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206 人間関係は常に変化する

 問題というのは次の問題を呼び寄せるものではないかと俺は常日頃から思う。

 小さいことで言えばキリがないかもしれないが、大きなことで言えば最近のカーターの野郎が引き起こした反乱事件がそれにあたるかもしれない。

 ダンジョン内での辻斬り事件然り、そのあとの精霊との契約の時に起きた事件もあいつがかかわっていると聞いている。

 終いには競技大会の時には堂々としでかし、その余波でアメリアが命の危険にさらされた。

 ああ、まったく厄年かと思うくらい怒涛のトラブル続きだった。

 正直、もうこれ以上は、おなかいっぱいだと言いたいのだが。


「なぁ、海堂。俺、アメリアの後始末や今回の事件に関する報告書あげなくちゃいけねぇんだけど。そのあたりどう思うよ?」


 眼の下にクマを作り、俺、忙しいんだよと暗に言いながらパーティールームの普段使っている机から体をずらし、視線を下に向ける。

 目の前で土下座をする海堂に向けて俺はきっと笑顔で煙草をふかしているのだと思う。

 きっとはたから見ればやくざが一般人に土下座させているように見えるかもしれないが、俺は気にしない。

 何せこちとら、今日で徹夜四日目。

 戦後処理という形になるが、連日連夜にわたり報告書と報告という名のお偉いさんへの説明。

 徹夜四日目と言っているが一応、間に仮眠で合計五時間ほど睡眠を挟んではいる。とはいえ、正直、食事と風呂以外で休んだ記憶はない。

 昼間は監督官が作ったスケジュールで、監督官が用意した悪魔に連れられお偉いさん、おそらくだがあれが貴族だろうという存在たちに今回保護した双子の天使、シィクとミィクの経緯と有用性と安全性を説明して回った。

 本来であれば、報告書を読むだけで終わるはずの内容であったが、これがまたネチネチと揚げ足をとるような輩ばかりで、少しでも隙を見せようものならこちらの立場を陥れようとするので本当に困る。

 正しく、嫌な上司の典型と言える輩だった。

 精神的にも身体的にも疲れ休みたいと思う中、次の報告をするために夜になれば報告書作成とプレゼン資料作り。

 前の会社と似たようなことをやっている気がするが、前と違って肉体的にも精神的にも辛くはあるが暗い気持ちにはならない。

 前の会社のように上司がさっさと帰り、俺だけが働いているというのであれば文句どころか、キレてもおかしくないのだが、監督官のみならず、魔王軍の部署はどこも似たり寄ったり。

 上も下も平等に動き回っている。

 繁忙期と表現するにふさわしいことになっている。

 なので、俺の口からも文句は出ないし心の中でも不満はないと思っている。

 強いて言うのなら、今頃優雅に紅茶でも飲んでいそうな、お金と権力を持つ暇そうなお偉い方へ一言申し上げたい気持ちはなくはないが、そんな労力を割く方が無駄だ。

 なので、特段文句を言わず俺は俺で仕事に邁進していた。

 そんな、最中、海堂が土下座を敢行してきた。

 それだけで、何か問題が起きたのだろうというのは察せる。

 正直、俺も俺でいっぱいいっぱい。

 これ以上問題を持ってきてほしくないのだが。


「先輩! どうか俺に女の子の扱い方を教えてください」

「知るかボケ」


 昔なじみの後輩だからということで少し時間を割こうと思ったがどうやらその必要はないらしい。

 内容を聞いた瞬間に、俺の頭の中に作った思考の隙間は瞬く間に仕事の思考で埋まる。

 たった一言でバッサリと切り捨て、仕事に戻る。


「待ってほしいっす! 後生っす、後生ですから!?」

「ええい! 縋りつくな鬱陶しい。こちとら徹夜続きで眠いんだよ!」


 土下座から俺の足に縋りつくような体勢に切り替えてきた海堂を引きはがそうと足を振るが、離れてなるものかと足に縋りつく海堂は強化された体をフルに使ってその姿勢を崩さない。

 俺も俺で、魔紋で強化された体をデスマーチという本来の用途とは違った方法で使用しているが、それも今晩のためだと割り切って使用している。

 そう、何せ今日はアメリアの退院日。

 救出されて、目が覚めてから彼女は今まで検査入院という形で国営の病院に入院していた。結果、肉体的、精神的に疲弊は見られるも問題ないということで、四日目の今日退院することになっている。

