ブックマーク一万人突破記念 いきなり現れたシンデレラ………たち!?(中編)
連日投稿!
もうすぐ年越し、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
今年最後の投稿、ぜひともお楽しみください。
パーティールームに到着した俺たちがまずやったのはココアを入れることだった。
ホットミルクにココアを混ぜ、そしてそわそわと辺りを見回す少女たちにマグカップを差し出す。
そうすればココアの甘い香りに全員顔を綻ばし笑顔で飲んでくれる。
その間に俺たちは装備を外し、私服へと着替える。
そして彼女たちが飲み終わったタイミングで話を切り出す。
「ええと、もう少しでお母さんたちが来るとは思うんだけどな」
話の切り口は当然と言えば当然だが俺だ。
膝を曲げ、彼女たちの視線に合わせる。
ソファーに横一列で座って並ぶとより一層、というより若干俺の要素が入っているような気がしなくもなくはないが、スエラたちが幼くなったようでまだ違和感が出る。
「ええと、ヘレナ、は今年でいくつになったのかな?」
「もう、お父様ったら忘れてしまったのですか先月の七日に六歳になりましたよ」
「私もだよ~、一昨日六歳になった~」
「私はまだ五歳だよ」
「我もまだ五歳だ」
「そうかそうか、そうだったな」
まずは一番年長者っぽいヘレナに年齢を聞くと連鎖的に全員の年齢がわかった。
とりあえず聞きやすい部分から聞いてみたが五、六歳くらいなもう少し幼い口調になるのでは?と昔の自分の口調を思い出してみるも思い出せないので母親を見て背伸びでもしているのだろうと自身を納得させる。
膝をつき目線を合わせ、顔を合わせれば合わせるほど、なんとなくだが自分の子供じゃないかという気持ちが強くなってくる。
「ヘレナちゃんの髪の色は次郎さん譲りかしら?」
「そうっすねぇ、あ。マリアちゃんの目元は先輩っすか? 少し眠たげな感じっす」
「カスミちゃんの鼻はリーダーに似ていると思うでござるなぁ」
「そうか? クレアちゃんの方が鼻の形は似ていると思うが」
「ん~、それでもやっぱりみんな母親の方に似ちゃうのカナ?」
そんなシリアス気味になっている俺の気持ちなどどこ吹く風か、のんびりと子供たちの特徴を審査していく面々。
普段だったら煙草なり溜息なりで心を切り替えているのだが、子供の前でそれをやるわけにはいかない。
愛想笑いとは違う、自然と出る笑顔なのは幸いだがこれ以上何を聞くべきか、親なら知って当たり前の情報を知るというのはなかなか困難だ。
「じゃ、じゃぁ、お父さんは何歳かわかるかなぁ?」
そしてもうすぐ生まれてくるとわかっていても、自分のことをお父さんと優しく言うのはなかなか気恥しい。
しかし、子供相手に俺とか私といった一人称を使うのもどうかと思った。
なので、お父さんという一人称をあえて使ったのだが。
「「ブフ!?」」
予想はしていたが、若干二名ほど釣れた。
OK、後ろで噴いた海堂と南は後で〆る。
「「ヒィ!?」」
ヘレナたちに見せないように配慮して背中に回した右手で親指を上から下に下げてやると後ろで悲鳴が聞こえる。
いきなりの海堂と南のリアクションにヘレナたちは疑問符を浮かべるもなんでもないと俺が言うとそうかと納得してくれる。
そして俺の質問に答えようと必死に考えてくれている。
ここで未来の俺の年齢がわかれば彼女たちが何年後から来たかがわかる。
そうなれば返してあげるための手段に役立つはずだ。
と、情報収集を開始するも。
「ええ、と四十歳くらいでしたっけ?」
「違うよ、もっと若かったよ~」
「ええと、我が五歳で父が」
「五十歳!」
うん、わからん。
確かにこれくらいの年齢で両親の正確な年齢がわかるわけないか。
ヘレナは必死に思い出そうと首を傾げる。
その仕草がスエラと似ている。
ヘレナの答えをマリアが否定するもそのマイペースぶりはメモリア譲りか。
