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477 業務日誌 北宮香恋編 一

 疲れた。

 休日を同僚の尻ぬぐいのために費やしてしまった故に、身体的には疲れていないけど、精神的には疲れてしまった。


 本当だったら昨日は同僚であり、最近では仲良くなりつつある知床南を揶揄いつつ、着せ替え人形にして楽しむ予定だった。


 しかし、その予定も南が画策していた自分がいまアルバイトしている会社の上司への昇進祝いの安全性というか、プレゼントとして良いのか?と疑問に思ってしまった銅像、いや、あれは銅像なんて生易しいものではなく、完全な戦闘用ゴーレム。


 それの確認のためにわざわざ休みの日に会社に行ってしまった。


 会社自体は年中無休で開いているから問題はないけど、それでも休みの日に会社に行くのは何となく損した気分になった。


「はぁ、自分の性格が嫌になるわ」


 そんな行動を起こした理由は、自分でもわかっている。

 南が迷惑をかけていないか。


 何か変なことをしていないか。


 幼馴染であり、元恋人であった火澄透の面倒をよく見ていたことが癖になっている。

 知り合いや、友達からは面倒見がいいと言われ、母親からは苦労性ねと苦笑されながら言われた記憶がある。


 その苦労性が今回でも遺憾なく発揮されてしまったわけだ。


 私自身、その自覚がある。

 誰かが困っている時に、放っておけない。


 その時の態度が、少々気が強くなってしまうけど、それはちょっとした照れ隠しだ。


 だから、南がやらかした事にも、わざわざ休日に会社の地下街にまで足を運んだのだ。南を引きずりながらだったが。

 といってもメモリアさんが店にいたから問題はなかった。


 そして、そこでいろいろと事情を聞いていたら、買い物に戻る時間も無くなり、私も私で次の日には大学の講義があるから、そのまま南と解散した。


 そして次の日。


 大学の講義室で、私は大きなため息を吐いていると言うわけだ。


 私も大学4年目。

 今年で卒業して、そして就活活動を色々としないといけない時期になってきた。


「大きなため息を吐いちゃって、どうしたの香恋?もしかして就活うまくいってないの?」

「え?香恋が?やったぁ!!な、か、ま、ね!!」

「あなたたち」


 そんな風に昨日の疲れを表に出していると、講義の席の隣にこの大学で友達になった二人が座ってくる。

 前者はともかく、後者のはどうなのかと呆れてが混じる笑いをこぼしながら、とりあえずは。


「違うわよ、昨日ちょっと出かけて疲れただけ」


 就活がうまくいっていないと喜んでいた友人の方を見ながらやんわりと違うと否定してみれば。


「ええ!じゃぁ香恋は就活うまくいってるの!?私、もうエントリーシート十枚は書いたよ!?」


 私が就活にうまくいっていると勘違いされ、そのままずいっと詰め寄られた。


「まぁ、一応当てはあるわね」


 正直、私にとって就活と言うのはほぼないと言っていい。

 なにせ今の職場からそのまま正社員にならないかと誘いが来ている。


 今の年収は正直言えばどこの大手企業でも、そう簡単に払えるような年収ではない。


 私の現在の貯金で、新築のマンションの一室くらいなら一括で支払える。

 だけど、あの会社ならそもそも東京でわざわざ高い家を買うよりも、上司の管理している土地に家を建てた方が割安になりそうだし、上司や先輩が使っている社宅も何度か行ったが下手なマンションよりも設備が整っている。


