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261 慎重に動く時と、迅速に動く時

過去話に挑戦です。

楽しんでいただければ幸いです。

 待ち人来ず。

 なんてことはなく、むしろ待ち人は俺で、待っているのは南だ。


「おふぉいふぇごふぁるよ」

「食ってから話せ」


 こんな時間にそんなでかいパフェのスプーンを咥えながら話すなと注意すれば、ゴクンと何かを飲み干し改めて。


「食べ終わってからでいいでござるか? アイスが溶けてしまうでござる」

「……ああ」


 遅いと苦情を言うことなくせっせとパフェの攻略に南は戻っていった。

 食べるのかよというツッコミは呼びだした手前、仕方ないと割り切り飲み込むことで我慢し、代わりに食べ終わるまでの時間つぶしのために俺は俺でコーヒーを頼む。

 店内は空いていたため、すぐに来たコーヒーをすすり、南の様子を見れば普通の女子大生が幸せそうにパフェを頬張っているようにしか見えない。

 これでもうちのパーティーの司令塔。

 状況に合わせて多種多様のサポート魔法を駆使し、うちのパーティーを支えてくれる屋台骨の一本。

 ダンジョン内では頼りになる存在なのだが、ここまで緩んだ顔を見せられるとそうは見えないだろうな。


「ふむ、では改めて、遅いでござるよ」

「俺が待たせたのは事実だが、食うのを待ってた俺からすればその言葉は理不尽だぞおい」


 時間にして三十分ほどだろうか。

 最後のアイスを食べ終え、満足そうな笑顔になった南は待たせたことに対して俺に苦情を申し付けてきたが、さすがの俺もその言葉は許容できなかった。

 これから大事なことを話すと言うのにと、溜息を吐きそうになった時だった。


「まぁ、いい。それで来てもらったわけだが」

「勝のことでござろう?」


 俺が内容を切り出す前に食い気味に南は飄々と、つまんなそうに俺の用件を当て切り出してきた。

 パフェのスプーンをゆらゆらと揺らし、何が問題になっているかを悟っているかのように彼女は俺の返事を待たず。


「拙者だけが呼ばれればそれくらいわかるでござるよ。けどリーダーの様子を見る限り、あまり状況は良くなさそうでごるなぁ。それにしてもまぁた、勝は悩んでいるのでござるか」


 過去にも同じことがあったと言うかのように南は話を進めていく。


「またって、お前は勝の状況を把握していたのか?」

「してたというのは近いでござるがすこし違うでござるなぁ。経験で半分確信していた予想みたいなものでござるよ~そこから少し考えればちょちょいのちょいでござる。大方、拙者が普通に生活するようになって手持ち無沙汰になったことに不安を覚えて、今の立場にしがみつこうとしている。本当に前と同じでござるなぁ」


 予想と口にしていたが、南にとって今の状況は歓迎していないのはわかる。

 それはどういった理由でなのかは見当がつかない。

 だが、南の話しぶりからするといずれこうなるのがわかっていたようにも聞こえる。


「その言い方になると、だ。お前の今まで面倒だと言ってたのはやはり演技ってことになるが?」

「いや、それは素でござるよ~拙者、興味がなかったり本当にやりたくないことはやらないたちでござる。ただまぁ、必要最低限の生活能力がないと言われれば違うと言うでござるよ~」


 霧のような存在。

 元々掴みどころのない性格だと思ってはいたが、ある程度付き合いもあり南の性格は把握していたと思っていた。

 だが、その認識を少し改める必要がある。

 霧と称した今の彼女の思考の奥を垣間見、さらに見えなくなり、どういった意図があるのかがわからない。

 勝を今のような状況に追い込んだのはワザとかと問えば、違うと聞こえつつ肯定しているようにも聞こえるような答えが返ってくる。


「そろそろ、限界だったんでござるよ。勝との関係も、勝自身も」


 だが、彼女はその霧の奥からすっと宝箱を差し出すように俺の知りたい情報を述べてくる。


「勝はしっかりしているようで、そうじゃないでござるよ。だから今回みたいにちょっとでも自分の立場に影響が出るとぐらつく。他人に大部分を依存して、自主性がないんでござるよ。いつも、追いかけて自分で前に出ない」

