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234 新年、何がおきるかわからないってのはいいことなのか?

新章突入です。

今回でもう少し日本と魔王軍の距離感を縮めたいと思います。

「いやぁ、新年早々災難でござった。まさかみんなそろいもそろってあんなことに巻き込まれるとは思わなかったでござるよ」

「本当よ全く、あの後大変だったんだから。事情聴取とかで警察に解放されたのなんて二日の昼過ぎよ」

「北宮ちゃんはいいじゃないっすか。俺なんて我武者羅にテログループに反抗してたからガタイのいいおっさん刑事に説教くらってたんっすよ。終わってから事情聴取も始まって、たぶん俺が最後だったっすよ。それと比べていいっすよねぇ先輩は、部屋でのんびりしてたんっすよね?」


 三が日を終え、今日はダンジョンに入る予定はなかったが一応新年のあいさつということで、パーティールームにはパーティーメンバーである面々が集まっている。

 と言っても会社自体はまだ休み。

 各々装備つける前の格好になるまでもなく、私服で勝の淹れてくれたコーヒー片手に自分たちの席に着き思い思いの格好でくつろいでいる。

 俺と海堂はリビングにあるテーブルの席。

 北宮と南はテレビの前に置いたソファーに座っている。


「お前らが巻き込まれたのを知って、それどころじゃなかったわ。俺は俺で年末は忙しかったんだよ。本当だったらのんびりヒミクの年越しそばを食べる予定だったんだがな」


 海堂が言うほどのんびりできたわけではなかったが、俺の方はテロリストに殴り込みをかけたが時間的に拘束されたのは半日もない。

 その点だけを見れば、まだまともな三が日を送れたと言えるが、労力を考えるとそうとも言えない。

 どっちが辛かったと不幸自慢をする気もないので、のんびりと海堂たちの話を聞く。

 聞けばあの神社にいた面々全員が避難誘導やら咄嗟の対応に当たっていたせいで警察に事情を説明しないといけないことになっていたらしい。

 職業上の経験と説明できなかったのが警察との会話で苦労したと北宮が愚痴をこぼす。

 あそこにいた全員が緊急時に対しての場慣れが半端なかったうえに対処が的確。

 それを見ていた目撃者も多数。

 もしや同業者かあるいはそういった関係者だと思われたようだ。

 わが社は守秘義務の塊。

 おまけに、海堂はともかくとして残りは大学生と高校生。

 警察の方も疑問符を頭の上に掲げただろうさ。

 見た目と行動力、そして経験と判断、そのどれもが日本では警察からしたらちぐはぐな状態に見えたのだろう。


「あれ次郎さん、何かあったノ?」

「確か、スエラさんたちと一緒に部屋で年を越すって言ってましたよね?」


 この部屋の最年少コンビの勝とアメリアはキッチンから勝お手製のクッキーを持ってくる。

 アメリアがテーブルに置いてくれたクッキーに手を伸ばし、どう説明したものかと悩む。

 何かあったかと言うのは事実だが、それを正直に話していいかと言われればNOと言える。

 今回の事件にかかわったことで少々厄介なことになってしまった俺が安易に新年に起きた事件の真相を話すのは情報漏洩に繋がる。

 なので。


「なに、どこにでもある休日出勤だよ。年末に残った仕事で呼び出されただけだ」


 こうやって冗談交じりでごまかすことにする。


「うへ、マジっすか。ついてないっすねぇ。ちなみに監督官っすか?」


 そして休日出勤だと聞いて真っ先に反応するのは、その言葉に一番縁のある男である海堂だった。

 前の会社だと、週休二日という言葉は聞いたことがあるが、それは実現することなどまずない。

 土曜は平日、それが合言葉だった。


「いや、別件だ。無事に終わって報告書も出したからこうやってのんびりできてるわけだよ」


 甘いクッキーが少し苦いと思うのは過去の記憶を少し思い出したということにする。


「えー、本当でござるかぁ? 拙者の勘がただの休日出勤じゃないって言っているでござるが」

「南と一緒ってのは癪だけど、次郎さん何か隠してない?」


 そして、ごまかしで済む人材とすまない人材の差が顕著に出てしまった。

 海堂と勝、そしてアメリアは素直に大変だったとこちらを心配してくれたが、面白ことは見逃さないと何か事件の匂いを感じ取った南は好奇心をキラキラと輝かせて追撃してきた。

