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296 損して得取れとは言うのは簡単だが、実践は難しい

 人間、儲かるという言葉に弱い。

 純粋に金が稼げれば生活基準が向上するからという理由が主な理由に挙がるだろう。

 金があれば、うまい飯も流行りの服も豪華な家も手に入り満足感を得られる。

 中にはお金を稼ぐことが楽しいと言う輩もいる。

 そんな連中をコミコミで人は儲かるという言葉に耳を傾ける。

 何々をすればいい稼ぎになる、あのアルバイトは効率が良く儲けがいい。

 こんな言葉に心惹かれることだろう。

 ただまぁ、こういった話には大半裏があり、楽に金を稼げるというケースは非常に少ない。

 運よく大金を手に入れられるなんて、気まぐれで買った宝くじが当選するくらいじゃないか?

 では、どうやって儲けを出すかと言えば、普通に労働するか〝投資〟をするかという話になる。


「それでは、対竜決戦会議を始めるでござる。議長はこのまま拙者が務めるでござる」


 自分で焚き付けておいて言うのもなんだが、金の力って怖いわ。

 いつもの部屋の雰囲気じゃないなと若干他人事のように事のなり行きを見守る。

 瞬く間にパーティールームは模様替えされ、あっという間に会議室っぽい形になった。

 魔紋によって強化された肉体の無駄遣いとしか言いようのない手際の良さだ。

 そして用意された話し合いの場には議長と名乗っている南がいた。

 その瞳と今にも効果音が出てきそうな気迫からも本気具合も垣間見える。

 上座に座り、某新世紀の司令官のようなポーズをしている。

 その後ろにはホワイトボードの前に背筋を伸ばし立つ副司令のようなポジションの海堂がいた。


「はぁ、次郎さん、私も咄嗟に乗ってしまったから言いにくいんだけど、あの二人変なスイッチ入ったんじゃないかしら?」

「奇遇だな、俺も少し煽りすぎたなって反省しているところだ」

「後悔はしていないんダ」

「やる気が出ていることは良いことだからなぁ。それと自分の言った言葉には責任を持たないといけないといった意味もある」

「南の場合、やる気というか欲まみれと言うか………」

「そこ!! 私語は慎むでござるよ!!」


 ヒソヒソと残ったメンバーで海堂たちの様子を話し合う。

 金は魔物と聞くが、ここまでとは、下手なダンジョンのモンスターよりも強力であった。

 完全に目が銭マークになっている二人を見て、テンション的な意味で置いてきぼりにされた俺たちは少し温度差を感じつつも、各自好きな席に座った。


「ではさっそくでござるが、いかに効率よくお金を稼ぐか、その方法について話し合うでござるよ!!」

「わかってはいたが、早々に脱線してるぞ南、本命は俺の鉱樹の回収だからな?」

「そんなものは二の次でござる!!」

「………ふぅ南、少し頭冷やすか?」

「フフフフ、今の拙者ならリーダーにも負ける気がしないでござるよ!! 黄金の山を見るまでは拙者はだれにも負けないでござる!」

「よし、良く吼えた。後悔するなよ」


 それを契機に南が話し合いを始めるのだが、思考が銭を稼ぐためにしか機能していない南を再起動するために仕方なく実力行使に出た。

 しばらくお待ちくださいというテロップが流れること数秒。

 その数秒の間に何があったかは、内緒だ。

 ただ言えるのは、最初は威勢の良かった南が最後の方は悲鳴しか上げていなかったとだけ言っておこう。


「ええと、気を取り直してリーダーの鉱樹を回収し、なおかつお金を稼ぐための会議を始めるでござるよ~」

「おう、いいぞ」


 数秒後、妙にボロボロになった南がシオシオになりながら会議の進行を始めた。

 え? 何をしたって? 何があったって?

 別に? ただオハナシしただけさ。

 知ってるか? 人間の回し蹴りって鉄を切れるんだぜ?

 それでちょうどいい高さの的があってなぁ、それを切ったのさ。

 その時に少し体に違和感があってな、竜王たちに痛めつけられた時にどこかおかしくなったと思ったのさ。

 このままじゃまずいって思って調整しなおしたのさ。

 妙に威勢のいい南に確認してもらいながらな。

 ああ、ちゃんと皆から離れてやったぜ? ただ、南とは少し近かったかもしれんがな。

 それと違和感の正体は俺のステータスが上がって力加減が難しくなったからだった。


「白々しいほど力業で再起動したわね」

「さっきの次郎さん、ちょっと怖かったヨ」

「南の自業自得だ」


 その際に、海堂にも笑顔をプレゼントしたがなんでだろうなぁ、不思議と海堂も笑顔になってくれたよ。

 本当になんでだろうなぁ?


