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298 きっかけがあれば仕事のスキルを増やす

 

 ハンズの商売根性の逞しさに感心してから十分ほど。


「あ、リーダー先に来ていたでござるか」

「遅れたっす先輩」

「お待たせしました」


 そんな時に残ったメンバー、海堂たちが仲良く会話しながら入店して先に来ていた俺たちに気づいた。

 アメリアの短剣を探していた俺たちは、一旦買い物の手を止め海堂たちと合流する。

 店の中には俺たち以外の客はおらず、ハンズも一緒にいたのでそのまま一緒にいた。


「無事買えたか?」

「うっす、無事買えたっすよ。こっちの方の準備は万全っす」

「そうか、なら後は装備の新調だけだな」

「そうっすよ!! 俺、欲しい武器があったんすよ!!」


 マジックバッグを先に買いに行かせていたので、それぞれの腰にマジックバッグが装備されていて、買い出し品はそこの中に入っているのだろう。

 無事に買えたのなら後で確認するかと思いつつ、海堂から領収書の入った封筒を受け取る。

 この三人のマジックバッグだけで八桁に届きそうな値段がするのかと思いつつ、海堂が欲しいと言っていた武器を見る。


「かぁ!! やっぱりカッコいいっすねミスリル合金製の剣は!!」

「たりめぇよ!! 俺が拵えた一品だからな!!」


 ショーケースに納められた白銀の剣。

 過度な装飾は施されていないが、それでも優美にそこに鎮座している。

 ミスリル。

 ファンタジーではお約束の金属だ。

 鉄よりも固く、軽く、魔法媒体としても使える優秀な金属。

 ただ、海堂が求めている剣はただのミスリルソードではない。

 ミスリル合金、そうミスリルプラス別の金属の要素が入っている。


「ミスリル九にアダマンタイト一の割合で鍛え上げた一品だ、並の竜どころか上位竜の鱗だって切り裂けるぜ!!」


 アダマンタイトと呼ばれる金属をさらに加えることでミスリル単体よりも性能を向上させた一品。

 自慢気に、いや実際自慢しているのだろう。

 自分の作品の出来に胸を張り、その剣の完成度合いを誇るハンズ。


「値段は一本三百五十万だ!! お得だろ?」

「新車が余裕で買える値段をお得と言われてもな」

「なんだよ、これでもサービス価格なんだぜ。本当だったら五百万でも買うやつはいるんだ」


 ただ、その性能に見合って値段もかなり良い値段を誇る。

 おまけに海堂は双剣、二刀流だ。

 一本だけで済むわけがない。

 二本買えば七百万。

 普通の新車から高級車も買えるような値段にグレードアップしたわけだ。

 その値段を強気に買うと断言しない俺にハンズが顔を曇らせる。


「わかっている、二本くれ、柄の調整くらいはサービスしてくれよ」

「なんだよ、買わねぇんならって、ん? 今なんて言った?」

「買うって言ったんだよ。金属叩き過ぎで耳が遠くなったか?」


 そして俺がそっと買うと言うと早とちりしたハンズがしかめっ面を晒そうとして聞き間違えたことに気づきギョッとした表情を見せた。


「マジか?」

「マジだよ。金ならある」

「マジか!?」

「そんなに意外かよ?」


 二度も確認され、驚かれてはそんなに信用がなかったのかと思ってしまう。

 嘘だと思うハンズに俺は黙って腰につけたポーチ型のマジックバッグからジュラルミンケースを取り出し開けて見せる。


「マジだ」


 その中に入っている札束を見て、現実を突きつけられたハンズはぱちくりと何度か瞬きしたのち。


「毎度!!」


 と笑顔で手早く、その巨体に見合わない速度で器用にミスリル合金製の剣のショーケースに売約済みの張り紙を貼った。


「さて次はだ」

「まだ買うのか!?」

「言っただろ、装備を新調しに来たんだ。南、お前は決めたのか?」

「フフフフ、拙者が下調べをせずにここに来たとでも思ったでござるか!? いやないでござる。拙者が欲しいと思ったのはこの杖でござる!! 精霊の加護が宿る樹、樹齢百年を超える樹を加工し、オリハルコンと魔石で装飾加工した一品。魔力消費の軽減、発動の補助、魔法の強化そして精霊召喚強化もできて、さらにさらに見た目もかっこいいと来たら買うしかないでござる! それがこれフェアリーツリースタッフでござる!! お値段なんと四百三十万!! 拙者!! 遠慮は!! なしでござる!!」


