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225 得手不得手をまずは把握するべきだった。

 さっきまでもっと厳かな雰囲気だったんだろうな。

 だが、俺たちは放った紫電でどうやらご破算になったようで。


「霊脈の流れが変わったぞ、いったい何が起きている!」

「敵襲だよ!! 見てわからないのか!? 警備の者は何をやっているんだ!」

「儀式の復旧急いで! まだ復帰できる!」


 大部分があわただしい。

 ここはどうやらほかの場所と違って理性のある面々が揃っているようで、こうやって会話をしているから、情報が少しずつだが入ってくる。

 といっても、騒動を起こしたからか、入ってくる内容はどう対処すればいいかという内容ばかり。

 肝心の何をしていたかという情報はなかなか入ってこない。

 こういう時は結構都合よく語る輩がいてもいいのだろうが、今回はそういう風にはいかないようで。


「仕方ないか、とりあえずお袋の指示通りにと」


 こっちはこっちの段取りを踏ませてもらうか。

 霧江さんが人員をそろえこの場に踏み込んでくるまで場を乱し、時間稼ぎをすることが俺とお袋に与えられた任務。

 お袋は俺たち二人で鎮圧する気満々であったが、あいにくと俺はやらなくていい仕事は率先してはやらない主義。

 労力が最小限で済むなら、それに越したことはない。

 それでもやらねばならないことがないわけではないので。


「状況を! んぐ!?」


 まずは一人と。

 物陰から物陰に。

 ダンジョンの中の五感が優れたモンスターが蔓延るあの場所と比べれば、多少開けた場所でも遮蔽物があり注意が散漫になっている今なら隠れて進む程度なら意外と簡単だ。

 普通なら警戒する監視網もさっきの砲撃でいろいろと混乱している模様。

 おまけにこんな森の奥だ、機械的監視も少ない。

 懸念していた日本古来のファンタジー要素である陰陽師とか呪術とかいった技術の監視も警戒していたが、最初の一撃で大半が無効化されている。

 その点もあるからここまで騒がしいのであろうが、おかげでこういった潜入しての拉致ができている。


「……にしても、なんでこういった秘密に儀式ってのは奇抜な恰好が多いのかねぇ」


 漫画で秘密の組織というのは黒のスーツか奇抜な恰好と相場があるようだが、ここもその例に漏れないようだ。

 俺とお袋に合った体格の持ち主を狙ってまずは俺と体格の似たやつを見つけたので物陰から飛びつき人目に入る前に潜んでいた物陰に引きずり込んだ。

 あとは急なことで慌てる男を冷静に口元を押さえながら締め落として衣服をはぎ取って猿轡を噛ませ四肢を縛ってしまえば、はい完成。

 一応近くにあった布をかぶせておくが、近くに篝火があったとしても冬の森の中で放置してはいけない感じの男が出来上がった。

 手に持った衣服は浴衣に近いが上着といった感じの厚手の服装。

 少なくとも普段着に使いたいとは思えない、コスプレイヤーとかなら着そうだなという民族的な配色の衣装。

 その表面には変な動物が描かれた模様があった。

 普段の俺たちの格好も似たようなものかと苦笑一つこぼしながらもう一つ手に取った物を見る。


「これは……牛か?」


 そして白地に紅い塗料で描かれた牛らしき絵が描かれたお面。

 それを剥いだ先に現れたおっさんはどこにでもいそうな中年のおっさん。

 思い返してみれば誰もが動物の絵を描いた面をかぶっていた。

 最初は顔を隠すための物かと思ったが。


「ったく! 辰の奴らは何やっているんだ!!」

「しるか! それより猪の奴らは⁉ こんな時こそあいつらが動かないといけないだろ!!」

「そんな奴らよりも蛇の奴らだろうが!! 監視はあいつらの仕事だろうが!!」


 どうやら違うようだな。

 誰かが近づいてくるのを感じて咄嗟に隠れて聞き耳を立ててみるもんだ。

 どうやら面ごとに役割があるらしい。

