133 ケースバイケースだが、黙るデメリットと話すデメリットを考えろ
思ったよりも新キャラの評判がよくて幸いです。
このキャラを活かせるように頑張りたいと思います。
「次郎君! 大丈夫ですか!」
「それは!?」
「ええ、まぁ、大丈夫か大丈夫ではないかで言うのなら肉体的には大丈夫です。ええ、肉体的には……精神的には大丈夫ではないかもしれませんが」
乾いた笑いというのはこういう時に出てくるのだろう。
戦闘音が静かになり、天使と強制的に契約されて、浮気をしていないはずなのに浮気をしている気分になっている俺は崩れ落ちたい気持ちを抑え、駆けつけてくれた義父二人を迎えた。
俺の目の前に立つ天使改め、堕天使の姿を見た二人は驚くと同時に武器を構えた。
「まさか精神魔法ですか!? くっ、やはりあの時次郎君を一人で送り出すべきではなかった」
「嘆くのは後にしろ、今は婿殿を助けるのを優先する。敵は堕天使だが我らの命を賭せばまだ間に合うはず!」
「! そうですね。この長き生命、未来の子供のためになら燃やすのは惜しくないです!」
「ならば活路は私が開こう。何安心しろ私は死ににくい、多少の時間は稼ごう」
「ええ、お願いします。そうなれば私はダークエルフの禁術を」
「ああ、では!」
「待ってください!! 大丈夫! 大丈夫!! 俺健康です!! 精神的にももう回復しました!! そんな大それた決意をしなくても俺は大丈夫です!! だから落ち着いてください!!!」
俺の言い方が悪かったせいで勘違いが大変な方向に進んでしまったが、それほど堕天使という存在は恐ろしいのだろうか?
まさかいきなり覚悟を決めた男の顔をして俺を助けに来ようとするとは、魔法とか特殊能力がある業界では冗談も考えて言わなければならないとは……
「主、とりあえずこの武器を構えている男たちを消せばいいのか?」
「てめぇはとりあえず黙ってろぉ!!」
空気が読めない。
いや、空気を読まない堕天使を黙らせるために再びアイアンクローする。
右手の握力という握力を駆使し堕天使の頭を鷲掴みにするが、コイツも学習したのか宙吊りにされながらも頭の周囲にうっすらと魔力の膜を感じる。
それで俺の握力に対抗して防ごうとしているが、こっちもキリキリと力を込めて対応する。
「まて主さっきから私の扱いが雑だぞ!! これでもれっきとした堕天使、それなりに珍しいのだぞ!具体的言えば百年に一回位見れたらラッキーくらいの存在だ! まぁ、敵からしたら百年に一度の不幸なわけだが、いや今の私は堕天使だ。それなら三十年に一度くらいか?」
「言い方が微妙だな! それなりってなんだよ! あと、情報は正確に伝えろ! 余計話がこじれる。はぁ、話がややこしくなるから俺が事情を説明するまで黙ってろマジで」
「む、承知した」
鷲掴みのままとりあえず黙ったが、なにか余計なことを言うかもしれないという心配があるのでそのままグレイさんたちに振り向く。
「話の腰を折ってすみません。とりあえず事情を説明しますので聞いてもらえますか?」
「大丈夫なのですかその堕天使は?」
「ええ、それも含めて説明します」
マイットさんは心配そうに俺と堕天使を交互に見るが、ここで否定の言葉を述べてしまうと話が進みそうにないので大丈夫とは言わずそのまま話を進める。
そして、拘束されていたこの堕天使と戦い、紆余曲折し契約してしまったことまで話したところでふと気づく。
「そういえばお前名前なんていうんだ?」
「名乗っていなかったか?」
この堕天使を紹介するにあたって名前を聞くのを忘れていた。
なにせ問答無用からの戦闘開始だ。
名乗る暇もなく、戦闘を終えてからもこの堕天使のペースに乗せられ自己紹介もできていなかった。
「俺の記憶にはお前に名乗られた覚えはなかったな」
「そうか、名乗っていなかったか」
一応接敵してから今までの記憶の中で名乗りあった記憶はない。
でなければ未だ俺の中でコイツの名前が天使だったり堕天使といった名詞で固定されていたりしない。
「逆に聞くが俺の名前を知っているか?」
「知っているぞ、そこのダークエルフが言っていたからな」
もしかしたらそれが勘違いかもしれないから俺が名乗ったかどうかで確認する。
だが、俺の記憶のとおり互いに自己紹介はしておらず、この堕天使も俺の名はマイットさんが呼んだことで知っているだけのようだ。
「主の名前はジェロだ」
「誰が演歌歌手か、マイットさんの話を聞いているならしっかりと覚えろアホ。次郎だ。田中次郎」
自信満々に答えたが、出てきた名前はかすりはするだろうが完全に別人の名前が出てきた。
一応今の俺はイスアルの共通語で会話をしているが、固有名詞、自分の名前の発音は自然と日本語寄りになってしまう。
魔道具を使って言語のサポートをしてもそこら辺には違和感が出てしまう。
なので実は俺の名前を正確に発音するには少々コツがいる。
呼べる人はあっさりと呼べるのだが……
「タゥカジィロ?」
「た・な・か・じ・ろ・う!」
希に呼べなかったりもする。
この堕天使は日本語の発音が苦手のようだ。
耳で聞くのと発音するのとでは意外と誤差が出てしまう。
一つ一つ音を言って聞かせてそれを修正しても理想の発音は出ない。
「ん~発音が難しいな、タヌゥクァジィロー?」
「何で無駄にネイティブな発音になるんだ……はぁ、もうジィロでいい」
