134 失態のカバーをする時の人間の形相は経験上大抵ろくな顔をしていない
申し訳ありません前書きに後書きが入ってしまいました。
訂正します。
「ちっ、さっきから兵士がやけに多い」
目的が達せられないのなら用はないとそうそうに見切りを付け、ダンジョンからの撤退を決めた。
行きとは違いモンスターを無視しながら進んだおかげでかなり早く進んでいる。
だが、入口に近づくに比例して探索者や冒険者ではなく職業軍人の姿が多く見られるようになったせいでその速度は着実に遅くなっている。
「主、なぜあの程度の輩に身を隠す? 気づかれないようにヤレばいいではないか」
「まずお前のサーチアンドアサシンの思考をどうにかしないといけないのか俺は? 仮にも相手は同じ組織に所属してんだよ。むやみに蹴散らしたら後で俺の立場がやばい」
「そういうものなのか?」
翼を隠せば一見普通の女性に見えるヒミクは俺の言葉に首をかしげるのであった。
それにしても悪魔である監督官が翼を隠して一見普通の人間の女性の姿になれていたのでもしやと思ったが、予想通り堕天使であるヒミクも翼を隠すことができた。
最初はこの目立つ翼をどうやって隠そうか悩んだが……
『翼を隠せるか?』
『できるぞ』
素直に聞いてみたら一瞬で問題が解決した。
ヒミクも今じゃ一見普通の人間の女性だ。
おかげで目立たず行動できている。
「ストップ」
気配を感じて一瞬その場に留まるように手でサインを送り、耳をすませると遠目にガチャガチャと鎧を鳴らして通り過ぎる集団が見えた。
前の路地を通り過ぎた部隊もおそらくはダンジョンコアであったこいつを探すために編成した軍隊であろう。
こうまで表立って人員を動かしているのならいよいよ相手方も後がなくなってきたか?
向こうの意図に焦りが見えてきた。
「これはいよいよ、か?」
何をしてもそれだけを成し遂げるという雰囲気を感じ、接敵すれば面倒事は避けられないというのを再認識する。
日本で言う自衛隊や警察といった存在であるあいつらに見つかれば俺たちを見逃すというのは甘い見通しだろう。
十中八九、捕縛は間違いない。
もしかしたらあの雰囲気通り問答無用で命を狙ってくるかもしれない。
戦えば勝てる自信は十分以上にあるが、ここでは戦うという事実が残るのがまずい。
命を取るのはもちろんだが、怪我、それどころか倒したという事実だけで俺に逮捕状が出かねない。
なので現状こうやって隠密行動を心がけている。
「とりあえずお前は黙って付いてこい」
「主その言葉、愛の告白みたいで一瞬だがときめいたぞ」
「前言撤回だ。何も喋らず何もせずただ歩け」
ヒミクが余計なことをしないように注意したのにもかかわらず、何故か一瞬気が抜けそうになる。
それを堪え、打開策を考えながらダンジョンの出口を目指す。
せめて相手が話を聞いてくれるような人物ならまだ救いがあるのだが、軍隊の動かし方に加えて、探索者ギルドの対応と噂に聞くこのダンジョンの管理者の性格を考えると期待するだけ無駄だろう。
教官や監督官がこの場にいれば説得のしようもあるが、ないものねだりをしていても始まらない。
「できる範囲で成果を出すしかないか……マイットさんどうですか?」
「……主要な出入り口にはほぼ兵士らしき存在がいますね。探索者ギルドだけではなく冒険者ギルドの方にも」
出口を目指す段階から周囲を索敵してもらっているマイットさんが精霊の視覚越しに状況を教えてくれる。
その内容は予想通りであったが、半ば願望が入っているとは言え、できれば外れてほしかった内容だ。
「となると、見つかるのは時間の問題か……グレイさん何かいい手はありませんか?」
「私は霧状になって脱出できるが、それではダメなのだろう?」
「人間の俺には無理な話です」
「ダークエルフもできませんね」
「堕天使の私もだ」
「なら別の方法を考えるしかあるまい、我々が転移魔法を使えればまだ可能性があるが」
「マイットさん使えますか?」
「あいにくと空間魔法は使えませんね」
「私は使えるぞ」
「そうですか、グレイさんは?」
「私も無理だ」
「主、だから私は使えるぞ」
「わかった、わかったからって……今なんて言った?」
「いくら主でもさっきから私の扱いがぞんざいすぎる。いい加減私も怒るぞ」
「そうじゃない、その前だ」
「だから、転移魔法は使えるぞ。何度も言っているではないか」
「……」
「どうした主、そんなじっと私を見て」