指折りで数を数えるクレアを脇に多分直感で答えているのだろうカスミの活発さは間違いなくヒミク譲り。
「そっか、わからないなら仕方ないな」
わかれば儲けもの、結果的にわからないと言う彼女たちがしょんぼりしているのは見ていて心が痛む。
なので一人ずつ頭を撫でてやると、それだけで笑顔があふれる。
「次郎さんって意外と子供好きなのカナ?」
「見ている限りだとそうだと思いますけど」
「いやこれは、ロリコンの片鱗じゃないでござろうか?」
「南ちゃん、学習したほうがいいっすよ、追加制裁はさすがの俺も付き合えないっす」
「言っとくけど骨は拾わないわよ」
「ござ!?」
海堂、よくわかってるじゃないか。
南、お前次の訓練の時はハードメニューにしようと思ったが、もうひと段階くらい上げてもよさそうだな。
「寒気が!? 怖気が!? なんでござる!?」
ゾワゾワと何かを感じた南は両腕を抱き周囲を慌てて見まわしている。
そんな不穏なことを察知する警戒能力は買うが、もう手遅れだ。
心の中でニヤリと笑い教官たち自家製の特訓メニューの導入を検討していると。
「南ちゃんってば学習しないんだ」
「そうだな、我が家に遊びに来るたびにそうやって父をからかい、そして特訓メニューを組まれるのだ」
南のリアクションをカスミとクレアは見慣れた光景だと言わんばかりに楽しそうに笑っていた。
「もうだめですよ、南さんをちゃんづけで呼ぶなんて南さんですよ」
「でも~、私も南ちゃんって呼んでほしいって言われたよ~ヘレナだけだよ~南ちゃんのことさんづけで呼ぶの~」
「う、ですが」
そんな姉妹(?)のやり取りにヘレナが苦言を言うが、どうやら旗色が悪いらしい。
「あんた、未来で子供にちゃんづけで呼ばせるの?」
「歳考えたら結構まずいっすよ?」
「さすがに未来のことまでは責任は持てないでござるよ!? 冤罪でござる!」
そして遠回しに旗色が悪くなったのはヘレナだけではない。
子供たちの南の呼び方に関して北宮と海堂、そして口にはしなかったが勝とアメリアからも何やってんだと視線で訴えかけられた南は無実だと叫ぶ。
まぁ両方の意見もわからんでもない。
片方は未来、最低でも七年以上たった後に子供にちゃんづけで呼ばせる未来の南の行動に呆れる北宮たち。
二十代前半ならかろうじてちゃんづけでも切り抜けられるだろうが、その後は見た目次第だろう。
そして、現在の南からすれば未遂であり、風評被害だ。
ああやって叫んで否定したくなるのもわかる。
そんなやり取りも見慣れたものなのか少女たちは楽しそうに眺めている。
さて、そうやって楽しい雰囲気ができてきたのはいいのだが。
未来から来た少女たち、スエラと同じダークエルフの少女ヘレナ、メモリアと同じ吸血鬼の少女マリア、ヒミクと同じ堕天使のカスミ、エヴィアさんと同じ悪魔のクレア。
その子供たち全員が俺の子供というのだ。
正直最初は戸惑ったが今はそこまで困っているわけもない。
身構えていた緊張は今はそれほどなく、それよりも純粋に心配になっている部分が多い。
時間移動など物語上の某猫型ロボットくらいでしかそのやり取りは見たことはない。
現実的に考えれば時間を移動するという行為は難しいという言葉で片付けられるほど簡単なものではない。
そうなれば、帰してやれるのかという不安が出てくるのも当然だ。
そんな俺の不安を傍らに、南たちが騒ぐ姿を楽しそうに見る少女たち。
そんな空間に響くチャイムの音。
「あ、この魔力かーさんだ!」
「ああ、この魔力間違いない母だ!」
「ん~よくわかんないけど、二人がいるってことはお母さんもいるかなぁ?」
「いると思いますよ」
そのチャイムの音に気付いた子供たちがソファーから飛び上がり玄関へと走っていく。
「あ、おい!」
