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476 業務日誌 海堂忠編 五

 秋葉原の電気街の裏通りで明かされた南ちゃんの先輩への将軍への昇進祝いの銅像?

 いや、全身ミスリルでできたゴーレムと言った方が正確?

どっちにしろとんでもなプレゼントが発覚。


「ほら行くわよ!!」

「いやぁ~海堂先輩失礼するでござるよ」


 ある意味で非常識、だけど俺たちにとっては日常的な行動をとる南ちゃん。

 そのことに激怒した北宮ちゃんは南ちゃんを引きずって会社の方に行ってしまった。

 魔紋で強化できない社外なのにどうやって南ちゃんを引きずっているのだろうと思いながら、俺は二人を見送った。


 改めて一人になって、もう一回先輩への贈り物を考えるかと秋葉原の街を先に買ったケバブ片手にぶらぶらと歩くがなかなかいい物には出会わない。


「まぁ、先輩って結構物欲ないっすからねぇ」


 思い返してみれば、先輩が欲しがるものは基本的に実用的なモノばかり。

 嗜好品と言えるようなものは煙草か、家族や教官と一緒に飲む酒。

 それ以外の趣味を聞けば、映画やアニメを見るけど、そこまでハマっているわけではない。


「はぁ、自分より稼いでいる人へのプレゼントって難しいっすね」


 最初はお高めのジッポライターでも送ろうかなと思っていたけど、最近は子供のことを考えてか先輩は禁煙をしているらしい。


「と言っても俺って酒にもそこまで詳しいわけでもないっすからねぇ」


 基本的に俺が飲む酒は安酒が多い。

 高いワインとかも買ってみたことはあったけど、そこまで味の違いは判らなかった。


 そこからそれだったら別に高い酒じゃなくても良くないかと思っている。


「うちってアミリちゃんやシィクちゃんにミィクちゃんもそこまで飲むわけじゃないっすからねぇ」


 三人ともお酒を飲むことはあまりない。

 たまに俺の晩酌に付き合うことがるけど、それでも俺たちみたいにガブガブと飲むわけでもない。


『解、体質上酔いにくい。故に酒を飲む時は雰囲気を楽しむ』


 とアミリちゃん。

 機人と言う種族は体内で様々な毒素を分解できる機構が備わっているらしく、アルコールもその類に分類されて酒を楽しむのもお茶を楽しむのも大差ないらしい。

 味的にジュースとかの方が好みだから、酒をあまり飲まない。


『私たちはあまりそういったものに縁がなかったので、ねぇシィク』

『ええ、ミィク。天界ではあまりお酒を飲む機会は有りませんでしたから』


 理論上無限に飲めると言うアミリちゃんとは対照的に純粋に酒に弱いというミィクちゃんとシィクちゃん。

 ビール程度では酔っ払うことはないけど、強い酒は基本的にNGだ。


 だからこそうちでは酒をあまり買わないのだ。


「うーん、となるとある意味で南ちゃんのプレゼントは理にかなっている?」


 先輩は言っては何だけど、俺たちの中では一番の稼ぎ頭。

 当然俺たち以上に金を持っているし、その上物欲はそこまでない。


 着ている服や家の家具とかに金をかけているが、そこまで高頻度に変えるほど物持ちが悪いわけでもない。

 強いて言えば仕事道具である装備には金をしっかりとかけている。


「秋葉原で何か面白いものでも見つかればいいんすけどねぇ」


 だからと言って色物で攻めるには南ちゃんのインパクトに勝てないし、色物過ぎると祝う気があるのかと疑問視されるからそれは避けたい。


「うーん、難しい。それなら向こう側の物とかで選べばいいんっすけど」


 だからと言って地球側じゃなくて、大陸側の品を知り合いに頼んで仕入れると言うのも今更感が強い。

 先輩の昇進祝いの祝賀会までにはまだまだ時間はあるけど、その経過する時間の間に色々な人から先輩に向けて贈り物があるはず。


 そうなると向こう側の代物は二番煎じになる可能性がある。


「難しい、難しいっす」


 秋葉原の道端でケバブ片手に悩む俺の姿はさぞかし変に見えるだろう。

 傍から見たらケバブの味に悩んでいるように見えたかもしれないっす。


「んー、こういう時って俺のセンスのなさが妬ましいっすねぇ」


 もし仮にもっとセンスがあったりすればもっといいアイディアが出るかもしれないけど、生憎とあっさり思いつくものはない。


「とりあえず、会社に帰って考えるっすかねぇ」


 最初の目的である物は買えたことだし、ここに長居していてもさっきみたいなやつらが集まってきそう。

 戦っても勝てそうな気はするけど、怪我したら家で待ってくれている三人が悲しむだろうから安全第一でいく。


「ん?広告っすか」


