ブックマーク一万人突破記念 いきなり現れたシンデレラ………たち!?(後編)
新年あけましておめでとうございます!
本年も頑張って投稿していきたいと思います!!
親子の触れ合いというのはこういうものかと、のんびりと眺める。
ヘレナとスエラが隣り合い食事をとりながら会話をし、メモリアとマリアはマイペースだが、メモリアがマリアの口が汚れているのに気づきそっと口を拭く。
ヒミクは食事の手を止め、おいしいと言い続けるカスミの言葉に相槌を打ち、時たま嬉しそうに笑う。
それとは正反対に静かに食事をとるエヴィアさんとクレアだが、不仲というよりは隣り合って食事をとること自体が彼女たちにとってどことなく落ち着くのだろう。
雰囲気が柔らかい。
そんな十人十色と言うべき親子の距離感を目の当たりにしている。
「いいっすねぇ。なんと言うか落ち着くと言うか」
「そうでござるねぇ」
「ま、否定はしないわよ」
「Yes、仲が良いことはスバラシイデス!」
「………そうですね」
その光景を見る海堂たちも普段はワイワイと騒いでいる食事がどことなく落ち着き雑談に興じている。
そして俺はと言えば。
父親とはこういう気持ちなのかなぁと、母親と子供の会話に入り込めず若干疎外感を味わっている。
先ほどまで楽しく会話していた分も相まって、なおのこと寂しさが際立つ。
しかし、この寂しさを表に出すわけにはいかない。
男としてのプライドもあるのだが、それよりもこうやって楽しく話す彼女たちの邪魔をするのも何か違う気がするのだ。
しかしだからと言って海堂たちと会話するわけにもいかない。
左右にヘレナとマリア、向かいにカスミとクレア。
その隣にスエラ、メモリア、ヒミク、エヴィアさんといるのだ。
海堂たちとは席が離れていて、会話に参加できない。
「うん、うまいなぁ」
だからこそ、俺は少し静かに彼女たちの会話を眺めながらヒミクと勝の作ったナポリタンを頬張る。
いつも通り旨いのだが、気持ちしょっぱいと思うのは気の所為だろうか。
そんなこんなで何事も、というか食事中に何かが起こるはずもなく。
俺の気持ちに寂しさを残すくらいしか、気に留めることもなく食事は終わる。
食器の片づけが終われば、いよいよ問題解決にいそしむことになる。
「海堂、アメリア、勝、すまんがしばらく子供たちと遊んでいてくれないか?」
「了解っす!」
「OK!」
「わかりました」
しかし、どう考えても解決策を探すのには時間がかかる。
なので、海堂に頼んでテレビのある方に子供たちを連れていってもらいその間に俺たちは子供たちの今後について話し合う。
ゲームするっすよ!という海堂の掛け声に喜びの声を上げる子供たち。
最初は母親がどこか行くのではとチラチラとこっちを見ていたが、椅子に座り子供たちに手を振る母親たちの姿を見て今はニコニコと大乱闘にいそしんでいる。
電気ネズミやピンクの悪魔といったかわいいキャラを使っているのはやはり女の子だからだろうか?
クレアがガから始まるボスキャラを持ち出した時はこれが悪魔の血かと少し苦笑した。
その後に響く海堂の絶叫、アメリアの叫び、そして子供たちがキャッキャと騒ぐ声をBGMに残った面々で話し合う。
「それで今後のことなんですが、エヴィアさん。正直、未来から来たってことは疑ってはいないんですが、となると完全に自分の手に余るんですが」
最初の話の切り出しは俺がやるが、この場で最も地位が高く権力を持っているエヴィアさんが主導で話は進む。
物語とかで未来からやってくるという話はよく聞くが、その話のほとんどは自力で帰る手段を持っている。
しかし、まだ幼い彼女たちは現状すら理解していない。
そんな彼女たちが帰るための術を持っているわけもなく、そして俺もファンタジー職にはついてはいるが未来へ干渉する術など持っているわけもない。
「はっきり言って私にもわからん。未来からの来訪者など寡聞にして聞いたことがない」
そして頼みの綱である彼女の反応も芳しくなかった。
地位があり見識もあるエヴィアさんでも未来から自分の娘どころか、未来からの来訪者など聞いたことはないらしい。
「過去の資料を調べればもしかしたら何か手掛かりが出てくるやもしれんが、明確な資料は期待できないだろうな」
最後に専門家ではないからと付け加えていた彼女の表情は少々険しい。
「………最悪のケースを想定していた方がいいかもしれませんね」
