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ブックマーク一万人突破記念  いきなり現れたシンデレラ………たち!?(前編)

もうすぐ今年も終わります。

そんな年末に間に合わせました!!

楽しんでいただければ幸いです!!

 これはとある日のことだ。

 今日も今日とて仕事仕事ダンジョンテスト

 前のブラック企業の業務みたいに終わりは見えていないが、まだまだこちらのほうがやりがいもあれば、給料もいい。

 そして何より、婚約者が四人もできていれば男としてしっかりと稼がねばならない。


「海堂、右からくるサイクロプスたちを抑えろ!」

「うっす!!」


 ともに前衛で魔法剣士の海堂と分かれ、俺の相手。


「フルアーマーってのはこんなに厄介なんだな」


 全身鎧のギガンテス。

 その怪力をふんだんと使い、城門のような大盾と大槌を振り回している。

 巨体に見合った大振りであるも、盾をうまく使いまわし容易に懐に入れさせてくれない。

 懐に入れないってことは間合いで負けているということ。

 鉱樹の刃が届かず、かといって魔法は大盾に阻まれる。

 そして。


「リーダー!! 弩砲くるでござるよ! 回避態勢を取るでござる!!」


 巨人王のダンジョンは人型の多種多様な巨人族が山頂の砦を守護するダンジョン。

 終わりがわかりやすくはあるが、高低差や断崖といった天然の砦を駆使した鉄壁な防御とジャイアント自ら作った豊富な武具によって攻略を妨げられる。

 巨人族が持てば弩砲もハンドガンかと見間違うほど小さく見えてしまう。

 それが連射されれば、人間である俺の体など当たれば瞬く間にミンチが一つ出来上がる。

 重武装の巨人の兵が砦の門前を守り、その遠方からの弩砲による砲撃。

 地の利を生かした堅実な鉄壁。

 雨あられと降ってくる鉄製の矢を切り払いながらその豪雨を潜り抜ける。


「アミー合わせて!! みんな足場に注意して!! 凍らせるわよ!!」

「Yes!! 魔力全開!!」


 その牙城を突き崩そうとパーティーの力を駆使して挑みかかるも、相手はエベレストよりも広大な山を砦と化した巨人族。

 麓から登り、酸素がどんどんと薄くなっていく環境下で鍛えられた存在はソウルであっても強靭無比。

 北宮とアメリアの合同魔法である範囲氷魔法が瞬く間に岩山を氷の山へと変質させるものの。


「効いてないの!?」

「No!? タフすぎるヨ!?」


 凍った足元などなんのその。関係ないと言わんばかりに氷を打ち砕き、巨人の軍勢は一歩をしっかりと踏み抜き足場を確保する。

 そんな彼らの様に北宮とアメリアは驚愕する。


「先輩!! 南ちゃん!! ヘルプミーっす!? こっちがもう抑え込めないっす!!」

「勝!! カバーに回るでござる!! 海堂先輩の回復と魔石手榴弾をありったけばらまいてくるでござる!!」

「わかった!」


 魔法の効果が薄いのは鎧に対魔法処理が施されているためか、あるいは単純に巨人族がタフすぎるからか。

 勝が向かった先で多数の爆裂音が響く。

 遠目で魔石を加工した手榴弾を投げまわっている勝が見えるが多少効果がある程度だ。

 時間稼ぎが限界。

 そしてここから打開する手段は限られてくる。


「リーダー!! 武御雷でござる!!」

「そうしたいんだがな!! こうも、攻め立てられたら、暇が、ないっての!?」


 状況に変わりはない。

 そして、こっちが対抗策を講じるよりもデータの蓄積量の差で相手の方が対策を講じる質が高い。

 俺みたいな戦士と魔法使いを合わせたタイプにも適応し、かつ俺がこのパーティーの戦力的かなめであることは相手も把握しているのであろう。

 戦力配分の俺への偏りがひどい。

 少ない隙をついて何体もなぎ倒しているのに速攻で補充される。