 秋葉原駅から電車に乗って、ふと見上げたモニターに映っている広告を見る。


「おー、犬とか猫、可愛いっすねぇ」


 俺も精霊で小さな犬みたいな精霊と契約しているから、その可愛さは理解できる。

 家でも、よく呼び出して一緒に遊んでいたりもする。


「ん?ペット?」


 そこで俺はひらめく。

 そう言えば先輩が昔言っていたような気が。


 思い出すのは今ではかなり昔に感じるような、ブラック企業の社畜であった時の話。


『あー、癒しが欲しい』

『そうっすねぇ』


 喫煙所で、一緒に煙草をふかして、そして激務で疲れていた体と心を癒しを求めていた時のこと。


『癒しって言えば女の子っすか?ああいう店なら、ワンチャン残業が終わってからも開いてるっすけど』

『あほ、終電逃した段階でそんな店も閉まってるわ』

『……悲しい現実っすね』

『すでに十連勤、さらには終電逃しも今日で三日連続だ。残業代が満額出ない段階でお察しの会社だよ』


 今でこそ笑っている方が多い先輩だけど、昔は全然笑わなかった。

 いや俺もだった。


 疲れ果てて愛想笑いもできなかった。

 全てが負の連鎖。


 癒しを求めたくとも癒せない現実。


『ああ、帰ったらお帰りって言ってくれるボッキュンボンのお姉さんが家にいないかな』

『冷静に考えろ、いくら美人でも家に帰ったら知らない女性が出迎えて来るんだぞ、ホラーだろうが』

『そうっすね、冷静に考えたら不法侵入っすよね』


 煙草で無理矢理疲れを紛らわせるしかない現実。

 軽い冗談にも現実が付きまとうような思考。


『ああーどうしたらこの疲れ癒せるんっすか!!』

『有給申請が通って十日くらい休みが取れれば癒せるんじゃないか?』

『だめっす、そんなに休んだら絶対に俺、会社に来なくなるっす』

『奇遇だな、俺もだ』


 休めたら休んだらで、このギリギリの状態で持っている精神がぽっきりと折れそうな感覚もあった。

 だからこそ、どうしようもないと思い込んでいたふとある日。


『ああ、良いなこれ』

『何見てるんすか?』


 喫煙所で煙草を吸いながらの一時の憩い。

 そこでぼーっとスマホを眺める先輩。

 そこには目の下に隈を作っている先輩にしては珍しい優しい顔があった。


『ん?動物動画だな』

『え、似合わないっすね』

『殴るぞ』

『暴力反対っす!!』


 何を見ているのか聞いて思わずガチトーンで言ってしまった言葉は飲み込めず、今だからこそわかるけど完全に殺意の籠った拳を握る先輩がそこにはいた。


『うるせぇ、似合わないの自覚があるが、こんなのでも見てないと癒されないんだよ』


 だけどすぐに大きくため息を煙草の煙と一緒に吐き出して、そっと見せてくれたのは無邪気に動く犬の動画だった。


『へぇ、先輩犬好きだったんすか』

『まぁ、犬だけじゃなくて動物全般は好きだぞ。ペットは昔飼いたかったが、親の仕事柄ペットは飼えなかったし、今の仕事で飼うこともぜったいに無理だしな』

『絶対に、無理っすね』


 家にもロクに帰れない独身男がペットを飼うなんてなんて無謀な。


 先輩の手元のスマホで無邪気にはしゃぎまわる犬、そして動画が終わって次の動画が自動で流れると今度は鍋の中でうたた寝する猫が映し出された。


『先輩、最近そればっかり見てるんっすか?』

『ああ』


 それほどまでに精神的に追い詰められているのかと、あの時思った。


「ペットっすか」


 本来だったら生き物をプレゼントするのは非常識な面があるかもしれないがこれはこれでありなのでは?と思い始める。

 確か、子供の情操教育上生き物を育てるのは良いと聞いたこともある。


「少なくとも南ちゃんのゴーレムよりはマシっすかね?」


 しかし、問題もある。

 先輩の家にはヒミクさんがいるから、ペットの世話とかは大丈夫だと思うけど。


「普通の犬って魔力とか大丈夫なんっすかね?」


 まず第一に地球にいる動物が、普通に魔力のある環境に適応できるかという話。

 それに。


「うーん、動物をプレゼントってありっすかね?」


 常識的な観点から見て、生き物を飼うという判断は他人から押しつけられるものではない。

 自分から率先して育てるという意思がなければだめだと言うのは俺でも知っている話。


「はぁ、結構いい案だと思ったんすけどねぇ」


 そう思っている間にいつの間にか会社の最寄り駅についてしまう。

 慌てることなく、降りることはできたけど、それでも妙案がダメだったことは少しショックだった。


 もっといい案を考えないとと思う傍らで、足は帰宅路を進む。


 天気は良いのに妙案は浮かばず。


「どうするっすかねぇ」


