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261 戸惑い、悩む、そして進む人生はその繰り返しだと思う

 南たちを見送ってから、十数分。

 海堂も南からのダメージから回復し、そろそろいいかと俺たちは移動を始めた。

 向かう場所は社内の訓練施設。

 研修の時入った時元室ではなく、テスターに解放されている一室だ。


「お、やってるっすねぇ」


 その一室から戦闘音が聞こえ、そっと覗いてみれば俺たちが想像した通りの光景が目の前に広がっていた。

 今日は確か、魔法職だったはずと予想した通り、勝は杖を持ち、普段鍛えていた回復職とは違うポジションでその場にいた。

 相手はダークエルフのパーティー。

 対して勝のいるパーティーはゴブリンとオークの混成部隊。

 魔法職は勝のみだが、体力と頑強さには自信がある面々。

 近寄れば強いと言える。

 ダークエルフで編成されたパーティーはそれがわかっているから、近づけさせないように工夫を凝らし、勝のパーティーのフラストレーションは溜まりつつある。


「はぁい、様子を見に来たのかしら?」

「ええ、お疲れ様ですケイリィさん」


 その模擬戦を監督するダークエルフの女性、ケイリィさんに俺は歩み寄る。

 普段と同じスーツ姿。

 スエラが抜けて、いろいろと忙しいと聞いているが、こうやって時間を割いてくれるのは頭が下がる思いだ。


「どうですか調子は?」

「ん~、始まったばかりだけど集中しきれていないってところかしら。即席の魔法使いだから援護の幅も少ないし、回復職だった経験からそっちの方を多めに使っちゃうみたいね」

「そうですか」


 そこは慣らして改善ねと笑って言うケイリィさんに同意するように頷き正面を見据える。

 勝の表情は、迷いながらも我武者羅に目の前のことを対処しようと必死だった。

 あの日、勝が自分のパーティー内での存在意義に関して俺に問うてきたとき。


『先に言っておくが、お前はうちのパーティーにとっては必要不可欠だ。これは、お世辞や遠慮とかそういう話は抜きにしてだ。それを、前提で覚えていてくれ』


 勝の質問に悩んだのは一瞬だ。

 だが、俺は言葉をスムーズに出せた。

 勝の表情を見て安易に言うべきかと少し迷ったが、最初に肯定の言葉を選んだ。

 ただ、そこで終わらせず、勝の真意も聞き出す。


『それを、踏まえて聞くが、なぜそう思った。なにか問題でもあったか?』


 思いつめたような表情、何かしら心境の変化があったと思う。

 むしろ、勝はそれがなければそんなことを言い出すような奴ではない。

 パーティー内では問題はなかったと思う。

 だが、勝と俺は一回りくらい歳が離れてしまっている。

 自分では大丈夫だと思っていても、もしかしたら見逃している部分があるかもしれない。

 ただ俺の中で勝はなんとなくという言葉で存在意義に関して口にすることはないと思っている。


『南を見てこのままでいいのかなって、思いまして』

『南を?』


 案の定、ただ漠然とした感情任せの行動ではなかったことに安堵するも、代わりに出てきたのが空気を読むのがうまいがたまに読んでいて無視する南の話だった。

 勝と南は幼馴染。

 二人の関係上、なんらかの問題が起きてもおかしくはない。

 確かに悩みの種としてはあり得ると思う。

 一緒に仕事をするようになっても、悪い人間ではないが不真面目という印象がぬぐえない彼女。

 真面目な部分もしっかりあるが、目立たないのだ。


『またあいつが何か問題でも起こしたか?』


 ござる口調の彼女は基本的に興味のないことに対しては人任せだ。

 主に自炊といった家事、そして肉体労働といった苦痛を伴う仕事だ。

 仕事は選り好みできないのだが、南はそこら辺の取捨選択がうまかった。

 最近では要領がわかってきたのか、口調はふざけていてもそういった肉体労働でも手伝うようになり、過去に見たうまく回避するような行動は見受けられなくなった。

 もしや、裏ではすべて勝に押し付けているのかと思い至り不安になる。


『いえ、なにも問題を起こさないんです』

『? いいことなんじゃないか?』


 だが、そういうことはないと勝本人が否定した。

 普通ならそれで問題はないと喜ぶはずなんだが……勝自身の表情はすぐれない。


『最近、南が自分で動くことが多くてこう、なんて言えばいいんでしょうか』

『?』


 要領を得ない勝の言葉に俺の頭では疑問符が乱立する。

 勝が抱える悩みが南のはずなのに、問題なはずである南に問題はない。

 なんだろう、哲学だろうか?