 鬼王や不死王よりも機能的に、竜王と蟲王は正反対のダンジョン。

 機王とも違う。


「統制が取れてる〝軍隊〟かよ」


 連携の取れている一個の機能。

 横一列に並んだ大盾は簡易的ではあるがその隙間から放たれる大槌や大槍のファランクスはもはや城壁と言ってもいい。

 後ろに本格的な砦があるにもかかわらず、その前に立つ防壁もなんと堅牢なことか。


「はぁあああああああ!!」


 気合一閃、踏み込み鉄を切り裂く感覚と共に大盾の壁の一角を切り崩しにかかるも。


「っち」


 斬り崩れた隙間が瞬く間に槍衾と化してしまう。

 避けた際に視界に写った五本の槍。

 そしてその両脇には槍を避け突撃したところで叩き潰す構えであった大槌が待ち構えていた。


「体格差もあるっていうのになぁ!」


 上からの攻撃というだけで重力加速度が加わり強烈になる。

 こっちは急所を狙うも上に向けて攻撃しないといけない分わずかだが攻撃力が減り労力がかさむ。

 武御雷クラスの攻撃をもってすればこの壁にも大穴を拵えることができるだろう。

 その隙をこのわずかな労力の差が邪魔する。

 相手が与えてくれればまだなんとかなるのだが、そこは敵対している相手だ、情けなどない。


「南! 北宮とアメリアの三人で防御障壁展開!! 穴熊決め込んで一気にぶち破るぞ!!」

「そんなことしたらタコ殴りに遭うでござるよ!? リンチでござる!!」

「数秒持てばいい!!」


 となると無理やり時間をひねり出すほかない。

 前線に立っている状況ではその隙を作るのは危険だ。

 中腹付近でこのレベルなのかと冷や汗が流れてきそうだが、それを笑うことで払しょくする。


「ええい! 女は度胸でござるよ!! 海堂先輩と勝は限界まで露払いでござる!! 北宮とアミーちゃんは集合!! リーダーはとっとと準備するでござる!!」

「了解っす!」

「わかった!」

「いくわよアミー!」

「OK! 張り切っちゃうヨ!」

「おう!」


 この阿吽の呼吸を見せるがごとく、全員が即座に南の指示に反応する。

 俺は後ろに大きく跳躍し集結した北宮たちの後ろに着地する。


「鉱樹接続!! 術式構築に四秒!」


 跳んでいる最中から鉱樹の根を伸ばし腕に巻き付ける。

 そして始まる魔力循環。

 少しでも高純度の魔力を確保しようと激流のごとき魔力を循環させ質を上げ、鉱樹に雷魔法を装衣させる。

 バチバチと放電が始まり、体が熱くなり特大の一撃の準備に入る。

 大魔法を察知した巨人たちは魔法障壁を張った俺たちに群がってくる。

 それを勝と海堂は少しでも足止めしようとしたが多勢に無勢。

 さっきまで守備に回っていた動きが一転攻勢に変わってしまえば俺を欠いた状態で、すべてを防ぐのは困難通り越して不可能に近い。


「先輩! 何体か抜けたっす!!」

「すみません、こっちもです!!」


 それでも二人はよくやってくれている、鉄の雨が降り注ぐ中を突き進む巨人をかなりの数押しとどめてくれている。

 ガンガンと大槌で叩かれるもこれくらいなら大丈夫だと、南が片手でサムズアップし知らせてくれる。


「!? 高魔力反応!! どこでござる!?」


 だが、いざ武御雷を放とうとした瞬間南がキョロキョロと辺りを忙しなく見回す。


「上よ!!」

「オウ!? すっごい魔力だヨ!?」


 遅れて北宮とアメリアも反応し、その魔力の発生源を探り当てる。


「リーダー!! 方向修正!! あの魔力量はヤバイでござる! どれくらいヤバいかというと、ヤバいとしか言えないくらいヤバいでござる!!」

「わかってる!!」


 その魔力を探知した俺にもどれくらいヤバいかわかるくらい上空に円盤状の魔法らしきものが発生している。

 巨人族の秘密兵器かと考える暇もなく、振り下ろそうとしていた武御雷を振り上げる方向に構えなおす。


「撃たれる前に撃つぞ!!」