スエラたちは色々と警戒している。そんな彼女たちの前にこの少女たちを突撃させてはいけないと思い、立ち上がり玄関に向かうも意外と素早い子供たちの動きに追いつけず。
「あ、やっぱりかーさんだ!!」
「母よ待っていたぞ!!」
「「………」」
先頭を走っていたカスミとクレアによって玄関は開け放たれ、エヴィアさんとヒミクに飛びつく二人を見る光景となった。
そしてヒミクはまだわかるが、エヴィアさんのギョッとした表情など初めて見る。
二人の身体能力もさることながら、子供一人受け止めることなどわけなく、あっさりと抱き留めていたがそのままジッとその子供から視線をずらさない。
その瞳に険しさはなくむしろ困惑といった方が正確だ。
「えっと、どういう状況でしょうか?」
「説明を求めます」
そしてそれはスエラとメモリアも一緒だ。
ヘレナは大きくなったスエラのお腹をおっかなびっくりで触りながら抱き着いている。
マリアはまるで猫のようにぐりぐりと顔を押し付けながらメモリアに抱き着いている。
その光景に二人は嫌悪感を見せるどころか、戸惑いながらも素直に受け入れてしまっている。
「………俺が聞きたい」
そんな二人からなぜこうなったかと聞かれても俺が聞きたいと答えるほかない。
頭を掻き、とりあえず中に入ってくれと先導し、普段の三倍近い人数を収容したパーティールームは広いと言っても些か手狭に感じる。
だが、そうとは言ってられない。
ニコニコと母親に抱き着く少女たちを傍らにようやく話を進められる。
「ええ、とりあえず一つ話を進める前に確認なんですが、エヴィアさんそしてヒミク彼女たちをどう〝感じ〟ましたか?」
「む、先にそちらを聞くか主よ」
「だが、確かにその話を先に済ませた方が話も進みやすいか」
テーブルやソファーをかき集め、全員で話し合える場を構築して最初に切り出した話題にヒミクとエヴィアさんは納得して話す。
「間違いない。この娘は私の娘だな」
「私もだ。間違いないぞ主」
「そして、その二人も間違いはないだろうな」
この二人は悪魔と天使だ。
そして、悪魔と天使は魂を感じ取り鑑定することができる。
二人が玄関先で驚いたのもこれが原因だろう。
だからこそ、最初に前提条件を確認したのだ。
これは当初予想していた現代で起きた人為的な策略なのではなく、それ以外の何かに未来の子供たちが巻き込まれたということを。
「???」
「????」
なぜこんな質問をするのかということが理解できない子供たちは当然頭に疑問符が浮かぶ。
子供たちには申し訳ないが、今は飲み込んでもらおう。
そして彼女たちが四人の実子であることが確定すれば、動きようはある。
「えっとな、すごく言いづらいことなんだけどな」
立ち上がり、それぞれの母親の側にいる子供たちのために膝立ちになる。
そして、子供というのは周囲の空気に敏感だ。
何かおかしなこと、危険なこと、不穏なことそういった気配にかなり敏感だ。
この子たちも例にもれず、なにかおかしな流れになっていることに理解はしていないだろうが気づき始めている。
ギュッと母親の服を掴み、じっと俺の言葉を待つ。
「君たちは未来からやってきたみたいなんだ」
そして俺は最初にはっきりと彼女たちに伝える。
「みらい~?」
「どういうこと? わかるヘレナ?」
「………未来ということは明日ということですから、えっと」
「明日から我たちは来てしまったということか?」
顔をのぞかせそれぞれの母親の陰から子供同士で話し合うも、イマイチ理解していないようだ。
それもそうだろう、五歳くらいの子供に時間の原理を理解し説明しろという方が難しいだろう。
「少し難しいな、えっとな。お父さんはな、君たちのお父さんだけどまだお父さんじゃないんだ」
そしてかみ砕いて説明するのもまた難しい。
俺の説明にさらに困惑する子供たち。
お父さんという言葉がゲシュタルト崩壊を引き起こしそうな感じになってしまっている。
どうやって説明すればいいんだ?
