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316 悪いことではないが、不都合であることはある

 ハンズから川崎がなにやら行動を起こしていることの情報を得たはいいが、明確な確証はない。

 なので今は静観しかないとは思うのだが。


「川崎翠さんですか?」


 何もしないという選択肢はなく、ハンズの店からその足でこちらも情報収集すべく、メモリアの店にやってきた。

 馴染みのカウンター越しの会話。

 そして同じ商店街の店員のメモリアなら何か情報があるのではと思い店に来た。

 俺と恋人関係になってからカウンターの向こうで本を読むことは無くなったが、ついさっきまで閑古鳥を鳴かせていた店内の名残か、手元にはブックカバーがかかった本があった。

 いつものことかと気にせず、さっきハンズに聞いた内容をそのまま伝え、それの人物像を想像した結果を言ってみたが。


「いえ、会っていませんね。そもそも現在新人さんはこの商店街にまだ入れないはずなのですが。なので商店街の外での接触になります。私はあまりここから出ませんので」

「そうか、なら話は聞いたことはないか?」

「噂話程度なら、ありますが」


 その予想は空振りに終わる。

 相手が避けたのか、あるいは偶然かメモリアは接触していないという。

 武器以外眼中にないジャイアントたちならそういった容姿とかの特徴を覚えていないのも納得できるが、メモリアが忘れるということはないはずだ。

 なら、商店街内では活動をしていないということになる。


「どんな噂だ? ハンズたちの噂じゃ少しあいまいでな」

「私も詳しく聞いていたわけではありませんが、協力要請というよりは〝営業〟と呼んだほうが正確しれませんね。リターンを提示し利益を得ようとしているような話だと聞きました」


 しかし、火のないところには煙は立たない。

 噂話は流れているということはその流れる原因があるはずだ。

 そしてメモリアの話をもとに話の流れを組み立てる。

 活動範囲は新人が動ける範囲に限られ、時間帯も絞られる。

 そしてメモリアの話は俺の予想を裏付けることになった。


「営業、か。詳しい話は分かるか?」

「ええ、その女性が提示したのは三つ、一つはその女性の所属するグループは基本的に契約した系列の店で消耗品及び武具を購入する。二つ、その使った商品のレビューを作る。三つ」


 一つ二つと人差し指中指と指を伸ばし数を数えるメモリアは、噂の内容を俺に教えてくれる。

 一つは専売契約。

 二つ目は製品開発契約といったところか。

 なら三つ目はおおよそ予想がつく。


「広告の作成及び告知といったところか」

「正解です。よくわかりましたね」

「まぁ、昔取った杵柄ってやつだ」

「キネヅカ? ですか? なんですかそれ」

「日本のことわざってやつだよ。昔やったことだからわかるといった意味だ」


 得てして商売人は情報というモノに価値を見出す。

 良い評判の品物があれば飛びつき、悪い評判の品物があれば避ける。

 ではその評判というのはだれが決める?

 製品開発者か? 否、もちろん製品開発者もその商品を評価しその情報を公開するがそういった情報は悪い部分が隠されるケースが多い。

 売るための努力というやつだ。

 なので参考にはなるが決め手にはならない。

 では何かという話になるが、最も参考にするのはやはり実際に購入し使った人の声だろう。

 もちろん、感想には個人差もあり誤情報も存在し、参考になり辛い部分も存在するが、精査すれば確かな情報になり得る。

 そして良い評判は新たな販売の流れを呼び込み、その流れを掴めば他の商店と差をつけることができる。


「餌としては上等な話だ。サクラとも取れる行動だが、逆を言えば乗せればこっちのものだとも言えるな。知り合いのお勧めというのは最も簡単に手に入って信頼しやすい広告活動だよな」


