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385 いつも同じ結末じゃ芸がないと思う

投降が遅れ申し訳ありません。

一身上の都合があり、投稿が遅れました。

事情に関しましては活動報告の方を見ていただければ幸いです。


 Another side


 時間は少し巻き戻る。

 次郎が神に対して第二ラウンドを宣言したあの時、スエラはその足で立ち上がる次郎の姿を見た。

 その時、次郎の立ち姿を見て彼女はそこに英雄を見た。

 振り向いた先で次郎とスエラの視線は一瞬だけ交じり合う。

 その時彼は一瞬だけ笑みを浮かべ、そしてそっと〝行け〟と口を動かしたのが見えた。


「行きましょう!」


 次郎が立ち上がった。

 本当であればすぐにでも駆け寄りたかった。

 だが、次郎の意思を無視する行動はスエラの腕の中で不安でぐずり始めている二人の命によって抑えられた。

 もう振り返らない。

 きっと彼ならまた私たちの前に現れてくれると信じてスエラは誰よりも先に駆け出した。

 その直後に聞こえる激突音。

 激しい振動で足を取られそうになるが、魔力を回して身体能力を強化した肉体は出産後の弱った身体でも常人以上のポテンシャルを叩き出してくれる。

 振り返りたい気持ちを抑え込んでスエラたちは走った。


「スエラ、やはり私は」

「ヒミク、振り返らないでください」


 スエラを守るように翼を羽ばたかせ傷ついたアミリを抱え並走するヒミクは不安げにスエラの名を呼ぶ。

 顔を見ることもなく彼女が何を言いたいか察したスエラはヒミクがそれ以上言えないように声を被せた。

ヒミクは次郎を助けに行きたいのだ。

その気持ちはスエラにも理解できるし、共感もできる。

 だが、それを肯定することはできないスエラは前を向いて走る。

 もし仮にまだ妊娠せず、腕に抱く二人を授かっていなかったら彼女は迷わず次郎の隣に立ちともに戦っていただろう。

 それが今では次郎の足枷となってしまっていた。

 守りながら戦うのでは次郎に万が一にでも勝利する道筋はない。

 それを理解できないスエラではない。

 武具もまともにない彼女たちでは、勇者相手にはこうやって全力でその場から離脱するのが最善だということを頭では理解している。

 しかし、心では悲鳴をあげるほど否定している。

 背から聞こえる轟音。

 ただの戦闘であんな音が出るはずがないと思わせるほどの激しい音。

 先頭を駆けるスエラは、歯が軋むほど食いしばり追っ手を食い止める次郎の無事を祈るしかなかった。


「スエラ!無事だったのね!」


 不安が心を占める道中であったが、スエラたちは無事会社内に設置されていた避難所に向かう転移陣に乗ることができた。

 転移陣近辺に配置された警備の魔族たちに案内され、広場のような場所に出る。

 他にも多数の非戦闘員がおり、中には何人かのテスターたちの姿も見える。

 全員が攫われたわけではないことに安堵しつつ、スエラを呼ぶ声に振り返ってみれば、ケイリィが駆け寄ってくるのが見えた。


「よかった!寮内の転移陣が使えないって聞いてて不安だったけど………」


 そして近寄ってきたケイリィは一行を迎えるように安堵の笑みを浮かべる。

 そしてまず親友のスエラに近づくがそこで違和感に気づく。

 スエラが赤子を抱き、ヒミクが近くにいた兵士にアミリを預け、ムイルが衛生兵にメモリアを見せている。

 一人足りない。

 慌てて辺りを見渡すがいつもなら苦笑交じりに大変だったと語る男の姿が見えない。

 そして誰もが暗い顔をしている。


「………次郎君は?」

「戦っています」


 嫌な予感は彼女の中にもあったのだろう。

 だが、問わずにはいられなかった。

 そしてスエラが答えた言葉に愕然とする。


「はぁ!?機王様があの状態で、あなたたちが逃げるしかなかった相手って………まさか」

「勇者が現れました」


 ケイリィはこの非常事態の状況を熾天使が襲撃して来たという情報までしか把握していなかった。