 満足げに久しぶりの黒字だと笑みを浮かべているハンズを呼び止め次の買い物に移る。

 その時の表情は思わず写真に撮って飾りたいと思うほどのワンショットだっただろう。

 そんな残念な気持ちを抑え次に買いそうなやつに声をかける。

 恐らく海堂と南二人なら買いたいものを決めてると思い、もう一方の片割れである南に聞いてみたが案の定決まっていた。

 入り口から迷わず目的地まで進み、道中でその品がどんなものか通販番組の司会のごとく彼女は感情を入れ込み熱烈に説明する。

 そして、名前を呼ぶタイミングで商品前に着き、着いたと同時にこれだと振り返りながら手を向ける南の表情はおもちゃを強請る子供のように純粋に輝いていた。


「よく噛まずに言えたな」


 流れにタイミングとリハーサルでもしたかと言いたくなるような運びに感心しつつ、素直に褒めてやればいつものドヤ顔で彼女は答える。


「ふふん!! 魔法使いは早口言葉くらい余裕でこなすでござる!! これ常識でござるよ!!」

「お前、無詠唱が基本だろ」

「いずれ来るカッコいい詠唱を唱える日のためでござる!!」

「そうかい、ということでハンズこれも頼む」

「お、おう。わかった。いいんだな?」

「ああ、頼む」

「毎度!!」


 そんなこんなで南のテンション任せの買い物にようやく思考が追い付いてきたハンズはニヤッと笑ってこのショーケースにも売約済みという張り紙を貼った。


「それで、次は何を買うんだ?」

「今度は戸惑ってくれないんだな」

「この流れだ、さすがに驚かん」

「なんだ、残念だ」

「ハッ、さっきは久しぶりに高い品が売れて驚いただけだ。次は俺が腰を抜かすような買い物で頼むぜ」

「いつになることやら」


 その紙を貼り終えて、振り向いたハンズの表情は戸惑いから楽しみという感情に切り替わっていた。

 冷静になるのが早いなと思いつつ、なら次はと辺りを見回せば。


「次郎さん! こっちこっち!! 次は私ネ!!」

「だとよ、行こうか」

「おう、向こうは短剣か……っと、その前に、おい誰か来い!! 百三十六番二本と五十三番を作業台の方に回しとけ!!」


 ピョンピョンと手を振りながら跳ねてアピールするアメリアの姿が見える。

 どうやら欲しい短剣を見つけたようだ。

 元気いっぱいに跳ねるアメリアの隣に向かう前にハンズは奥に向けて叫ぶとズシンズシンと重い足音を響かせながら二人の巨人が出てくる。


「ヘイ親方、調整ですかい?」

「おう! 手の空いている奴全員に声かけてその二人のサイズも測っておけ」

「わかりやした」


 そのうちの一人が作業の確認を終えるとハンズから鍵を受け取りショーケースを開き、中からさっき買うと言った品物を取り出していた。

 そして、こちらですと見た目に反して丁寧な対応をして海堂と南を連れていった。


「店員、お前以外いたんだな」

「弟子だよ、ま、そんなことはいい。次はあの嬢ちゃんの武器だろ?」

「ああ」


 普段ハンズが一人で店番していたからてっきり一人で経営しているかと思っていたがそうではなかったようだ。

 しかし、冷静に考えればこれだけの武器を取り扱っているんだ。

 ハンズ曰く弟子という名の店員が一人や二人いてもおかしくはない。

 さすがに一人で経営しているわけではないと思いなおす。

 そんなことを思いつつ、アメリアのもとに向かってみれば。

 隣には北宮もいて、興奮するアメリアを仕方ないという風に見て少し苦笑気味に笑っていた。


「ほう、嬢ちゃん良い奴を選んだな」