現状このままでいけないのなら彼女たちに説明することは必須だ。
しかし、説明したからと言って理解できるとは限らない。
こんな説明では余計に混乱を招いてしまう。
「はぁ、何をやっている。子供を不安がらせるな」
俺が説明に困っているとすっとクレアを抱き上げたエヴィアさんが不安げにそれでも気丈に涙をこらえている少女に向けてふと優しく微笑み語り掛ける。
「難しいことを考えるな。わからないのならわからないでいい。安心しろお前は私の娘で、今この場は夢のようなものだ。寝て起きればまた明日が来る。今は、この場で楽しむことを考えればいい」
「は、はい、わかりました母よ!」
その仕草に母性を感じた。
ドキリとするような仕草に頬が熱くなるような感覚を感じる。
「そうです、ね。この子たちは何も悪くない。あなたは間違いなく私の子供、それが少し早くやってきただけですね」
「違いありません。待望の子供が未来から訪ねてきたのです。冷静に考えればこれは千載一遇の機会ということですね」
「うむ!要は今は娘との時間を大切にすればいいのだな!」
エヴィアさんの言葉でスエラたちもほっと最後の力が抜けたのか、優しく子供たちの頭を撫で始める。
「となるとだ、このままではいかんな。さて娘よ」
「はい!」
「しっかりと自己紹介だ、できるな?」
「はい! 任せてください!」
そんな空気の流れのまま、俺が手をこまねいていた情報をあっさりとエヴィアさんは引き出してしまう。
母親の期待に応えようとエヴィアさんと同じ紅の髪をはためかせ、着ていた服の裾を掴みぎこちなくとも優雅に一礼する。
「我の名前は、クレア・T・ノーディス! 父次郎と母エヴィアの娘なり!」
そしてパッと顔を上げた後に堂々と名乗り上げた。
その名乗りに海堂や南が拍手をすることによって満足気な笑みを浮かべた。
ただ、そのあとは子供らしくどうだとエヴィアさんに確認したのが減点ポイントらしく、最後がなければなとこつんとデコピンされていた。
「では、次はあなたが自己紹介しましょうね」
「はいわかりましたお母様」
そして、次に自己紹介するのはヘレナだった。
そっとスエラに促されるように背中を押され、一歩前に出た彼女も優雅に一礼した後。
「私は、ヘレナ・T・ヘンデルバーグ。次郎お父様とスエラお母様の娘です。以後よろしくお願いいたします」
すこし緊張した名乗り上げであったが、それでも拍手で出迎えられたことにヘレナは笑みを綻ばせ、そのあとテクテクと少し小走りでスエラのもとに戻りスエラも良くできましたと彼女を褒めた。
「では、次はあなたですよ」
「ん~わかったお母さん」
三番目の自己紹介は少し眠たげな眼をこすってもしっかりとした足取りで歩み、そしてたったマリアだった。
「私の名前はマリア・T・トリスです。趣味はお昼寝です。よろしくお願いします~」
その彼女の自己紹介はまだ会って数時間だというのに彼女らしいと思った。
あくまでのんびりとそれがマリアという少女なのだろう。
「あとこんな感じですけど、夜になったらしっかりしますので~」
そして忘れてたと付け加えて自己紹介を終えた。
少し笑いの入った拍手で締められ、最後に自己紹介するのは。
「ほら行ってこい」
「はーい!」
元気いっぱいという言葉が似合うカスミは右手を上げて、自己紹介を始めた。
「私の名前は、田中 カスミです! 見た目は堕天使だけど! この名前が大好きです!!」
そして見た目に反して純和名が出てきたことに俺たちは少し虚を突かれ、そのままニパッという音が付きそうなひまわりのような笑顔を見せてカスミは最後にヒミクとハイタッチを交わすのであった。
「ついでに南、自己紹介いっとくか?」
「なんの罰ゲームでござるか!?」
そんな流れを少し茶化すように南に話を振ってみると、ノーサンキューだと言わんばかりに彼女は全力拒否を見せる。
その場に笑いが起き、そして自己紹介が終えたら今後の方針の話し合いとなる。
「ねぇ、かーさんお腹空いた」
「む、そうか。もう昼か。少し待っていろ、いま何か作る」
「うん! あ、ナポリタンがいい!!」