「ええと、ゴホン。とりあえずリーダーの情報をまとめたことを説明するでござる」


 そんなことを考えつつ、普段通りに戻った南がパソコンを開き、パーティールームにある巨大なテレビにパソコンの画面を映し出す。


「確認できた竜種は数が多いからあとで各自で確認してもらうとして、まずは目的地でござるな。目指すのは入り口から二時方向、直線距離で言えば十キロ以内にある峡谷の底、仮称竜の墓場でござる」


 俺の記憶をもとに簡易的なマップを作り出し、ルートの算出とその際に接敵する可能性のある竜の分布図。

 これは俺が用意した資料で、十分ほどで読み込んだ南が対策を考案した。

 その際に改善案を提出した報告資料も一緒に見せたので、それ込みの内容を考えて、鉱樹までの攻略ルートを考える。


「まず最初に空路からの急降下はないでござるな。制空権は竜に奪われているでござるし何より目立つでござる。竜王を呼び寄せる可能性が一番高い段階で、命とお金をどぶに捨てるようなものでござる」


 簡易マップに表示されていたルートは全部で三つ、青、赤、黄色の三色で矢印でルートが示されていて、南の操作で空を経由していた赤のルートが消える。

 残るは峡谷の表層を進み途中から下降する黄色のルート、そして最初から峡谷に潜り最下層を突き進む青ルート。


「となると、残りの二ルートから選ぶのでござるが、拙者的には青ルートを推奨するでござる」


 誰も口を挟まず、南の説明に耳を傾けながら画面を見続けると青のルートが点滅される。


「消去法になるでござるが、今回竜王のダンジョンに挑むにあたって一番注意しないといけないのは当たり前でござるが竜王でござる。というよりは、そんな戦力とぶち当たりながら他の竜種と戦うなんてなんでござるかそのルナティックなゲームって話でござる。そんなゲームがあったら拙者ならクソゲー認定待ったなしでござる」


 そうは言いつつも、次に表示された画面でその理由の詳細が書かれている。


「まぁ、クソゲーかどうかは置いておくでござるよ。消去法と言ったのには理由があるでござる。リーダーの話では竜王は峡谷の底には襲いに来なかったという話でござる。憶測の領域でござるが、たぶんリーダーが戦ったと言うスケルトンドラゴンが原因だと思うでござる。理由まではわからないでござるが、そこを勘案すると敵が強いとわかっていても勝てない竜王を相手にするよりはまだ攻略の余地があると踏んでいるでござる」