 今にも放たれる寸前、術式の構成がギリギリ間に合った。

 ならば先制攻撃だと、そう思って鉱樹の柄をぎゅっと握りしめ、踏み込み放とうとした瞬間。


「!?」


 その光の中から人影が出てきて、直感だがそれを攻撃してはいけないと思った俺は溜めに溜め込んだ武御雷を。


「総員退避ぃぃぃぃぃぃ!!」

「「「「「「!?」」」」」」


 元の計画通り正面へとぶっ放した。

 俺の叫びに即座に反応してくれたメンバーは全員横っ飛び回避。

 南たちが各自左右の地面にダイブする勢いで避けてできた空隙を蒼雷の渦は突き進んだ。


「!? リーダー空から女の子×四が落ちているでござる!!!!」


 そして俺のいきなりの行動の原因に怒るまでもなく、なぜそんな行動を取ったかを察した南は即座に起き上がり空を見上げ、自由落下を始めた少女たちを指さす。


「南!! 足場!!」

「了解でござる!! 他は各自牽制!!」


 落ちてくる少女たちは見るからに気を失っている。

 そして強化された瞳が捉えたのは推定五歳くらいの少女四人。

 あれがゲートによる転移魔法であるのなら魔力体に変換しているわけもなく。

 あのまま落下すれば無事では済まない。

 とっさの判断で千載一遇の攻める機会を放棄し、その少女たちを受け取める方に変更。

 タンタンと発生した足場を駆け上がる。

 鉱樹を背中に固定し駆け上る。

 足元では南の掛け声で起き上がり各自の攻撃手段で武御雷によって散り散りになった巨人たちを牽制してくれている。

 助かると思いつつさらに足に力を込めて少女たちのために空中を駆け上がる。


「間に合え!」


 全員気を失っていても抱き合って離れないようにしてくれているのが幸いした。


「確保した!! 総員撤退!! 総員撤退!!」


 飛びつき抱きとめるようにその少女たちを確保したら俺は迷うことなく撤退を選択。

 全員迷わず全力で下山を敢行した。





「はぁ、疲れたっすよ」

「まったくね」

「うう、途中転んでおでこぶつけちゃったヨ」

「全力疾走×長距離はダメでござる。絶対」

「でも、全員無事でよかったですよ」

「無事なら………な」

「「「「「………」」」」」


 全員汗を垂らしつつも無事巨人王のダンジョンから脱出した。

 そのことに普段なら安堵するも、今回は事情が違う。

 そっと全員の視線が俺の腕の中に集まる。

 そこにお宝があるのならそこまで心配していないが、生憎と俺の腕の中にはなんでと疑問符が浮かぶ者が抱えられていた。

 少女四人を抱えて下山するのは苦ではなかったが、咄嗟の判断とは言え本当に持ち帰ってよかったのかと思う。


「一人はダークエルフの女の子っすか?」

「こっちの子はわからないでござるが、肌の色的に吸血鬼の子でござるか?」

「この子は悪魔の子かしら? 背中に翼が生えてるし」

「それだとこっちの子は天使カナ?」

「でも、なんでこんな子たちがあんな場所にいるんでしょう?」

「「「「「………さぁ?」」」」」


 そして降ろそうにも降ろしていいのかと判断を迷っている間に海堂、南、北宮、アメリア、勝の順番で俺の腕の中を覗いてきた。

 褐色肌に黒髪、そして尖った耳の女の子、色白肌に銀色の髪の女の子に小さい蝙蝠のような翼を生やした紅髪の女の子、そして白い鳥のような翼を三対もつ金髪の女の子。

 巨人族の子供ならまだ納得できたが、この子のだれもがその種族に当てはまらない。


「あ、でもリーダーの奥さんたちと同じ種族でござるね、偶然でござるか?」

「さすがに偶然っすよ。何を言ってるっすか南ちゃん」

「そうねってあんた、何を考えてるのよ」

「いやぁ、拙者この手の話に一つ思い当たることがあるでござる」

「思い当たること?」

「そうでござる、ただ、荒唐無稽な話でござるが」

「でも、その可能性が手掛かりになるかもしれないヨネ?」