「ふむ、人数分を作るとなればそちらの方がちょうどいいか、わかった今日はナポリタンにするか」
「俺も手伝います」
のだが、グーと空腹を知らせる大合唱が部屋の中に響く。
顔を赤くしているヘレナとクレア。
素直に空腹を訴えるカスミとお腹を押さえてお腹が空いていることに今気づいたと
言わんばかりのマリア。
時計を見れば昼食の時間からやや過ぎている。
子供ならお腹が空いていてもおかしくはない。
カスミに言われヒミクが席を立ち、勝と一緒にパーティールームのキッチンに立つ。
パスタならストックもあり大人数にも対応できるし、作る時間も大してかからない。
「エヴィアさんもどうですか?」
「そうだな」
スエラとメモリアはこのまま昼食を取っていくだろう。
しかし仕事の忙しいエヴィアさんはどうかと思い聞いてみると、無言で膝に抱き着いているクレアをひと撫でした後。
「いただこう、たまにはこういうのも悪くはない」
彼女は一緒に食事をとることに同意した。
となるとしばし歓談をという時間になる。
「ねぇー海堂おじさん」
「おじ!? え、えっとどうしたっすか?」
少女相手でも舎弟口調はどうなのかと思いつつ母親が料理にいってしまったので手持ち無沙汰なのだろう。
カスミは近くにいた海堂の顔をじっと見ていたと思ったら海堂を呼んだ。
まだ二十代の海堂からしておじさん呼びは少しショックだったのだろう。
それでもうろたえながらもどうにか返事を返した。
「おひげはどうしたの?」
「ひげっすか? 今日もしっかり剃ってると思ったっすけど」
「えー、私海堂おじさんのおひげ好きだったのに、なんで剃っちゃったの!!」
そしてカスミの質問から来た内容に海堂ははてと剃り残しがあったかと顎付近を触るも身だしなみに気をつかっている海堂が剃り残しがあるわけもなく、つるっとした肌触りがその手に伝わる。
だが、カスミは剃ったと言う単語に反応し残念そうに両手の人差し指を鼻の下に持っていき横に広げた。
その仕草で。
「あ、カイゼルひげでござるか?」
ピンと来た南がカスミが言わんとしているひげのことを言い当てる。
「そう!それ! 海堂おじさん毎日大人の貫禄がぁ!とか言って手入れしていたんだよ! かっこよかったのに! なんで剃っちゃうの!」
そして、未来の海堂はどうやらカイゼルひげを毎日手入れしているらしい。
その姿を思い浮かべ、俺はつい口元が笑ってしまい。
「「………っぷ」」
北宮とアメリアは思わず笑いがこぼれてしまった。
「こらそこ!! なんで笑うんっすか!!」
「いや、ごめんなさい。ちょっと想像したら………っぷふ」
「ソ、ソーリー。とってもチャーミングネ」
「そう思うんなら口元から手離してから言うっすよ!!」
「そうだよ!! あのひげとってもかっこいいんだよ!!」
どうやら俺の未来の娘はひげが好きらしい。
俺も生やすべきかとつい対抗意識が芽生えてしまい、顎に手を当ててしまった。
「だって! 海堂おじさんが魔法使ったときに光るんだよ!! こうピカぁって!!」
「「「ブフゥ!?」」」
「え? 光るんっすか? 俺のひげ」
「うん!!」
色々なファンタジー世界があるんだろうが、光るひげなんて聞いたことがない。
「そういうことか」
「エヴィアさん何か心当たりが?」
北宮とアメリア、そして南もカスミの発言に笑いが堪えられずついにはお腹を抱えて笑い始めてしまった。
笑われている海堂と言えば、まさか未来の自分がひげを光らせるとは思ってもおらず呆然としていた。
しかし、その髭が光る現象に心当たりのあるエヴィアさんは納得顔だった。
「女性の魔法使いは髪に魔力を溜め込み、いざという時の切り札にする。男性の場合髪に集める代わりにひげに集める奴がいる」
「なんでですか? 髪の方が量を溜め込めそうですけど」
「血筋にもよるが男性の方が毛髪は剥げやすい。だからたとえ量が少なくとも確実に残っているひげの方に未来の海堂は魔力を溜め込んだのだろう」
魔力不足を改善するための方法だろうさと、その手でクレアの髪をすきながら海堂がひげを生やした理由を推測した。
