104 話を聞こうまずはそれからだ
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性九(準魔王級)
役職 戦士
メインの道から少し離れ、屋台によって死角になっている小さな広場まで移動した。
大歓声が響くなか、ライターが灯る音がいつもより大きく聞こえる。
灯された火に口元を近づけスっと一息吸ってやればタバコに火がつく。
「パーティーの解散ね……」
神崎の言葉を聞いてまず一考する。
力になるのはいいが、今まで無視し必要最低限のコミュニケーションもとってこなかった身としてはここですんなりアドバイスをする必要性を感じない。
正直言えば自分で考えろの一言で片付けたいくらいだ。
「なんでそんな話になった」
敬語は不要、とりあえずは用件を聞いたほうがいい。
それが聞けないなら、自力でどうにかしろと叩きつける。
「うちのパーティーが女所帯ってのは知っている?」
「ああ、知らない方が無理があるな」
同期で数少ない女性テスターのパーティーだ。
ソロであった頃でも噂話程度はスエラや他の社員たちから聞いている。
成績は平均より少し上程度、目立った成績はないが安定している。
パーティーメンバーのルックスが高いことからテスターたちから共同パーティーの申請が多いとも。
俺は触らぬ神に祟りなしと距離を置いていたが、まさかこんな形で接触する日が来るとはな。
「……そのせいかはわからないけど、最近他のテスターからの勧誘が酷くて、そのせいでメンバーの一人がこの仕事辞めるって言いだしたの。私は気にするなって言ってたんだけど……」
「悪化したと、そのメンバーは思いのほかストレスが溜まってたってところか?」
「ええ、それでパーティーの中の雰囲気も悪くなって、今はダンジョン攻略も少し遅れてるわ」
それを聞いて、合点がいく。
要は厄介な人間関係のトラブルというわけだ。
そして神崎は班長として解決策を模索しているということか。
「問題点を洗い出しする前に、少し付き合え」
「? どこに行くつもり?」
「そんなひどいツラをしてて解決策を伝えてもネガティブに捉えちまう。少し気分転換だ」
「そんな時間は」
「ないなら作れ、お前の言っている辞めたいって奴はお前のことだろうが」
「!?」
「気づいてないとでも思ったのかよ、例えが遠まわしだがわざわざ他人の俺に他人の相談に来るってのが解せなかった……まぁ、もっと言うなら」
「……」
「その化粧のしたに隠している隈をどうにかしてから言うんだな」
指摘されて目の下に手をやる仕草を見せた段階で、嘘を言っていたというのを肯定したようなもの。
「俺から言えば辞めたければ辞めればいいだろうって話になるんだがな。けれどお前には辞められない事情があるんだろう。だが、その事情は仲間には言えない。だから俺に相談に来た。違うか?」
「……違わないわ」
これ以上隠しだては無理だと判断した神崎は俺のあとに続くように歩き出した。
「ほれ」
「ありがとう」
途中屋台でジュースを買い一本を神崎に渡す。
そのまま止まらず歩く傍らで事情を聞く。
「話せる範囲でいい、話してみろ」
こういう時にステータスの強化はありがたい。
前を見つつ話を聞くことができるほど聴覚が強化されているからだ。
「実は……」
ポツリポツリと語られた内容を聞き。
概ねの内容を俺は理解する。
「ああ、そういうことね」
その間も歩みは止まらない。
屋台の脇を通り、一本道を突き進む。
向かう先は闘技場だ。
それを神崎も理解しているが何も言わずついてくる。
「事情はわかった……なるほどなと納得はしたが解せないことがある。なぜ俺に相談した? 普通なら同性のスエラとかの方が良かっただろう」
「相談したら課長からあなたに相談したほうがいいって」
「スエラ~」
年頃の女性の悩みを男である俺に振る彼女の行動に頭痛を感じる。
いや、常識に齟齬がある異世界人のスエラよりも地球人でありパーティーに女性を抱え込む俺の方が適任だと思われたことにしよう。
そして神崎の事情をまとめる。
神崎のパーティーは元々は他人であったが、男と一緒に組むのは抵抗があるし、けれど一人で戦うのは怖いということで編成されたパーティーだ。
関係は仕事仲間以上友人未満といった関係だ。
成り行きで神崎がリーダーを務めているがそこまでの権力はなく、せいぜいが指針を決める程度だ。
だが、何かと雑務を押し付けられるケースが多く、それを手伝ってくれるケースも少ない。
そして前からあった男性テスターからのナンパがエスカレートしていき、それに嫉妬したメンバーと溝が出来始めている。
ここまで条件が揃えば本来であれば仕事を辞めるという段階まで来るのであるが。
「……生活費を稼ぐ必要があるというのがネックか」
「ええ」
神崎は苦学生というもの、親に無理を言い上京し大学に通っている。
その時の条件で生活費は自分で稼ぐようにと言いつけられている。
言ってはなんだが、この会社ほど時間に融通が利き、かつ、給料面がいい会社はない。
きっちりと金銭管理と危険管理をすれば生活はかなり良くなっている。
なので辞めたくても辞められない。
「俺のパーティーに入れるってのもありなんだが、この場合それじゃ問題の解決にならないんだよなぁ。むしろ火に油を注ぐことになる」
単純に部署替えすればそれで済む話ではないのが面倒だ。
仮に神崎を北宮のように俺のパーティーに招き入れたとしよう。