 それに合わせて、退院祝いのパーティーをしようと南が提案。

 それに北宮と留守番をしていた勝が同調して、スエラとヒミク、メモリアといった女性陣がいま俺の部屋で着々と準備している。

 俺は仕事の関係で準備に参加できないが、ヒミクに予算を多めに渡して、スエラとメモリアが協力してくれているのでそれなりに豪華なパーティーになるだろう。

 なので、俺はそのパーティーに参加するため、そして急な仕事が舞い込み邪魔されないように連日連夜のデスマーチを敢行していた。


「てめぇが拾ってきた天使だろうが! 拾ってきて衣食住与えて居座っているんだから、お前が世話しろよ!」

「そうっすけど! そうなんっすけど! そうなっちゃったんすけど!?」


 そして、そのデスマーチなのだが実は海堂のしわ寄せが俺にきていたりする。

 本来であれば分担して仕事を海堂とやる予定であったのだが、海堂が戦力から離れてしまい俺だけがこの報告書作成の山を切りくずすことになってしまった。

 そしてこのデスマーチから解放された海堂であるのだが、一つの仕事を任されている。

 それが双子天使、シィクとミィクの監視という名の現代社会の生活に順応させるための補佐だ。

 あるいは、世話係とも言うかもしれないが、呼び名などこの際どっちでもいい。

 外見年齢は中学生になったばかりくらいの幼い二人、そして天使という本来であればここにはいてはいけない二人なのだ。

 表面上の後見人が必要なわけなのだが、ここで派閥的な関係で下手な権力を持っている輩や、過去の歴史的観点から天使に敵意を持っている輩は後見人候補から外された。

 それからもろもろ条件が足され、一応魔王軍に所属し偏見がなく、二人を保護した海堂に白羽の矢が立った。

 というのが表向きの話であるのだが、俺からしたら、社長と監督官相手に見てはいけない交渉を繰り広げた幼げな双子天使が居住権を獲得した瞬間を見ている。

 なのであの双子に後見人が必要なのかと疑問符を浮かべる程度に外見通りの年齢ではないのは理解した。

 内心で敵には回してはいけないとも思ったがな。


「お前の望んだとおりのハーレムだぞ? ロリが頭文字につくけどな」


 そんなことを思い出しつつ、煙草をふかし、日ごろから女の子にモテたいという海堂の願望が変則的ではあるがかなったことを言ってやる。


「やめてほしいっす!? 事実っぽく見えるっすけど、事実じゃないんっすからやめてほしいっすよ!?」


 まぁ、現代日本からしたら、成人した男性が未成年の少女に囲まれているように見える光景だ。

 どこぞの異世界に転移したもののようにハーレムだヤッホー!! と喜ぶには日本の常識がストッパーになってしまっている。

 そんな海堂は素直に喜べずにいるようだが。


「うるせぇ! なんなら合法っていう頭文字もつけてやるよ! 俺の知らないうちに機王であるアミリさんすら手なずけているお前が、ロリコンであるという事実が社内の真実なんだよ!!」


 そして、その件の双子の天使なのだが、どうやらヒミクと同様で魂によって好みがあるらしい。

 そして、件の双子天使は少々未熟で支えてあげなくちゃいけないと思わせる海堂の魂が好みらしく、おまけにアメリアが目覚めるまでの間にいろいろと差し入れしていた海堂に興味を持った。

 発言からして、海堂が少女に養われるような光景が生まれそうな気がしたが、今は置いておこう。

 結果、現在、双子にとって勇者となり得るか見極めるという名目で海堂の部屋に住んでいる。


「なんでこうなっているんすか、俺、ボッキュンボンが好きなんすよ。つるペタに興味はないっすよ。手を出したら俺、犯罪者じゃないっすか」

「それこそ知るか、お前はああいったジャンルにモテたそれだけだろうよ。いいじゃねぇか、こっちだと合法だぞ。そっちのジャンルの奴らからすれば血涙出すような光景だ」


 崩れ落ちるように現在の真実を受け入れようとするが受け入れがたいのか崩れ落ちたまま動かなくなってしまった。

 そんな海堂に向けて俺は喜べよと言うが、素直に喜べないと海堂は言う。

 そう、海堂には人生で三度来ると言われているモテ期がきている。

 まずは双子の天使、好意は持たれているのは間違いないが、それはラブなのかライクなのかそれはまだ見極める段階だと言える。

 俺から見ればラブ寄りだとは思うが、今はいい。

 せいぜい仲のいい従妹といった感じで落ち着いている。

 将来的にどうなるかといったところなんだから。

 問題なのは、そんな天使達が海堂と同居することに待ったをかけた存在もいたということ。

 俺からすればこっちの方が問題だったりする。

 その問題の方は完全にラブ宣言をかまし、海堂の部屋を独身部屋から世帯用の部屋に引っ越させ、同棲する準備を着々と進めている。

 まさかの存在に俺はもちろん、あの監督官まで驚いた。

 その存在は海堂が入社したころに出会い、コツコツと交流を深めて、気づけば好意を寄せられたという、海堂曰く、オタク友達。

 だが、海堂の意志とは正反対にその好意をぶつけてきた存在。

 機王、アミリ・マザクラフト。

 まさかの、将軍の一人が名乗り出てくるとはだれが思うか。

 俺自身はその姿を見たのは入社式の一度のみ、その際にはフードに身を包みその実態ははっきりと見ていなかったが、そのフードを脱いだ先にあった見た目は決して大人だとは言えない綺麗な女の子とだけ言っておこう。