それになるほどと納得して、ひげを光らせている未来の海堂はきっと子供に人気に違いないと思う。
「どうかしましたかマリア?」
「う~ん、とね。お母さん」
「はい」
「アメリアさんなんであんなに小さくなっちゃったの~?」
「ちいさ!? ノー!? 私小さくないヨ!!」
そして子供というのは純粋だ。
自分の感性で違う所を素直に指摘してしまう。
メモリアの未来の娘であるマリアもそうだ。
海堂のひげの有無には興味はなかったようで、アメリアの方をじーっと見ていた。
そのことにメモリアが気づいたようで聞いてみたらアメリアを指さして小さいと言う。
メモリアが指を差してはいけませんと、注意し素直に手を下げたマリアであったがその発言は消えない。
次はアメリアかとパーティーメンバーとスエラたちの視線がアメリアに集まり。
胸を押さえ、顔が少し赤くなっているアメリアは説明を求めるとマリアを見る。
「どういうことですかマリア」
「う~んとね~、アメリアさんってこうず~んって背が高くて、こうバインってお胸が揺れるくらいに大きくて、ハイキックで巨人の人の頭を蹴っ飛ばすくらいに大きい人なんだよ~」
「「「「え?」」」」
子供の拡大解釈という可能性もあっただろうが、マリアの発言もまたすごいのが出てきた。
思わず俺たちは疑問符を素直に口にし、そして次にアメリアをじっと見てしまった。
アメリアは高校生の女性からしたら平均くらいの百六十センチくらいの身長、運動しているおかげでスレンダーな体系だ。
ハーフといえどマリアの言うような高身長のアメリカ人のモデルのような体形とは言えない。
「なにがあったのアミー?」
「I don't know! 私もわからないヨ!!」
「ま、まさかアミーちゃんの潜在能力がそこまでとは、拙者の目をもってしてもそこまでは見抜けなかったでござる」
「あ~、でも、男の視線がうざいっていっつもお酒飲みながら愚痴ってるってお父さんがお母さんに言ってた~」
「No!? 未来の私何があったノ!?」
そして本当に未来に何があった。
こんな明るくて活発なアメリアがそんなことを言う日が来るなんて。
ヘレナたちの記憶は正しくパンドラの箱だった。
彼女たちからしたら、こんなことあったよと親に話を聞いてほしい一心で話しているのだろう。
ただ、その内容が結構ピンポイントで過去の俺たちにダメージを与えている。
スエラとメモリアはそんなことがあったのと、動じずにマリアに相槌を打ち、エヴィアさんはほうと面白い獲物を見つけたと止める気配がない。
「クレア、お前は何か気になったことはないのか?」
それどころかさらに面白い物はないかと話を促してくる始末。
「ん? そういえば母よ」
「なんだ?」
「今日は父と少し離れているな、喧嘩でもしたのか? 我はいつも仲のいい母と父が好きだぞ?」
「っ!?」
「「「「なにぃ!?」」」」
ただ、その攻撃は子供相手にはいつも通りといくわけにはいかなかった。
母親が何か気付いたことがないかと聞かれ、必死に思い返したクレアはふと、俺とエヴィアさんの距離感を見て、未来での光景と比べてそこを指摘。
ギュウと抱きしめる仕草も加えて演出されては未来の俺とエヴィアさんの関係がどんなものかを察するのは簡単だった。
「我は父と母に挟まれて抱かれるのがすごく幸せで好きだ」
子供の無邪気怖い。
いつもからかう側のエヴィアさんがからかわれている。
いや、からかう気などクレアからしたらないのだ。
普段から仲のいい両親でいてほしいという願望を素直に口にしただけで、俺と台所で作業している以外のパーティーメンバーが驚愕した。
スエラとメモリアは口にはしなかったが、少し目を見開き自分の未来の娘に視線で確認している。
そしてここがエヴィアさんの性格を把握しているかしていないかの差が出た。
必死にリアクションを押し殺した俺や、スエラとメモリアまでのリアクションならエヴィアさんも見逃しただろう。
しかし、残りはまずかった。
雉も鳴かずば撃たれまいに。
