357 トラブルに飛び込んでいくのは、見栄かあるいは善意か
ハンズから吸血刀、紫紅を買うまでに時間がかなりすぎて夕飯に遅刻。
おかげでヒミクとメモリアに怒られてしまった。
そんな出来事があった日からの翌朝。
「スエラさんの容体は?」
「今のところ安定してるよ。今ほど鉱樹を買ったことを喜ぶ日はないな」
定期的にエヴィアに入ってくる、スエラの経過観察を聞き、安心という太鼓判が自分で購入した代物だということに感謝しつつ、職場復帰。
武器の試し切りということで、普段よりも浅い層でダンジョンアタックをしている。
雑談交じりの攻略だが、俺たちにとっては日常作業なようなもの。
「は~い、雑談中申し訳ないでござるが、北宮、九時の方向、ワイバーンでござるよ~」
「はいはい、って、さっきから私ばっか魔法撃ってモンスター倒しているような気がするのだけど、私の気のせいかしら?」
「効率重視でござる」
程よく緊張し、程よく力を抜く。
常時、緊張しっぱなしだと疲れ切ってしまい、いざとなったときに力が入らない。
適度な力を維持することができるようになったのは俺たちでも最近だ。
余分な労力を避けるということを認識してからも、試行錯誤の毎日。
「ったく」
遠距離で雑魚を掃討できるのなら、掃討したほうがいい。
効率重視という、南の言葉を理解でき、納得できる北宮は、詠唱無しで氷の槍を生み出し、弾丸かと見間違うような速さで撃ち落とす。
「お見事っす」
「何回もやれば慣れてくるものよ」
流れるような淀みのない魔法に対して海堂が称賛を送るも、北宮からすれば、作業のように当たり前にこなしているだけと、誇ることはない。
「でも、私たちのパーティーだと、一番カレンちゃんが攻撃魔法うまいよネ」
「そうですね、得意分野がわかれていますけど、ちゃんと長所がわかるのは良いことかと」
しかし、その謙遜した態度が、年下組にはかっこよく映ったのか、さらにほめたたえられ、北宮は大したことではないと、若干照れながら手を振る。
それをニヤニヤと見る南であったが。
「お、リーダー、お待たせしたでござる。お待ちかねの敵でござる」
「大物か?」
探知魔法に感有りと、敵のいる方角に指を差しつつ南がニヤリと笑えば。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!』
「おー、これはこれは」
「なかなかの雄叫びっすね」
「と言うより、この程度で動じなくなった自分に関して、嘆くべきかしら?」
「私たちにとって、ドラゴンの雄叫びって、聞きなれたモノになっちゃったしネ?」
「仕方ないって部分はあるかと」
「はいはい、突っ込んでくるでござるよ~戦闘準備戦闘準備~」
「南、本気ならもう少し気を張って言ってくれよ」
岩陰から、のそりと姿を現す、地竜。尻尾から頭にかけて三十メートルはあるのではと思わせる巨体と、岩肌めいたごつごつした鱗、噛み切る牙も鋭く、鈍重そうに見えるも力強い。
そんな存在から咆哮を浴びても俺たちパーティーは動じることなく、むしろ雄叫びの声の批評をする俺と海堂。
一般人であればパニックを起こし、新人たちなら恐怖で身動きが取れなくなるであろう咆哮に動じなくなったことにおかしくなったかと確認する北宮。
気持ちはわかると腕を組んで頷くアメリアに、同意見で苦笑いする勝。
そんな緊張感に欠ける一行を動かすために、右手をクルクルと横円を描くように南は回すも。
しかし、その掛け声もなんとなく気が抜けたものになっており、勝がツッコむ。
「だってねぇ?」
「私に聞かないでよ、言いたいことはわかるけど」
そんな勝の反応に共感してほしそうに、南は北宮に話を振る。
振られた彼女は、面倒そうに顔をしかめつつ理解はできると言う。
「うん、仕方ないっすよね」
「まぁ、そうだよネ」
この後の展開がわかっていると言わんばかりに、目の前から凶暴な竜が襲い掛かっているというのに、なんとも気の抜けた一行。
そんな、一行の会話から抜け出した俺は、腰に差した刀の柄を掴み、あれをやるかと、これからすることを決め。
ドスドスと元気に迫る地竜めがけて、すぅっと一つ息を吸い込み腹に力を籠め前傾姿勢になり、一歩踏み込み風となる。
巨大な岩が迫ってくると錯覚しそうな風貌の存在とすれ違う際、キンっと何かを切った感触を示すような音を空間に響かせ。
ズサっと、地面を滑り足を止めた音を地竜の背後で響かせながらゆっくりと振り返る。
いつの間にか背後に回り込んだ俺を見失った地竜は、たたらを踏み振り向こうとしたが、すっと顎の下から縦に切れ込みが入り、そのまま首が落ちる。
「うん、なかなかの切れ味」