 総勢百人程度のダンジョンテスターならその情報操作も比較的簡単だ。

 あの武器屋がだめであの武器屋はいい。

 その程度の口コミで人の流れは多少なりとも動くことになるだろう。

 ここにいる商店は皆、魔王軍に招聘され集ったもので補助金や援助は出ている。

 だが、売り上げがないのは厳しいと言わざるを得ない。

 現状、テスターの人数が増えたことにより商店街では新たな商売への機運が高まっている。

 そんな環境で甘いお菓子を差し出されたら普通なら手を伸ばす。


「それで、話に乗った店はあるのか?」

「今のところそういった話は聞きませんね。ですが、信用はできませんね。沈黙は金なり。黙秘しているという可能性はありますね」

「それ、異世界にもあることわざなんだな」

「商人なら口を閉ざすことで時と場合によって利益を得られるということは知っていて当然なのですが」


 しかし、そこは商人。

 あからさまに手を伸ばすような二流の行動はとらないということか。

 こうやって情報収集をしても簡単にはぼろは出さないか。


「もしかしたら、私がその口を閉ざしている一人かもしれませんよ?」

「勘弁してくれ、そうなったら完全にお手上げだ」

「ふふ」


 本職でない分そういった情報収集は難しい。

 メモリアが俺をからかってきて、素直に両手を上げて降参ポーズ。

 彼女が知らないのならこれ以上は無理だなと判断した結果だ。


「可能なら、そういった感じの情報があれば集めていてほしいのだが」

「では、商談ということでその情報料をどのように払ってもらうかから話しましょうか」

「お手柔らかに頼むよ」

「利を得られる時に得ないのは商人ではないですから」


 痛くはないが、出費が多そうだと思いつつ彼女の希望を聞く。

 一つだけ言えるのならその夜の彼女はとても激しかったとだけ言っておこう。





「先輩、目の下に隈があるっすけどどうかしたっすか?」

「なに、少し寝不足で貧血ってだけの話だ。気にするな」


 翌朝少し気だるい体を押して出社。

 眠気覚ましのコーヒーを飲みつつ先に出社していた海堂と雑談を交わす。

 キッチンでコーヒーを注ぎ、パソコンで社内ニュースに目を通す海堂にもいるかと聞けばいると答えが返ってくる。


「何か面白いニュースでもあるか?」

「新人の研修は予定通り終了って話くらいっすねぇ。その締めで俺たちが駆り出されるって話っすよね?」

「ま、それが活動を縮小する条件だからなぁ」


 片方のカップを海堂に手渡し、そっと海堂の背中越しにパソコンの画面を見る。

 昨日のハンズとメモリアの話。

 その情報がないかと見るがさすがに表沙汰にはなっていないか。

 相手さんもそう簡単には尻尾を見せないか。

 嫌な予感はしても、悪いことをしているわけではない。

 なのでこれといった対策を打てないことにもやもやしつつ。

 自分で淹れたコーヒーをすする。


「そういえば先輩」

「なんだ?」

「いや、噂なんっすけど気になった話があるんっすよ」


 そんな折海堂の言葉から噂という言葉が聞こえピクリと反応する。

 もしかしたらと体は自然に反応し、海堂の次の言葉を待っている。


「北宮ちゃんの幼馴染の火澄君いるじゃないっすか」

「ああ」

「彼、新しい彼女ができたって噂で聞いたっすよ」

「新しい彼女?」


 しかし、出てきた話は俺が聞きたい内容とはまた別の話だった。

 色恋沙汰は社会人の中では娯楽なのは理解できるが、まさか海堂がその話を持ってくるとはと、少し力の入っていた肩を脱力させ、今度は心を落ち着かせその話を聞く。


「そうっすよ。ゴブ五郎さんが言ってたっす」

「だれだよ」

「たまに一緒に飲みに行くゴブリンエリートのゴブ五郎さんすよ」

「知るか」


 ゴブリンの知り合いは何人かいるが、ゴブ五郎たるゴブリンは知り合いにいない。

 なのでバッサリと知らないのかと怪訝な顔をする海堂を切り捨て、話の先を促す。


「前にゴブ五郎さんが設備のメンテナンスをしてた時に綺麗な女性と抱き合っているところを見たって言ってたっすよ」

「それっていつのことだよ」

「一昨日の話だったと思うっすよ、昨日一緒に飲んだ時に新しい女か? って言ってたっす」

「へぇ、あいつがなぁ、うちの会社の影響でもうけたか?」

「先輩のようにっすか?」

「お前もだろ」

「俺はまだ違うっすよ!!!」


 火澄を一言で表すのなら物語の主人公な奴だろうか?