堂々とリアクションを起こしてしまった海堂、南、北宮、アメリアは朱の差した頬のまま、エヴィアさんから冷めた視線を浴びてこの後どうなるかの運命を決定づけられた。
「「「「ヒィ!?」」」」
「「「「???」」」」
「ああ、気にしなくていいぞ」
「ええ、大したことではありませんよ」
「はい、マリアこっちに来なさい」
竦み上がる面々に生きろよと心の中で合掌しながら、俺はヘレナの方を見る。
未来の話をしてきたカスミ、マリア、クレアと来て残るはヘレナ。
その彼女は大きくなっているスエラのお腹が気になるのか度々俺たちがリアクションを起こすたびにそちらを見ているが、最終的には母親であるスエラの方に視線が向き恐る恐るお腹に耳を当てその中にいる命の脈動を聞いていた。
その姿にスエラは微笑ましいのか、その彼女の頭を優しく撫でる。
その光景は一枚の絵画にして飾りたいと思うほどであったが、怖いもの見たさというのはなかなか抑え込むのは難しい。
海堂、アメリア、エヴィアさんと順番に未来のことを話され、少なからずダメージを負っている。
当たり障りのない世間話程度の話ではあるが、そのどれもが今の自分では考えられない現実ばかりであった。
海堂のひげ、アメリアの肉体的精神的成長、そしてエヴィアさんと俺の熱愛。
何年、あるいは何十年後の話なのだろうかと考えるよりもそういった未来が待っているという方がすごい。
「? 何かありましたか?」
マリアはメモリアに抱き着き半分寝ていてカスミは海堂のひげの話を終えたら料理をしているヒミクの方に行き話しかけ料理を見学している。
そして、クレアはエヴィアさんの手を引っ張り俺が座っている近くまで連れてくると人一人分の隙間を作りその間に収まり満足気にしていた。
とりあえず今は三人からこれ以上情報を得られない。
未来の話が聞ける。
重要な話ではないにしても、未来の自分たちが気にならないというのはこの場にはいない。
なので彼女からどんな話が飛び出るか気になっている。
当の本人は、いきなり視線が集まりピクリと耳を反応させ母親に抱き着いているのをじっと見られるのは気恥しいのか頬を赤く染め、そっとスエラの隣に座った。
「その、皆さまそんなにじっと見つめられると恥ずかしいのですが」
「皆さんヘレナのお話が聞きたいようですよ」
「私の話ですか?」
「はい、ヘレナが普段どんなことしているか気になるそうですよ」
そんな彼女に助け舟を出したのはスエラだった。
「普段ですか」
そんな彼女の助け舟に乗り、なにか話そうとヘレナは考える。
「あ、そう言えば」
「何か思いつきました?」
「はい!」
考えること数秒、ヘレナは何か思いついたのか話を聞いてほしそうにスエラに向けて頷いた。
さて、どんな話が出てくるかと皆身構える。
「はい! 前からお母様に聞きたいことがあったんです!!」
「私にですか?」
ただ、それは何かを語るというよりは普段の疑問を解消しようとした話であり、なんだと皆肩透かしを食らった。
母親に質問する娘の光景。
ごくありふれた内容とキッチンの方から流れてくる料理の匂いでそろそろこの話も終わりかとその光景を眺める。
「聞きたいということはなんですか?」
その健気な娘の質問にスエラも答えようと視線を合わせる。
「あのですね、毎日一緒に寝たいのですけど、どうしてお父様と一緒に寝るときは二回に一回は一緒に寝れないんでしょうか?」
「………」
それはごくありふれた、娘が寂しさを訴える健気な質問であった。
ただ、その事情を知る大人たちからすれば、その答えは非常に解答に困るモノでもあった。
「あ、あのですね、決して私が寂しいというわけではなく、えと、一緒に寝れない時はヒミクお母様とかメモリアお母様とかエヴィアお母様が一緒に寝てくれますし、ですので決してお母さまを困らせたいというわけではないのです」
そして即答できなかったスエラに焦りを感じたヘレナは聞いてはいけない話だと思い、慌てて取り繕っていたが、聞けば聞くほどアノ話だよなと、この場にいる全員は察していく。
ああ、と生暖かい目をした南たちが俺を見る。