『南が自分の部屋を掃除してた時の話なんですが』

『あいつ、自室の掃除をするのか?』

『いえ、僕が知る限り初めてです』

『そうか』


 年下である勝に掃除と言うか家事を押し付ける南も南だが、それに対して不満と言うか、何かを感じている勝も勝で何かずれているような気がする。

 しかし、ここでその部分を指摘して話を折るのもなんか違う気がするので一旦無視スルーする。

 だが、勝の言葉に俺自身、なんでというより何を悩んでいるかわからず、どういう言葉を勝に投げかけるか悩んでしまう。


『その、南が僕に、掃除しながらそろそろ自分のことは自分でやらないといけないだろうって笑顔で言われて、その時、南がどこか遠くの存在のように感じてしまって……』

『ん?』


 他にも、ダンジョン内での南の立場と率先してアメリアを助けると自分で決断した時のこと。

 南が活き活きしている姿を見て、段々となんとも言えない感情が渦巻き始めたと勝は言う。

 そんな悩んでいる俺に必死に頭を捻り、自分の心境を説明する勝の言葉にふと思い当たる感情にたどり着く。

 それって、恋というのでは?…と。

 今まで世話を焼いていた身近な女性が独り立ちして世話を焼く必要がなくなったのが寂しくなったのではと考えるが、いやいやと内心で首を振りはやとちりは良くないと思うも。

 一応確認のため勝に質問する。


『勝、自立することはいいことだと思うが……勝はどこが問題なんだ? 別に、南が自立したからってお前と接点が無くなるわけでもない。少し、日常は変わるかもしれんが、南も南で変わり始めてるってことじゃないのか?』


 むしろ高校生に世話されている女子大生の方が問題があったような気がする。

 今でこそ、そういった関係なんだなと割り切ることができるも、普通に考えればおかしい関係だ。

 しかし勝の言う通り、入社したてのころと比べれば南はだいぶ行動範囲が改善されたと思う。

 自分の世界に引きこもらず、コミュニケーションの範囲を広げ、対応している。

 興味があることとはいえ、率先して書類作成にも協力し、パーティールームの掃除もする。

 食事を作っているところはあまり見ないが、コーヒーくらいは仲間分は用意する。

 段々とだが、だらしない生活とは無縁になり、勝が入社した時に目的とした南の社会的自立が達成されようとしているのでは?


『そうなんですけど、なんでしょう』


 そんな考えと勝の、良いことなのだが素直に喜べないという態度。

 燃え尽き症候群みたいに何もやる気が起きないと言うより、ワーカーホリックのサラリーマンが手持ち無沙汰になり何をすればわからなくなったと言うべきか?

 もしくは巣立った子供を複雑な心境で見送ったとか?