「最悪って」
そんなエヴィアさんの言葉に続けたのはスエラだった。
彼女の言う最悪。
その言葉を聞いて俺が想像したのは彼女たちが帰れなくなったということだ。
「はい、もし彼女たちが元の時間に帰れなくなった時のことも考えていた方がいいかもしれません」
「しかし、いささか後ろ向きな考えでは? 今この場で考える必要はないかと」
シリアスな雰囲気を真っ向から縁起でもないと反論するのはメモリアだった。
自分たちの娘とは言え、未来には自分の子供を心配する自分がいるのだ。
スエラが心配する気持ちはわかるが、その言葉は後にしまっておこうとメモリアはスエラを諭した。
人事を尽くしてからでも遅くはないと。
「そう、ですね、いささか気が急いていたかもしれません」
そのメモリアの言葉にスエラも思う所があったようで素直に頷き受け入れた。
その言葉のやり取りが俺たちのおおよその指針になる。
「となると、拙者たちはヘレナちゃんたちを無事送り返すという方針で良いんでござるな?」
「ああ、そうなるな」
確認するかのように言う南にエヴィアさんは頷く。
「魔王軍側では情報はないが、ヒミク、貴様の方ではどうだ。我らとは違った術を持った天界の元天使なら時空を行き来する方法もあるのではないか?」
そして、魔王軍がだめなら他の手をと考えたエヴィアさんは他勢力の、それこそ魔王軍の天敵と言えるヒミクに聞いた。
普段のこの二人の仲は悪くないが良くもない。
かといって無関心というわけでもなく、どちらかと言えば互いに敵対した幹部同士だったのが今では互いに顔を合わす機会が増え距離感を測りかねているといった感じだ。
しかし、こういったときの緊急時になれば互いに私情を捨てられる。
「ふむ、神なら可能かもしれんがその権能を私は知らないな。姉妹の中にも時を操るといった能力をもった者はいなかった。過去に時を止めた勇者がいると聞いたことはあるが」
「何年前だ?」
「四、五百年前だな。今では生きてはいまい」
そして私自身は言うまでもないと首を横に振るヒミクにそうかとエヴィアさんはそれ以上言わずどうするかと眉間にしわを寄せる。
「ねぇ、次郎さん。次郎さんの契約した精霊ならどうにかなるんじゃないの?」
「そうか、次郎。貴様が契約した精霊は」
「時空精霊ヴァルス様、あの方でしたらなにか解決策があるかもしれません」
そんな時にふと思い出したかのように北宮が俺の契約した精霊のことを挙げる。
そのことにエヴィアさんとスエラも気づき、どうにかなるかと表情を明るくする。
しかし、申し訳ない。
「それは、そうなんだが………」
「何か問題でも?」
言葉を濁しながら、どう言ったものかと悩んでいるとメモリアが率直に聞いてきた。
そのおかげで視線が俺に集まり、そしてただ言いづらいだけで嘘を言う必要もない。
「それが、召喚ができないんだ。俺もなにか解決策がないかと思って念話を飛ばしているんだが、一向にパスが繋がらなくてな」
「なに?」
契約している感覚はあっても、すべての流れが門前払いをされているという感覚。
まるで精霊界の方で何か問題が起きているんじゃないかと言わせるような始末。
そんな俺の言葉に、エヴィアさんの目尻が上がる。
「それは本当ですか?」
「ああ、こんな状況で冗談なんて言えない」
心配そうにスエラが聞くが何度聞かれても答えは変わらない。
非常に残念だが。
「となると、状況は最初に振り戻しですか」
俺の表情を察してか決して嘘ではないというのをわかったメモリアは別の案を模索すべきだと話を元に戻す。
「ん~、時空魔法とかでできないんでござるか?」
「少なくとも私たちは学んでないわね」
「失伝していると言われている。少なくとも私の権限で把握できている魔法の中でそれに近いことができるのは次郎が契約した精霊くらいだ」
しかし、ご都合主義というのはこういう時には起きない。
マジックバッグはあくまで空間を拡大しただけの空間。
そして時間を遅くすることはできても、巻き戻すことはできない。
そして進めることもできない。
さて、問題は最初に戻った。
「「「「「「………」」」」」」
辺りは沈黙、妙案が浮かばず、話は進まず。
こういったときは神様とか魔王を倒せばとかファンタジー的な話がヒントとなり物語は進むのだが、魔王は味方で神様には会えない。
ああ、手詰まり感が半端ない。
「私の方で魔王様にもお伺いを立ててみる。さすがに彼女たちのことを秘匿するわけにもいかん」
