうと言うのは簡単だ。
「結局は力で支配してくるのだろう、と思っているだろ?」
信じられない。
その気持ちを隠している貴族たちに俺は笑いかける。
「事実、俺たちは血を流してこの地の民に平和を与えた。言葉で説得ではなく武力を用いた。そこは否定しない。否定してはいけない。だが、そうしなければここにいる人たちは話を聞かない。自分たちの都合を理由に話の席にもつかなかっただろうさ」
時には荒療治も必要だ。
そして、悲しいかな。今、この時代は暴力こそ最効率のコミュニケーション手段なのだ。
この拳を振り下ろされたくなければ話を聞け。
それを実感してもらっている貴族からしたらたまったものではないだろうな。
今日の一言
良い悪いにしても第一印象が重要
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