「ああ、アメリアの言う通りだ。今は少しでも状況を整理したい。それに、こんな小さな子だ。親御さんも探さないとまずいだろ」

「いやぁ、この可能性だと親御さんを探す必要もないと思うでござるよ? 帰す必要はあるでござるが」


 しばしジッと少女たちを眺めていた南はまさかと思い当たりがあると言ってきた。

 正直、現状がどうしてこうなったか判断がつかない俺は状況整理も兼ねて聞いてみるが南の話は少し回りくどく要領を得ない。


「どういうことだ?」


 探す必要はないが、帰す必要はある。

 話だけ聞くなら親の居場所がわかり、送る場所もわかっているようにも聞こえる。

 まるでなぞかけのような南の言葉に余計に頭が混乱してきた。


「ほら、よく見るでござる。この子スエラさんに似ているでござろう?」

「そう言われてみれば、そうね。こっちの天使の子はヒミクさんに似てるし」

「こっちの子、髪の色がエヴィアさんと同じ紅色ダヨ?」

「こっちもです。よく見ればメモリアさんと似ているような」

「ということは………どういうことっす?」


 腕の中で眠る子供の特徴がスエラたちと似ていると言う南に全員がジッと見る。

 ダンジョンの入り口付近でいったい何をやっているんだという話になるが、こっちは緊急事態だ。

 周囲のダンジョンテスターの視線は一旦おいておいて、海堂のすっとぼけた言葉を脇に、海堂以外はまさかの可能性に思い至る。

 そんな時にタイミングよくか、あるいは悪くか、もぞもぞとダークエルフの女の子が目をこすりながら目覚めた。


「あ、お父様おはようございます」


 そしてぱちくりと何度か瞬きしたのち、しっかりと俺の顔を見て俺のことを父と呼んだ。


「お、おはよう?」

「はい、おはようございますお父様、ふふ、おかしなお父様です。どうしたんですか? そんな変な顔をされて」


 随分と丁寧に話す子供だなと思う暇もなく、いきなり知らない女の子から父親と認定されている事実に思考が追い付かない。


「あら、海堂のおじさまもいらっしゃったのですね」

「おじさまっすか!?」

「ええ、あ、南さんも香恋さん、あ、アミーさんも!! 勝さんもお久しぶりです!!」


 そんな俺を放置して腕の中の少女は周囲を見回し、海堂をおじさまと呼び海堂がショックを受け、そんなことを気づかず他のパーティーメンバーがいることに喜ぶ。

 そんな中思考が追い付いていない中で南だけは、やはりかと頷いていた。


「あ、すみませんお父様。マリア、カスミ、クレア起きなさい」


 そして他の女の子を起こしにかかる少女。

 メモリア似の女の子がマリア、ヒミク似の女の子はカスミ、エヴィアさんに似た女の子はクレアと頭の中にインプットする。

 そしてまだ名の知らぬ少女は他の三人を起こそうと手を伸ばし肩を揺らし、揺らされた少女たちはもぞもぞと起き始める。

 あんなに激しく下山しているのにしっかりと寝ていた四人に感心すればいいのかと若干現実逃避しながらその光景を眺めていると。


「あさぁ?」


 最初に起きたのはマリアと呼ばれたメモリアに似た女の子だ。

 ごしごしと両手で目をこすりしばしぼーっと起こした少女を眺めた後、俺を見て。


「………お父さんおやすみなさい」


 と言って俺に抱き着きまた寝始めた。


「マリア!! なんて羨まし、じゃなくて寝てはダメです! 起きなさい!!」

「うるさい! もうなんだよ~ゆっくり寝てていい夢見てたのに」

「ああ、丁度いいところにカスミ、あなたもマリアを起こすのを手伝ってください」

「嫌だよ、マリアって起こすの大変じゃんって、なんでとーさんがここにいるの?」


 できれば腕の中で騒がないでほしいのだがと、思いつつヒミク似の女の子、カスミが不機嫌そうに起きたと思えば起こしている少女に文句を言い最後は抱いている俺を見てコテっと不思議そうに首を傾げるも、すぐに笑顔になる。