 多数の被害を出し、情報が錯綜していたこともあり、最新の情報が絞り切れていなかった。

 だからこそ、その情報が致命的な情報であることは血相を変えるほどの情報だった。


「今すぐ警備体制を最上級レベルに上げて!避難施設の最深部にケガ人と非戦闘員を移送を開始!戦闘員は幹部含め戦闘態勢へ!」


 元々まとめ役として色々と権利をもっていたケイリィの行動は素早かった。

 何事かと戸惑う部下をしかりつけるようにケイリィは怒鳴り散らす。


「勇者が出たのよ!さっさと動け!そうじゃないとここにいる全員が全滅するわよ!!早くしろ!」


 まるで自然災害かのような言い分ではあったが、その言葉だけで発破としては過剰と言えるほどの効果を示した。

 そしてその発破が必要だとケイリィは判断した。

 この避難施設に被害が出ていないということは、次郎がしっかりと足止めをしているということ。


「小隊ごとで防衛ラインを構築して!魔導士は結界の強化を!」


 しばしの猶予は値千金の価値がある時間。

 だが、その千金を生み出すための代価がどれほど大きなものかとケイリィは思う、

 勇者とは魔王軍からすれば恐怖の象徴。

 すなわちもうあの男の姿を見ることはないとケイリィの頭の中に思い浮かばれた。

 ギュッと拳を握る。

 過去の歴史において勇者に立ち向かった兵士たちの末路はおおよそ決まっている。

 生き残りもいるが、その場合は大多数の兵士が戦場という広大なスペースで戦い逃げ延び、かろうじて命を拾ったというケースが大半だ。

 一対一で勇者と戦い生き残ることなど魔王でなければいや、魔王でもできる確率の方が少ない。

 その常識がケイリィの中で次郎の死を明確に意識させた。


「………バカ」


 ぽつりと誰にも聞こえない。

 側で俯き周囲の不安に中てられ泣く子供をあやし、次郎の無事を祈るスエラを見て、ケイリィの中の感情的な言葉が出る。

 しかし、その心の中とは反対に頭の中で次郎は最善の選択をしたとも理解していた。

 誰か一人が立ち向かい、それ以外が生き残っているという結果を示している段階で次郎は間違いなく最善を尽くした。


「ッ!誰でもいい!将軍、いや、魔王様に連絡を取って!一秒でも早くこの場に参上してもらって!」


 その結末は親友を思うケイリィからしても受け入れがたい結末だ。

 悲嘆にくれている場合ではないと頭を振り、もっと前向きな行動を取るべきだとケイリィはもう手遅れかもしれないと思いつつ次郎へ助けを向ける。

 何をやっても無駄かもしれない。

 もしかしたら数秒後にはこの避難施設に勇者が襲撃してくるかもしれない。

 そんな不安を抱えつつも、限りなく薄い可能性であったとしても間に合うかもしれないというIFを引き寄せるために奔走する。

 対抗する札を用意することをためらわない。

 本国が襲撃を受けているという情報は受けていたが、こっちが本命かとケイリィの中でパズルがくみ上がり、だったら呼び寄せる為だけの説得材料を造り上げる。

 最悪この会社自体が崩壊する可能性を秘めているのだ、あとは熱意でカバーするほかない。


「使い魔飛ばしてエントランスの状況を確認して!」

「了解しました!」


 そして情報を少しでも得るために近くにいた兵に手配を指示するが、それはいい意味で無意味となった。


「魔王様が!魔王様が来てくれたぞ!」


 一人の兵士が避難施設の端から端まで聞こえるほどの声量で叫ぶ声は喜色に染まっている。

 それもそうだ、彼らからすれば最大戦力が助けに来てくれたのだから。

 これで助かる。

 そう誰もが思った。

 誰もが安堵する中、ケイリィとスエラたちだけ顔色が良くなかった。

 まだ知りたい知らせが来ない。

 魔王が来た。

 それはいい知らせだが、間に合ったかどうかそれが一番の問題だ。

 周囲の空気が緩む中、スエラたちの周りだけが緊迫感に包まれる。

 ケイリィが情報の更新を行うが、エントランス近辺の情報が入ってこない。

 周囲に配備していた兵は全滅していて、警備の人間も排除されてしまっている。

 大丈夫か大丈夫じゃないのか?