「いや、なんでもない」
一瞬誰にでも取り柄はあるんだなと言いそうになったが、咄嗟に口をつぐむことができた。
俺自身戦うことしかできないと思い込んでいたために、ヒミクが転移魔法を使えないものだと思っていた。
視野狭窄とはこのことか。
第一印象で決め付けるのは良くはないな。
「そうか、それならなんとかなるな」
「うむ、私の知っている場所ならどこにでも行けるぞ」
「……」
「どうした主?」
「……お前の知っている場所じゃないとダメなのか? 俺の知っている場所とかは?」
「何を言っているのだ主、転移魔法を使うのは私だ。使用する私が知らずしてどうやって主の知っている場所に転移するのだというのだ」
「あぁ、そうだよな。お前の言うとおりだ。それでお前はどこに行ける?」
「今行けるのは元主である太陽神の神殿くらいだな。なにせ、ずっとダンジョンコアになっていたせいで座標関係が全て変わってしまっていて、移動できる場所を他に知らない」
「使えねぇ」
「過去のデータを参考にして転移することはできるが……」
「それをやると?」
「その場に建物が新しく建っていたりするとそれに埋まってしまうが構わないか?」
「構うわ」
だが、世の中そんな簡単においしい話が転がっているわけではなかった。
当然だろと疑問を述べるヒミクに言われるのは何か感じるものがあるが、そこは無知な質問をした俺が悪い。
そしてヒミクの言うことは当然といえば当然だ。
俺たちは外から来たが、こいつは三百年近くずっとダンジョンの中にいたんだ。
そんな年数が経てば情報だって劣化するだろうよ。
当然今のダンジョンの外を知っているわけがない。
知っている方がおかしい。
となるとだ、いよいよ強行突破しか手段がなくなってきたわけだが。
「転移がダメなら、いっそのことだれにも認識できないほどの速度で駆け抜けられないものかね?」
「できるぞ」
「なに?」
戦闘を避けるために昔漫画で読んだ主人公が光速で移動し敵を瞬く間に倒した描写を思いだしそれを口にしたが、土台それが難しいのは理解している。
だが、可能であれば状況が改善するのも事実。
気づかれないのはなにもこっそりと隠れてやり過ごすだけではない。
認識、知覚できない速度で移動するのも可能か不可能かは置いておいて一種の発想の逆転だ。
半ば冗談で口にした言葉であったが、この堕天使できると言いやがった。
今度はあれか、失敗したらミンチにでもなるとかで使えないというオチか?
「主、その表情で何を言いたいか大体予想がつくが、私はできた守護天使だからな。主の考えを口に出したりしないで話を進めるぞ。主の言う知覚できない速度での移動、時間加速魔法でできるぞ」
「なるほど時空間魔法ですか、それなら確かに可能ですが……この人数に知覚できない領域までの加速術式となるとそれ相応の魔力が必要ですよね?」
時間加速魔法。
そんな俺の知らない魔法が出てきたが、名前から予想する限り知覚時間を加速する魔法だろうと推測できる。
「問題ない。長時間はともかく、短時間なら私一人の魔力で十分だ」
どうだと聞いてくるヒミクの言葉に俺は一瞬考えるが、問題点らしい問題点は見当たらない。
聞く限り身体強化の上位互換的な存在だという認識で間違いはないだろう。
身体強化なら日常的に使っているから多少強力でも御しきれる自信はある。
マイットさんの心配も杞憂なようで、ほかに問題点が上がらなかったのでいざ実行したのだが……
「関節が、関節が軋む」
「む、むぅ」
「こ、ここまで負担が大きかったとは、予想以上に強化されていたようですね」
結果から言えばダンジョンは無事脱出できた。
ヒミクの使った時間加速魔法は全体の動きを極端に遅くなったと錯覚するほど俺たちの思考速度を格段に上昇させてくれた。
検問している兵士からしても、俺たちが通り過ぎた際ちょっと風が通り過ぎた程度の認識しかなかったようだ。
素早く通り過ぎたあとは一気にダンジョンの入口から離れ、今は路地裏で休んでいる。
ダンジョンの中にいると思われてダンジョンの外に注意がないとは言え、さすが神様が直に作り出した天使の一角の魔法だと言える。
その効果は絶大だったんだが。
「情けないぞ主、あの程度の強化で」
「あとでシバク」
「何故だ!?」
その反動も絶大だった。
限界を超えた無理な知覚領域外での機動。
視覚的には問題なくても、その領域で動けるための体がまだ俺にはできていなかった。
