360 戻ってみたら、大変なことに?
遅れながら報告を!!
現在ヤングマガジンサードで連載中の本作が、今月号の表紙を飾ることになりました!!
応援してくださってる皆様に感謝いたします!!
ヒロインのスエラが非常に可愛く描かれています!!
Another side
帝国の宮廷魔導士ダズロは、周囲を森に囲まれ、魔王軍の兵士に見つからぬよう、一見だらけているような態度でそこに居座るが、周囲に張った結界は芸術的とも言っていいほどの出来を見せていた。
結界の効果には、隠蔽、中から外にも出る音の遮断に加え、周囲の風景にこの仮拠点を溶け込ませることができる。
そんな結界の中でダズロは、黙々と目の前の水晶から流れてくる音声に耳を傾ける。
『おい、無理するなって、ついさっきまでお前意識がなかったんだぞ?』
『大丈夫、それに里の一大事の時に寝ているなんてできないよ』
仕込みを行なったダークエルフの声とその付き添いのダークエルフの会話を聞いているうちに、彼らが移動しているのがわかる。
そして向かう先はダズロにとってかなり重要な人物がいると踏んでいる。
『止まれ! 何用でここに来た!』
その歩みが大きな声によって遮られたことにより、目的地に着いたことを悟ったダズロはより集中して一言一句逃さぬように音声に耳を傾ける。
その表情は、普段のだらけ切った男の顔ではなく、一人の使命を全うする者の顔つき。
『自分は先ほど兵士の方に尋ねられた生存者の付き添いです! この男が、襲撃に遭って先ほど意識を取り戻したので連れてきました!』
魔力操作を最小限にし、さらに機密性を高めた状態で会話の流れを見守る。
ここで下手に行動を起こせばダズロの計画は露見してしまう。
それだけは決してしてはならぬと、万が一の時は胃に納めた魔石の自壊も視野におさめ、事の成り行きに任せる。
『なに? わかった。少し待て』
兵士の反応は上々、現在はダズロの引き起こした惨状に対して、魔王軍は少しでも情報が欲しいはず。
あからさまに怪しい情報ではなく、自然を装った目撃情報という形ならある程度は相手方の情報も引き出せるはずとダズロは踏む。
『確認が取れた。中に入れ、樹王様がお待ちだ』
その読みが当たったことに喜ぶ暇はない。
ダズロはここからが本番だと気を引き締める。
ほんのわずかな時間静寂が訪れ、そして。
『樹王様、生存者の者を連れてきました』
『入りなさい』
その時は来た。
聞いたことのない凛とした声。
その声質をもってして、存外、大物が釣れたとダズロは内心で喜ぶ。
樹王という呼び名はダズロも知識でのみ知っている。
歴代の魔王との戦いでもその名は出て、ダークエルフという種族を取りまとめる存在だということ。
その存在とまさか、こんなにも早く接触できるとは思いもしなかった。
そんなことを思っているうちに、魔石を仕込んだ男は樹王のいる部屋に入ったのだろう。
『お会いできて光栄です。樹王様、里の守り人、ハルク参りました』
『楽にして結構です。怪我を押してまで来てくれたことにまずは感謝を述べます』
『ありがとうございます』
上下関係が明確にわかるやり取り、見えないが跪いているハルクと呼ばれたダークエルフとそれを労わる樹王と呼ばれる女性。
声だけで分かる。
この女性は絶対に捻くれていない。
ダズロは自分の主君である、笑みイコール感情を隠すための表情という等式を成り立たせている暗躍大好き無茶振りお姫様と交換してくれないだろうかと、思いつつ仕事は仕事と割り切る。
『時間がないので単刀直入に、現在も魔獣たちの襲撃は治まっていません。現地で何が起こっていたか話を聞かせてほしいのです』
糸がぶら下がり、その先に釣り針があり、そして餌も括りつけた策が実を結ぶか。
ここから先に待つのは労力の消費か成果かという分岐。
『かしこまりました。自分の知る限りの話をすべてお話しいたします』
偽りの記憶を植え込み、それによって何が得られるか。
「頼みますから、おじさんの貴重な時間を浪費した分の成果は出てきてほしいなぁ」
向こうに聞かれる心配がないゆえにぼそりとこぼれたダズロの愚痴。
なにせ、この男、ハルクの記憶操作に費やした時間はわずかなものであっても、ほころびないように操作してみせたダズロの労力は通常の魔導士なら命を削らねば成しえないことだ。
その労力に見合った成果を期待してしまうのも仕方ない。
『私が森に入ってから』
ハルクの語る話は最初はいじっていないが徐々に変化を起こし、とある話まで導くようにした。
森の異変に気付き、そして魔獣の襲来。
そこまではなんら変化のない話。
必死に仲間と共に迎撃している話も、ダズロからしたら襲わせた張本人だ。