口ずさむこと数回、これでどうかと聞いてくる堕天使に首を振って違うと言う仕草を見せたあとに妥協案を出す。
本来であればもう少し練習させたいが、それを矯正している時間が今はない。
なのである程度俺だと認識できるのならあだ名かなにかだと思うことで納得する。
「そうか、ではジィロ。私の名はヒミク。元は熾天使の地位を預かっていたが、今は関係ないか」
「熾天使ですか!? まさか、神から直接生み出された最高位天使、原初の十二天使の一角!」
「!?」
「マイットさんヒミクのことを知っているのですか?」
「彼女の存在は知りませんが、我々ダークエルフ一族に伝わる過去を記す文献や伝承で勇者と共に戦う天使の存在が記されています。その中で希に勇者が劣勢に陥った時に天から高位の天使が遣わされるといった記録が残っています」
「それが熾天使?」
そうしてようやく堕天使の名前、ヒミクの名を知ることができたのだがその名は、と言うより元いた地位がマイットさんだけではなく、表情の変化が乏しいグレイさんも驚かせるほどのビッグネームであった。
「む、姉妹の活躍を知っているのか。そうだ、私は七番目の熾天使だった」
だが、俺も俺でさっきまでアホ丸出しな天使がどれくらいすごい天使なのか理解できず、いまいち驚くことができない。
ヒミクもそんなことを気にせず、むしろよく知っていたなと自身がマイナーな存在だと言っているような語り口だ。
そんな俺たちとは正反対でマイットさんとグレイさんの表情は真剣そのものであった。
熟考を始めたマイットさんといつでも剣を抜けるように構えるグレイさん。
「お前すごかったのか?」
「多分」
その反応につい聞いてしまったが、彼女自身から出た言葉はマイットさんの言葉とグレイさんの行動を裏付けるものではなかった。
「どうやらすごいらしい」
「何でそんなに曖昧なんだ? 自分のことだろう?」
「ずっと天界で姉妹と模擬戦を繰り返していたが、姉や妹たちにはあまり勝てなかった。だからと言って頭もそこまでいいわけでもなかった」
まぁそうだなと会って十数分で完全に定着したイメージを心の中でつぶやく。
「書類仕事も私は姉妹の中で一番遅かったからな。私自身評価のしようがない。それでも他人がすごいというのならそこでの私はすごいのだろう」
なんというか、ヒミクは姉妹が優秀すぎて自分は大したことがないと思う自己評価が低い典型的な存在だったようだ。
「実戦経験は、勇者と共に戦った数週間だけだが、ふふん、どうだ主、私はすごいんだぞ!」
「すごいのはお前の姉妹だろう」
なんでコイツは最後にオチをつけるのだろうか。
その行動がヒミクをすごい存在だと思わせない要素になっている。
おかげで、すごいのかすごくないのか。
これではどう評価を下せばいいのかわからなくなってしまう。
接敵した時の戦闘で封印状態でもかなりの力を保有していたのは感じ取っていた。
なのでマイットさんの話の通り熾天使の力は勇者に力添えし、魔王に勝利するのを助力する。
そんな存在であるのはまず間違いない。
その力は、勇者に並ぶほど。
義父二人が、心配する気持ちもわかる。
だが、そんな二人の心配をありがたく思いつつ。その力がこちらに牙を剥く心配は今のところないと思っている。
根拠として薄く、これは半ば勘も交えた結論であるが、俺がこれから言うことは間違いないだろう。
自慢するように胸を張るヒミクに胸を張るのはやめておけと軽く言いつつ、マイットさんとグレイさんに視線を交わす。
「マイットさん、グレイさん、今は俺の制御下にコイツはいます。コイツの話ではここに長居しているのは得策ではない。納得できないかもしれませんが、今は俺を信じて行動をとってくれませんか?」
「……」
「……」
じっと視線を合わせること数秒後。
「わかりました。次郎君がそこまでいうのなら信じましょう。よろしいですか? グレイさん」
「……」
マイットさんは一度目を閉じてから了承してくれ、グレイさんは言葉こそ話さなかったがそっと剣を腰の鞘に収めることで答えを示してくれた。
互いに何かあれば行動を起こすと視線で語っていたが、一歩引いてくれたことには変わりはない。
「二人共感謝します」
俺の意見を聞いてくれたことに感謝し、次の方針を決める。
このダンジョンにモンスターの素材がでなくなったという話が本当ならば、このダンジョンは枯れることが決まった井戸のようなもの。
そしてその井戸を潤し続けていた堕天使を手中に収めてしまっていては、その井戸で利益を得ていたものからしたら俺たちは決して無視していい存在ではなくなる。
「今後の方針の相談も兼ねて一度冒険者ギルドの方へ戻りましょう。事情はどうあれあそこもこの話を聞いたほうがいいと思いますので」
「そうですね、それがよろしいかと。先ほど治療したダークエルフパーティーには冒険者ギルドに報告に走ってもらっているので、その訂正も兼ねて向かったほうがいいでしょうね」
「……」
そして。
マイットさんたちのあまりにも素早い行動決定に俺は完全にヒミクとのキスを相談するタイミングを失い、内心どうしようかと悩みつつ表情は変えず今後のことを考えるのであった。
今日の一言
言うか言わないか、その判断は素早くしたほうがいいだろう。
今回はこれで以上です。
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