 そんな不安で揺れ動く中。

 ケイリィはイライラしながら手元のタブレットを操作しているその時だった。


「おい!そんな怪我で動くのか!?」

「魔導士!回復魔法を!って後でいいって!?」


 何やら入り口が慌ただしくなっていく。

 戸惑うような声。

 心配するような声。

 不安げな声。

 そのどれもがとある人物に向けて向けられているように聞こえる。

 次郎のことが心配であったとしてもスエラたちは何かあったと察した。


「!」


 スエラたちの視線がそっちに向いたとき、彼女たちは目を見開いた。

 足を引きずり、形の変わった鉱樹を片手にフラフラになりながらも歩いてきた一人の男の姿を見つけた。


「おう、どうにか生き残った」


 その男次郎は何とも気の抜けた笑みでかろうじて動く手を掲げてスエラたちにぎこちない笑みを見せた。


「次郎さん!」

「ジィロ!」

「ジロウさん!」


 その姿を見て真っ先に駆け出した三人の女性。

 次郎の姿を見て、驚いていたケイリィはその三人を追うことなく苦笑しつつ次郎の姿を見る。

 ポーションか何かで軽く治療した形跡は見えるが逆に言えばそれだけ。

 左半身のダメージは隠しきれておらず、体中に傷をこさえている。

 明らかに重傷。

 誰が見てもすぐに医者を呼ばれる様態。

 それなのにもかかわらず、武器を傍の床に突き立てスエラたちを抱き留める根性は男としてすごいと女性として感心する。

 うれし涙を流すスエラ、ヒミクと治療を受けて動けるようになったメモリアの顔にようやく安堵の表情が浮かんでいた。


「心配かけたな」


 申し訳なさそうにしている顔とは裏腹に、次郎もスエラたちが無事に逃げきれていたことに安堵していた。

 次郎からしたら最大の敵を相手取ったのだが、もし仮にほかにも勇者クラスの敵が潜んでいたらスエラたちも無事では済まなかった。

 女性三人に加えて赤子二人。

 普段の肉体であれば何ともない重量であるが、怪我をしている状況ではそれも少々きつい。

 それでも表情に出さないあたり大したものだとケイリィは遠目で感心した。


「よかった。本当に、無事で」


 胸元に飛び込むことはなかったが正面に立っていたスエラは胸に抱く赤子のことを気にしつつそっと体を次郎に預け、その瞳からこぼれる涙を我慢することなくこぼす。


「ええ、そうです。帰ってきてくれて、よかった、です」


 スエラの隣にいるメモリアも同様だ。

 普段の冷静な表情は今だけは休業状態、純粋に嬉しそうに笑い次郎を向かい入れていた。

 涙で瞳が潤み、声は上ずりながらも喜びを精一杯伝えている。


「ジィロ、ジィロ」


 ヒミクに至っては、生きてくれてたことに感極まって次郎の肩に掴まりただ次郎の名を呼ぶ。

 しかし、その感情を理解した彼は、優しくヒミクの頭を撫でる。

 独身、あるいは彼女のいない男性魔族からは殺意に似た嫉妬の視線を浴びているが、ケイリィからすればそういった感情を表に出すからモテないのだと言いたい。

 先ほどまで気を張っていたがこうなってしまえば自然と肩の力は抜ける。

 深夜に起きたとんでもない騒動。

 勇者に襲撃されたと聞いたときは寿命が縮まったとも感じたが、ふたを開けてみれば最悪の結末は回避された。


「彼も成長したってことかしら」


 後にとんでもない成長を知るケイリィであったが、それは後の話。

 彼女が言う成長は、無茶をした後は大抵は医務室のベッドの上でスエラたちと再会すること。

 こうやって這ってでも愛している女性の元に戻ってくる次郎を見て、いい男だなと、異性としてではなく、一人の人間として尊敬した。


「ああ、私も恋人作らないとな」


 わざとらしく、スエラたちをうらやむようにケイリィが言葉をこぼせばさっきまで嫉妬に狂っていた男たちが佇まいを正し、さりげなくアピールしてくるのがわかる。


「ま、今は仕事が大事かな」


 上げて落とす。

 今は空気を読んで親友たちの邪魔をするなと言わんばかりに、男どもを振りつつケイリィは最後に笑みを浮かべ親友に向けて一言残す。


「良かったじゃない」


 そしてどうせこの後次郎の治療をしないといけないのだろうと思った彼女は、腕のいい医務官を連れてこようとその場を離れるのであった。



 今日の一言

 結末は努力次第で良く変わる。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。

そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大好きやわぁ、こんなガッツ!尊敬するぜ。
[一言] 投降しちゃダメです。
[良い点] 今回は意識保って再開できたな。 マジで時を戻そうをここで持ってきたのがすげぇ。
感想一覧
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