わかっている話を再度聞くのは些か面倒だなと思いつつ、少しでも信用性を増す材料になってくれと祈るばかり。
『懸命に対処するも、力及ばずにこのような様になってしまいました』
そして、襲われたとこまでが語り終え、特段聞くべきところはないという話でまとまりつつ。
『そうですか、なにか気になることはありませんでしたか?』
この問いを待っていた。
『気になることでしょうか?』
記憶操作はなんでもかんでも変更できるような便利なものではない。
違和感が生じれば、その分だけ記憶に誤差が出て混乱につながる。
おまけにできることは消すことと追加すること、記憶を置き換えることはほぼできない。
いじればいじるほど危険性が増してしまう、諸刃の剣。
そして、そんな危険な処置を施してまでやりたかったこと。
すなわち。
『そう言えば』
ふと思い出したかのように、違和感をその場に置かせること。
記憶操作された当人も、違和感程度にしか感じない情報であっても。
『〝狼〟がいませんでした。普段でしたら、多少なりともいるのですが』
その情報を重要視しないにしても、無視はできない。
『それは、本当ですか?』
『はい、私が戦っているときは姿をてんで見ませんでした』
普段いるはずの存在がいない。
それは異常と言える事態。
何かあると勘繰ってしまう。
事実、ダズロの手によって狼の魔獣も支配下に置き、姿を見せないように操作している。
『確かに、討伐された魔獣の中に狼型の魔獣はありません』
『……なるほど、わかりました。何かほかにありますか?』
『いえ、それ以外には』
この餌にどう食いついてくるか、無視するか調査するか?
情報戦の駆け引きは、いかに自分の情報を相手に伝わらないように小出しにしていくかが重要になる。
下手に相手に与えるとそれの裏を疑ってしまう。
『わかりました。では』
あいにくとここで私見を述べるほどうまくはいかないかと、ダズロは空振りを感じ取るが。
『待ってください!』
突如として、第三者の声が舞い込んできた。
その声にダズロの勘が囁く、この人物を取り逃がしてはいけないと。
樹王という地位の高い存在の声を遮ってまで発言できる存在。
勘だけではないが、そのような無謀なことを安易にできる存在を、ダズロは興味を持った。
『…何か?』
声質は変わっていないが樹王の声は、その発言を歓迎していないように感じる。
しかし、咎めることもしない。
この存在はいったいなんだ?とダズロの疑問は深まるばかり。
『その狼の情報を僕に集めさせていただけないでしょうか!』
何を言っているんだこいつは?と声の主の男の発言にダズロの頭は疑問符で埋まる。
この場でそんな程度の低い発言をするためだけに、最高責任者の発言を遮ったというのかと、ダズロはこの男は決して関わってはいけない存在なのでは?と思い始める。
釣ろうとした魚の代わりに、べつの魚が喰いついてしまった。
どういった了見で発言しているかは、察しがつかない。
『……』
もし仮に帝国であれば、その場で斬首されても文句の言えないくらい無礼な態度。
自信に満ち溢れた声であるのは確かだが、ダズロからすれば功を焦った貴族が見せる蛮勇そのもの。
内心でヒヤヒヤと処断されるかと、他人事に思いながらこの後の展開を予想するも。
『はぁ、わかりました。後に編成した部隊にあなたを組み込みます。それで、よろしいですね?』
『はい!ありがとうございます』
その予想は裏切られる。
「なんですかねぇ、この男、どこかの貴族のボンボンだったりしますかね?」
まさか発言した内容が認められるとは思わなかったダズロは率直な感想で、あり得る可能性を挙げてみるも。
イマイチしっくりこない。
聞く限り、樹王と呼ばれた存在がそんな蛮行を許すような存在なはずもなく、貴族程度の発言をこうも容易く受け入れるのか、そして部隊編成に組み込むと言い、長にしなかったこともさらに違和感に拍車をかける。
これは何かあると思う反面。
「こんな感じの真面目で幻想を抱いている子は、姫様にとっては大好物なんでしょうねぇ」
こういった発言をする、存在を裏から操ることが大好きな存在をダズロは知っており、巻き込まれないように生贄にするべきか?とも思ってしまう。
そして、この男の立ち位置をしっかりと確認しておいたほうがいいとダズロは経験から推測する。
「はぁ、魔王軍のことを調べるだけのつもりが、余計な仕事が増えてしまいましたか」
密偵に使える魔獣はどれほどいたか、あるいはどれほど用意すればいいかと算段を立てているうちに、盗聴用の魔石を砕いて証拠隠滅。
