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226 目的を達成してさっさと仕事を終わらせたい

 走る走る走る。

 走らなければやっていけない。

 人間、目的意識があればある程度のことはできるという。

 それが、お金を得るためだったり好きな女を落とすためだったり、理由は人それぞれだが。

 自分の命がかかっているのなら、全力を出さない奴なんていないだろう?

 背後から聴こえてくるパンという乾いた音。

 耳が捉える風を切り裂く鋭い音。

 小さな何かが複数飛んでくるのを肌で感じる。

 ハリウッド顔負けの逃走劇をしている自覚が有る。


「今カスったぞ! おい! 銃刀法仕事しろよ!!」


 走って跳んで、時には物陰に隠れ、そして飛び出してととりあえず一定の場所にとどまらないように心がける。


「危ないだろうがぁ!!」


 そして相手の行動を妨害するためにそこらへんにあった投げやすいもの、変な壺や置物といったものも投げつける。

 その物体を射出する物体、平和の国日本という言葉はいったいどこに消えたのか、日本の裏でもこんなことがあるんだと場違いな感想を抱きながら緩みそうになった足の力を再び活を入れる。

 足を止めたらヤバいのがわかっているからこそ、俺とお袋は走り続ける。


「ハハハハ! 私もまだまだイケるもんだねぇ。こんなに男たちから追いかけられているよ!」

「笑ってる場合かお袋! ノリで走りこんだが何か考えがあるのか?」

「あるわけないだろ! ここまで来たら片っ端から暴れるだけさ!」

「だろうと思った!」


 そんなマフィア映画やスパイ映画のような銃撃の中を駆け抜けている。

 こんな場所に侵入しようとして見つかって銃口を突き付けられれば人間、逃げるのも当然。

 そして、そんな銃口を向けてくる奴がそのまま見逃してくれるはずもなく追われるのもまた必然。

 お袋は愉快そうに時折飛んでくる銃弾を持ち前の直感で避け、俺も俺で鋭くなっている五感で相手の殺気を感じ取り射線から身を逸らすことで対処しているから今のところ怪我はないが、さすがに長時間さらされ続けるのは勘弁願いたい。

 普通に逃げ回っているだけじゃいずれ捕まるのは目に見えている。

 ならどうにかせねばならない。


「次郎そっちのテントの紐切って」

「あい、よっと!」


 何をするかって?

 そりゃ決まってる多勢に無勢ならゲリラ戦しかあるまい。

 とりあえずは、そこら辺のもろそうな建築物を見つけたら妨害できそうに崩し。


「お袋、そっちの資材登って上に逃げるぞ」

「はいよ! かぁ! 明日は筋肉痛確定だわ。老いるのは嫌だねぇ、昔みたいに体にキレがないよ」


 前に回り込まれそうになったら普通の道じゃない部分を道にして突き進む。

 まぁ、相手は近代兵器で武装している集団だ。普通のやり方じゃ逃げられんわな。

 基本的に相手の思考の裏をかけるように気を張り、そして逃げることに集中する。

 あとは徹底的に妨害行為を駆使する。

 敵を倒すことは二の次。

 と言っても。


「死ね!」

「孫の結婚式に出るまで死ぬかボケ!!」

「グゴラ!?」


 最低限相手を倒さなければいけないけどな。

 進路上に敵が現れれば迅速に処理する。

 前に躍り出て拳銃を構える猿の仮面の男めがけてラリアットをかましたお袋。

 綺麗に喉を潰し、人が出してはいけない類の声を出しながら縦に一回転するさまを見せつけられる。


「お袋、前々から思っていたが、その怪力とかどうなってるんだ? 魔力とか持ってるのか?」


 ズシャリと背後で落ちる音を聞いても足を止めることなく走り抜け。

 俺の想像通りなら、かなり痛いだろうなぁと男の成れの果てに心中で合掌する。

 そんな惨状を引き起こしたお袋に今更な質問をする。

 昔から当たり前のような超人っぷりを見せていたお袋、幼少期どころかある程度成長してからもほかの人よりすごいなとは思っても、それが何か不思議な能力があるからこそあの身体能力だと考えたことはなかった。

