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692 極めれば割と応用が利くようになる

 

 トファムと呼ばれる大樹型の精霊が要塞じゃなくて農業特化の精霊だと聞いて、一瞬脱力しかけたが、それをなんとか堪えて緊張感を保つ。


 ヴァルスさん曰く、農業地を守るために防御に特化しすぎて攻撃力はない。


 しかし、特化型の名の通り、防御力に関しては要塞と形容出来るほどにヤバいくらいの防御力を誇る。


 神の攻撃を耐えきったと言う時点でお察しだ。


 頼みの綱のヴァルスさんですら、その防御を突破することは不可能。

 そして持久戦に持ち込まれたらほぼ負ける。


「はぁ、仕方ない。ヤルか」


 手段を選んでられない状況で、躊躇う必要はない。


 この精霊を出された時点でスエラの実力を疑う必要は無くなったわけだが、それでも将軍としての立場がある俺はここで負けを認めるわけにはいかない。


「そっちには策があるの?あなたお得意の物理攻撃は現実的じゃないわよ」


 正直、この手は使いたくない。

 しかし、物理攻撃が通用しない相手なら仕方ない。


 収納異空間に手を伸ばし、取り出すは一本の剣。


「随分と魔力を貯めこんでるみたいだけど……え、これって」

「元々対教官用として用意した剣だ。あの時の戦闘じゃ、これを使ってる暇がなかったからお蔵入りになったものだ。そもそも高速で移動している教官に使う機会なんてできるわけがないけどな」