「すみません、お願いします」
「構わん、もしかしたら魔王様なら何か情報を持っているかもしれん。そもそも、すぐに解決できるような問題でもない」
いつまでも沈黙を保つわけにもいかない。
エヴィアさんがわずかでも可能性に賭けて、報告がてら社長に話を持っていってくれると言ってくれた。
そのことに感謝し、頭を下げる。
彼女は気にするなと言う。
「私は父に連絡を入れてヴァルス様の状況を確認してもらうように頼んでみます。もし精霊郷の方で何か起きていればきっと何か情報があるはずです」
「でしたら、私は商会の方で何か古い文献がないか確認してみます。それで手がかりでも見つかれば」
「なら、私が子供の面倒を見よう。なに、予行演習だと思えばうれしくもある」
なんとも頼りになる嫁さんたちだ。
スエラとメモリア、そしてヒミクもできる限りのことはすると宣言してくれた。
なら、俺もできる限りのことはせねば。
「ねぇ、北宮。拙者たちできることあまりないような気がするのでござるが」
「言わないで、気づかないようにしているんだから」
そして、そういったコネのない北宮と南は、離れた場所で楽しそうに騒ぐ海堂たちと子供たちの光景を羨ましそうに見ていた。
これが終わったら何か、奢ってやるからなと心に誓って彼女たちの言葉を聞き流す。
そして安心しろ、俺たちにもやれることはあるぞ。
「なら、俺たちの方でもう一度ダンジョンの方に潜ってみます。もしかしたらあの場所に何か手掛かりが残っているかもしれませんので」
「わかった、巨人王の方には私の方から話を通しておく、攻略はできないだろうが一時的な安全は確保できるだろう。それと何か変わったことがないかも確認しておく」
「助かります」
俺たちができることと言えば現地の調査くらいだ。
咄嗟に離脱したが、あの場所に何か痕跡が残っているかもしれない。
それくらいしかできることはないが、できることはしておくべきだろう。
「今できることはこれくらいか。次郎、子供たちは任せる。私も可能な限り顔は出す」
「はい」
話し合いはひとまず終了だ。
まずは情報収集、そしてそこからできることをやる。
もしそれで、何もできないのなら、俺は………
「まだ早いか」
「? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。できることをまずはやろうって話だ」
「そうですね」
行きついた思考を振り払うように首を横に振り、小声でつぶやいた言葉は正確には伝わっていないが、隣に座っていたスエラには聞こえていたようだ。
何かあったかと聞かれるも今言うべきではないと思い、言葉を濁していた。
「次郎、ひとまず私は仕事に戻る。夜にもう一度顔を出す。その間、頼むぞ」
「わかりました。幸い、今日は仕事は終わりですので、このままヒミクと一緒に部屋に引き上げますよ」
「ああ」
そして彼女たちはいつまでもこの場にいるわけにはいかない。
最初にエヴィアさんは席を立ちクレアの方に歩いていく。
母親が近づいてきたことに気づいた彼女は笑顔でエヴィアさんを出迎える。
そしてクレアの頭を撫でた彼女は。
「仕事に戻る、良い子で待っていろ」
「はい! 待っております! 行ってらっしゃいませ!」
そう一言いい、クレアの返事を満足気に聞くと転移で部屋を去っていった。
恐らく夕食ごろに顔を出すだろうなと予想する。
「では、私たちも一旦仕事に戻ります」
「主よ、私は夕食の買い出しに行くぞ。少々冷蔵庫の中身が心もとないのでな」
スエラたちも同じように席を立つ。
彼女たちも子供たちのもとに行き、仕事に戻ることを伝えると一瞬だが、子供たちは寂しそうにするもすぐに行ってらっしゃいと言う。
「子供たちよ、今日の夕飯は何が食べたいのだ?」
そんな寂しい表情を明るくするために元気よく張りのある声でヒミクが子供たちに問う。
それは母親が子供によく聞く質問だった。
この解答次第で今晩の夕食は決まるだろうと思い、眺めている。
子供たちは一旦、ゲームを止め、何がいいかと話し合う。
子供たちが好きな食べ物と聞けば俺はハンバーグやグラタン、ミートソースのスパゲッティ、そしてカレーライス程度しか思いつかない。
さて、何が来るのかと楽しみにしていると。
「「「「お鍋がいい!!」」」」
「む? 鍋でいいのか?」
「「「「うん!」」」」