それだと残してきたパーティーと神崎の関係が拗れ、他のテスターたちの関係によるトラブルの標的が俺のパーティーに移る。
火消しにもなっていない。
下手すれば余計に悪化する。
「いっそのこと北宮みたいに全力で相手を殴り飛ばしてくれれば話は楽だったんだがな」
「何言ってるの?」
「いや、こっちの話だ」
段取りを考えている間にこぼれた戯言をなんでもないと流しつつあの放物線を描いた火澄の光景を思い出す。
そしてあの時とは違う状況から解決策を模索する。
解決するべき点は二つ、仕事内容の改善と男性テスターの対応か。
「……あれが使えるか?」
イベントのスケジュールの中で確か一つ例外的なイベントが組まれていたはず。
うまくいけば一気に俺の中での問題が解決するはずだ。
「神崎」
「なに?」
「とりあえず話はわかった。お前はとりあえずイベントを楽しめ」
「……わかった」
「安心しろ、何もしないってのはしねぇよ」
となれば根回しをする必要がある。
疑惑の視線を向ける神崎に向けて苦笑を一つこぼし、タバコを携帯灰皿に落とす。
そのまま闘技場の前で一旦彼女と別れる。
彼女はそのままゲートに入っていき俺は俺で別口に入り込む。
ズンズンと今も誰かが戦っているのが震動で伝わってくる。
「っと、ここか」
視界の端で動き回る魔獣と戦うテスターの姿を捉えながらとある一室に入り込む。
「ケイリィさんいるかい?」
「やっほ~次郎君、スエラに飽きてお姉さんのところにきたかな?」
「親友をいじめて楽しいですかね?」
「うん楽しい!!」
「あとで書類の山を押し付けられても知りませんよ」
「うっうん! 次郎君、さっき私が言ったことは黙っているように、お姉さんとの約束だ!」
「冷や汗かくなら言わなければいいのに」
実況を担当していたケイリィさんが休憩に入っているのはスケジュール的に知っていたが、ちょうどいいタイミングで来たようだ。
試合の実況での興奮が抜けきらないのかいつもよりもテンションの高い彼女に苦笑し、そのまま彼女の向かいに座る。
「それで? なんの用かな? スケジュールは順調に行ってると思うけど」
「そっちの方は心配してませんよ。どちらかといえばデモンストレーションの方ですよ。教官たち張り切ってません?」
「あ~あっちかぁ……君も随分と無茶をするねぇ。私としてはいいカンフル剤になると思うけど、よく魔王様を説得できたね」
「社長の説得は意外と簡単でしたね。イベントには派手な催しが必要ですからね。それを担当してもらうのはトップクラスの実力がいいと思ったまでで。ああ、ついでにここいらで一つ頂点の実力を見る必要があると俺は思ったわけですよ」
「よく言うねぇ、ここでテスターをふるいにかけるつもりだよね?」
ニッコリと笑うケイリィさんに向けて俺は簡潔に苦笑を一つこぼすことで答えるのみ。
このイベントを企画した際に監督官から一つ苦言を言われた。
『最近テスターたちが弛んでいる。ちょうどいい機会だ、貴様が引き締めろ』
事実、なぁなぁでダンジョンの同じ階層に挑み続けるテスターが増えている。
それを是正させるための催しを組めと監督官から言われ、俺は鬼王のキオ教官と不死王のフシオ教官、そして
「けれど、鬼王様と不死王様はわかるけど樹王様と巨人王様を引っ張ってくるとは思わなかったよ」
樹王ルナリア様と巨人王ウオーロック様という組み合わせの二対二の模擬戦を企画した。
頂点の実力とは、いずれ俺たちが到達しないといけない一角だ。
その戦いを見れば停滞をよしとしているテスターたちにとってはかなり刺激の強い気付け薬になるだろう。
今回のイベントには、テスターたちを会社側から見極めることも含まれている。
二期生のテスターの段取りも見えてきたこのタイミングがいいと判断したのだろう。
そしてそれを知るのはテスターでは俺だけだ。
海堂たちにも伝えていない。
「必要だと思ったので」
「口ではいろいろ言えるだろうけど……君も上の情報を集めたかったんじゃないの?」
「ご想像におまかせします」
「う~、スエラみたいにもっとラフに接してよ~」
「仕事中なので」
まぁ、もっとも心配はしていない。
奴らは奴らで向上心を忘れているということはない。
今回のイベントも積極的に参加し、能力を遺憾なく発揮していた。
冬のボーナス査定にも影響は出ないだろうよ。
お客様気分のテスターたちはここいらで顔を青くしてもらうとしよう。
ツンツンと顔を突こうとするケイリィさんの指を躱しつつものらりくらりと対応していると、その指はピタリと止まる。
「それで? 私もそろそろ休憩が終わるけど本題はいいの?」
「報酬は前払いの方がいいと思いまして」
「よく言うわよ、ろくに遊ばせてくれなかったじゃない」
「からかう楽しさは本命の男にしてくださいってことで」
「可愛くないわね」
「男ですのでっと、時間がないので手短にケイリィさん少し予定変更をお願いします」
「いいけど、これって正式じゃないわよね?」
遊びはおしまい。
向こうから本題を切り出してくれたことに感謝しつつ。
俺はすっと口元に笑みを浮かべる。
「ええ、ちょっとした」
その表情を見たケイリィさんはあとでスエラにこう言った。
まるで鬼がいたずらを思いついた時の笑顔だったと。
「サプライズですよ」
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性九(準魔王級)
役職 戦士
今日の一言
臨機応変に行く。
今回はこれで以上となります。
これからも本作をよろしくお願いします。