 だから今まで特に触れてこなかったが、今の会社に入り、スエラやメモリア、ヒミク、そして教官たちと魔法という技術に触れて本来であれば特殊な技能がなければ人間などそれほどの力はないというのを知った。

 となれば当然この超人的身体能力が気になるわけだ。

 今は非常時、そんなことを聞いている場合ではないのだが緊張の糸を張り続けるのはきつい。

 ちょっとしたジョークのつもりで聞いてみた。


「さぁねぇ、私も物心ついたときからできてたからね。そこら辺のことはわからないよ。まぁ、両親からは神童だの百年に一人の逸材とか言われてたから、神通力くらいは使えているのかもしれないけどねぇ」

「物理特化の神通力とか怖すぎんだろ」


 聞いてみたのだが、天然の肉体なのか不思議な力なのかすらわからない答えが返ってきた。

 お袋らしい答えだと苦笑しつつ、まぁ、俺も詳しく知りたいわけでもないから問題はないのだが……


「さて、そろそろ中央だけどどうする?」

「突入って言いたいところだけど、まずいねぇ。あたしの勘がヤバいって言ってるよ」

「見るからにヤバい雰囲気だよなぁ」


 それに加えて目的地が近づいてきたから話を中断する必要があるからともいえる。

 妨害と逃走、そして戦闘と繰り返しているうちにちょっとした物陰に潜むことに成功した。そこは中央の広場に近い場所で、そっと覗き込めば広場の光景が見える。

 ここから先はかなり広い広場になっていて、地面には魔法陣のような模様も描かれている。

 極めつけは。


「心臓か?」

「見えなくはないけど、あんな大きな心臓見たことないよ」

「クジラとか?」

「……あんな心臓を持ったクジラがいると思うかい?」

「いたら嫌だな」


 その広場の中央。

 櫓の上にしめ縄で縛られて脈動する生々しいナニカ。

 姿かたちと脈動し鼓動のようなものを響かせていることから心臓だと推測するが、いささか確信に欠ける。

 暗い赤紫という色合いもさることながら、それ以外の臓器が一切存在せず、外気に触れてなお活動する心臓というのもおかしなものだ。

 そもそも大きさからしておかしい、五メートルは優に超えるだろうその巨大な存在。

 全長二十五メートルを超えるシロナガスクジラの心臓だと言われても首を傾げてしまう。

 むしろまともな生物の心臓なのかという疑問も浮かぶ様相。

 だが一つだけ確かなことがある。


「あれがこの儀式の中央なのは間違いないよなぁ」

「あれじゃないって言うんなら、ほかに何があるんだいって話だからねぇ、そう思うのも無理はないよ」


 どうやらあれが目的の物ということだ。

 あれを壊せればここにいる奴らの目的は潰えるということ、ただ問題は。


「お袋、装甲車壊したことあるか?」

「RPGでふっ飛ばしたことはあるよ」

「今の装備で壊すことは?」

「車内に手榴弾放り込めばチャンスはあるねぇ」


 警備も厳重ということだ。

 見える範囲で装甲車両が二台。

 おまけにさっきみたいな中途半端な装備ではなく、俺たちが装備しているような特殊部隊な恰好の警備が十数人。

 その手には銃器、相手は自衛隊や警察でないことから銃刀法は仕事をしろと言いたくなる光景だ。

 おまけにガチな恰好の陰陽師らしき存在も見える。

 近代兵器とファンタジーのコラボ。

 それが実現している。


「放っておくって判断は?」

「できたらよかったけど、見なさい。どうやら儀式を再開するみたいだよ」

「……マジか」


 社内では近代兵器は魔力によって無効化できていた。

 魔紋という特殊な回路が魔素を取り込み魔力を生成し、魔力のない物質からの干渉(ダメージ)を抑える。

 だからこんな光景を見ると違和感を覚えるが、現実に存在し、生身の俺にとってそれが今日になっている段階でそれを言っても仕方がない。


「片方でもどうにかなればなんとかなるんだけどねぇ」