 北宮の場合は直感半分と経験から何かを感じ取りそれが厄介ごとだと予想している顔だ。


「さてな、言えることは俺は年末年始は仕事だったってことくらいだよ」


 そんな顔をされても言えないものは言えない。

 なので俺はすました顔でコーヒーをすする。


「ま、私の方に厄介ごとが飛んでこなければ別にいいわよ」

「ぶ~ぶ~、拙者は納得できないでござる。絶対リーダーは面白い情報を隠しているでござるな」


 そんな態度に対して北宮は言えないのなら良いとあっさり引くが、南はあきらめがつかないのかソファーからこっちに移動してきて、ズビシと擬音がつきそうな仕草で俺を指さしてきた。

 おまけに。


「ほら、今なら拙者の胸に触る権利もつけるでござるから、拙者だけに教えてほしいでござるよ」

「あいにくとスエラたちで満足しているからな、その手の話は間に合っているから遠慮する」


 ウフンとあからさまなポーズ。

 南は身だしなみさえ気を付ければ普通にモテるくらいの容姿は整っている。

 だがその反面行動がたびたび残念に映るので、おそらく異性として見られないケースが多いのだろう。

 俺としても南は手間はかかるが。

 色仕掛けもしてきたので呆れて、溜息を吐いてしまう。

 俺も人のことは言えないことをしているが、南はうちのメンバーの中で群を抜いて好奇心が強い。

 こういった手合いは下手にやり取りするよりも、手早く解決したほうがいい。

 むぅと唸り、さらに何かしてこようとする南に対し。


「勝」

「変なことするな」

「アイタ!?」


 保護者に頼んで鎮圧してもらう。

 軽く叩いただけだろうが、わざとらしく大きな仕草で頭を押さえる南はチョップした勝を見る。


「う~、でも勝も気になるでござろう?」

「気になるけど、リーダーが言わないってことは言えないってことだろ」

「そうでござるがぁ」

「ほら、コーヒー淹れてやるから」

「チョコレートを所望するでござる」

「はいはい」


 やり取りと言うより声色か、互いに踏み込んでいい距離感がわかっている雰囲気。

 長く幼馴染を続けている二人だからこそできる会話だろうというのが感じさせる。

 どうにか俺の方の矛先が逸れたことに安堵し、どうせならこのまま少し仕事の話をするかと思いパソコンを起動させる。

 確か、年末に造ったダンジョン攻略のスケジュールがあったはずだ。

 そう思い、コーヒーを置きパソコンを操作していると、一件のメールが来ていることに気づく。


「人事部からメール?」


 その差出人が直属の上司にスエラではなく、その上人事部からのメールであることに疑問符を浮かべつつメールを開く。


「……」

「ん? どうしたんすか先輩。なんか昔上司のやらかしで会社が倒産しそうになった話を聞いたときくらい顔色ヤバくなってっるっすよ」


 海堂が心配してくれているが、今はそれどころではない。

 口元が引きつり、冷汗は流れ目は忙しなく文章を読んでいく。

 内容はいたってシンプルだが、その内容を理解するために詳細を熟読する。


「……」

「いや、先輩、お願いっすから返答してほしいんっすけど、正直怖いっすよ?」


 海堂の恐る恐るかけてくる言葉にも耳を傾けず、ただひたすらメールを確認し。

 最後に記された差出人を見て俺はゆっくりと瞼を閉じ。


「ふぅ」


 そっと胸ポケットに納めていた煙草を取り出し、流れる仕草でキッチンまで歩き換気扇をつけ煙草を吸う。


「これ新年の初夢か」

「いや、何があったか知らないっすけどなんでいきなり現実逃避を始めているんっすか!? 説明を求めるっすよ!?」


 海堂の言う通り現実逃避をしたかった。

 夢だと言い訳し、あのメールを見なかったことにしたかった。


「リーダーのその反応、新年早々厄介ごとでござるか? さすがリーダー持ってるでござるなぁ」

「次郎さん、言ってる傍からまた厄介ごとって、止めてよね。あんなことがあったんだから疲れてるのよ」

「もう、だめだよ。次郎さんだって好きで厄介ごとに関わっているんじゃないカラ」


 女性陣のそれぞれの反応を聞いているうちに煙草の煙で思考が落ち着いてくる。

 メールの内容が嘘だと信じたかったが、現実は嘘だと言ってくれない。

