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207 最後に苦笑でもいいから笑いが漏れれば結果的に良かったと思える

 泣きつく海堂をとりあえず追い出し、どうにか約束の時間に間にあわせられる形で書類仕事を終わらせた俺の本日最後の仕事それは。


「っと、ここか」


 入院しているアメリアを迎えに行くことだった。

 何せ彼女が入院しているのは普通の病棟ではない。

 魔王の魂が暴走したアメリアを普通の病棟に入れるわけないのだが、見るからにゴツイ守衛がいる時点で、どれほど重要施設なのかが察せる。

 特別な許可がいるエリアと言えば、秘密の研究がされるようなエリアだと思えるが、要は地位の高い存在たちが密かに入院できるような場所だ。

 設備としては最新鋭が導入され、現代の日本の病院で言えばある意味、特別病棟と呼べる場所。

 見舞いどころか会うことにも書類を書き、監督官が発行した許可証がいるような場所に俺は踏み込む。

 当然、普通の見舞客などいるはずもなく。

 見舞客は俺だけ。

 そして時間的にはもうそろそろ夕飯にちょうどいい時間帯だ。

 医者や看護師といった役割の面々も廊下で出会うのはまばら。

 そんな静かな廊下をゆっくりと歩く。

 そしてついた場所に慣れた手つきでノックをし


「おーい、不良娘。ダンスの練習はしてないだろうな?」

「あ」

「してたな、おい」


 おそらくじっとしていないであろうと健康すぎる入院患者の部屋に入る。

 中で動かない気配を頼りに扉を開けてやれば、個室は広く、軽い運動ならできそうな空間が目の前に広がる。

 だからと言って、病室で運動していいわけがなく、室内で片手で逆立ちをし開脚しているアメリアはバツが悪そうな顔を浮かべさりげなくベッドに座り何事もなかったようにした。


「手遅れだ」

「ゴメンナサイ」


 そんな無駄な行動を注意すれば、アメリアは素直に謝ってくる。

 入院患者の行動としてはかけ離れている行動に思わずため息を吐く。

 身体、精神ともに異常なし診断を受けて、それでも万が一があってはならないと精密検査を重ねてやっていたアメリアにとって、この入院生活というのは退屈極まりないのだろう。