「Yes!! これだって思ったんだ!!」

「いい直感だ。大事にしな」

「これは、牙か?」

「おう! 竜の牙を加工して作った短剣だ。だが、普通の竜の牙じゃねぇ上質な上位風竜の牙だ。軽く鋭く、嬢ちゃんの体でも存分に威力が発揮できるぜ」


 白く磨き上げられた剣身は、一目見て金属製ではないのはわかったがなんの牙かまではわからなかった俺は説明用のプレートを見ようとしたが、それよりも先にハンズが説明を始めてしまった。


「牙を研ぐ際にはダマスカス鉱の砥石を使ってさらに鋭く鋭利にして、さらには周囲の魔素を吸収して刃に風属性を纏わせるように呪印も彫ってある、ドラゴントゥースエッジ。値段はなんと三百九十万だ!!」


 悉くハンズの作品に当たっているようで、ここでもハンズは自慢げに胸を張り武器の説明をして、最後に俺を見てどうすると視線で聞いてくるも、その手にはすでに売約済みの張り紙が握られている。

 なので俺は無言でうなずいてみせる。


「毎度!!」


 そしてまた奥にいる弟子を呼び寄せアメリアは取り出された武器と共に奥へと向かった。

 七百万に四百三十万、三百九十万、と高額商品を購入している。

 ハンズの表情はどんどん笑みが深くなっていく。

 張り紙を貼り終えるや否や、次はと視線で訴えかけてくるあたり流れは把握している模様。

 ここで一つ終わりだと告げてみた時の表情を聞いてみたいがそれはいずれかと思っておこう。


「私ね」


 そしてその判断は間違っておらず、すっと北宮が軽く手を挙げ自己主張してくる。

 アメリアと一緒で、先に回った際に買う物の目星をつけているようで、南のように商品説明するでもなく。

 こっちよと先導し始めた。

 向かう先は南の向かった杖のコーナーではないようだ。

 ついた先は占いの館で見そうな水晶球がたくさん鎮座しているエリアだ。


「なるほど、魔球か」

「マキュウ?」


 野球漫画とかで見るあの魔球かと、ボケをかますもなんだそりゃと素で返された。


「魔球ってのは魔法使いが使う補助武装のことだ。魔球の質によるがそこに魔法が保存できて、任意のタイミングで放つことができる。慣れれば自分で魔法を詠唱しながら魔球でも別の魔法も用意できる。精霊と組み合わせれば自立型の魔道具にもなる。使い方は難しいがベテランになれば使っていない奴はいねぇって代物だよ」

「そういうこと、フシオ教官に一つは持っておけって言われてね。使い方は難しいけど使いこなせばかなり便利なのよ」


 そんな大小配色様々な魔球と呼ばれる魔石と装飾品が織りなす一種の飾り物のような風体の品の中から北宮が指さしたのは。


「ったく、次郎。お前の仲間はつくづく良いセンスしてやがるな」

「そんなにか?」

「ああ、嬢ちゃんが欲しいって言っていた奴は俺たちの仲間内では双子石ジェミニストーンって言われてる奴を加工した奴だ」

「双子? だが、色が違うぞ?」

「それが私が気に入った理由ね」


 赤と青の魔石の二つの魔球であった。

 青には銀色の装飾が施され、赤には金色の装飾が施されている。

 青は水のような模様、赤には火のような模様が特徴的だ。

 ハンズの言うように双子要素などどこにもなく、それぞれ別物のように見える。

 その様子に説明文を指さしながら北宮が説明してくれる。


「この魔球の材料となった魔石、どうやら相反する水の魔石と火の魔石がくっついた状態で発掘されたみたいなの。おかげで普通なら相殺しあう火と水が反発することなく魔法の効果を高めることができるらしいのよ」