 容姿も整い、性格も悪くはない。

 些か正義感が強すぎて思い込みが激しい部分もあるが、それを含め悪い人間ではないとは思っている。

 正直、北宮とあんなことがあったから意外だと思いつつその女性はだれなのかと邪推するのもどうかと思い、この話はここで切る。


「まだ、ねぇ。いずれお前と義兄弟になる日が来るかね」

「………先輩が兄貴っすか………ヤクザ映画っすか?」

「だれが杯を交わした仲だ。ったくからかい甲斐のない奴だな」

「へへん! いつもからかわれているだけの俺じゃないっすよ!!」

「はいはい、成長したな」


 ヒミクと結婚し、海堂があの双子と結ばれれば間接的な兄弟になるかもとからかってみたが、最近この手のからかいに耐性がついてきたのか。

 やり返してきた海堂に呆れてジト目になってしまう。

 川崎が何を思って何を企んでいるかはわからない。

 物思いにふけるようにゆっくりとコーヒーを飲みながら考える。

 スエラやエヴィアにも一応情報は報告しておいたが、二人からは規制も注意もできないと言われた。

 エヴィアのほうではそういった行動は悪意もなく、ダンジョン攻略の効率化の一環とみれば邪魔する行為はデメリットにしかならないとのこと。

 しばし様子を見るということで、川崎に対して少し視線が集まるだけまだいいか。

 注意が集まれば自然と行動もしずらくなるだろう。


「そうだ先輩」


 そんな抑止力を期待しつつ、仕事のことでも考えるかと思考を切り替えようとしたタイミングで海堂から話しかけられ、まだ何かあるかと思いコーヒー片手で聞き返す。


「今度はなんだ?」

「新しい必殺技を開発したっすから実験台になってください」

「カウンターで切り倒していいならいいぞ?」

「それ、実際にやったら俺が切り倒されるだけっすよね!?」

「万事無防備に敵が攻撃を受けてくれるわけじゃないからな、実戦的でいいだろ?」

「実戦的すぎるっすよ! せめて木刀でお願いするっす!」

「俺だったら木刀でも切れるぞ?」

「そうだった」


 後で南のほうにも情報を流しておくかと、頭の片隅で思いつつ。

 冗談を交えつつ次の行動に移る。

 今日のこの後の予定は海堂との訓練だ。

 未だ龍の血を制御しきれていない部分もある身として、この訓練は欠かすことはできない。

 対して海堂もスーツの能力を十全に発揮することに対して努力を怠っていない。

 なので自然と最近の俺たち二人は模擬戦をすることが多い。

 俺は制御を、海堂は新たな技をと課題は多い。

 コーヒーを飲み終え、更衣室で着替えた俺たちは事前に申請していた訓練施設に向かう。


「すみません、田中さん今お時間よろしいですか?」

「お前は」


 いつも通りなら五分もあればその施設に着く。

 だがその道行きで待ち人がいた。

 両手を胸元で握り、不安そうにそこに佇む女性の姿。


「七瀬か?」

「はい、お久しぶりです」

「ああ、元気そうでは、ないか」

「………」


 あの日、訓練を一緒にした日。

 その時の七瀬の髪は首元が隠れる程度であったが今は肩を越し、腰まで伸びようとするくらいに長くなっていた。

 身体的変化といえばそれだけだが、問題はその表情。

 何かに怯えるように、そして不安を押し込め。

 本当にこれでいいのかと疑心暗鬼になっているような目。

 正直誰が見ても顔色が悪い。

 さて、トラブルが舞い込んできたのかそれとも別の何かか。

 俺は一回だけ海堂と顔を見合わせ彼女の話に付き合うことにしたのであった。



 今日の一言

 悪くはないが、あまりしてほしくないという行為は立場によって様々存在する。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。

そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マジ萎える。こういう奴主人公の成長に繋がらないし、プラスの要素ないから!ユーアーファイアド!!!クビだボケイ!
[良い点] ここまでくるといい点はない。無駄に引っ張る意味のない展開。無駄な文章と展開の羅列。吐き気がする [気になる点] そもそも才能がない。終わらせてサラリーするべき [一言] ツマラナイ。長い。…
2020/03/10 19:56 素人作家すぎ
[一言] ドロドロ展開というよりは、 北宮をジロウパーティーから引っ張って 空いた穴に川崎が入ろうと画策して ジロウの怒りを買うサッパリ展開かと
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