「そうか、なら今日は鍋にするか」
彼女たちの口から出たのは意外にも鍋であった。
なぜ彼女たちが鍋がいいと言ったのかはわからないが、はもるほど好きなのだろう。
事実、夕食が鍋だと知った彼女たちはとても喜んでいる。
未来の俺たちは鍋をよくやっているのか?と思うような光景であった。
「では、主よ、私は買い物に行くのでしばし子供たちを頼んでも良いか?」
「ああ、任された。夕食の方は頼む」
「うむ! 任せよ!」
そしてスエラたちと一緒に部屋を後にした。
その際に子供たちが見送るという出来事があったが、その時の子供たちはみな今度は俺の周りに集まり、それぞれ左右の腕のどちらかの手は俺のズボンの裾に手が伸びていた。
後で会えるとわかっていても、母親から離れるのは寂しいのだろうと思う。
「さて、お父さんと一緒に何かしたいことはないか?」
そんな彼女たちと一緒に何かできることはないかと思った俺は膝を曲げ彼女たちの目線に合わせ、自然とそう問いかけていた。
その行動に再び子供同士で顔を見合わせた彼女たちは。
「えっと」
「う~ん」
「なにがいいかなぁ~」
「しばし待ってくれ」
そういって真剣に考えこんでしまった。
えっとそこまで考えこむようなことだろうかと、てっきりままごとや絵本を読むといった遊びが出てくるかと予想していた俺としてはここまで悩んで何が出てくるか不安になってしまう。
「あ!そうです! お父様にあれを見せてもらいましょう!」
「あれって、あれのこと?」
「そうです!」
「う~ん、いいかも?」
「おお! あれか! 我も異論はないぞ!」
そんな彼女たちはどうやら俺に見せてもらいたいものがあるらしく、笑顔で俺にこう言った。
「お父様、どうか魔法を使っていい場所に連れていってくれませんか!」
「魔法が使える場所?」
あれとはなんだと思いつつ、俺が見せられるものだといいなぁと思いつつ。
いざとなれば頼むぞと背後の海堂たちにアイコンタクトを送る。
それにサムズアップで答える彼らの頼もしさを感じるのであった。
そして移動してきたのは、訓練室。
空間魔法で拡大された、広大な敷地。
普段であればそこで俺たちは戦闘訓練をしているのだが。
「ふふん! どうでござるか! これが拙者の実力でござる!!」
「なにおう! 俺のゲルマディウス三世の方がすごいっすよ!!」
「すごいです! 大きな雪だるまですね!」
今その空間は雪で満たされていた。
直径五メートルほどの雪玉を重ね、氷魔法で顔や手を作り、巨大雪だるまを完成させた海堂と南にヘレナは大喜び。
「ほら、危ないからしっかりとつかまってるのよ」
「マリアちゃんは私と一緒ネ!」
「うむ! わかっている!」
「はーい」
その隣では大きな雪山を利用した滑り台から北宮とアメリアがそれぞれクレアとマリアを前に乗せてソリで滑ってくる。
「できました」
「わぁ! おっきい!!」
そしてさらに隣では、黙々と身体強化で体を強くし、黙々と雪を積み上げかまくらを完成させた勝が、その完成具合に満足し頷き、その中にカスミが飛び込んでいった。
「ふぅ、こんなもんでいいか」
俺と言えばずっと雪を降らせ続けていてその雪を確保していた。
ヘレナたちが求めていたのは雪だ。
どうやら、過去と言うか未来で俺と一緒に遊んだのが楽しかったらしい。
その時も俺が降らせてこんな感じで遊んでいたらしく、彼女たちは大満足な笑顔を浮かべている。
訓練施設の許可は、まぁ、普段から使っているから大した手間はない。
だが、訓練室にこんな使い方があるのかと感心した日だった。
「お父様! こっちです!」
「とーさん! こっちすごいよ!!」
「お父さん~一緒に滑ろ~よ~」
「うむ! 父よ! 我と一緒に滑るぞ!」
四者四様、共通しているのははしゃいでいるということだ。
ヘレナは雪だるまを作ろうと小さな雪玉を片手に俺を呼び。
カスミはかまくらの中から俺を呼び。
クレアとマリアはそり片手に俺を呼ぶ。
娘の呼び声に応えてやりたいところだが、あいにくと体は一つしかない。
「おう! 順番にみんなでやろうな!」
なので一つずつ応じていく。
皆を呼び寄せ、パーティーメンバーも一緒に子供たちと雪だるまを作る。
「見よ! 拙者の雪だるま、名付けて雪雲丸でござる!」
「負けないっすよ! こっちはゲルマディウス三世ジュニアっす!」
「久しぶりに作ってみたけど、魔法を使うと結構楽しいわね」