「片方って、どっちだよ?」

「ん? そうだねぇ、銃弾を避けるのは少し面倒だから、そっちの方がどうにかできればもう片方は片づけてあげるよ」


 見るからに精鋭をそろえたと言っても過言ではない相手にどうにかできると言った。

 そして。


「奇遇だなぁお袋。俺も陰陽師さえどうにかしてくれればどうにかなるって踏んでたんだ」


 それは俺も一緒だった。

 装甲車と戦うなんてやったことなど当然ないが、霧江さんもおらず事情を知っているお袋が相方ということでスエラから渡されたペンダントを使うには適している環境だと言っていい。

 魔紋を起動させれば銃はただの豆鉄砲にできる。

 ただ、陰陽に関することは未知数だった。

 魔法のように影響を受けるのなら、それは俺にダメージが通るということ。

 今使うべきだとの思考がある一方で、戦局的な部分で使うかどうかをためらわせる。

 せめて危険な部分を排除してから使うべきだと思った。

 だが、ここでこの切り札を切るべきか悩んでいたところでのお袋の発言だ。

 ニタリと親子だと思わせる笑みを互いに浮かべ、拳を正面から軽くぶつけた後、上下に軽くぶつけ合いそして最後にサムズアップ。

 やることは決まったと、首を鳴らすお袋の隣で俺は首元からペンダントを取り出す。


「制限時間は?」


 このタイミングでアクセサリーを取り出す俺の動作を見て。

 それは普通のペンダントではないとわかり、これから何をするか、なんの力を駆使するか察したお袋は手短に俺の欠点を聞いてくる。


「全力で三十分、節約すれば倍と言ったところだ」


 制限時間がないなら最初から使っていただろうと即座に理解したお袋は手短に話を確認してくる。

 鉱樹があれば魔力を循環させてもっと持続できるが、あれを持ち出すことはさすがにできなかった。

 せめて装備とか魔道具もあればなおよかったのだが……

 ない物ねだりをするわけにもいかない。

 だから、今できる内容を素直に口にすれば。


「十分だよ。次郎、あんたは正面から行きな。あたしは鬱陶しそうなやつから狩っていくから」

「了解」


 これからやることが楽しみだと言わんばかりに笑みを浮かべ、指を伸ばすお袋が立ち上がる。


「あんたが暴れ始めたら私も動くよ」

「ほどほどにな」

「本当にほどほどでいいのかい?」

「いや、全力で楽しんでくれ」


 そして軽く冗談を交わしたのちに、すっと静かに闇に溶け込んでいった。


「さてと、暴れますかね」


 お袋が配置につくのを待つ必要はない。

 俺が暴れれば勝手にお袋も動くだろう。

 ゆっくりとスエラに渡されたペンダントを握り、ほんのりと感じる彼女たちの魔力に感謝する。

 目を閉じてゆっくりと三秒間息を吸い、そして同じ時間をかけ息を吐きだす。


「魔紋、起動」


 ペンダントに込められた魔力を魔紋と接続し起動させる。

 それだけで体に欠けていた力が満たされる。


「さてと、柄ではないがここから先は少し派手に行くか……」


 体の感覚が鋭くなったのを感じ、少し気分転換がてら持ってきていた煙草に火をつける。

 肺に煙が入り、頭をすっきりとさせて、煙草を咥えたままゆっくりと相手の前に躍り出てやれば、相手方は驚いたかのようにこちらに銃を向けてくる。

 そんなことは気にしない。

 ここから先やることは決まっている。

 そう、至ってシンプル。

 さんざん追い掛け回してくれたお礼に。


「蹂躙だ」


 教官仕込みの攻めっていうのを見せてやろうじゃないか。



 今日の一言

 さっさと仕事を終わらせて、のんびり休むぞ。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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