474 業務日誌 海堂忠編 三
今日は待ちに待った休日。
普段だったら、この時間はもう少し惰眠をむさぼっているけど、今日は早めに外出をしている。
そんな俺がどこにいるかと言うと。
「うーん!!久しぶりの秋葉原っすよ!!」
アミリちゃんやシィクちゃんにミィクちゃんに頼まれてフィギアとDVDを買いに秋葉原まで足を延ばしていた。
本当だったらネット通販とかでも買えそうなものではあるけど、今回はもうすでに販売が中止されている代物を探しに来ているわけだ。
生憎とアミリちゃんもシィクちゃんもミィクちゃんも社外には出れないから俺一人。
何でこんなところに来ていると、昨日に遡る。
『お礼?』
『うん、最近よく訓練に付き合ってもらっているし、二人には家のこと色々としてもらってるからね。何でも言っていいっすよ!!』
新しい装備をアミリちゃんたちと一緒に試した後に、汗を流してリビングでのんびりとしていた時に、いっつも何かしてもらっていることに気づいてそう提案したのがきっかけ。
なぜか争奪戦になる俺の膝の上というポジションを確保したアミリちゃんとその両脇で俺に寄り掛かる双子のシィクちゃんとミィクちゃんと一緒にテレビを見ている時に、テレビに出ていたタレントさんが日頃のお礼は大事と言っていて、俺も何か返したいと思った。
『不要、タダシが一緒にいてくれるだけで私は満足』
『そうね、私たちの料理を美味しいって食べてくれるだけでもうれしいわよね。ねぇシィク』
『ええ、ミィク。忠は私たちが掃除とかしていると、いつもきれいにしてくれてありがとうって言ってくれるわ。それで私たちは満足よ』
だけど、この三人には物欲がないのか?って言うくらいに何もしなくていいって言う。
それどころか。
『代案、気にするのならタダシとの子が欲しい。タダシは私の体型のことを気にして妊娠に関して非積極的な傾向にある。この際に改善を要求する』
『それは良い提案ね。私もそれがいいかしら。田中次郎のところの子供を見て私も欲しくなっちゃたわ。ねぇミィク』
『ええ、シィクあの小さくてかわいらしく笑う双子、私たちのようでとてもかわいらしかったわ』
お礼と言った提案で、そんな感じで夜の激しさが増してしまった。
嫌と言うわけではないけど、それでも何か違うと思ってそれ以外に何かないかと思って聞いてみたら。
『……承認。であればこれが欲しい』
まず最初に渋々と言った感じで、アミリちゃんがタブレットでとある画像を見せてくれた。
『初回限定生産品の超合金ロボット。現在生産されておらず。インターネット内でも出回らない代物。過去に出品された代物を発見したが状態が悪く、それでも落札されていた。可能であれば欲しい』
俺でもわかる受注生産の完全限定品。
プレミア価格がついている代物だ。
そんなものを強請ったアミリを皮切りにシィクちゃんとミィクちゃんも、それならとあるものが欲しいと言った。
『え?これって』
『ええ、限定版のDVDと言う奴ね。その、私とミィクが好きな声優のサイン入りなの。調べたらこのお店の店頭にあるって言うことらしいの』
『ええ、値段が値段だから早々に売れることはないと思うのだけど、無くなったらと思ったら』
見せられたのはとある動画配信者が懇意にしている秋葉原にある店に品物のラインナップが写された動画だ。
投稿されたのは最近。
まだまだ秋葉原にあると思う。
アミリちゃんの物も当然ネット上に出ていないなら店頭にある確率は低い。
であっても俺には俺なりにコネがある。
ということで今日は今日で、久しぶりに一人で秋葉原まで出かけているわけだ。
「ふふふん~」
鼻歌でも歌いながら、電車を乗り継いできた久しぶりに電気街。
相も変わらずの人の多さに懐かしさを感じながら、そっととある店に入る。
「お!あったす。これっすね」
それは最初にシィクちゃんとミィクちゃんに見せてもらった動画のお店。
中には結構お客がいたけど、そのショーケースには動画通りの品物がきちんと置いてあった。
「一、十、百、千、うわ本当に七桁あるっすね」
そのDVDの値段は全巻セットのボックスで、アニメに出演している主役の声優の直筆サインが書かれている。
しかもその隣にはその声優が書いたと証明するように、このDVDボックスを持った声優の写真もある。
これで偽物だったら詐欺だと言われてもおかしくない代物。
保存状態も良くて、見た目は綺麗だ。
「すみませーん」
「はーい」
昔の俺だったら絶対に買えないっすよねぇ。
貯金の残高が、無駄使いの所為で一向に増えなかった社畜時代と違って、今の俺の財力は、前職のころの俺が夢だと思うくらいに稼いでいる。
近くの店員さんを呼べば、俺と同じくらいの年の店員さんが来てくれる。
「ちょっと聞きたいんっすけど、このサインって本物っすか?」
「ええ!本物ですよ!!僕もこのDVDにサインしてくれている時の撮影の現場にいましたから!いやぁ、でも店長も強気ですよね!真のファンならこの値段でも買うってこんな値段にしちゃって」
一応念のため、本物かどうか確認したら、偽物ではないと言ってくれる。
鑑定書があるわけでもなく、嘘を言っている様子もない。
これで、シィクちゃんとミィクちゃんが喜んでくれるならと、買う客がいるわけないのにとヘラヘラと笑う店員に対して。
「じゃぁ、これください」
「え?」
あっさりと買うことを宣言すると、シィンと店内が静かになってしまった。
目の前の店員さんも目を見開いて固まってしまった。
「今、なんと?」
「だからこれください」
聞こえなかったっすかね?