 さらには、ダンジョンテスターとして現在は働いているけど、将来的には別のポジションも用意できると職場の上司であるケイリィさんから話を聞いている。


 勉強が得意なら研究職。

 流れ的にこのままダンジョンテスターを限界まで続け、その後は教官。

 さらには上司である次郎さんの伝手で、貴族であるエヴィアさんの秘書や、メモリアさんのトリス商会に入ることもできるとケイリィさんは言っていた。


 現役で戦い続けることはライドウさんや、アミリさんを見ている限り可能であるのは理解している。

とはいえ、将来的に結婚や出産をするときのことを考えると正直ずっと戦い続けることには少し抵抗のある私にとって他の選択肢があるのは少しありがたい。


 一応、他の企業説明会にも参加しているけど、これと言って魅力的な企業は今のところはない。

ピンとこないってやつだ。


 順当にいけばこのままあの会社に就職するんだろうなと思っている。


「あ、もしかしてそれってこの前道端でモデルにスカウトされたってやつ?」

「マジで!?」


 だけど、友人は私の当てをどういう方向で勘違いしたのか。

 そしてその話どこで聞いたのだ。


「マジマジ、この前友達と出かけてるときに見ちゃった。香恋がモデル事務所の人からスカウト受けてたもん!!」

「ええ!?でもまぁ、香恋だし納得と言えば納得よね」


 そう言えばそう言うこともあったと言えばあった。

 あれは何度目かの南と一緒に、あいつのファッションセンスを改善していた時の話だ。


 待ち合わせに遅れた南を待っている時に、話しかけられモデルにならないかと誘われたのだ。

 最初はちょっと嬉しいなと思わなくはなかったけど、よくよく考えたらあまりそう言う方向で働きたいとは思ってなかったので名刺をもらったけどそのまま放置していた。


 あのスカウトもあれから会うこともなかったし、そこまで本気ではなかったのだろう。


「だって、最近の香恋本当に綺麗になってきたもん」

「そうそう!昔も結構スタイル良かったけど、いまじゃそれに磨きがかかったって言うか」


 そしてこの友人たちの中では私はモデルになることが確定しているのだろうか。

 綺麗と言われること自体は嬉しいけど、このまま行くと大学中に私がモデルになることが広まりかねない。


 しかも、その綺麗になったという理由がモデルになるために色々と頑張っているのではなく、今の仕事についているからそうなっていると言うだけだ。


 ダンジョンテストは色々と過酷な面がある。

 魔法使いだからと言ってそのままぼーっと立って魔法を使えば良いと言うわけではない。


 戦局を見て、その都度的確な魔法を使わないといけないし、場合によっては全力で走ってポジションの確保もしないといけない。


 私の所属しているパーティーだとほとんどないけど、それでも敵に抜かれて苦手な近接戦闘をすることもある。


 そんなことを可能にするために自主トレーニングをバイトの時間中にできるのだから体に余計な脂肪がつく心配はない。


 さらには、魔素だ。


 魔素と言うエネルギーに関して、色々と聞いてきたけど、ケイリィさんやスエラさんといったダークエルフの観点から見ると生命力と言い換えられるらしい。


 魔素は世界を構成する生命元素。


 それを魔紋で体内に取り込むことで、肉体を活性化し強化する。

 その過程で、美肌効果があったり、血行が良くなったり、老化をある程度防げたりと、戦い以外に美容効果もあるのだと、一緒にご飯を食べている時に聞いた。


 多分友人たちが言っている私が綺麗になった理由はそこら辺だ。


 それに関しても自覚はある。

 何せ私が働いている会社の女性は、皆が皆、種類は違うけど容姿が整っている。

 おまけに私が仲良くしている、同性のダンジョンテスターたちも、私と一緒でドンドン綺麗になっている。


「ねぇねぇ!どんなことしてるの!!やっぱり化粧水とか色々と試してたり、ジムとかに通ってるの?」


 ある意味で、その両方を兼ね備えかつ、普通にやるよりも劇的な効果を見込める職場だって言ったらこの二人はどういう反応をするだろうか。

 契約上、うちの会社のことに関しては原則社外秘。


 次郎さんとかがやっていたリクルート活動は、その原則の中での例外と言うことになるけど、私はこの二人をあの会社に誘う気もないので適応外。


「そうね、睡眠と運動には気を使ってるわね」


 だからこそ、当たり障りのない返答でごまかす。


「それだけで、この肌!?嘘だ!!絶対に嘘だ!!最近バイトを増やしていることを私は知っているんだぞ!!絶対に高い化粧水を買うため、そして会員制の高級スパとかに行くためだ!!」