 様々な予想が頭を巡り、少し恋とは違うと思い、もしかしたらと一つの可能性に思い至る。


『勝、アドバイスにしかならないかもしれないがここは一つ、気分転換でもしてみるか?』

『気分転換ですか?』


 なのでその可能性を見極めるために俺は勝に一つの提案をしてみた。




 それが今目の前でやっている、他のパーティーの一員になっていろいろな職を体験してみるということだった。


「それで、どうです勝の様子は」

「確信はないけど次郎君の予想通りだと思うわよ。正直、こんなケースはレアすぎて私も見落としてたわよ」

「そうですか」


 勝には回復職以外のポジションを体験し、自分の役割を見つめなおさせるためにやらしているが、それ以外に俺はケイリィさんに頼んで調べてもらった。


「そんなことはないと思ってたんすけどねぇ」

「南が派手に動きすぎだ。俺でも気づかんかったわ」

「正直、南ちゃんも浮かれてたから少しずつ普段通りに振舞わなくなってたんだと思うわよ」


 勝の言う悩みというのは子離れできない大人が過保護に子供に構う時の前兆に見えた。

 いつまでも親が必要、承認欲求とも言われるその感情。

 普段の行いから、南が勝に依存しているように見えていたが……少し気がかりになって確認してみたが。


「やればできるって、思ってたが……〝わざと〟やらなかったか」

「そうして、勝君を支える必要があったってこと、彼には何か自分が必要な人間だと思わせる何かがなければならなかったみたいねぇ」


 逆の可能性もあった。

 人間、仲のいい相手でも話せないことは山ほどある。

 むしろ、仲がいいから話せないというケースもある。

 邪推するのは何か申し訳ないが、今回のケース、勝が気づいていない可能性があり、南の方だけが気づいている可能性がある。

 南が勝を必要としているのではなく、無意識下で勝は誰かに必要とされたかったという可能性。

 その立ち位置を南が担っていたかもしれないという話。

 それを確認するためスエラではなく、南にも勝にも疑問を抱かれないようにケイリィさんに頼みいくつものパーティーを体験させ、勝と組んだパーティーメンバーにケイリィさんが聞き取りを行い確認を取った。

 そのパーティーのいずれのリーダーも口を揃えて。


「いつも顔色をうかがってたって、南ちゃんがいない時の彼、次郎君の言葉だけ心の支えにしてやってるって感じだったみたいよ。わかりましたって素直に行動するのは良かったみたいだけど、誰かをサポートすることに必死になってるって印象の方が強かったみたい」

「ケイリィさん的に深刻そうですかね?」

「そこら辺まではわかんないわね。南ちゃんに構いすぎてそうなっちゃったのか、あるいは昔に何かあってそうなっちゃったのか。これ以上は当事者に聞かないとわからないわねぇ」

「当事者というと、南ちゃんっすよねぇ」


 その結果は、濃厚となったが可能性のまま、といったところ。

 思い返せば、勝が一人で仕事に来たことはなかった。

 学校があるときは来ないのは当たり前だが、南は一人で来るときはあったが、勝は常に南と一緒だった。

 南をサポートするつもりなのはわかっていたが、こういう視点が増えると、逆に南が勝のことを見ていたような気がすることが度々あった。

 もしかしたら南の苛立ちはこのことに関しても含まれているのかもしれない。


「仕事が嫌になって辞めるってのなら、甘い考えだが納得しなくはない。だが、そういう感情からくるのなら話は少し変わるな……」

「どうするんっすか?」

「そういうケースはそのまま逃げるってのもありと言えばありだが、後悔することが多いからな。後悔しないようにやれることやるってところだな」

「頼むわよ次郎君。もうすぐテスターの二期生の入社が控えているこの時期にテスターが減るってのは内外どっちにも良くないんだから」

「わかってますよ。個人的にも、勝とここでサヨナラってのは俺も勘弁なんで」


 幸い今回は俺の手を出せる範囲内だ。

 どこから手を出すかの話だが……


「ま、ここからだよなぁ」


 海堂とケイリィさんが見つめる中、俺はスマホを取り出し、連絡を入れる。

 すぐに既読がつき、返信がくる辺りその辺の機器は常に手元にあるということか。

 らしいと言えば、らしい。


「やっぱ、南ちゃんっすか?」

「そうだな、隠れてコソコソやっていた手前、話しづらいが、そこはどうにかするさ」


 怒りマークのスタンプを送られた後に、すぐに外の店を指定するあたりまだ帰っていなかったのだなと苦笑を一つこぼす。

 手早くスエラたちに連絡を入れる。


「それじゃ、俺は少し出てきますのでケイリィさん勝のことお願いします」

「了解、まかせて」

「海堂は……」

「うっす!」

「迎えを説得してから、どうするか決めてこい」

「へ?」


 指定された店は会社から一駅離れた喫茶店。

 南もそういうところに行くのかと思いつつ、その場から離れるためにケイリィさんにこの場を任せ、騒ぎを起こさないように入り口のところで隠れられておらず、通りがかった社員がその姿を見て驚くのを見て、海堂を向かわせる。


「アハハハハ! あんな機王様初めて見たわよ」

「俺は、海堂が気に入られているって聞いて度肝を抜かれましたけどね、さて、待たせると南が拗ねるので」

「はいはい、いってっらっしゃい」


 慌てて海堂が走り出すのを見送り、俺も俺でその場から離れる。

 上目遣いで海堂を食事に誘うアミリさんに会釈し、脇を通り抜ける。


「さてさて、何が出てくるのやら」


 前の会社も会社でトラブル続きであったが、こっちはこっちで毎度騒ぎには事欠かない。

 可能なら、あまり騒ぎにならないように終わってほしい。



 今日の一言

 仕事で悩みを持たない奴はいない。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

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そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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