 聞く限りわかるのは辰は警備といった役割、猪も似たようなもの、蛇は密偵といったところか。

 その流れで来るなら干支の動物がすべて出てきて、この牛の面にも役割があるのだろう。

 なら、忍び込むのならその意味を使ったほうが都合がいい。


「にしてもカラフルな面だな」


 その情報をくれた面々をよく見れば猿のような模様と羊のような模様、そしてあれは鳥だろうか。

 全員黄色いが、儀式的に必要な色合いなのだろうかあの模様は。


「……調べるのかぁ」


 その点も含めて調べる必要がありそうなのだが、正直今からその情報を集めるのは面倒だ、手間もかかれば時間もない。

 だが、それが必要な場面でもある。

 なら。


「とりあえず、違う仮面の奴を見つけたら引きずり込むか」


 やるだけのこと。

 どうせならお袋もつれてきた方が都合がよかったかとまた忍びながら行動していて思う。


「とりあえず、あれが蛇か」


 この場所にある建物はすべてテントのような形状の物ばかり。

 広場を囲むように外側に配置され、広さ的には半径五十メートルもないくらいか。

 中央は何やらやぐらが組まれていて、その下に何かがあるのが遠目に見える。

 その中央に入りたいところだが、そのために衣装が必要なわけか。

 一旦森の中に戻り、何やら探っている様子の人影を発見する。


「ぐは!?」

「いかんよ兄ちゃん、動くときはしっかりと二人一組で動かないとな、じゃないとこうやって鎮圧される。次回があれば参考にしな」


 その動きは素人そのもの。

 自分が何かされるとは思っていない動き。

 ただ闇雲に何かを見つけようとしている動き。

 まさにカモがネギを背負っているというわけだ。

 だったらこっちの動きは簡単だ。

 一瞬反対側の茂みに小石でも投げ入れ物音をさせ視線を誘導すれば、この通り無防備な背中が生まれる。

 後は背後から襲い掛かり口元を押さえ闇の中に引き釣り込み、締め落とす。

 いくばくかの抵抗の後に意識を飛ばし、仮面を剥がしてみれば今度は若い、二十代くらいと思われる男の顔が出てくる。

 さっきの男や会話をしていた三人組、年齢層がまばらでどういった繋がりなのか?

 と疑問に思うも詮索しても仕方ないと思い、今はやるべきことをこなす。


「さて、これで二着だが、これだけで動くわけにはいかんよなぁ」


 一応さっきの牛の面も持ってきているが、この牛のとこの蛇どこまで意味があるか。


「……色が違うな。動物によって色が変わるのか?」


 そして、気になるのは絵柄もそうだが色も気になる。

 この若い男のかぶっていた蛇の面は黒色の蛇。

 普通に考えれば動物ごとに色が決まっているという繋がりであるが、それなら動物を分け役割を決める必要性がないような気がする。

 それに動物が違うのに同じ色だった三人組の説明がつかない。

 あの三人組は雰囲気的には対等のような会話ぶりだった。

 そこから導き出されるのは。


「……階級か?」


 ダンジョンという環境は観察眼に長けていないと致命的な部分が多々存在する。

 具体的に言えばモンスターの特徴、それこそ弱点を探す際に前衛である俺はつぶさにそれを観察し見つけないといけない。

 弱点を突けば攻略も楽になるし、何より危険度が減る。

 おかげでふと何気ない特徴にも気を配るようになった。


「色で区別っていうと、あれだよなぁ」


 推測に推測を重ねるが、さっきの動物から推測した干支いわゆる十二支、そして赤と黒色から予測する階級と言えば冠位十二階。

 冠位十二階は五行説からくる階級もあり、最下級の黒から始まり最上位の紫。

 それを分けているという意味になる。

 陰陽師ともかかわりはあると思うのだが……

 もしこの推測が当たっているのなら、この牛の赤色の階級はかなりのトップということになる。


「はぁ、運がいいのか悪いのか、こりゃ急ぐ必要が出てきたか」


 偶然捕まえたのは高官だという可能性に至り、もし仮に高官が行方不明だとすれば部下はどうするか?