「南?」


 さっきまでおいしそうにパフェを頬張っていた姿は跡形もなく、寂しそうに窓の外を見る。

 呼びかけてみるとこっちを見るが、そこにはあったのは悲しいと言っているような南の笑顔だった。


「まぁ、拙者も人のことは言えないでござるねぇ。拙者も同じでござるよ。拙者はただの敗者、拙者はただの負け犬でござるよ」


 普段の場の雰囲気を盛り上げる彼女とはかけ離れた、観客がいなくなったサーカスの天幕のステージに一人佇む道化師のように、南は言葉を紡ぐ。

 それは舞台裏で語られる話。


「別の女に憧れてた年下の男の子に恋してしまった、馬鹿な女の惨めな悪あがきでござるよ」



 Another side


 所沢勝と知床南という男女の出会いはただの親戚の付き合いからだった。

 そこに何か特別なことがあるかと言われれば、そんなものはないと彼らは断言する。

 当時南は中学生で勝は小学生。

 大人同士が難しい会話をしている間、子供は暇になるというありふれた光景。

 そんな最中、勝という少年は周囲の大人が立派だと称するように物静かに、ただただ両親の側にいて、文句も言わずじっと両親の話が終わるのを待っていた。

 正反対に南は、親同士の会話に早々に飽きて持ってきたゲームにいそしんでいた。

 互いの子供の評価は正反対。

 勝は小学生だと言うのに立派だと言われ、南はゲームばかりしてと叱られる。

 互いに親戚だと認識はしていたが、接点はそれ以外なかった。

 歳の離れた異性ということもあったが。

 南からすれば自分よりも評価されている年下の男の子ということで思春期に入っている彼女からすれば気に入らない存在だった。

 勝からしても叱られ続ける南に関わりたいとは思っていなかった。

 このまま行けば、絶対に関わり合いにならない二人を結びつけたのはさらにその場にいた年上の少女だった。

 南よりも年上、高校生であった彼女は南からすれば、一番この場で関わりたくない存在だった。


「わ! 勝君元気かな!」


 こっそりといたずらをしようとわざとらしく足を忍ばせ、親戚一同が何をするのかわかっている中で、こっそりと勝の背後に回り驚かし、その表情を見て笑顔になる少女。

 その雰囲気は場を照らし、その笑顔は様々な人を笑顔にし、その人当たりの良さで彼女に対して悪感情を抱くことはない。

 南は理解していた。

 この感情は嫉妬、ない物強請りをしている醜い心だと。

 常に彼女と比べられ続けた南は、スッとゲームから視線を上げる。


「翠さん」


 そこには、ほっと安堵の表情を見せる少年、勝の姿があった。

 その勝に声をかける少女、川崎翠と勝の二人が仲がいいのは周知の事実。

 勝と南が彼女に向ける感情は正反対と言っていい。

 片や憧れといった憧憬を、片や無いものを持つ存在として嫉妬を。

 そんな子供の感情など、周囲の大人には関係ない。

 勝の両親も彼女ならと安心して任せられると思い、翠が手を引きその場を離れるのを許していた。

 その光景を見て、南は関係ないと思いスッとゲームの世界に戻っていた。

 画面の向こうには、自分が育てた存在が現実とは異なる世界を旅していた。

 いつからだろうと南は思う、こんな現実に期待せずにこの画面の向こうに期待していたのは。

 それが無駄なことだと理解しているというのに、期待だけは止められなかった。


「ほら! 南ちゃんも一緒に!!」


 そんな異なる世界に目を向けていた彼女の視界にも明るい言葉が差し込んだ。

 自身の名前を呼ばれれば当時の南はゲームを中断し。


「いえ、私は大丈夫です」


 しっかりと相手の顔を見て断る。

 明確な拒絶、けれど言葉を選び最低限相手が不快にならないように気を配る。

 周囲の視線はせっかく翠が誘ったのにと眉をしかめ、隣に座る人と小声で会話。

 雰囲気からして南が悪者、勝も南は来なくていいのにと子供ながら不満そうにしていたが翠がいる手前その言葉が出ることはなかった。

 その場所に南の居場所はなく、味方もいない。


「せっかく翠ちゃんが誘ってくれてるのよ。あんたも、ゲームばっかりしていないで」


 実の母親からも注意を受けてしまえば、南に抗うという選択肢はなくなる。

 だからこそ、南は数の暴力に流され。


「……わかりました」

「良かった!」


 ため息を吐くのをこらえ、周囲の意見に流される。

 この太陽のような笑顔に敗北する、いつも繰り返される光景。

 いや、南だけが敗北感を味わい、翠からすれば勝負にすらなっていないだろうやり取り。

 意志を貫くこともできず、ただただ周りの意見に流されこの太陽が正しいのだと自分に言い聞かせ続けた。

 そんなことが繰り返される親戚の集まりに呼ばれるたびにこの光景は繰り返される。

 そして月日は流れ南が高校生の時だ。