「う、どこか歪なような気がするネ」
「この大きさにはこのサイズの目が」
「見てくださいお父様! かわいらしい雪だるまができました!」
「こっちもできた! 見て見て翼生やしてみた!」
「お~、これで完成、お父さん」
「見よ! 父! 我の芸術的雪だるまを!」
「おう、すごいな。父さんの奴もすごいぞ」
各自個性の溢れる雪だるまを並べ、笑いあい。
そして、次に山に登れば。
「拙者クラスの魔法使いになれば、防御魔法でこんなこともできるんでござるよ!! ただし乗れるとは限らないでござるがぁ!?」
「ノリと勢いならだれにも負けないっす! ソリでも、それは同じっすよ!! ぐふぁ!?」
「いい? あんな大人になっちゃだめよ?」
「わかりました」
「でも楽しそう! とーさん、私もやっちゃダメ?」
「ダメだ、怪我したらどうするんだ」
「そうだぞ! カスミ、べ、別に怖いわけじゃないからな父よ!」
「クレア~、怖いの?」
「そんなわけあるか!?」
「あははは、楽しそうだね」
「南の奴、何やってんだか」
防御魔法を応用した南がスノーボードのようにかっこよく滑り出し、トリックを決めようとしたが身体能力はあっても技能はなくヘッドダイブ。
それを見て対抗意識を燃やした海堂がソリで同じことをやろうとしていたが、結末は同じ。
手本になるべき大人が何やっているのだと呆れつつ、反面教師として北宮が子供たちに紹介していた。
そして最後にかまくらにみんなで入った後は………
「くらえ必殺、雪合戦必勝法! 雪玉の中に氷の粒でござる! そして海堂先輩は死ぬ!」
「何おうっす! 海堂忠たかが雪玉に氷が入っている程度で死ぬほどやわじゃないっすよ!!」
「甘いでござる! マシュマロにチョコレートをかけ練乳も載せて粉砂糖をかけた奴よりも甘いでござる! 拙者の用意した雪玉がただの雪玉だと思ったでござるかぁ!! 拙者の雪玉は後変身を二度残しているでござるよ!!」
「なんだとっすぅ!?」
「何やってるのよあいつら」
「はぁ、まったくです」
「アハハハ、それと比べて向こうは平和ネ」
「いきます! お父様!」
「たぁ!」
「あたれ~」
「せい! せい!」
「ほら、こっちだぞ」
殺伐とした少年漫画のような雪合戦で、海堂の顔面に南の雪玉がストライクし、のけぞり宙を舞う姿を尻目に、俺は子供たちが必死に投げる雪玉をギリギリで避けながら雪合戦に興じている。
そんなことをしていると時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
楽しい時間は本当に早く過ぎ去ってしまうものだ。
遊びまわり、魔法で保護をしていても雪で冷えた体を温めるために子供たちを風呂に入れ、そして用意されてた夕食を海堂たちとスエラたち、そして子供たちというちょっとした宴会気分で楽しんでいると気づけば時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
「子供たちは?」
「ふふ、皆、ぐっすり眠っていますよ」
「ああ、なかなか手を放してくれなくて困ったぞ主よ」
「私が添い寝か、そんな日が来るとは思わなかったがな」
「マリアは夜の方が強いようで寝かしつけるのにも苦労しましたが、なかなかいい経験でした」
そして元気にはしゃぎまわっていた子供たちはまるで電池が切れたかのようにパタリと眠ってしまった。
時間は夜九時過ぎ、海堂たちも自室や家に戻り、ここに残っているのは俺とスエラ、メモリア、ヒミク、そしてエヴィアさんだ。
子供を寝室に運んでもらった。
その間に俺は食器を洗い、そして軽い晩酌の用意をしていたところだ。
リビングに戻ってきた彼女たちは席に着く。
スエラはお茶だが、それ以外は各々好きな酒を持ち乾杯とグラスを合わせる。
「まったく、今日は慌ただしかったな」
「そうですね、ですけど次郎さんから未来から子供が来たって言われたときはびっくりしました」
「私もだ。スエラから聞いたときは働かせすぎたか?と心配になったな」
「もう、エヴィア様ったら、そんなふうに思っていたんですか」
「クククク、許せスエラ。なに、生きてきた中でもそんな風に報告に来た輩などいなかったもんでな」
「確かに、そういう話はなかなか聞かないですものね。もし報告されたら私もそう思うかもしれません」
「もうメモリアまで」