 おかげで、この数日間だけとはいえこういった室内でのダンスの練習をたびたび目撃する。

 故の不良娘呼びだ。

 入院患者なら、入院患者らしくおとなしくしろと言いたい。

 入院生活が退屈なのは理解するが、書類仕事に埋もれている隙間の時間を使って様子を見に来るたびにこんなことがあれば呆れた視線くらいは向けてしまう。

 ベッドには着替えをまとめたのであろう鞄が一つ置かれ、あとは俺の迎えを待っていたと言ったところだろう。


「はぁ、お前のお袋さんからよろしくと言われている身としては、おとなしくしておいてほしいんだがな」

「う、次郎さん、マミーの話を持ってくるのは卑怯ダヨ」

「なら、言われないように少しは我慢するか、バレないようにしろ」

「やるなって次郎さんは言わないんだネ」

「俺も似たようなことはしたことがあるからな。そこまで厳しく言うつもりはねぇよ」


 良い悪いはあるにしても、アメリアの行動は俺が同じ状況になれば同じことをするかもしれない。

 そんな思いがあるからこそ、完全に否定できない。

 内心そんなことを考えつつ入室し、その鞄を手に取り行くぞと促しアメリアとともに病室を出る。

 俺の隣を歩くアメリアは母親が用意してくれたのだろう動きやすい私服を身にまとっている。

 下はジーンズにスニーカー、上は少し厚手の白のパーカー。

 アメリカンスタイルと言えばいいのか動きやすいカジュアルな感じにまとめたアメリアらしい格好。

 そこそこの身長がある俺が隣にいるせいか、頭一つ分以上視線を下げ時折目線を合わせながら道すがら会話を交わす。


「でも次郎さんも毎日お見舞いに来なくてもよかったんだヨ? 忙しかったんだよネ?」

「忙しかったが、できなくはなかったからな。やれるならやった方が俺の気分的にも良いわけだ」

「それは、マミーに頼まれたから?」

「理由の一つではあるが、それだけではない」

「むー、そこは私に会いたかったって言ってほしかったヨ」

「もう少し大人になってからそのセリフを言うんだな。そうすれば俺もそれなりの言葉ってのを選んでやるよ」


 アメリアの見舞い自体は監督官に指示された仕事ではない。

 アメリアの母、美枝さんに頼まれたことが発端だ。

 アメリアは異世界に拉致されたという経歴を持つ前は少々人間関係が特殊であることを除けば普通の女子高生だった。

 母と二人、母子家庭ながらもダンスを趣味にして、仲良く生活していた。

 そんな折に学校行事で起きた集団行方不明事件。

 勇者召喚という異世界の壁を乗り越えた誘拐事件に巻き込まれてしまった。

 当然、一人娘であったアメリアが急にいなくなってしまってはパニックを起こしてもやむを得ない。

 だが、それでもすぐに落ち着き冷静に行動をとれたのはアメリアを信じたゆえか、無事であることを願わなければ心が折れてしまうと思ったのか。

 アメリアがいつでも帰ってきていいように生活基盤を残すために仕事に精を出し、余った時間を警察以外からも情報を求めるために自費でビラを作り駅前で配っていたそうだ。

 その行動はしっかりと縁を結び、俺へと情報が回ってきた。

 そこからは俺は実地で見てきたからわかる通り、トラブルにトラブルを重ねて、どうにか学生たちは欠けることなく無事帰還。

 一時はニュースに取り上げられ、SNSでも奇跡の帰還と銘を打ちトピックにあがった。

 その話が無事に帰ってきて一安心。

 それで済めば良かったのだが、アメリアだけは帰ってくる際に爆弾を抱え込んでしまった。

 それが魔王の魂。

 魔王軍としては、周りの勇者候補と一緒に手放すことのできない存在にアメリアはなってしまったのだ。

 だからこそ、本来であれば保護者の同意書がなければアルバイトにもなれない職場にアメリアは特例として所属できた。

 母親に知らせることなくだ。

 それは、会社側から強制したことでもお願いしたことでもない。

 会社としてはすべて説明したうえで協力を仰ごうとしたのだが、アメリア自身が拒否したのだ。

 心配をかけてしまうと。

 母子家庭が故の子供の心配、気持ちは理解できるがリスクを考えればいいとは言えない判断。

 本来なら許されない。

 だが、特例としてアメリアは許された。

 けれども、その特例が今回仇となってしまった。

 本来ならおきえないはずの魔王軍からの勇者が現れ、その聖剣の光によってアメリアの中の魔王の魂が暴走してしまった。

 その結果の二度目の失踪。

 一度だけでもダメだと言うのに、二度も彼女は突如として母親の前から失踪してしまった。

 今回ばかりは、説明しないというわけにはいかなかった。

 組織の都合上警察への対応は会社の方で対処し、事件は解決したことになってはいるが、当事者である母親の美枝さんはそういうわけにはいかない。

 隠し通すことも、魔法的な処置も可能であったが、それはしなかった。

 社長の同意のもと俺は、アメリアを救出し一度目の診断で異常がないことが判明し次第、俺はすべてを説明するために監督官とともに美枝さんにアポをとりこの会社に彼女を招いた。

