8. 不足の事態
夜。
帰宅した秋山は、メモを見ながら自室のベッドに寝転がっていた。
学習机の上には、資料館でもらったパンフレットが放り出されている。一応は写メも撮ってきたが、イラストに起こすのは面倒くさい。
撮った写真が気軽に印刷できればいいのだが、生憎うちにはプリンターが無い。
メモしてきたのは、七堂十藏の略歴ぐらいで、どれだけ薄く希釈しても既定の枚数には届きそうにない。
とにかく、何でもいいからページを埋めなければ受験勉強が進められない。
──ああ、イライラする。
焦燥感ばかりが募って、秋山は往生際悪く寝返りを打ったが、その拍子に布団が吸い込んでいた熱気が吐き出された。昼の名残が暑苦しく纏わりついて、尚更不快感が募る。
「あー、やっぱり『おこめの できるまで』を拝借してくればよかったかも」
自由研究が進まない理由はわかっている。気が付くと七堂十藏の死のことを考えているからだ。
あんなに明るく開放的なテラスと、転落死という悼ましい死に方が心の中で噛み合わない。多くの功績を残した立派な人物なのに、ずいぶん残念な最期だ。
とはいえ、会ったこともない他人の死だけだったら、家に着いた頃には忘れていただろう。心を揺らされたのは、それが自分が知っている人物に纏わる話だったからだ。
朝倉遼。いつも洒落たスーツを着こなす美丈夫なのに、どこか不器用で、いつも一生懸命な彼に、秋山は好感を抱いていた。
「義理とはいえ父親なんだもんな。それも自分がパーティとか出てる間に」
彼の爽やかな笑顔の裏に、そんな悲しい過去があったと思うと、少し心がざわついた。先日祖父の葬儀があったばかりなので、過剰反応なのは承知している。
七堂記念民俗資料館も、あの時は豪邸をポンと寄付したことに驚いたが、事故物件と思えば手放したくなった気持ちもわかる。
「まあ、そんなことは関係ないよな。自由研究には書けねーし」
反動をつけてベッドから飛び起きた。気は進まないが、明日もう一度資料館に行くしかないだろう。今度は手当たり次第にメモを取らねば。何でもいいから書いてしまえばこっちのものだ。
頭の片隅で、シルバーのバレッタに束ねられた黒髪がさらりと揺れた。