「………」

「あ、クレアも起きた。ねぇねぇ、なんでとーさんがいるの?」

「我がわかるわけあるまい。父よ我を抱き上げるのは構わんが、この籠手はいただけん。硬くて少々痛い」

「あ、悪い」

「そうだ、それに抱き上げるのならいっぺんにではなく我だけを抱き上げろ」


 そんな騒ぎの中最後の少女エヴィアさん似の少女クレアが起きた。

 そして俺が完全装備で抱き上げていることで痛みを訴えてくる。

 それもそうだと思い、謝罪の後ゆっくりと全員降ろしたら、クレアと呼ばれた少女は両手を広げて俺を待ち構えていた。


「あ、ずるいクレア! 私も私も!!」

「何を言っているバカ者。我が先だカスミ、父は我のことを抱っこしたいに決まってる」

「だ~め~、私が、さき~」

「ああ、もう、ずるいです!私が先に決まってます!!」


 そんな彼女に先を越されてたまるかとわれ先にと俺の足に抱き着く少女たち。

 いったい何が起きているんだと、俺が混乱の極致に至ろうとしていると。


「ど、どういう状況っすかこれ」

「あ~、やっぱりこうなったでござるか、さすがファンタジー、拙者の期待を裏切らないでござる」

「どういうことよ、一人で納得していないで説明しなさいよ」


 そんな状況で落ち着けと少女たちに語り掛ける中、少し距離を取った海堂たちが納得顔で頷く南に説明を求めた。

 海堂も北宮もアメリアも勝もどうなっているんだと表情で語っていた。


「ん~、絶対って言うわけじゃないでござるが」


 そんな空間に南は気軽に、まるでちょっとそこのコンビニ行ってくると言うくらいにぽんと言い放つ。


「この子たちって、未来のリーダーの子供たちじゃないでござるか?」

「は?」

「え?」

「What?」

「なんだって?」


 その言葉に全員が停止する。

 特に俺はその言葉に対して思考が追い付かない。

 え? 未来からの俺の子供? ああそうかぁ、スエラたちに似てるし俺のことを父親と呼ぶから自然と俺の子になるか。


「………マジか」

「そうだとしか思えないでござる。八割がた勘でござるが」


 現実的にまさかの未来から俺の子供が来るとかいくらファンタジーでも予想できるか。


「どうしたのとーさん、おなか痛いの?」

「む、大変だ。父よ、この前話していた取引先の無理が祟って胃が痛いのか?」

「そーなの? お母さんに言ってお薬用意してもらう?」

「それより先にお布団を敷いて寝てもらいましょうお父様は気づいたら働き続けてしまう人ですから」

「い、いや、体は大丈夫だ。だからそんな心配しないで」


 そしてこんなにも心配してくれて慕われているのかといささか非現実的な事実に、本当に未来の俺なのかと疑問を抱いてしまう。

 ただ、そんな不安を悟らせてはいけないと俺は努めて笑顔で対応する。

 それはひとまず功を成したのか、安堵した子供たち。

 どうする、この後どうすればいい?

 いつもでも笑顔でごまかせない。

 そんな時頼りになる仲間たちをと、アイコンタクトで助けを求めれば。


『無理、わけわかんない』


 と北宮は腕でバツ印を作って速攻で首を横に振る。

 気持ちはわかるがもう少し考えてから断ってくれよ。


『FIGHT!』


 ぐっと気合を入れるような仕草と共に口パクで応援するアメリア。

 そのエール以外の言葉が欲しかったぞ。


『ごめんなさい、わかりません』


 両手を合掌し、頭を下げる勝。

 仕方ない、ああ、そんなにまっすぐに謝られたら許すしかない。


『………! とりあえず飲み物っすね!』


 落ち着け、そして走り去ろうとするな海堂、お前何を買いに行こうとしてるんだ。

 五人中四人がお手上げ状態、そして最後の砦であるこの状況に対応してそうな南と言えば。


『ん~とりあえずこの場から移動して自己紹介でもどうでござるか? 目立ってるでござるし?』


 なぞのボディランゲージでそれを伝えてきた。

 それを読解できたこと自体がすごいが、今は気にしている暇はない。

 確か、子供と話すときは同じ視線に立つのがいいんだよな?

 そう思い、腰を落として南の案を提案するとしよう。


「ああ、ええととりあえずこの場じゃなんだ。仕事場になるが移動するか?」


 我ながら、こんな誘い方でいいのかと不安に思う。

 普通の子供ならこんな誘いに乗らないのだが。


「はい! 行きます!」

「は~い」

「え、とーさんの仕事場に行けるの!」

「おお、いつもはダメだと言われている職場に行けるのか」


 なぜか非常に受けが良かった。

 ワイワイと喜ぶ姿を見せる少女たちに、現状を段々と把握している俺たちとしては複雑な心境を抱くほかない。

 俺の両手を取り合う少女たちに、どうやって現状を伝えるかと頭を悩ますが、それ以前に南の予想が当たっているのかという不安もある。

 スエラたちに相談するかと考えるも、まさかダンジョンで未来の娘だと思う存在を拾ったと言えるか?