 彼女も色々と学び、処世術というのを身に着けた。

 学業は平均よりも高く取っていれば周囲から文句言われない。

 親の言うことには逆らわない。

 そうすれば自分の世界は守られる。

 なので。


「やっほ! 南ちゃんお久しぶり元気にしてた?」

「お久しぶりです。翠さん」


 こうやって心を殺し、大学生になった翠に対して何事もなく挨拶を交わせる程度にはなった。

 この日も親戚の集まり、行くのは嫌であったが行かなかったら後で何か言われるのを理解していた南は体調が悪いのを隠しこの日も無難に過ごすつもりであった。

 段々とひどくなる頭痛を隠し、ニッコリと笑みを浮かべ挨拶を交わした後はゲームなどせず親戚と世間話を交わす。

 語られるのは過去の彼女。

 昔は少し暗かったが、成長したと褒められる。

 だが。


「翠ちゃんが一緒にいたおかげかねぇ。あんたも随分と明るくなって」


 いつもこの言葉が纏わりつく。

 親戚からすれば、何気ない言葉だろうが南からすればさらに頭痛がひどくなる言葉であった。

 そんなことはないと声高々に否定したいが、それをする労力とリターンを天秤にかけることを覚えた南はあっさりとその気持ちを仕舞い込む。

 そうですねと無難に相槌をうち、その場を流すが我慢という負担はストレスを生み、段々と体の調子は悪くなる。

 ただでさえ今日は調子が悪いというのに、精神的にも厳しくなれば体調の悪さが顕著に感じる。

 少しトイレにと席を立ち、廊下に出る。

 大丈夫まだやれると、少し外の空気を吸って気分転換をしようとした時だった。


「南さん大丈夫ですか?」


 閉めたはずのドアが開き、そこから小柄でも中学生に成長した勝が出てきた。


「ええ、大丈夫ですよ」


 一瞬ドキリとしたが、気づかれたはずはないと南は思い笑顔でこの場を乗り切る。


「失礼します」


 そう思ってたはずなのだが。

 背伸びをしてすっと手が伸び、ピタリと手が南の額に添えられ。


「やっぱり、すごい熱じゃないですか」


 普段心配などされない南からすれば。


「こっちで休みましょう」


 たとえ、偽善だとしても、たとえこの少年が太陽の女性に近づきたいと願いこういった行為をしようとしたとしても。


「あ、はい」


 誰にも気づかれないように手を引き心配してくれる行為に戸惑っていた。

 勝は南のことを嫌っていたと彼女自身理解していたと思っていたからなおのこと不意を打たれた。

 テキパキと布団を敷き、休めるようにして、体温計や水分を用意したり。

 なぜ、そこまで熱心にやるのかと南の頭の中に疑問符が浮かぶ。

 だが、その疑問は口にすることなく。


「ありがとう」

「いえ」


 ただ南はお礼の言葉を口にした。

 この言葉が、初めて南と勝を繋げる言葉だと南は思った。

 勝は覚えていないのかもしれない。

 ただ、確かにこの日南は初めて、勝という少年を意識するようになった。

 そして、同時に。


「あれ? 南ちゃんどうしたの? 体調悪いの?」

「あ、翠さん。こんにちは」

「こんにちは勝君。遅れちゃってごめんね」


 勝がなんで南に対してこんなに熱心に看病した理由が南には理解できた。

 ひょっこりと顔を出し、大人と言えるような雰囲気になった翠は南が体調を崩していることに驚いていた。


「南さんが、体調悪そうだったので」

「それで看病してたのか~えらいぞ! さすが男の子!」


 そして手放しでほめる翠に勝は照れて喜ぶ。

 その雰囲気だけで南は察した。

 儚い、男の子の恋。

 少しでもかっこよく見せたいと思った男の子の努力の結果。

 南の中でいつも真剣で真面目で堅物かと思った少年であった勝にもかわいらしい部分があるのだと理解した。

 南とて花の女子高生。

 恋の話に興味がないわけではない。

 南には縁がないだろうと思っていた青春。

 その様子を見て、この嫌な親戚の集まりにも少しだけ南に楽しみができた。


「それじゃ、おじさんたちに説明してくるから!」

「はい、お願いします」


 一通り褒められて、親戚の集まりに顔を出しに行った翠を見送った南は。


「翠さんのこと好きなの?」

「え!?」


 今思えば本当にわかりやすかった勝を、生まれて初めてからかうのであった。



 今日の一言

 時と場合によって、どう動くかで結果は変わる。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが9号で掲載されました。

そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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