未来の俺よ、仲がいいのは結構だが、そのな、なぁ? わかるだろ、頼むからこの思い、届いてくれ。
「あ~それ、私も、思った、もっとお父さんと寝たいのに、どうしてなのお母さん」
「それは」
「む、我も気になる、母よどうしてなのだ」
「………そうだな」
そんな切なる思いとは裏腹に、子供の好奇心というのは底が知れない。
ヘレナの質問の答え、それを察せるのは大人だけ、自分の寂しいという気持ちを少しでも解消しようという子供の欲望は健気ではあるがある意味で容赦がない。
メモリアもエヴィアさんも答えを持っているが、その質問を答えるわけにはいかないのは承知している。
なので自然と言葉を濁すのだが、子供は好奇心を埋めるためならいくらでも待てる。
焦れるとなぜかと連呼するが、すっぽんのように噛みつき離れない。
ただ、噛みつく相手を変えることはある。
「あのどうしてなのでしょうかお父様」
「どうして~お父さん」
「どうしてなのだ父よ」
母親が答えに窮していると、矛先が俺の方に向く。
当然、そのことは予想していた。
スエラ、メモリア、エヴィアさんの瞳にあとは任せたと言われ。
どうやれば興味を持たず、納得してくれるか。
大人になったらわかるよというか? いや、それだとこの子たちは納得しない。
どうすればこの三人の疑問に答えられるか。
では、誤魔化すか?それはありだが、賢そうなこの子たちがそれを信じてくれるか。
必死になって考えて、どうしてという視線に耐えて導き出されたのは。
「そうだなぁ」
「はい」
「うんうん」
「わくわく」
一旦間を置き、これでいいかと再度考え、それ以上思いつかない俺は。
「………お父さんになるための特訓をしているんだ」
かなりギリギリを攻めた。
大人が聞けばまず間違いなく、どういった意味なのかを察する。
だが、子供が聞けば。
「お父さんになる特訓ですか?」
「ああ」
「それは、お母さんも一緒じゃないとだめなの~?」
「ああ」
「我たちじゃダメなのか?」
「ああ、何せお父さんになるための特訓だからな」
ここにいるのが娘だけで良かった。
もし仮に息子がいたらこの言葉は浮かんでこなかっただろう。
聞く人によってはセクハラ待ったなしの言葉。
ただ、まだその手の知識のない彼女たちからすれば答えてはもらい間違った答えではないだろうと察することはできるけど、意味が理解できない。
そんなすれすれの言葉をパーティーメンバーのいる前で言わなければならなかった。
「あれってありだと思うでござるか、北宮」
「有り無しで言えば、完全にアウトだと思うわ。だけど、仕方ないと思うわよ」
「そうっすねぇ、むしろよくあんな言葉をひねり出したっす。俺じゃ無理っすよ」
「Don’t mind、気にしちゃだめだよ次郎サン」
しかし、その羞恥心で顔をゆがめてはならない。
何せ、目の前には娘たちがいる。
やましいことではあるがやましくないと堂々としなければならない。
娘たちは頻りにお父さんになるための特訓と連呼している。
言わなければならなかったとはいえ、これはつらい。
「次郎、よく頑張ったな」
「お疲れ様です次郎さん」
「ありがとうございます次郎さん」
エヴィアさん、スエラ、メモリアが慰めてくれるのがせめてもの救いだ。
「主よ! 食事ができたぞ? なんだこの空気は」
「わーいナポリタン!! ってどうしたのヘレナ、何話してるの?」
「何かあったんですか?」
そして、タイミングよく昼食が完成し、俺は黙って立ち上がり。
「いや、何もない。それよりも、飯にしよう」
そうヒミクに言い、彼女は頭に疑問符を浮かべながらわかったと答えてくれた。
今日の一言
もうすぐ鐘がなる。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
そして今年一年ありがとうございました。
来年も本作と七士七海の方をよろしくお願いいたします。
それでは皆様、良いお年を
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