 肌に特徴的な模様があるが、それ以外は俺らとはあまり差がない容姿。

 顔立ちは整っているので将来的には美人になるだろうなぁと思っていたが、何を隠そう機王様は俺らより年上。

 容姿に関しての成長の余地は……未知数とだけ言っておく。

 ああ、ロリで年上、いわゆるこれが本当の合法ロリという存在だった。

 その役職を知らなかった海堂は、てっきり社員の娘だと思って、年の離れた趣味友達的感覚で付き合っていたところ、その自然な距離感をお気に召した機王は双子の天使の同居に待ったをかけた。

 まぁ、非日常のトップに君臨する将軍なのだ。

 俺が話を聞いたところ、穏やかな日常で安らぎを感じて、それを提供してくれる海堂に好意を向けたといった感じだ。

 今もその時の会話を思い出せる。

 少女という容姿と発言だけでとてつもないインパクトを残した記憶を掘り返す。

 当時、双子の扱いをどうするかの話し合いに立ち会っていた俺もいたその場に、作戦行動をしているのにもかかわらず予定を無理やり合わせその場に現れ。


『海堂忠は私の交配相手、過度の干渉は許可できない』


 なんとも、幼い少女の姿からは決して出してはいけない爆弾セリフが出てきたわけだ。

 少女から交配なんて言葉が出てくるんだ。

 ポロリと口にくわえていただけの火のついていない煙草が零れ落ちたのは記憶に新しい。

 当然俺は、未成年者に手を出したのかと思い。

 海堂に何をしたかと問い詰めたが当人は知らないと、無実を主張。

 北宮は軽蔑の視線を送り、南すらリアルロリコンはちょっとと引き気味の反応をしていた。

 冤罪だと、海堂は叫び、一人淡々としていた機王様――海堂の先輩ということで名称呼びでいいと言われ――あらためアミリさんに事情を確認したところ。


『天使が海堂忠と同居するとの情報を取得した際、普段の行動原理では把握できない動悸を確認。該当する心理的情報を検索したところそれが恋愛感情による独占欲だと判断。よって、私は海堂忠に好意があると断定。その前提条件で天使の同居を許可できるか審査したところ許可できないと判断。対処すべきと思考し、作戦行動を大幅に短縮し現在この場にいる』


 なんともロジカルと言うか、理屈的な恋愛観だと思ったが、その表情は真剣でスエラたちと似た瞳の色をしているのだなと思ったので、その言葉に嘘はないと思う。

 まぁ、おかげで機王VS双子熾天使というカードが誕生しかけたが、そこは海堂が必死に仲裁に入りどうにかなった。

 その際にだが


『いや、アミリちゃんどうにかあの子たちと仲良くできないっすかね?』

『海堂忠が天使との良好な関係構築を望む申請を条件付によって受諾』


 仲良くしてほしいという海堂の願いは思いのほかあっさりと受け入れられた。

 まぁ、その条件というのが。


「はぁ、で? 今回の原因はなんだ?」

「いや、戦隊ものか魔法少女ものかどっちが強いのかの議論で、俺、どっちの味方をすればいいっすかね?」

「心底どうでもいいわ」


 アミリさんも海堂の部屋に同居するということだ。

 おかげで海堂と一緒に見たいテレビやDVDでもめ事があるとよく聞くようになった。


『今回の告白、こちらの世界、日本での風習により私の容姿的に受け入れがたいのは事実。なので、同居し、私の中身を身近で感じてもらう期間を設けてもらいたい。解答はその後に求める』


 乙女心的には何もせず負けを認めるのはダメだということだろうか。

 すごく機械的な反応なのだろうが、言いたいことはわからなくはない。

 まぁ、天使からのラブコールと機人からのラブコール。

 正直、俺を巻き込むなと言いたい。

 だが、今回の事件で俺は関わりを持ってしまった。

 無視するわけにはいかない。

 なので、こっちの世界での戦隊ものにはまっていると聞いたアミリさんと、女の子なのだからと魔法少女ものを勧め見事にはまってしまった双子天使の仲裁に対して俺は何か意見を言わなければならないのだが。


「はぁ、お前の好みを言えばいいだろうが」

「俺、どちらかというと擬人化した女の子物が好きなんっすよ」


 この海堂、大人な女性の体形が好みと言い、ロリコンではないと言いつつも根は真面目、好意に対して真剣に悩み答えを出そうとしているのだが、常識が邪魔しているせいか、ヘタレた方面に逃げてしまう。

 何とも難儀な後輩だなと思いつつ、俺は夕方から始まるパーティーに間に合わせるためにパソコンと向き合い。


「第三の選択肢を出すな」


 バッサリと切り捨て仕事に戻った。

 そして、そんなと叫ぶ海堂の声を背に、カタカタとキーボードを叩くのであった。



 今日の一言

 まったく、人間関係ってのは大変だよなぁ……特に異性との関係は。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売となります。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公ばっかりずるいというか嫁増やすなやと思っていたので海堂くんにも春が来てよかったです。
2022/08/02 01:11 退会済み
管理
[良い点] 今回の話しが好きで何度も見てしまいます。 機王様もとい アミリちゃんがんばれ!!
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