満足気に、吸血刀の切れ具合と刃こぼれしていないことを確認し終え、ゆっくりと鞘に納める。
音を立てず、ゆっくりと鞘に刀を納めた時、ドスンと地竜が巨体を横たえ、魔素へと還っていった。
「ひゅ~、かっくい~」
「漫画みたいな技で決めるとは、リーダーわかっているでござるな」
「次郎さん、抜刀術なんてできたんですね」
「SAMURAI! ダネ!」
「ちょっと、違うけど、間違ってもいないのかしら?」
この結末を理解していたのか、結果を冷やかす海堂に過程を楽しむ南。
俺が抜刀術を使えることに驚く勝に、刀を納める仕草を見て侍だとはしゃぐアメリアをたしなめるか悩む北宮。
「俺が教わったのは示現流だが、抜刀術ができないってわけじゃないからな? 最近は色々な剣術を調べて、手段も増やしてる」
「「「「「お~」」」」」
基礎は大事だが、それだけにこだわり続けるのもどうかと思う。
基礎をおろそかにするわけではないが、持てる手段が多いことに越したことはない。
人生日々勉強だと言えば、海堂たちから感心した声が上がる。
それがなんだか恥ずかしくなり、咳払いで空気を一新。
「それで? 使った感じはどうでござる? やっぱり、こう、精神を蝕まれるような感じがあるでござる?」
「ん~、普通とは言い難いが、使ってみればこんなものか?って感じだな」
気になるのか、南が吸血刀、紫紅の使い心地を聞いてくる。
魔剣というよりは、妖刀の部類だが、精神的に何かされているという感じはするが、御せていないわけじゃない。
「そうですね、僕から見ても次郎さんが変なところはありませんし」
「そうね、最初は魔剣を買ったって聞いたとき、正気?って思ったけど、何もないのよね」
「北宮、お前そんなこと思ってたのか」
しっかりと使いこなせば、確かに良い武器だということは今回の試し切りで分かった。
危険がないわけではないが、心配しすぎて、魔剣類を忌避するのもどうかというのが俺の中での結論。
北宮の素直な言葉に、笑うしかない俺は、言葉で少し非難しつつ、内心で北宮と同じ立場ならそう思うなと考えていたのは内緒にしておく。
「それで、リーダーどこまで行くでござる?」
「いけるところまでだな、さっきので大体性能はわかった。鉱樹ほどではないが、紫紅でも戦う分には問題ないだろう」
「了解でござる!! それじゃそれじゃ! あっちの氷山のほう行くでござるよ!! 聞けば、あっちのほうに珍しい竜がいると」
「ちょっと、氷属性じゃ私じゃ有効打出しにくいんだけど」
「何言ってるでござるか、北宮は防寒要員でござるよ」
「私は防寒着の代わり!?」
そして、試し切りが終われば、今度は仕事と思考を切り替え、予定通り攻略を再開する。
南の示した方向に北宮が難色を示すものの、反対するわけではなく、役割に不満を抱えつつも俺たちのパーティーは白くなっている山めがけて進むのであった。
Another side
次郎たち一行が、竜王のダンジョンで仕事をしている最中、会社に一つの急報が入る。
ダークエルフの里が魔獣たちの襲撃にあい、救援を要している。
見捨てるという選択肢はなく、瞬く間に社内は慌ただしくなる。
「同胞の危機なら私が行くのが筋でしょう」
急を要する内容なためか、回りくどい話を挟むことなく、樹王は救援に名乗りを上げる。
「うん、あの辺りは君の領土でもあるしね、それでいいと思うよ。加勢はいるかな?」
「不要です、わが手のもので此度の騒動は鎮圧できましょう。向こうに行くついでに此度の魔獣の活性化の原因も捜査してきましょう」
「そうしてくれると助かるよ。何やら貴族の連中が騒がしくなっているから気を付けてね」
「はい」
樹王、ルナリアは横槍が入ることなく、魔王からの指示で動けることに内心安堵する。
こういった騒動の時は、手助けと称して恩を売りたがる輩が後を絶たない。
麗しい容姿を誇るルナリアともなると、独り身のことも相まって下心を携えた話が後を絶たない。
なので、ダークエルフの里から救援の報を受けて、真っ先に行動を起こし、討伐に名乗り出た。
魔王に頭を下げ、部屋から出る際に、彼女が出るよりも早く扉が開く。
『ほう、その様子ではワシが手を貸す必要はなさそうじゃの』
「その通りです、不死王、身内の危機は身内で、それが私たちの理です」
『然り、なればワシは仕事に戻るとするかの』
そこから姿を現したのは、筋を通しやすい不死王ノーライフ、ルナリアの姿を確認した途端に出番はないと判断し、顎髭をゆっくりと撫で、部屋の中にいる魔王に一礼するとその場を去っていく。
出会ったのが不死王で良かったとルナリアは安堵する。
巨人王と機王は自分の管轄でなければ動かないので悩む候補にはならない。
問題は戦闘狂の鬼王と竜王の二人。