俺の声って結構通りがいいと思うっすけど。
聞かれなおされたので、もう一回、このDVDを買うというと、店員さんは少々お待ちくださいと言って、カウンターの向こう側で作業している大柄の中年の男性に話しかけていた。
確か、あの人が動画に映っていた人だ。
「お客さん、うちの者からこのDVDを買うって聞いたんですが、失礼ですが、冷やかしってわけじゃありませんよね?」
「まぁ、そうっすよねぇ」
額が額だ。
店長さんに疑われるのも理解できるし、そう言われるのも仕方がない。
「大丈夫っすよ。しっかり現金で払うっす」
だから今日のために銀行から引き出してきた札束を取り出す。
封筒に入ってるその現金の束は、銀行の印鑑が押された帯で百万円ずつ小分けにされていて、しっかりとこのDVDの表示されている値段三百万と同じ束数がある。
「!」
何気ない仕草で、取り出された札束に驚いた店長がギョッとなって辺りを見回す。
だけどすでに遅かった。
俺の現金取り出しに、周囲の客が騒めきだしている。
「わ、わかりました。でしたら商品のご用意をいたしますので、どうぞこちらに」
「了解っす」
注目されることは予想していたから、さして気にすることもなく、店長さんの誘導に従ってカウンターとは別の仕切りがある買取カウンターに回された。
「こちらの商品でお間違いないですか?」
「大丈夫っすよ」
「本当に大丈夫ですか?幸い、こちらの商品は本物でございますが、もし返品や買取のし直しでも同額の値段はつけられませんが」
「問題ないっす」
かなりの大金が動くということで、店長さんもドキドキとした仕草で札束を数えている。
いやぁ、大金が動くって言うのに、俺ってこんなに動揺しなかったことあったっすかねぇ。
あまりにも堂々としていたために、店長さんたちの方がビビるというか、お金を速攻で金庫に仕舞いに行ってた。
一応領収書はもらって、品物購入証明書なる物も発行してもらった。
「「ありがとうございました!!またのご来店を!!」」
最後は店長さんと店員さんに見送らて店を出ることになったっすねぇ。
いやぁ、あの店結構品ぞろえ良かったっすから、今度また来ようと思っていると。
「……つけられてるっすねぇ」
俺の後ろから男が三人ほどついてくる。
「うーん、店内でお金見せたことが原因っすかね」
ちらっと後ろを振り返ったところで見えた感じ、明らかに秋葉原で遊んでいると言った感じの風貌ではない。
どちらかと言うと秋葉原で買い物しようとしている大金を持っている人たちを狩ろうとしている人たち。
「日本も治安が良いっすけど、ああいった輩は絶対にいるっすからねぇ」
こんな人通りの多い場所では襲ってこないと思うっすけど、このまま家まで特定されたら面倒っすね。
「まぁ、いいっすけど」
だけど、深く気にしなくて大丈夫っす。
きっとこの後の場所で問題なく撒けるっす。
つけられたまま、秋葉原の街を進み、今度はすこし古いビルに到着する。
そこの小さな階段を登っていくと、これまた古い扉のホビーショップがある。
「チーっす!店長!久しぶりに買い物しに来たっすよ!!」
「あ?海堂じゃねぇか、久しぶりだな」
そこに座っているのは昔、それこそ先輩よりも前に世話になった不良時代の先輩が店の商品の整理をしていた。
なんだかんだで昔より、連絡を取る頻度は減ったけど、バイク仲間ということでたまに連絡はとっていた。
「お前、最近顔出してなかったからまたブラック企業に出戻ったかと思ったぞ」
「いやぁ、流石に今の職場以上の職場見つけるのは難しいっすからねぇ。流石に辞めないっすよ」
紆余曲折あって、こんな感じでホビーショップの店長をやっている不良時代の先輩は、カウンターの奥から椅子を持ち出してきて座れと言われたのでそのまま座る。
「それで、久しぶりに顔出したってことは俺に探してほしい品物があるってことだろう?」
「うっす!田島さん、じつはこれなんっすけど」
話が早い不良時代の先輩。
田島さんに、アミリちゃんから見せられた同じ画像を見せる。
「お!お前なかなかいい趣味してるじゃねぇか。こいつは、職人さんがディテールにもこだわって手作業で作った完全受注品だからな。マニアの中ではなかなか有名な品物なんだよ」