 素直に伝えた結果浮気を疑われるかもしれない。

 ただ下手に隠すとバレた時がかなり厄介なことになるかもしれない。


「お父様! お母様は今どちらにいるのですか? 仕事場ですか? おうちですか? これから休憩でしたら是非ともお母様も呼んでみなでお昼ご飯でも食べましょう!」


 そんなことを悩んでいると左手を獲得した未だ名もわからぬスエラ似の未来の娘が笑顔で俺に問いかけてくる。

 それは純粋に家族と一緒にいたい少女の願望か、あるいは普段からそうした行動が多いのか。


「じゃぁ、お母さんも呼ぼうよ~お店ならきっと他の店員さんが手伝ってくれてるからさ~」

「それなら、かーさんも呼ぼう! 家にいると思うからさ!」

「それなら母も呼ばねば、なに案ずるな母ならすぐに仕事を終えて来てくれるさ」


 娘たちはこぞって母親を呼ぼうとする。

 右手を確保したカスミはクイクイっと引っ張り。

 他の娘(?)と一緒にキラキラとした瞳で俺におねだりする。

 彼女たちの視線が、ドンドンと俺を追い詰めてくる。


「大変そうですね次郎さん」

「勝君あれは抗えないっすよ」

「女としての武器を最大限に使った結果でござるな」

「南、あんたはそんな穢れた視点でしか見れないの?」

「でもカレンちゃん、あの子たちすっごくかわいいヨ?」


 海堂たちの言葉などすでに聞いている余裕はなく。

 どうする、どうすればいい俺?