「だが、実際に子供たちと触れてみて思ったが、私はうれしかった。主と私の間に子供がいて本当に愛おしくなった」
「………ええ、私もこのお腹の子に早く会いたいと思いました」
「そうですね」
「………否定はしない。いや、そうだな。ああ、確かにそんな気持ちも湧いてきたな」
ゆっくりと、しかし、しっかりと俺たちは気持ちを重ねていく。
いきなりのことで慌てたのも事実だが、ヒミクの言う通り、自分の子供だと思うだけで心のどこかが暖かくなり、うれしいという感情が湧水がごとく溢れてきた。
誕生日というのは生まれてきてくれてありがとうと感謝する日だと聞いたことがあるのだが、こういうことなのかと思った。
「………昼間はスエラにああ言いましたが、もし、彼女たちが帰れなくなったら私たちが育てればいいのかもしれませんね」
そして、わずかな心境の変化かあるいはお酒が入ったためか、グラスを両手で握りゆっくりと水面を揺らしながら紡いだメモリアの言葉は本音がこぼれたモノだろう。
そしてその言葉を否定する者は誰もいない。
「………ああ、そうだな」
俺もそうだ。
もしを考えてしまったらキリがないが、あの子たちに限って言うのならどんなことがあろうとも見捨てられないと俺は思ってしまった。
だから、メモリアの言葉に素直に同意できる。
「私もだ、主よ」
「そうだな、戸籍くらい用意するのは造作でもない。多少の手間を惜しむような話でもないな」
「ええ、そんなことがあればお腹の子のお姉さんになってもらいましょうか」
そんな言葉に寄り添ってくれる彼女たちに感謝し、その後もゆっくりと雑談が続く。
そして気づけば時間はあと二十分もすれば日付が変わる。
「さて、そろそろ寝るか」
「そうですね、明日も早いですし」
「エヴィアさんはどうしますか?」
「タッテにはこっちに泊まると言ってある。問題はない」
「それなら、布団をもう一つ用意しよう」
「ああ」
「今日は忘れられない夜になりそうですね」
メモリアからすればこれからが本番なのだが、俺たちはもうすぐ寝る時間だ。
やましい気持ちなど抱かず、そっと寝る準備に移る。
そして静かに彼女たちを起こさぬように寝室に入ると。
「あ、やば!?」
「だれだ!」
暗闇に潜む人影に気づき、咄嗟に構えを取りとびかかる。
俺の声に反応したヒミクとエヴィアさんも即座に反応する。
ワンテンポ遅れスエラとメモリアも子供たちを庇うように動き出す。
「チョチョチョ、チョットタンマ、タンマ! 痛いから!」
「黙れ! どこから入った!」
相手は油断していたのかあっさり捕まえることができた。
組み倒し馬乗りなり手を抑えた感触から女性だというのはわかったが、暗くてその表情は良く見えない。
どことなく聞き覚えのある声ではあったが、家に潜入されたことに警戒心が跳ね上がった俺は声に怒気を含ませ問いかけるも、押し倒した相手はもぞもぞと身をよじるだけ。
埒が明かないと目に魔力を集めその顔を見ようとした。
「………スエラ?」
「あはははは、見られちゃった」
その顔は後ろで子供たちを抱き避難している女性と似ていた。
そして彼女はやってしまったと、笑いながら抵抗を止め、呆然とする俺に向けてこう言う。
「どうも過去のお父さん、妹たちを迎えに来ました」
「は?」
「あの~呆然としているところ申し訳、いやファザコンの私としてはこの体勢は非常にうれしくて燃える展開なんだけど、あまり時間がないから上からどいてくれると助かるんですがぁ」
そして、スエラによく似た女性は苦笑をしてから冗談を交え、最後の方は真剣な時のスエラとよく似た顔で俺にどいてくれるように頼む。
どうするかとエヴィアさんを見ればクレアを抱き上げ電気をつけるところだった。
瞬く間に部屋は明るくなり、もぞもぞと子供たちは明るくなった部屋に反応して目覚め始める。
「んぁ? お母様?」
「あさぁ?」
「眠いよ~」
「………」
「おーい、愛しの妹たち、お姉ちゃんがピンチだからできれば身の潔白を証明してから寝てくれないかなぁ! そうすれば全員おぶって帰るからさぁ!」
押さえつけられた状況で顔を横に出し子供たちに見えるようにしてから叫ぶ際にスエラたちにも顔が見え、彼女たちは目を見開かせた。
「ん? フレアお姉さま? 何をなさっているんですか?」
しかし、子供たちからすれば見覚えのある顔のようで目元をこすりつつも一番寝起きのいいヘレナが組み伏せている女性の名前を呼ぶ。