咄嗟に魔力を循環させて体を強化したにもかかわらず、最近では軋むなんてことは起きなかった体が悲鳴をあげている。
それが戦うなどの複雑な動きをしたのではなく、ただシンプルに走っただけでここまで体に負担をかけたのだから俺がどれだけの速さで動いたか知れる。
正直ソニックブームとまではいかないが、突風程度は巻き起こしてもおかしくないのではと思うが、この堕天使が何かしたのだろう。
空気の壁に衝突することなく無事に走り抜けられた。
ただ、今度この堕天使に自分基準で物事を考えないように徹底指導を施すというのは心に誓った。
「グレイさん、マイットさん動けますか?」
「ええ、なんとか動けそうです」
「こちらもだ」
「では、早々に動きましょう。この場にとどまって見つかったら脱出した意味もないですし」
「どちらに?」
「おそらく城門の方にも警戒態勢が敷かれているはずですので、まずは冒険者ギルドに向かいましょう」
とりあえず動けるようになった俺たちは再び目立たぬように移動を開始する。
注意はダンジョンの方に向いているとは言え、通常より街の警戒度も高くなっていると踏んでいるからこその行動だ。
実際、二度ピリピリとした雰囲気を醸し出す巡回部隊をやり過ごしたところを見る限り俺の予想は正しかった。
「ったく、なんで身内を警戒しないといけないんだか」
まだ完全にダンジョンテスターという立場が周囲に認知されていないということと、人間に対する認識が悪いイメージで固定されているという現状がこうなってしまった原因だろう。
ため息を吐きたいが、それよりも足を動かすことが先決だ。
こぼした言葉のあとは集中して周囲を警戒し進む。
「あ、あなたたち無事だったのね!」
そしてようやくたどり着いた冒険者ギルドに入ると、最初とは比べ物にならないくらいに賑やかになっていた。
そんな人を探すに苦労しそうな空間でタイミング良くアミリシアと出くわしたのは運がいい。
向こうもこちらに気づき早足で近づいてくる。
「なんとかな、それにしても来た時と違って随分賑わっているな」
「仕方ないわよ。いきなり領主から命令書が届いたんだから。こっちは大変だったのよ。ダンジョン内に突然変異のモンスターが出現したから調査が済むまで冒険者はダンジョンに入るなって、おかげで入る冒険者を呼び止める作業をして、中にいた冒険者たちも全員追い出されちゃったわ。おかげで依頼は途中放棄、違約金の発生、多分これで顧客も減る……はぁ、悪夢だわ」
「そりゃご愁傷様」
アミリシアの表情は先程とは打って変わってこの世に絶望したと言わんばかりに落ち込んでいる。
周囲を見渡せば、誰もが鬱憤をはらさんと言わんばかり愚痴をこぼしながら酒を飲んでいる。
いわゆる、自棄酒なのだろう。
ちらりと突然変異と喧伝されている存在であるヒミクを見るが、変わった様子はなかった。
「アミリシア、このあとすぐに時間をとれるか?」
「なによデートのお誘い? いつもなら笑顔で断るけど、今は笑顔は在庫切れなの。私はこのあと山のような書類処理しないといけないんだからデートにも応えられないわよ」
誘っていないのに断られるとは新鮮な反応だと思いつつ、その言葉を苦笑一つで流し時間が惜しいので本題を切り出す。
「いやそうじゃなくてな、ダンジョン内で何が起きているかを知りたくはないか?」
冒険者たちと一緒に、自棄っぱちになっていたアミリシアも俺の一言ですぐに表情を変える。
「何があったの?」
「この場では言えないことが、少なくとも起きたな」
「……わかった。ギルドマスターにも聞いてもらうわ。構わないわね?」
「そうしてくれたほうが助かるわ。あと、魔王軍の中央に連絡って取れるか?」
「ギルドマスターならつながりもあると思うわ、やってくれるかはあなたの話次第だけど」
「了解した」
「時間は取らせないわ。ここで待ってて」
仕事モードに入ったアミリシアを見送る。
「これで少しは事態が改善すればいいんだけどな」
「大変そうだな、主」
「誰のせいだ、誰の」
原因であるヒミクに慰められつつ、結局必要な素材が手に入らなかったことを俺は心の中で嘆くのであった。
今日の一言
プランの変更は避けられないか……
今回は以上となります。
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これからも本作をよろしくお願いします。