 予想が外れていたら大惨事待ったなしでござるが、と付け加えて南は説明を終える。


「まぁ、妥当な話よね。戦闘自体はきつくなるけど勝てないってわけじゃないし。それよりも体力の損耗を抑えて勝てない相手に当たる方が問題なのは明白ね」


 その説明に納得の色を示す北宮。

 多少の無理はしても、無謀ではないと彼女は判断したのだろう。

 考えるときの癖である片手を顎の下に当てながら頷き、南の説明に反対はせず、可能であると肯定した。


「それに、このルートなら私たちのレベルアップにもつながるわね。一石二鳥ってところかしら」

「ん~南ちゃんの考えだと三羽目も狙ってそうだけド」

「ギク!?」

「口でギクって言う人、俺初めて見たっすよ。その反応から見ると、南ちゃんまだ諦めてなかったようっすね?」

「まぁ、南も鉱樹回収を優先しているみたいだし、大目に見てもらえませんか?」


 代わりにアメリアがこのルートを選ぶ別の理由を言い当て、南の額に冷や汗が流れる。


「仕方ないでござるよ!! 八桁、八桁でござるよ!? そんな金額簡単に諦められるわけないでござる!!」


 勝に仲裁され、生暖かい目で眺めていたら彼女は開き直り、本音を暴露した。

 堂々と胸を張り宣言した後に、世の中金だと豪語する彼女はいっそ潔いと言っていいかもしれない。

 南が立ち上がり、親指と人差し指が円を描いた瞬間にレジスターのような音が響く。


「Wow、魔法の無駄遣いネ」

「あんたいつの間にそんな魔法覚えたのよ」


 それが想像からくる擬音ではなく、物理的にしっかりとこの場にいる面々が耳で聞き取り、わずかな魔力の残留で北宮はその音の正体が魔法だということを見破る。


「もともと、気を逸らしたり誘導するための音響魔法でござるよ~応用すればこんなこともできるでござる。目指すは魔法でアニソンメドレーを作ることでござる」


 その音の正体を見破ったアメリアは感心しつつも、その使い方には苦笑が漏れている。

 隣に座っていた北宮も同じく呆れていた。

 器用、器用だと思ってたが、いよいよ魔法を遊びに使い始めたかと俺も苦笑を浮かべる。

 そして方針が固まれば今度は準備の段階に移る。

 話の方向を元に戻し、最後に南が見せたのはリストだ。


「ということで、リーダー、必要経費としてこれらの物が欲しいんでござるが」

「………随分と盛り込んだなぁ」

「必要経費でござる」


 そのリストはポーションといった消耗品から、武器防具の新調、そして戦闘をサポートしてくれる魔道具といったアイテム類。


「マジックバッグは?」

「必要経費でござる、今回の消費した経費を少しでも回収するためと、荷物を抱えていた状況では円滑に移動できないこと、そして一つは回復用品をしまうための倉庫として固定して継戦能力を上げるために必要でござる」

「お前、営業とか向いてるかもな」

「初対面の相手にプレゼンなんて、リーダーは拙者に胃に穴を開けろと仰せでござるか」


 そのリストの中に隠れていたマジックバッグについて問い詰めてみれば、それらしい理由と共に本音が見え隠れしていた。

 要は少しでも多くの竜の素材を回収したいというのだろう。

 仕方なしと割り切るには額が額だ。

 八桁に届かなくとも、八桁に迫るリストの値段。

 最終判断はリーダーである俺が決めるのだが、ここでパーティー資金を使っていいものかと悩むも。


「仕方ないか、どっちにしろお前らの装備を新調しないと今後の戦闘に支障が出るか」


 南の言う通り必要経費として割り切るには十分な理由だ。

 機王のダンジョンでも行き詰っている今、装備の新調をし戦力を上げるのも悪くはない。

 となるとだ。


「南、リストの訂正だ」

「え、どこを削るんでござるか? 結構これでも絞ったつもりでござるが」

「そんな悲しい顔すんな、安心しろ削る方面じゃねぇよ」


 やるなら徹底的にだ。

 現在のパーティー貯金の残高的に今回の出費は十分に支払えるし、十分に余裕も残る。

 こんな時のために貯蓄しているんだ多少の大盤振る舞いは認められるだろう。


「パーティー資金の三割を追加、ついでに今回の俺の利益から一千万追加だ。やるなら徹底的に強化するぞ。南、再計算だ」

「き」

「き?」

「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 そんな俺の発言に我が世の春が来たと言わんばかりに南は目を見開かせる。

 俺としては危険な竜王のダンジョンに付き合ってもらうのだ。

 装備を少しでも良くしてこいつらの安全を少しでも保障しようと思っただけなのだが、狂喜乱舞と南は踊り出してしまった。


「ちょっと、そんなこと言っていいの? そのお金って次郎さんが稼いだお金でしょ?」

「なに、あそこに潜れば多少はとり返せるだろうさ。それに、鉱樹の回収に付き合ってもらうんだ。多少の身銭は切らんとな」


 そんな南とは裏腹に北宮は心配そうに声をかけてきたが、心配すんなと笑い。


「それに使った分はせいぜい働いてもらうさ。ホレホレ、さっさと口挟まんと南が全部お金の使い方決めちまうぞ」


 ヒラヒラと手を振り北宮を追い払う。

 よく見れば北宮以外の全員が、狂喜乱舞を舞い終えた南が操作するパソコン画面に食い入るように見ていてあーだこーだと口を出していた。

 現金な奴らだと思いつつ、最終確認は俺がすることになっているので変な物を買っていたら容赦なくシバクと心に決め、早く行けと、北宮に言ってやる。


「もう、仕方ないわね」


 そんな俺の態度に苦笑しながら内心では買い物したかったのだろう。

 身体強化で海堂を突き飛ばし口を出し始めた北宮を眺めながら俺はリストが決まるまでの間、コーヒーを飲むのであった。



 今日の一言

 必要ならケチるな。


面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。

そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前のソロアタックの時も気になってたんですが、時の精霊さんの保管庫使わないのは何故でしょう?
[一言] 竜玉が出ない!(某狩りゲー並み
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