「おーさすがヘレナ、気づいてくれたか! お父さんにどいてくれるように頼んでくれないかな?」
「また、何か壊してしまったんですか? ダメですよしっかりと謝らないといけませんよ」
「今回はそういうわけじゃないんだなぁ! って、ヤバいヤバい! 今何時!?」
「あと十分ほどで日付が変わりますが」
「って!? もう時間がないじゃない! 過去のお父さんとこのまま熱いアヴァンチュールに突撃できないのは無念極まりないんだけど仕方ない。召喚! ヴァルスさん!!」
「ヴァルスさん!?」
そんなやり取りしている間にも話は進んでしまう。
ヘレナにフレアと呼ばれた女性は、メモリアから時刻を聞かされ慌てて魔法を発動、それを咄嗟に止めようとしたがぬるりと召喚陣から生えてきた白い尾に邪魔されかつ、召喚対象に驚いて飛びのいてしまった。
「ゴメンネ、過去の契約者さん」
「ヴァルスさんだよな?」
その現れた姿に目を見開かせたが、その口調からして俺の知るヴァルスさんであったがどうも違うようだ。
「ええ、未来のってつくけどねぇ。今回は私のというよりこっちの契約者さんの不手際で騒ぎを起こしてしまってごめんなさい」
「こっちって、その子のか? それと不手際って」
「ええ、このフレアが今の私の契約者さんってこと、過去の私はあいにくと私の干渉で動けないわよ。それも込みで不手際ってのはまぁ、簡単に言えばこの子たちの子守りをしているときに私を召喚して誤ってこの子たちを過去に飛ばしちゃったの」
「ええ~ヴァルスさんそれは言わないって言ったじゃない!」
「向こうのあなたの両親には言わないって約束はしたけど、過去の両親には言わないって約束はしてないわねぇ」
「あ、確かに」
白い蛇の頭に乗り、民族衣装のような恰好をしたどこにでもいそうなおばちゃんとスエラに似た少女のやり取りを見て、なぜヘレナたちがここに来たかの理由は分かった。
その言葉に〝嘘〟は感じられなかった。
そしてその言葉が真実で彼女が俺の娘ということなら。
「「「「「………」」」」」
ヘレナたちと別れる時間が来てしまったということだ。
そしてそれはエヴィアさんたちも理解しているようだ。
自然と強くなる腕の力に寝ぼけていたヘレナたちはどうしたのと疑問符を母親にぶつける。
理解し、納得していてもたとえ一日にも満たないわずかな時間であっても自分の子供と別れねばならないという気持ちは受け入れがたかった。
「どうしたのですかお母様」
「どーしたのかーさん」
「痛いの~? お母さん」
「なにかあったのか母よ」
そして俺も彼女たちと同じ顔をしているのだろう。
「いえ、夢を見せてくれてありがとうございます。ヘレナ、また会いましょう」
「うむ、しっかりと食べて元気に大きくなるんだぞ」
「ええ、健やかにあなたらしく」
「ああ、貴様は私の娘としてまっすぐ育てばいい」
だが、こういう時は男よりも女の方が辛いはずなのに、なんで女性は強いのだろうな。
ゆっくりと彼女たちを降ろし、背中を押す。
「お母様?」
「お姉さんが迎えにきました。さぁ、行きなさい」
「お母様は?」
「私は一緒にはいけません。大丈夫です。すぐに会いに行きますから」
スエラも
「かーさん?」
「ほら、行くのだ。安心しろ、向こうにも私はいる」
「? 一緒に行かないの?」
「ああ、私はやることがあるからな」
ヒミクも
「お母さん?」
「ええ、少し移動するだけです。お姉さんと一緒に行けば問題ありません」
「お母さんも一緒に行こうよ~」
「すみません、お店があるので」
メモリアも
「………」
「ふ、お前は賢い子だな、だが向こうに行ったら私にしっかりと甘えてこい」
「母よ」
「この後なら、きっと私はお前を抱きしめてやれる」
そしてエヴィアさんも
「お父様?」
「とーさん?」
「お父さん?」
「父よ?」
別れるということを理解できず不安そうになっていいる娘たちに向けて彼女たちは笑顔で見送ろうとしている。
それなら俺も。
何度目かになるかわからない。
そっと膝を折り目線を合わせ背中を押された娘たちをまとめて抱きしめた後ポンポンと背中を叩き。
「お父さん、頑張るからな」
ニカっと少しでもこの子たちの不安を和らげてやれるように笑い。
背中をフレアと呼ばれた俺の娘の側に行かせる。
「あの~、ごめんなさい」
「何がだ?」
「いや、えっと、その」
「ったく」