 それは一見すればただの鉄製の両手剣だ。

 両刃の直剣。

 シンプルな造りで、量産品と言われてもおかしくはない代物を見てヴァルスさんが目を見開いた。


 問題なのは、このシンプルな見た目で作られたこの剣に組みこまれた材料だ。


「ちなみに聞くけど、どこで手に入れたの?」

「とある筋でな。詳しくは言えないんだが……まぁ、貸しがあったから返してもらっただけだ」


 絶対に手に入らないわけじゃないが、入手しにくいという分野で言うなら相当レアな部類に入る。


 この剣の材料は、ミスリルやオリハルコン、アダマンタイトいった物質とは一線を越える代物。


 神鉄。

 神界にしかないと言われる、神剣の原材料だ。


 何故そんなもので剣が打たれているのか。

 ハンズの野郎がどうせならと伝手をたどって入手して、結構な額をふっかけてきた品だ。


 何かの役に立つだろうと言い値で買ったが、正直コツコツと魔力を貯めこむくらいしか最初は思いつかなかった。


 だが、それは一つのアイディアで覆る。


 神鉄の効果は純粋な硬度。


 ひたすら頑丈なだけが取り柄とも言っていいが、それ故にありとあらゆる術式に対応していると言ってもいい。


 であるならと、ハンズと一緒に考えた。

 どれだけ術式が封じられるのかと。


 これを使うことを想定していたのは物理防御なら魔王軍でトップと言っていい御仁であるキオ教官だ。


 その防御力はこの精霊トファムと比べて雲泥の差があるかもしれない。


 だが、正直この剣しか対抗手段が思いつかない。


 故に、これを起動させる。


「神剣の基礎となる神鉄、その剣に付与した術式はたった一つ。貫通」


 この剣の耐久度を考えれば攻撃力上昇とか魔剣染みた破格の性能を組み込むこともできる。


 だけど、その攻撃が当たっても攻撃が通らないと意味がない。


 であるなら、より必殺に近づけるために、概念を付与し続けて、ただ貫くだけの剣を完成させた。


 欠点としてありとあらゆる貫通術式を組み込んだ所為で、この剣、振っても切れない。

 出来るのは突き刺すことだけ、そして術式を限界まで組み込みすぎた所為で他の付与を施したらすぐに瓦解してしまう。


 故に、一回だけしか使えない。


 その代価として。


「こいつを防げたら……あんた、すげぇぜ?」


 この剣の貫通力はロマンを通り越してバカげた攻撃力を得た。

 ハンズを含め、これを作るのに協力した巨人族は口を揃えて言った。


 この剣は必殺の剣じゃないが、必貫の剣だと。


 ありとあらゆる防御はこの剣の前では無意味、矛盾を生じさせない。


 術式が起動し、神鉄で作られた剣が悲鳴を上げ始める。


 俺はそれを耳で拾いながら、俺は俺で肉体的に強化をする。


 この剣の威力は、純粋に俺の力に依存している。


 この剣をより真っすぐ、より力強く投げれるかどうかでこの一撃の火力が変わる。


「パイルリグレット、最大展開!!」


 よって、貫通術式を持った剣を持つ最大の活用方法がこれだ。


 術式を三十二個用意し、それを全て撃発させた頭おかしいパイルリグレットの威力をそのまま推進力に変えてやるというアホの極。


 こんな準備していたらキオ教官にぶん殴られて終了。

 ただ接近して刺しても、大したダメージにならない。


 正しくロマン砲。

 勢いがこの剣には必要なんだ。


「あなたの腕が無事であるのを祈っているわよ」

「そうしてくれ!!だから嫌なんだよこれ!!」


 それも限界を突破して、極限の勢い。


 そこから来る反動による激痛を考えると嫌気がする。


 怪我をしないことを最近意識しているのに、怪我をすることを前提とした攻撃をする。


 俺の心の中の方が矛盾していることに笑いがこみ上げる。


「全力で防御しろよ、スエラ!!」


 しかもそれを愛しい人に向けるのだから、虚しさも出てくる。


 加減も一切しない、防御だけを貫くことを考えた俺の最大の攻撃は、音を全てそれで塗りつぶすような大爆発音とともに放たれる。


 少しでも投げるタイミングをミスればその力は拡散し剣を破損させる。


 だが、激痛が走る前に投げた剣は俺の理想とする軌道を描き、パイルリグレットの勢いを受け継ぎ、音速を越えるための空気の壁を自前の貫通術式で突破する。


 この剣の恐ろしい所、万物を貫くことを想定しているがゆえに、空気抵抗を貫き、重力落下を貫くという減速の原因をすべて取り払う。


 故に、この剣は加速しかしない。


 一度放たれれば最後、この術式に止まるという概念は無くなる。


 咄嗟に張った結界など紙切れ以下の防御力でしかない。


 この剣がもたらす結果は二つのどちらか。


「行けぇええええ!!」


 相手の防御力が勝り、突き立てた瞬間砕け散るか。


 その防御を突破し、その剣としての役割を果たすかのどちらか。


 激痛の走る腕を抱え込んで、少しでも概念を後押しするために叫ぶ。


 相手は古代から生き残った大精霊。


 その防御にささげた年月はあっちの方が上。

 一朝一夕で作り上げたわけじゃないが、ジャイアントたちの施した術式が負ける可能性は十分にある。


 だけど、わずかでも勝てる可能性は存在する。


「ハッ」


 それを俺は知っている。


 思わず、グッとガッツポーズをとる。

 そして同時にポーションを一気飲みして、痛み止め代わりにしたら。


「ヴァルスさん!!畳み掛けるぞ!!」

「ええ、チャンスは今しかないわね」


 俺は鉱樹をひっつかみ駆け出していた。


 剣が生み出した戦果は、大樹に造り上げた大穴。


 全てを貫通したわけじゃない。


 だが、全てを防いでいたトファムの防御を破壊し、結果として、俺が用意した策は勝ち筋を生み出した。


 きっと防御を立て直すのに数秒もかからない。


 これを逃がしたら、もう何もできない。


「天照」


 そう思って、背後からかけられるヴァルスさんの援護によって思考が加速し、時間軸の枠から一歩外に踏み出る。


 この空間は一秒を十秒に引き延ばす。


 相手の十倍の速度で動ける俺は、スローモーションの世界を突き進み、出来上がった大穴を通り、大樹の幹に鉱樹を叩きつけることに成功する。


「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 スパっと綺麗に切れるわけじゃない。


 抵抗する大樹の肉体を徐々に焼き切るような攻撃。


 十倍加速であっても、これ。


 周囲の精霊たちが俺に気づいてこの攻撃を止めさせようとしているが、それでもこっちのが振りきる速度の方が早い!