「何言ってるのよあなたは」


 だけど、そう簡単にじゃぁと別の話に移ることはなかった。


 同じ女として理解できるけど、綺麗になるための努力を惜しまないのは女性としたごく当たり前のことだ。

 友人は何としても私が綺麗になった理由を聞き出すために前のめりで私に詰め寄ってくる。


 一応、私の最近の行動を考えれば筋は通っている。

 遊びに行くときもバイトと言って断っている頻度は多くなっている。


 その理由は言えない。

 言えるわけない。


バイトの守秘義務もある。

 それ以上に年下の高校生に片思いして、その子に会うためにバイトの回数を増やしているなんて言えるわけがない。


 この二人に聞かれたら絶対に面白いネタだと言ってからかってくるのは目に見えている。


 だからこそ、この方向に勘違いしてくれるのは正直助かる。


「さぁ!白状しろ!!どうやったら、そんなに美人になれるのよ!!そしてその美貌を維持できるほどの資金を確保しているの!!」

「その言い方止めて。私が変なことしているように聞こえるじゃない」


 だけど、この言い方は流石にとめる。

 私がいかがわしい方法でお金を得て、それで綺麗になっていると言われているようで気分が悪くなる。


「落ち着きなさいって、いくら友達だからってその言い方はないよ」


 もう一人の友人も流石にそれはないと注意してくる。


「う、ごめん」

「いいわよ、謝ってくれるなら」


 もともと興奮すると勢いが増す友人で、そこに悪気がないのも知っているし、何よりきちんと謝ってくれる。

 そう言う所を含めて、友人として付き合えるのだから、私も深くは言わない。


「ごめんね香恋、この子も結構お祈りメールが届いているから気が立ってるのよ」

「早い子だと、もう希望会社から内定もらっている子もいるしね」

「そうそう、インターンで大学に来てない子もいるしね」


 今の時代、希望する会社に内定をもらえるのは中々難しい。

 恵まれた立地でそれ相応の給料をもらえるとなるとやはりさらに倍率は高くなる。


 私は恵まれている部類だと言う自覚はある。

 そのことも含めて、口にはしないけど、心の中で友人に大変だと同情する。


「うー、だれか私に良い職場紹介してよ」

「はいはい、地道に頑張るしかないわよ」

「これが余裕か、香恋のうらぎりものー」

「こら、また口が悪くなってるわよ」


 この二人に適性があれば誘うこともいいかもしれないけど、その適性を確認することはできないし、そもそも荒事がメインになるような職を友人に進めることは少しためらってしまう。


 そう考えると、いくら当時恋人とはいえ私の幼馴染はどういった考えで私を今の職場に連れて行ったのだろうか。

 透が働くならとなし崩しで働き始めたのは今でこそ後悔はしていないけど、最初はこんな危ないことをと思い、止めるきっかけを探したほどだ。


 そんな職場にこの二人を誘うと言うのは、私には無理だ。


 だから。


「大丈夫よ、頑張っていればいずれいい会社に巡り合えるわよ」

「香恋は良いよね。モデルの仕事があるから」

「モデルの仕事じゃないわよ」


 慰めの言葉と一緒に、とりあえずモデルではないと一応否定しておき。


「私がやってるのは、デバッグ作業ね。とある施設の点検員のバイトよ」


 かなり濁した感じでバイトの内容を伝える。

 嘘ではないし間違ってもいない。

 だけど的を射ていると聞かれれば、大枠に当たっていると言うだけの話し。


「えー、それって結構大変だって聞くよ?同じことを延々と繰り返す奴でしょ?」

「私もそう聞いてるけど、そんなに給料いいの?」

「私のバイト先が特殊なのかもね。拘束時間もそこまで多くないしそれなりに給料はもらえてるわよ」


 そしてのらりくらりと当たり障りのない会話でその場をやり過ごす。


「うー、私もその仕事する。紹介して」

「残念ね。今は人員募集してないのよ。募集があったら声をかけるわよ」

「絶対だよ!!」

「もうこの子、なんでもいいのね」

「東京で就職できないと、地元で就職しないといけないの!!崖っぷちなの私は!!」


 そして友人には友人の事情がある。

 東京出身の私にはわからないけど、地元の方が色々と知り合いがいていいのではと思わなくはない。


 だけど、友人からしたら東京で就職することが何よりも重要なのだろう。

 だから、ここは一つ次郎さんから聞いた話を彼女に伝えておいた方がいいだろう。


「変な求人を出しているところには気をつけなさいよ」

「変な求人?」


 たまに、次郎さんが私や南、そして勝君に対してよく話す内容だ。


「アットホームな職場とか、若手も活躍できるそう言った謳い文句の求人の事。私のところの上司と先輩がそう言う感じの会社で働いていて、苦労したって聞いたわよ」


 前の職場で得たものは開き直れる心と根性だけだと笑いながら言っていた。

 その苦労を友人にさせるのは忍びないのでこれくらいの忠告はしておこう。


「ええ~、いくつかそう言う感じの会社にエントリーシート送っちゃたよ」

「手遅れだったか」

「まったく、少しは気をつけなさいよ」

「だってー」


 だけど、その忠告も少し遅かったみたいだけど。




 今日の一言

 経験談が役に立つならそれは良いことだ。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 前の流れから、次は南か北宮かなと思ってたけど北宮でしたか。 北宮もう大学4年生なんだ。 雰囲気的に今の職場に就職する感じかな?
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