「俺たち巨人族でも滅多に見ることはできねぇ品物だ。残念なのはサイズが少し小さいことだ。それでも手は抜いてねぇ、一つの魔球に上級魔法は三つは貯められる」

「当然お高いんだろ?」


 異なる属性魔法を二つ同時にしかも自立兵器としても運用できる。

 これはある意味反則だなと思い、そんな代物が安いわけないなと値札を見ず確認すれば。

 サムズアップしながら笑顔でハンズは言ってくれた。


「六百万だ」

「………わかった」


 ジャキンというレジスターの音が聞こえてきそうな感覚は今では恨めしくなる。

 戦力的に必要なこの魔球、プレートに双子の日の出ジェミニトワイライトと書かれた品を買う決意をした。

 この魔球はどうやら所持者登録が必要らしく、そのために再度出てきた巨人が品を出しその後に北宮が続く。

 そして残ったのは。


「………」

「おお、やっぱ次郎のとこの奴らはセンスがいいな。あれに目をつけるか」


 じっとショーケースの前から動かない勝であった。

 そのショーケースに飾られているのは虎柄の籠手。

 所々刺々しい印象を受けさせるその籠手は手の先から肘までを覆うようにできている。

 俺たちが後ろに立ったのにも気づかずジッとそれを見つめる勝の目は年齢相応にキラキラとしていた。


「で? この籠手は何でできてるんだ?」

「お?ああ、雷虎の皮と爪、牙で作った一品だ。こいつのすごいところは攻撃能力だけじゃねぇ。雷によって治癒もできるってところだ」

「雷で?」

「ああ、雷虎の怖えところはその生命力の強さだが、その源は雷によって体を活性化させて体の能力を向上させるところだ。身体能力だけじゃねぇ自然治癒力も上げちまう。おかげでしぶといのなんのって話で簡単に手に入る品じゃなぇって話だ」

「それを回復役ヒーラーが装備したら?」

「回復役が生き残るってだけでも、敵からしたら脅威だと俺は思うぜ?」


 そんな商品の説明を受けたら買うほかない。


「いくらだ?」

「三百万だ」

「わかった」

「毎度」


 そんなやり取りをして、売約済みという張り紙をショーケースに貼り、そこでようやく俺たちに気づいた勝に行ってこいと親指で店の奥を指さしてやると、少し顔を赤くして勝は店の奥に向かっていった。


「随分と大盤振る舞いだったな」

「まぁな、必要だとはわかっていたが、なかなか手痛い出費だ」

「そこに金をかけられるかかけられないかで今後進める奴かどうか決まるぜ」

「ありがたく、そう思うことにしとくよ」

「そう思っとけ、で?」

「あん?」

「お前はどうすんだよ。新しい武器買うか?」

「俺かぁ、どうするかなぁ」


 鉱樹を見つけに行くために今回はパーティーの武器を新調した。

 そんな俺が無手であのダンジョンに行くのは周囲の足を引っ張りかねない行為だ。

 能力的には皆よりも上でも、竜王のダンジョンでは通用するが十分だとは言えない現状。

 ここで鉱樹の代わりの武器を買うのもいいかとも思うが鉱樹の回収が成功したら使わなくなるかもしれないと思うとイマイチ気乗りがしない。

 悩む俺は、カウンターに寄り掛かりハンズの質問に悩んでいるとふと視線に止まる品を見つけた。


「ハンズ、あれはなんだ?」

「おう、また面白いところに目を付けたな。あれはな」


 そしてその品の説明を受けた俺は、これだと思う。

 ニヤリと笑いハンズに購入を申し込むのであった。


 今日の一言

 気分転換というのも重要だ。


面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

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 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。

そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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