 昔とは違った悩みを抱え込んでしまったと思っていると、小さな公園の脇を通る。

 そんな時。


 ミーン


 小さな猫の声が聞こえた。


「ん?野良猫っすかね」


 たまに首輪をしている猫とか、していない猫とか、どっちでもいいが道端で猫を見ることは多い。

 最初は気にせず、その間歩き去ろうとしたけど。


 ミーン


 ちょっと弱っているような感じの泣き声に足を止めて辺りを見回す。

 だけど見える範囲に猫がいる様子はない。


 よく耳を澄ませて鳴き声の元を探すと。


「公園の中っすか?」


 この公園は所謂、サラリーマンとかが休憩で使うような自然公園。

 遊具もなく、遊歩道と公衆トイレ、そしてベンチがあるだけの公園。


 広さもそこまでなくて、生垣が時折手入れされている程度の公園だ。


「んー、いないっすね」


 そんな公園だから猫がいればすぐに見つけられると思ったけど、その姿はない。


「気の所為だったっすかね」


 ポリポリと頬を掻き、取り越し苦労だったと思ったとき。


 ミーン


 とまた鳴き声が聞こえた。

 今度さっきよりもはっきりと、だけどさっきよりも弱弱しく。


「こっちっすね」


 その鳴き声を辿り、一つの生垣にたどり着く。


「捨て猫っすか」


 そこには小さな段ボールにタオルだけ敷かれ、猫缶が一つだけ空いた状態で放置されていた。


「かわいそうっすね。まだ子猫だろうに」


 小さな三毛猫。

 生まれて間もないのではと思うくらいに小さい。


 辺りを見回して、当然捨てた飼い主の姿はない。

 毛色も悪く、弱っているように見える。


「これはまずいっすね」


 このまま放置してたら衰弱してしまう。

 そうでなくともカラスにいいようにやられてしまうのではと思った俺は、タオルで子猫を包むように抱き上げてスマホで検索して最寄りの動物病院に連れていくことにする。


「頑張るっすよ、すぐに病院に連れていってやるっすから」


 子猫を揺らさないように、スマホの検索結果に従って走り出し、途中タクシーを拾いつつ最寄りの動物病院まで行く。


 そのまま診察され。


「この子捨て猫ですよね。あのう、保険とかが効かないんですが」

「大丈夫っす!!しっかりと払うっすから!!だから助けてほしいっす!」


 獣医さんに心配されたけど、鞄の中から予備として持って来ていた札束を見せるとそのまま子猫の治療が始まった。


 昔の俺にはできない荒業だと思うけど。

 こう言うお金の使い方なら大丈夫だと思う。


 とりあえず、助かってほしいと思いつつ、病院の待合室でまつこと一時間ほど。


「もう大丈夫ですよ、安定するまでしばらくは入院が必要ですが、二、三日で退院できます」


 獣医さんに大丈夫だと太鼓判を押された俺はほっと一安心する。


「それで、この子なんですけどどうします?よろしければこちらの方で里親を探しますけど」


 ガラス窓越しに、丸くなっている子猫を見ることができて安心していると獣医さんからこの子猫の将来はどうするかという話になる。


 確かにそうっすよね。


 どうするかと悩む。


「ちょっと待っててほしいっす」


 だけど、どうするかはすぐに答えが見つかる。

 この子猫と出会ったの何かの縁。

 助けたのも何かの縁だ。


 社宅で飼えるかどうかの確認と、魔力の影響があるかないかの確認。

 それだけでもしないと迎えることはできない。


「わかりました。でしたら今週中にご連絡をお願いします」

「わかったっす。あと、これ診察代です」

「はい、確かに受け取りました。ご連絡の方お待ちしております」


 先輩にペットをプレゼントすると考えた矢先に自分がペットを飼うことになるとは思わなかった。


 この後の結末だけ先に言っておくと。


 なぜかテスター第一課のオフィスのマスコットキャラに就任している三毛猫がいたりするのである。


 その猫は将軍にすら愛でられることもあり、将来的に会社の公式マスコットになってたりもするのだからどんな縁なのだろう。


 今日の一言

 お金の使い方は人それぞれ。




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 忠の優しさが再確認されるほっこりした話ですね。 これで海堂編はおわりかな? ちなみに猫ちゃんの名前、なんて付けたのか、すごく気になります。
[良い点] ニャンコ先生か、ネコ大将軍かな?
[一言] で、パイセンのプレゼントは?
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