もっと情報を得られるかもしれないが、下手に残しておくと魔獣攻勢の役割の根幹が揺らぐような情報を相手に渡してしまう。
まだ、自分の存在を相手に知らせるわけにはいかない。
そう思い、その場から離れる。
「ああ、あなたは巣に戻って増援を連れてきてください。少し調べるのに戦力がいるようで」
その際に傍に控えていた狼の魔獣を走らせる。
「はぁ、魔王軍の幹部と一戦交えないといけないとは、姫様恨みますよ」
そしてダズロの頭の中では、これから起こりうる戦いは避けられないと判断していた。
なにせ、自身の存在を気づかせないほどの大攻勢を仕掛けないといけないのだから。
嫌だ嫌だと愚痴りつつ、ダズロは森の闇に溶け込んでいくのであった。
Another side End
前に研修にいったダークエルフの里が襲われていると知ったのは、俺たちが竜王のダンジョンから帰ってきたときにケイリィさんが教えてくれた。
「大丈夫なのか?」
「ええ、早急にルナリア様が動いてくれたから、これ以上の被害は出ないと思うけど」
「ああ、あの人なら問題ないか、教官たちと同格の存在がそうやすやすと後れはとらないよな」
お世話になった里が魔獣の被害にあっていると聞き、大変だと思いつつ、ケイリィさんが伝えてくるということは俺にすべきことはないということだ。
うかつに手をだせば、越権行為になりかねないのを承知してるので問題がないならそれでいいと思う。
「問題がないわけでは、ないんだけどねぇ」
しかし、俺が知らない情報をケイリィさんは持っているようで、溜息を吐きながら愚痴をこぼすぞと宣告するように人差し指で手招きし、内緒話をするように周囲に注意を払った後に。
「ここだけの話、第三課の火澄と川崎さんがルナリア様についていったらしいのよ」
「は? なんで?」
「知らないわよ。魔獣討伐について調べてたら偶然知っただけなんだから。おかげで、それを知った第三課の課長さんかなりご立腹みたいよ」
「無許可かよ」
「そ、独断専行らしいわよ。ルナリア様がいるから問題は起きないだろうけど、帰ってきた後が大変よねぇ」
ご愁傷さまと皮肉まじりにケイリィさんは第三課で起きたことを教えてくれた。
火澄と川崎がなぜ、部署外の活動に同行したのか。
その内容は考えるだけ無駄とも取れるようなものだ。
俺からすれば、せめて許可を取れよと、言いたくなるが、あの第三課の課長が許可を出すとも思えず。
わかっていて事後承諾で動いたなと火澄の行動を察する。
「うちに、迷惑さえかけてくれなければいいんだけどね」
「確かにな」
勝手な行動ととれる火澄の行動は、下手をすれば他のダンジョンテスターにも影響を与えかねない。
後で周知しておくべきかと考える。
「あ、それともう一つ」
「まだあるのか?」
「なに? 私の情報が聞けないって言うの?」
「絡み酒のように絡むのは止めてくれ」
あまりいい話ではない内容を聞いた後にさらに付け加えられる時はあまりいい覚えがない。
その感情が出てしまったことに不満なのかと不機嫌そうに聞く彼女に謝罪しつつ、言い方を考えろと注意して、何があったかを聞く。
「それで、何があったんだ?」
「何かあった、というよりは、私が聞きたい内容だったってだけね」
「聞きたい内容?」
普段は俺のほうが質問することが多い、ケイリィさんが俺に質問とは珍しいと思う。
「それはいったい?」
「小耳にはさんだんだけど、隣の県のカナガワだったかしら?」
「ああ、あるな」
「そこで、最近、奇跡を見せる聖女って話があったのよ」
「なんとも、オカルトチックな話だな」
オカルト特集のテレビでも見たのか?と思いつつ、一応日本にも神秘は存在する。
もしかしたら叔母さんのほうの内容が漏れたかと思いつつ話の先を促す。
「うちの情報網で引っ掛かった話でね。なんでも、瞬く間に傷を治す金髪の女性がいるらしいの」
「そっち関連か。となると……ガチか」
しかし聞けば、ダンジョンテスターのスカウト班からの情報らしい。
そこまでくるといよいよって話なのだが。
「スカウトしていないってことは、何かあるのか?」
「ええ、スカウト班がそこ近辺に近寄ったときに魔力反応があったって聞いたのよ。おかげで人事部のほうは日本政府に確認を取ってる真っ最中よ」
勇者でも誕生したのかしらねと冗談半分で笑うケイリィさんを見て、俺も笑うしかなく。
「案外、異世界からの来訪者だったりするかもな」
と冗談のような言葉を残した。
今日の一言
知らないうちにとんでもないことになっていると、笑えてきません?
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