 仕方ないと腹をくくり。


「喜べお前ら」

「お、先輩が戻ってきたっすけど、先輩が喜べって言ったときって大抵喜べない話しか来ないはずっすよね?」

「よくわかってるな海堂、さすがだ」

「いやぁ、そんなことでほめられたくなかったっすよ」


 笑えているかわからない笑みで、喜べと言ってみる。

 俺の表情に海堂は同じく笑えていない笑みで俺に答えるが、他も似たようなものだ。

 北宮は厄介ごとかと頭痛をこらえるような仕草を、南はイベント来たと両手を振りはしゃいでいる。

 アメリアは何かあったのかと素直に不安になり、勝はとりあえず南を押さえるかと再びチョップの構えを取った。


「昇進の打診が来た。期間は追って通達、幹部研修ということで監督官及び教官二名監督のもとの研修ということだ」

「「「「「「……」」」」」」


 昇進、そう聞けば聞こえはいいが、メールで送られてきた内容を要約すると素直には喜んではいられない内容であった。

 主任である俺は研修終了後、将来的には課長かあるいはそれ以上のポジションに着ける旨も書かれていたが問題はそこではない。


「なお、アルバイトである北宮、南、勝に関しては正社員への打診もあったがこれは拒否できる」

「ちなみに、研修を拒否することはできないのかしら?」

「できる、がこの話を蹴るってことはこの会社に居続けるのは厳しいって上には判断されるだろうな」


 会社が俺たちを取り込みにかかってきた。

 元々俺はこのまま働き続ける予定で、魔王軍に深く関わりを持たせようとする付き合いには顔を出していた。

 スエラのおなかには俺の子供もいるから問題はなかった。

 だが、それはあくまで俺だけの話だ。

 海堂はまだいい。

 大人で自己責任で解答ができる。


「アメリアに関してはすまんが、拒否権はない」

「うん、お母さんがここで働いているってことだから仕方ないよね」


 アメリアに関しては状況的に断ることはできない。

 アメリア自身の体調を管理しているのは魔王軍だ。

 加えて彼女たちの家計も支えているのも魔王軍、待遇として悪いどころか良くしてもらっている段階で、さらに立場を用意するという話を拒否すれば組織的に印象が悪くなる。

 この状況で彼女はこの組織から距離を取ることはできない。

 問題は。


「魔王軍から、ここにいる全員が評価されるのはうれしいが、逆を言えばここで継続戦力としての見極めに入っているという見方もできる」


 アルバイトというのは正社員と比べれば、言い方は悪くなるかもしれないが責任が軽い立場だ。

 好きな時に辞めようと思えれば辞められるポジション。

 せっかく鍛えた戦力がつらいから辞めますと言われ手放すことを避ける意図のように感じる。

 そんな立ち位置に北宮たちを置きたくないと上が思ったのだろう。


「恐らくだが、今回の研修断っても仕事自体には問題はないだろう。だが、この会社で上を目指すというのなら話は別だ」


 推薦を断るというのはそういうことだと暗に言いつつ。

 顔が険しくなっている面々に向かって溜息を吐く。


「というのが、俺の建前だ。お前ら自身この話を断る気がないんだろうが、気になる点は一つだろ」


 そして、ここまで言ったのはあくまで事実確認。

 研修を断ったらどうなるかと言う社会的常識を述べたのに過ぎない。

 ここにいる面々全員が理解しているだろう。

 それを承知で、〝研修は〟受けてもいいという表情を浮かべている。

 問題となっているのは。


「監督官と教官二人の考える研修ってのが、怖えよなぁ」

「そうっすね」

「ええ、考えただけでも寒気がするわ」

「拙者、生きてるでござろうか?」

「うう~、私体が震えてきたヨ」

「俺、生き残ったらドラゴンの高級肉買います」


 俺たちの知る三つの存在がどんな研修を用意しているか、不安で仕方ないってことだった。


 今日の一言

 幸先がいいと思うが、先行きが不安とも思う。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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