 当時の美枝さんは泣きながらアメリアの生還を喜び、そして同時に説明を聞いた彼女はこの会社との接触を強く反対した。

 親として当然の反応だ。

 危険があるのを承知してまで、娘を働かせる親などいてはいけない。

 美枝さんは常識的で、ごく一般的な、俺からすれば懐かしく思うほど平和な世界の住人としての反応を示してくれたわけだ。

 アメリアには言っていないが、会社側からは慰謝料を用意し、そのまま退社することも視野に入っていた。

 アメリアの中に魔王の魂はもういない。

 賢者の知識という特異な能力を手に入れているが、特例を許すほどのものではない。

 なので、保護者と当人の意志に今後の進退をゆだねるということになっていた。

 俺からすればなんだかんだ言って付き合いができつつ、仲は深まってきたと思うタイミングで別れ話となれば寂しいと感じ、それでも彼女のことを思うなら意思を尊重せねばと、説明後は静観した。

 その結果なのだが。


「むぅ、大人って勝手だよネ。私がいない間に勝手に話を進めちゃうカラ」

「そういうな。美枝さんの反応は大人として普通の反応なんだよ」

「わかってるよ。わかってるけど、それじゃぁ私の意見は無視してイイノ?」

「まぁ、最後には納得してくれたんだ。それで良しとしておけ。まぁ、美枝さんがうちに就職することを条件にだがな」

「う~、マミーに見られながら働くっていうのも複雑だよ」


 盛大とまでは言わないが、結構派手な親子喧嘩に発展してしまった。

 美枝さんはこんなに危ない目に遭ってと言い。

 アメリアは危険だけど、この場所を離れたくないと言う。

 美枝さんの意見は日本社会からすれば社会人としても母親としても常識的で間違った意見は言っていない。

 危険なものからは離れ環境を変える。

 誰もが考えられる選択肢だ。

 対するアメリアは俺やスエラに始まり、海堂、北宮、南、勝といったパーティーメンバー。

 それ以外にできた繋がりを手放したくないといった。

 この会社を辞めればプライベートでしか会う機会はなく。

 その機会を作るのはなかなか難しいと言わざるを得ない。

 それを恐れた。

 常識的な正論に対し、リスクを理解しつつその中で得たものに価値を見出し、リスクに見合う対価だとアメリアは言った。

 良好な関係を築けた身としてはその言葉はうれしいが、実の母親と喧嘩までして言われると心境的には複雑だ。

 美枝さんの言い分もアメリアの言い分も理解できるし同意もできる。

 相互にメリットとデメリットがあり、甲乙つけがたいのだ。

 のだが……


「それを了承しなければ、お前はこの会社にいられなかったからな。我慢しろ。それに、お前が言い出したことだしな。責任はとれ。それが社会に出るってことだ」

「は~い」

「はいは短く切っとけ、そっちの方が印象がいいぞ」

「はい!」

「よろしい」


 そうなれば話は平行線。

 遺伝した部分が顕著に現れたせいか、互いに譲れない部分を守るため意見を変えることなくぶつかり合う始末。

 最後の最後には、同意書を書かない美枝さんと家出すると言い始めるアメリアのぶつかり合いになり始めた。

 互いに感情的になり、冷静な話は見込めない。

 そんな折だ。


『そんなに私が心配ならマミーもこの会社で働けばいいじゃなイ!! そうすれば私と一緒に働けて心配じゃないでショ!』


 アメリアは何を思ってか、前振りも何もなくいきなり突拍子のない言葉を切り出したのだ。

 感情的なアメリアからすれば、母親は娘が何をしているかわからないから心配、そして今回みたいなことが起きたら大変、だから辞めさせようとしている。

 そんな図式が出来上がったのだろう。

 だから、監視して何をしているか把握すればいいと思っての発言なのだろう。

 一般的な会社からすればどうあがいても無理な話。

 てっきり、美枝さんもそんなことは無理だと言うかと思ったが。


『……』


 アメリアの言葉を考え始めてしまった。


「幸いなのは美枝さんが事務職経験者だってことだな。書類仕事が強いってのが監督官を納得させたところだろ」


 美枝さんの魔力適性は会社に入るときに測っている。

 その結果は二、会社の結界は条件付きで突破できてもテスターとしては活動できない。