それを見て喜ぶように語り出す、田島さんはちょっと待ってろと俺を店内に待たせて、数分後に一つの大きな箱を持って戻ってきた。
「ほれ、こいつだろ?」
それは俺が求めていたものだった。
「さすが田島さんっす!ここに来ればあると思ってたっすよ!!」
「ふ!当たり前よ!この界隈だったら俺以上に品を揃えられる奴はいねぇぜ!!」
不良の格好をしていたけど、この人は昔からアニメや漫画、フィギアといった関係にめっぽう強かった。
この漫画がおもしろいとか、アニメが今熱いとか学生時代に色々と見せてもらった記憶がある。
俺のロボ好きも元々を辿ると田島さんがきっかけだと思う。
「それで、よう」
ただ、腐っても元不良。
「うっす」
田島さんは、ポケットから電卓を取り出して、色々と数字を打ち込み始める。
「こいつは完全受注品で、市場にはほぼ出回らない代物だ。出たとしてもかなりのプレ値がつく。加えて、こいつは完美品だ。箱のゆがみもなければ、汚れもない。中身にいたっては未開封品だ。これだけの代物だから当然価値は跳ね上がるな」
レア度、そして状態、さらには管理するための保存料。
そんな感じで色々と加算され、電卓から叩き出された値段は。
「ザっと見積もって、百五十万ってところだな」
身内相手だって、金儲けができると思えば容赦なく吹っ掛けてくる。
実際はこの半値くらいだろうなと思うけど。
「まぁ、昔のよしみだ。多少は値引きしてやらんことでも」
「あ、いいっす。その値段で買うっすよ」
そこまで値引きされるまでの過程で、ぜったい面倒なことを頼まれるだろうから、すぐに言い値で支払うことに。
「え?」
「はい、百五十万っす。数えてください」
そんな俺の対応に、キョトンとする田島さん。
いやぁ、昔の俺ならもし買うとしたら全力で値切り交渉するっすけど、今の俺ならこの金額、アミリちゃんのためなら惜しくはないっす。
「お、おう、なんかお前、今の会社に入ってから変わったな」
「まぁ俺も色々と経験してるんっすよ」
田島さんが驚きながら札を数えて、しっかりと百五十万があることを確認したら丁寧に梱包してくれる。
「ほらよ、これからも顔出せよな」
「助かったっすよ。また珍しいもの仕入れてほしい時にはくるっす」
「おう」
不良時代では見る事がなかった田島さんの驚く顔がみれて満足した俺はそのまま店外に出ようと思ったが。
「あ、そうだ田島さん」
「あ?」
「実は、俺ここの店の前でも大きな買い物して変な奴らにつけられてたんっすよ」
「変な奴ら?」
「多分っすけど、秋葉原に買い物に来ているやつを狙ったカツアゲグループじゃないっすか?」
「なんだと?」
店の外にいる、尾行してきた男たちのことを思い出してしっかりと田島さんに伝えておく。
こんな見た目だけど、田島さんはアニメや漫画を愛している。
この秋葉原に通うような人たちとも結構顔見知りが多い。
だからこそ、こんな感じでレアものを仕入れる事ができたりする。
なので、そんな秋葉原の住人たちをカモにする輩が大嫌いであるので。
「おし、お前店の外に出たら何もせずそのまま歩いていけ、俺がそいつらの締め上げるからよ」
気前よく百五十万を払った後輩の頼みもあってこの人は行動を起こしてくれるらしい。
今日は店じまいだと言って、一緒に店外に出て、俺が先にビルの外に出る。
そして店の外で待っていた尾行グループもついてきて、その後ろに田島さんがついたのを確認する。
「うん、成仏するっすよ」
尾行グループの末路を悟った俺は後のことは田島さんに任せていいなと思って、ちょうどお腹が空いてきたのでついでにご飯でも食べることに。
「おろ?北宮ちゃん珍しいところで会うっすね」
「あら、海堂さん、外で会うのは珍しいわね」
そして秋葉原にあるケバブの屋台に向かった折に、この街で会うとは思っていなかった北宮ちゃんと出会うのであった。
今日の一言
日頃の感謝を伝えるためにお礼は大事!!
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