昔ならいざ知らず、今の鬼王なら話し方次第で退かせさることは可能だろうが、時間がかかる。
竜王であれば、魔王のとりなし無しに解決することはないだろう。
ルナリアは知らないが、次郎が竜王のダンジョンに挑んでおり、竜王は虎視眈々とその一行を狙っているため、急報を無視していた。
鬼王に関して言えば、単純に出遅れただけのこと、後に魔王の下に来るも空振りに終わる。
その二つの要因が彼女に味方し、最速で救援の許可をもらえたことはルナリアにとって僥倖であった。
そして、社長室から早足で歩きつつ、頭の中では動かす部隊、足の速い先遣隊と共に自分も動くと判断し、後詰はどうするかと悩んでいる時、ルナリアにめがけて走り寄る気配を彼女は感じる。
「ルナリア教官!」
教官と彼女を呼ぶ声に聞き覚えがあり、すっと閉じた瞳を声のした方向に向ければ、ルナリアが予想した人物が駆けよっていた。
その後ろには、見覚えのない女性を引き連れている。
「火澄さんですか、申し訳ありませんが今は急いでおります。教練等の申し入れでしたら後日にお願いします」
火澄はルナリアにとって教え子に当たる。
たとえ一時であっても、魔法を教授し、育てた繋がりがある。
次郎のように酒の席を一緒にするような仲ではないが、時々、魔法を教授している。
ルナリアは火澄のことを嫌ってはいないが、好感も抱いてはいない。
彼の口からこぼれる自信にあふれる言葉が、彼女にとって火澄の危うさを思わせる。
度々注意するも、聞き入れない彼に、ルナリアはいつしか失望の念を感じたが、見捨てることはせず、教え子と教官という距離感で接していた。
なので、急いでいるあまり少し突き放した言い方で一方的に言い放ってしまった。
「前に研修に行ったダークエルフの里が大変な状況だと聞きました、ぜひお手伝いさせていただけないでしょうか!」
しかし、そんなルナリアの言葉など気に留めず、なぜここに来たかという理由を火澄は語る。
ちらりとルナリアは火澄の格好を確認すれば、戦えるだけの格好にはなっている。
しかし、それだけ。
「いけません。魔獣討伐と言えど、これから向かうのは戦場です。ダンジョンの攻略テストとはわけが違います」
迷うことなく、火澄の同道をルナリアは拒む。
自信だけのある新兵がなんの役に立つのか。
軍事的訓練を施していない、彼に、何ができるかと素早く考えた結果だ。
「ですが、今危険になっているのは前にお世話になった里です! 見捨てることなんて」
「見捨てるわけではありません。私がこれより指揮を執り救援に向かいます」
あまりにも独善的に、そして、迷いない自信に危うさを通り越し、侮蔑的な感情が浮かびそうになるも、冷静にルナリアは対処する。
この時、咄嗟にエヴィアが自慢していた田中次郎のことを思い出し、彼ならどうするかと目の前の火澄と比べてしまった。
できることとできないことの分別はついているだろうし、今の実力なら足手まといになることはないだろうと、雑念を挟めてしまった。
「ですが!」
「………」
その雑念が、反論しようとする火澄を見定めるという思考を挟んでしまった。
田中次郎も実戦を隔て、急成長した。
ダンジョン内という安全装置が存在する空間ではなく、命の危機になる可能性のある戦いを隔て、成長している。
その報告を受けている彼女は、この危うさを含む火澄を一つ成長させるには同道させるのも手ではないかと。
「教官!」
反論を黙って聞いているうちに熱くなった火澄の瞳を見て、この危うさを放置してはいけないという思考に行きつく。
「わかりました。同道を許します」
「教官」
そして、一緒に来てもいいと言われた火澄は喜ぶ。
「ただし、あなたは私の直属に配置します。私の命令無しで勝手な行動は慎んでください。もし破れば、厳罰に処します」
「はい!」
行動が認められたと思っているのだろうと、喜ぶ火澄にとってこれから見るであろう悲惨な光景は果たしてどのような結末になるか。
不安もある。
「あなたはいかがしますか?」
「はい! 私も社に貢献したいと思い、一緒に行かせてもらえればと思っています!!」
しかし、それでも乗り越えてほしいとルナリアは願い。
背後にいた、七瀬美樹とは違う女性も火澄と同じ意思なのかと問いかえれば綺麗に気を付けしてはっきりとした返事を返してくる。
「良いでしょう、同道を許します。あなたの名前は?」
「川崎翠です!」
この判断が吉と出るか凶と出るか、それは後にわかることになる。
今日の一言
率先して動くことは悪くはないが、自力を考慮せよ
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