 答えは明白、探し回るに決まってる。

 となるとこの牛の面は使えないということになる。

 紛れ込むのにこんな目立つ高位の存在の装備なんて使えるか。


「さて、さっさともう一人捕まえるか」


 そうと決まればとおそらくまだ周囲を捜索している奴がいるはずと、思い牛の装備をあたかも森の中に逃げ込んだかのように放棄して別方向に移動する。

 そして。


「ひぐぁ!?」


 あっさりとまた一人で行動している存在を見つけて同じ方法で仕留める。


「やってることはホラー映画の内容だよなこれ」


 何もないと思われるところからいきなりとびかかり闇の中に引きずり込む、後ろを見ればさっきまで一緒にいた人がいない。

 暗闇から忍び寄る影、といえばホラー映画の予告テロップとかで使われそうなワードだ。

 やっている行動も不気味な森というシチュエーションもばっちりだ。

 青木ヶ原樹海という場所だけあって不気味と言う雰囲気が似合いそうな場所で何考えているんだと意識を切り替えるために、とりあえずいまだあがくこの腕の中の人物をきっちりと締めて意識を落とす。

 そして三人目になる処理を施して、面を確認。

 そこにある蛇模様、色は黒。

 俺の推測通りなら下っ端の面だ。

 そして、目的を達成した俺はお袋のもとに駆ける。

 途中監視の目をかいくぐり、お袋が隠れている森の中まで戻る。

 一瞬気配を感じ、その感じた方向に決められたハンドサインを送る。


「遅かったじゃないか次郎」

「思いのほか手間取ってな」


 そうすればするりと木の上からお袋が降りてきた。


「目的の物は手に入ったようだね?」

「手には入ったが……これで入るのか?」


 元々はバレないように衣装を奪い取り潜入する手筈であったが、潜った感覚的に変装は必要ない気がする。

 だから戦闘向きじゃない浴衣なような衣装と顔を隠すには都合のいい面を見せながら話す。


「上出来上出来、それじゃ着替えていくよ」

「行くのかよ、どうやって爆弾を持っていくつもりだ? 隠す場所ないだろ」


 見るからにふくらみがあればバレますよって言える服装だ。

 いくら厚手の服だからと言って隠しとおせるわけではない。


「大丈夫だよ。母さんを信じなって」


 そう言って笑顔で着替えようと服に手をかけようとしたお袋であったが。


「次郎」

「ああ」


 さっきまで笑っていた表情が一気に引き締まる。


「しくじったかい?」

「かもしれないな。すまん」

「なぁに、欲をかいた私にも責任があるさ。気にすんじゃないよ」


 最初に締め落とした男に気づかれたか、あるいはあらかじめ周囲を捜索していたか。

 ただわかるのは。


「囲まれたようだねぇ」

「ああ」


 包囲は完了していないようだが、俺たちという標的を見逃さないという気迫は伝わってくる。


「そして、お出迎えのようだね」

「面倒な」


 銃口がきらりと光り、こちらを狙っているのが見えた。

 さすがのお袋もこの十字砲火の中でうかつに動くつもりはないようだ。

 じわじわと包囲を狭め、俺たちを捕まえるつもりでいるようだ。


「素直に捕まるべきか?」

「そのあとを保証してくれる相手なら捕まるのもありなんだけど、そうじゃなそうだねぇ」

「そのようだな」


 捕まった後がわかるようなら、こんなことをしないかと内心で溜息を吐きつつ。


「覚悟は決まったかい?」

「結局、こうなるのかよ」

「あたしは嫌いじゃないよ。こういうの。あんたは?」

「あいにくと」


 ぐっと膝を落とし。

 ニタリと笑みを浮かべる。


「俺はお袋の息子でね」


 タイミングを計らず俺たちは同時に駆けだす。


「楽しめているよ!」

「アハハハ! それは良かったよ!」


 広場の中央へと。

 カカカカと愉快そうに笑うお袋は土産だと言わんばかりに背後に何かを投げるとスマホを操作し。


「さぁ! 景気よく行こうか!!」


 爆破するのであった。

 俺たちの背後は大混乱。

 そして俺たちは爆風を背にして儀式の広場に突撃するのであった。



 今日の一言

 慣れないことはするもんじゃないねぇ。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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