 そんな人材を雇えるのかと監督官を見たが。


『テスターとしては無理だが、別の部署なら可能だ』


 その答えはNOではなくまさかのYES。

 この会社自体設立してからまだ年月が経っていない。

 日本側の会社の事務を担当していた経験者を得られるのならと思いのほか好意的に監督官は許可を出してくれた。

 その言葉が親子喧嘩を鎮静化させ、互いに妥協点を探る話し合いまでもっていかせた。

 そんな結末の結果が、美枝さんの転職というわけだ。

 といってもテスターではなく事務方だけどな。

 配属されるのは監督官が管轄する人事部テスター課。

 スエラの部下という形で配属される。

 まぁ、来るのは引継ぎの関係もあって来年ということになるらしいが、給料も増えて宿舎もある。

 唯一、通学が少し遠くなるのが問題だが、アメリア曰く問題はないらしい。

 それよりも母親と一緒に働くというの方がアメリア的には複雑だろうな。

 その時の話を思い出したのか、複雑そうな顔をするアメリアに苦笑しつつ見慣れた社内を抜け俺の部屋まで移動し。


「ほれ、入りな」


 玄関のカギを開け、アメリアに入るように促す。


「うん!」


 あらかじめアメリアの帰還祝いのパーティーをすることは伝えている。

 なので靴を脱ぎ、部屋に入っていけば。


「はい、タダシは私たちの隣よ」

「そうね、私が左、シィクが右よ」

「なら、私はタダシの中央を所望する」

「「却下よ」」

「いや、ね?三人とももう少し仲良くできないっすかね? ほら、せっかくのパーティーっすから」

「ロリコン先輩、さぼっていないで手伝うでござるよ」

「ロリコン、こっちの料理運びなさい」

「うう、女性陣からの評価が厳しいっすよ」


 パーティーの準備をする面々の姿が見え、各々何をしているかわかる。

 少し早く来すぎたのか、準備は終わっていないが、そんな時間を待たずして準備が終わるだろう。

 そんな空間で少女を侍らせた海堂が南と北宮に白い目を向けられ。


「勝、こちらは揚げ物を担当しよう」

「では俺はサラダの方を」


 台所ではヒミクと勝が料理を作り。


「スエラ、無理をしないように」

「大丈夫ですよメモリア、少しくらい運動したほうが体にもいいですから」


 テーブルの皿をスエラとメモリアが並べていた。

 そして。


「アミー」

「マミー!」


 おそらく料理をしていたのだろう。

 エプロン姿の美枝さんが俺たちに気づいて出迎えてくれた。

 トテトテと母親に駆け寄っていくアメリアを追う。

 その先で仲良さげに笑いあうその二人を見て、いろいろとごたごたし、まだまだ問題は残っているが、これでいいと納得できた結果は引き寄せられた。

 そんな光景を見ていると


「せ、先輩! 助けてほしいっす!?」


 少女たちに腕を引かれる海堂の叫び声が聞こえ。


「仕事しろ、俺は疲れた。ヒミク、小腹がすいたのだがつまめるものはないか」


 それを流し、台所に向かいすいた小腹を埋めるためにいい匂いのする場所に向かうのであった。

 スエラが俺に気づき近寄ってくるので一緒に台所に向かい、皿を配膳していたメモリアが手を振ってきたので振り返し、ヒミクの差し出してきた箸につままれた唐揚げを頬張る。


「うまいな」


 その味を味わったのはパーティーを始めるほんの数分前の出来事、その数分後には誰一人欠けることなく、むしろ増えた元気な掛け声で。


「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」


 と掛け声とともにグラスの音が響くのであった。



 今日の一言

 最良ではないにしろ、納得のできる結末なら。

 笑えるのだろうさ。


今回で今章は以上となります。

次回より新章が始まりますのでお楽しみしていてください。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売となります。

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[一言] 下っ端くんにも春が来てよかった
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