その光景にすごく申し訳なさそうになったフレアはさっきまでの元気の良さはどこに行ったのか気まずそうにしていた。
そんな彼女に苦笑し、どことなく初めて失敗した時の俺と似ているような気がして俺は黙って一歩前に出て。
「あ」
「次は気をつけろ」
そう言って彼女の頭に手を置くのであった。
今回の騒動はきっと故意でやったものではない。
ただの事故。
そして、重ねに重なった偶然が引き起こした奇跡だ。
「はい!」
わずか数分での出会いでしかなかったもう一人の娘との出会いも夢幻かと思うような奇跡だ。
こうやって未来の娘を励ますのはきっと未来の俺の役割なのだろう。
だが、すまんな。
この一時だけでいい、俺を父親にさせてくれ。
落ち込んでいた娘を励まし。
不安そうにしているヘレナたちを笑顔で見送る。
「契約者さん時間よ」
「わかったわよ」
クシャっと荒々しく撫でられていた頭を押さえながら彼女は、呪文を唱えその赤い表情を隠しながら。
「反則だよ、お父さん」
そう言って白い光を放つ魔法陣を作り出す。
「お父様!」
「お父さん!」
「とーさん!」
「父よ!!」
その光に不安を覚えた娘たちは手を伸ばそうとするもヴァルスさんが乗る蛇の尾に遮られる。
「ヘレナ、マリア、カスミ、クレア」
そして俺はそんな彼女たちに向けて笑顔で
「またな」
と言った瞬間目の前はとてつもない光に包まれ、光が治まればそこには誰もいない。
寝室にセットされた壁掛けの時計を見ればちょうど日付が変わったところだった。
なんともお騒がせなシンデレラたちだ。
しかし、シンデレラと違う所は彼女たちはガラスの靴を落としていかなかった。
「次郎さん」
「ああ」
「私もいいですか?」
「主よ」
「エヴィアさんもどうです? 今は俺、すっごく人肌が恋しんですが」
前を向き現実を受け入れても寂しいという気持ちを隠さず、左手に縋るスエラと右手に縋り俯くメモリア、そして背中に頭をのせるヒミクを支え。
強がっているだろうエヴィアさんに向けて正直な気持ちを伝える。
「ああ、その気持ち、今だけはわかるな」
そしてゆっくりと前に回ってきた彼女は、一筋の涙を流しながら俺に抱き着いてきた。
その日の夜は俺たちはそのまま身を寄せ合う。
僅かに残った子供たちのぬくもりと共に。
明日になればまた日常が来る。
ただしその日常にはあの子たちはいない。
「ねぇ、次郎さん」
「なんだ?」
「あの子、ヘレナはいったい何番目の子供なんでしょうね」
「さてな」
「マリアはどうなんでしょうか?」
「わからん」
「カスミはどうだ?」
「さっぱりだ」
「ふむ、ならクレアはどうだ?」
「皆目見当もつきません」
しかし、眠気の覚めてしまった気持ちではすぐに眠るということもできない。
フレアというもう一人の娘が現れてしまったということは少なくとも今スエラのお腹にいる子供はヘレナではないということ。
そして、きっとフレアでもないということだろう。
「ただ」
「ただ?」
そこに何かを感じるわけではない。
しかし彼女たちが去ってしまったことに寂しさはあるも、俺にはもう一つ生まれた感情があった。
「きっとこれから生まれてくる子供を目いっぱいかわいがるんだろうなぁ」
俺の中に小さな芽であるが父性というのが生まれた。
「そうですか、うれしいです」
「そうなると、私も前以上に欲しくなってしまいました」
「私もだ主よ」
「ふむ、もう少しプライベートにも時間を割いてみるか」
これは、きっと彼女たちからの贈り物。
いずれ彼女たちと出会う時まで大事に育てよう。
それが、きっとこのわずかな時間で出会えた彼女たちとの時間の意味なのだろうから。
「俺って、親バカなのかもな」
今日の一言
鐘は鳴り、そして魔法は終了
されど、未来への希望は生まれるのであった。
今回で一万人記念は終了です。
いかがだったでしょうか?
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
次回は二万人記念でしょうかね?
本年も本作と七士七海の方をよろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
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講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