 どうするのが正解なんだと、問答する。


「………とりあえず、部屋に移動したらな?」


 その結果が問題の先延ばし。

 しかし、部屋に移動したら母親に会えると思った彼女たちは皆一斉に笑顔になる。

 大人の言葉がずるいと言われる由縁はこれかと痛感した時だった。

 最早、スエラたちを呼ばないという選択肢はなく、この現状を秘匿することも現実的に考えては難しいと言わざるを得ない。

 報連相を大事にする社会人としては、即時行動するほかない。


「じゃぁ、行こうか」

「「「「はい!」」」」


 元気よく返事をする彼女たちを引き連れて、俺は念話を飛ばす。

 頭の中に誰かを呼びだす感じがしてしばらくすればその通話も繋がる。


『はい、スエラです。次郎さん何かありました?』

『すまんスエラ、緊急事態だ』


 最初に繋げた先はスエラだった。

 最初に彼女を選んだのは一番対応に融通が利くからだ。

 ヒミクは社内では自由に動けず、メモリアは商人のため会社への影響力は外様になる。

 かといって上層部のエヴィアさんだと念話が繋がらない可能性があるとしてスエラを選んだのだ。


『何があったのですか?』


 念話に声色があるかはわからないが、彼女の雰囲気が真剣なものへと変わる。

 この後に言う言葉がふざけていると取られない言葉だから不安になるも、意を決して俺はそっと彼女に伝える。


『未来の俺たちの子供をダンジョンで拾ってしまったんだ』

『え?』


 うん、スエラの気持ちとてもよくわかる。

 俺が仮にスエラにこんな言葉をかけられたら、俺もそんな反応になってしまうと思う。


『えっと、どういうことでしょうか? イマイチ状況がつかめないのですが』

『冗談でも嘘でもなく、確証もないんだが、彼女たちの証言をまとめると俺とスエラ、メモリア、ヒミク、エヴィアさんの子供がここにいるんだ』

『ちょっと待ってください。今、私のお腹の中に確かに子供がいるのですが』

『ああ、今朝もしっかりスエラの中に子供がいるのを確認しているのはわかる。俺も未だ信じられない。だが、信じないと話が進まないんだ』


 そして、この子たちを見ない限り信じられないと言うこともしっかりとわかる。

 念話の向こうでスエラが混乱しているのもわかる。

 浮気かと疑われていないだけ、まだマシだ。


『ええと、すみません理解が追い付かないんですが、とりあえずそちらに私の娘がいるんですね?』

『ああ、たぶん』

『名前はうかがってますか?』

『いや、父親と呼ばれて気が動転して聞けなかった。自己紹介できる雰囲気でもなかった』

『………わかりました。今からそちらに伺います。もし、彼女たちの親だと名乗る存在が現れたらすぐに連絡を』

『わかった、パーティールームに向かっているから』

『はい、すぐに向かいます。次郎さんはメモリアとヒミクに連絡を私はエヴィア様に連絡を取ってから向かいます』

『わかった、頼む』

『はい、では』


 途中から混乱が抜け真剣な雰囲気を漂わせていたスエラであった。

 念話が切れたのを確認し、それほどのことなのかと緊急事態の発生源であるニコニコと笑う少女たちを見て俺も笑顔を返し次の念話の相手に繋げる。


『はい、メモリアです』

『仕事中すまん』

『いえ、いつも通り閑古鳥が鳴いていて暇でしたのでお気になさらず』


 いつも通りのマイペースぶりに少しほっとした。

 両手に感じる小さな力を意識し、緊張していた肩の力を抜いてメモリアにスエラと同じことを伝える。


『………未来からの娘ですか。本当に私の子供だと名乗ったのですか?』

『いや、名前だけしか聞いていない。家名を聞けるような流れではなかったからな』

『そうなると、どこかの貴族の娘を使った囲い込みの可能性がありますね』

『囲い込み?』


 しかし、そんな彼女の口から伝えられた不穏な言葉に俺は再び力を籠めることになった。


『ええ、これはあなたの子供です認知してくださいというやつです。身に覚えがなくとも子供が次郎さんを父と認定すればいくらでも言えますからね。スエラは何か言ってましたか?』

『いや、何も言っていなかったが』

『おそらく、私が言った可能性を考慮して動いているはずです。私も店を閉めてそちらに向かいます。ヒミクには私の方から連絡しておきますので、子供だからと言って油断しないように次郎さんは警戒していてください』

『………わかった』


 メモリアの念話が切れ、そっと俺と手をつなぐ少女たちがどんな存在なのか益々分らなくなってしまった。

 まだ年端もいかない少女が、俺が知らない貴族の道具として使われているのか?

 そう思うと悲しくなる。


「どうかしましたか? お父様、そんなにつらそうなお顔をして」

「いや、なんでもない。お母さんたちはすぐに来れるってさ」

「そうですか! お母様も来てくれるんですね」

「かーさんは!? かーさんも来てくれるって?」

「ああ、〝ヒミク〟もすぐに来るってさ」


 だからだろう。

 こんな少女たちを試すようで申し訳ないがあえて俺は彼女たちの名前を言った。

 もし、ここでヒミクの名前に反応しないと言うのなら、もしその時は。


「そっか! かーさん家事で忙しいって言ってたけど来れるんだ!」


 と不安と共に返答を待っていたが、返ってきたのは純粋な笑顔だった。


「む、ヒミク母さんとスエラ母さんは来るのか、当然母も来るのであろうな?」

「エヴィアお母さんも来ると思うな~エヴィアお母さんなんだかんだ言ってクレアのことになると見境なくなるもんね~」


 そしてそんな子供の純粋さというのはここまで不安を払拭してくれるものなのか。

 これが演技なら、きっと俺は騙されるだろう。

 だが、俺は心の底から願う。

 どうかこの笑みが演技ではないことを。


「ねぇ、ヘレナ。かーさんたちも来たら何食べたい?」

「そうですね、ヒミクお母様の料理もおいしいですが、外食というのも捨てがたいですし」


 そして最後の少女の名前も知れた。


「私、葛餅が食べたいかも~」

「私はホットケーキがいいですね」

「私はチョコパフェ!!」

「我はかき氷が食べたいぞ父!」

「それ、昼飯じゃないだろ。しっかりとご飯食べてから考えなさい」


 元気に返事をする少女たちの声を聞きつつこの後のことを考える。

 スエラ似の女の子ヘレナ、メモリア似の女の子マリア、ヒミク似の女の子カスミ、エヴィアさん似の女の子クレア。

 このあとスエラたちと彼女が合流し、きっと騒ぎになる。

 それは明白ではあったが、ただ予感はする。

 きっと、悪い方向にはいかないだろうと。



 今日の一言

 鐘がなるまで、まだまだ時間はある。


面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。

そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなんニヤニヤしてしまうに決まってるじゃないですかやだぁ~
[気になる点] そして他の女の子を起こしにかかる少女。 メモリア似の女の子がマリア、ヒミク似の女の子はカスミ、エヴィアさんに似た女の子はクレアと頭の中にインプットしながら、少女に揺らされたもぞもぞと起…
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