 鉱樹を振り切って、より一層の攻撃の爪跡を残すことができた。


 天照の効果によって、幹に火種が残り、再生をさせない。


 ゆっくりと攻撃が迫ってきているのが見える。


 空中で足を固定、関節の各稼働領域を駆使し振り切った勢いを再利用。


 飛燕が空中で急旋回するかの如く、鉱樹の刃は返ってくる。


 さっき切り裂いたことによって、この大樹が切れることが判明した。


 そうなれば、もう切れないことはない。


 一刀一閃。


 切り込みが増えるたびに切りやすさが変わってくる。


 抵抗が徐々に無くなり、スムーズに切れるようになってくる。


 物理的な幹の幅を考えれば、人が持てるサイズの刀剣類で切れるような幹の幅はしていない。


 そもそも刀で木を切るなんて正気の沙汰ではない。


 しかし、現実では精霊の体はズタズタに切り裂かれている。


「はいはい、邪魔はさせないわよ!」


 背後に迫る攻撃も、空間転移で移動してきたヴァルスさんが防いでくれれば。


「キエイヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 神の塔をシバキ倒した俺の斬撃が本領を発揮する。


 あの時のようなオーバーブーストはしていないが、それでも筋肉が悲鳴を上げるほど高速で腕を動かしつつ、掘り進める。


 背後はヴァルスさんが守ってくれているから、この先は攻撃される心配はない。


 さすがの大精霊であっても自分の腹の中で攻撃できる術を持っているとは思いたくない。


 このままいけば、トファムを倒すのも時間の問題。


 これを防ぐには。


「そうなるよな!」


 この精霊を向こう側の世界に返すしかない。


 倒されるよりも先に、向こうの世界へ送還。


 それを判断したスエラ。


 切っ先は空間を切り裂き、俺は攻撃の手を止める。


 しかし、それは戦いの終了を知らせる合図ではない。


 ここで降参するような女性ではないのは重々承知、そしてあんな切り札を切ってもなおまだ手札があると踏んでいる。


「ハハハハ!やっぱりな!!」


 そして、大樹の次は積乱雲と思うかのような巨大な雲が空に現れた。


 魔力を感じる。

 間違いないこいつも精霊だ。


「あらら、テンプメも?あなたの所のお嬢さんどういう方法を使ったのよ」

「俺が聞きたいよ!!まぁ!!おおよそ誰が手を貸したかは想像できるけどな!!」


 しかもトファムと同等の大精霊が姿を現した。


 しかも、今度はあからさまに攻撃タイプの精霊だ。


 黒々とした雲に迸る雷。


 エネルギーをチャージていると言わんばかりに、帯電している。


「それであれも、農業に特化しているとか言わないよな?」

「あの子は違うわよ、あの子の特技は」


 そして警告も無しの落雷。


 大の大人ほどの太さの雷が数十本単位で降り注ぐ。


 雷を切ることくらいは出来なければ将軍なんぞやってられない。


 危なげなく雷を切り裂きつつ。


「リゾート管理ね」

「嘘だ!?」

「嘘は言わないわよ。あの子、元々神たちを楽しませる施設の管理をやってたんだもの。晴ればかりじゃ飽きるから、雨を降らしたり、雪を降らしたり、雷を降らしたりって無茶振りさせる毎日を送ってたわねぇ」

「なんで、精霊にもブラック臭が漂っているんだよ」

「大体神の所為よ」


 そんな精霊がいるのかとツッコミを入れてしまった。

 なんだよリゾート管理が得意な精霊って、普通に天候を司るとかでいいじゃねぇか!?


 おまけになんだか、同じ社畜として攻撃しづらい理由が出てきた。


 いや、攻撃するけど。


「本当にそっちの神ってロクなことしねぇな」

「あなたの世界の神様も似たような物じゃない?結構理不尽なことをしてるって聞くけど?」

「……」

「沈黙は肯定ってよく言うわねぇ」


 若干脱力したが、まだまだ戦うつもりのスエラに相対して気合を入れなおす。


「ちなみに、さっきのトファムとは夫婦だから怒りの分気合が入ってるわよ?」

「それは、何とも言い難い」


 そして、そのまま戦いに入るのであった。



 今日の一言

 一を極めれば応用力が出る。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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