第6話 皮肉なる強制労働と、永遠に続く祝福のページ
古の魔王が浄化され、王都を覆っていた闇が晴れた後、ジュリアンとセリナには王命による「最も皮肉で、逃げ場のない罰」が下された。
王都の最も深く、陽の光さえ届かぬ地下深部。
そこには、王都の灯火を維持するための巨大な魔石を精製する、地下労働施設がある。かつてエラが誰にも知られぬところで、ただ一人静かに、だが命を削るようにしてこなしていた「真の実務」の現場だ。セリナが送られたのは、まさにその最下層にある、地獄のような「魔石磨き」の作業場であった。
「ひっ、ひぃ……っ、嫌ぁ! なんで、なんで私が、こんな冷たくて不気味な場所で、真っ黒な石を磨かなきゃいけないのよ! 爪は全部剥がれて、指先はあかぎれだらけで血が出てるのに! 寒い、お腹が空いたわ、誰か、誰か助けて!」
セリナの絶叫が、湿った石壁に反響して虚しく消える。
かつて白磁のように滑らかだった彼女の肌は、魔石に魔力を吸い取られ続けたことで土色に沈み、華やかだった桃色の髪は埃と汗でべったりと張り付いている。
魔石磨きとは、単に汚れを落とす作業ではない。自身の魔力を石に流し込み、その不純物を魂ごと削り出すような過酷な労働だ。魔力が枯渇すれば、今度は生命力が削られていく。
「……お姉様はずるいわ。ずるすぎるわ! 今頃、あの温かくて綺麗な辺境伯領で、もふもふした動物たちに囲まれて、美味しいお茶を飲んで贅沢してるなんて! 聖女の仕事って、もっと優雅で、みんなに跪かれるものだったはずでしょう!? なんで私だけ、こんな惨めな思いをしなきゃいけないのよぉ!」
セリナが泣き喚きながら「ずるい」と叫ぶたび、背後に立つ監視の兵士が一切の容赦なく、音を立てて鞭を振るった。
「うるせぇ、さっさと手を動かせ! あんたが『ただ座ってるだけで楽そうだ、お姉様だけずるい』とほざいて、あの巫女様から奪い取った仕事だろうが! ほら、魔力が足りねぇぞ、もっと死ぬ気で祈り、死ぬ気で石を磨け!」
その兵士は、かつてセリナの無能ゆえに結界が解け、魔物が街を襲った際、家族を失いかけた男だった。
周囲にいる他の労働者や監視たちも、皆、セリナが美容のために魔力を浪費したせいでカビたパンを食べ、ドブのような泥水を飲まされた民衆だ。彼らの眼差しには、慈悲の欠片もない。
「あんたが『地味で退屈な雑用』だと笑ったこの仕事が、俺たちの命を繋いでたんだ。さあ、次は殿下の番だ。あんたたち二人が、一生かけてこの魔石を光らせ続けるんだよ。さもないと今日の配給も抜きだ、この穀潰し共め!」
隣の房では、かつての第一王子ジュリアンが、泥にまみれて魔石を運ぶ荷車を引いていた。
かつての王族の誇りなど微塵もなく、ただ恐怖に怯え、セリナと罵り合いながら、永遠に続く暗闇の作業に従事している。
セリナが欲しがった「巫女の特権」という名の椅子は、今や彼女を死ぬまで縛り付ける、鉄の鎖となったのだ。
一方、王都の喧騒も絶望も届かぬ、白銀の辺境伯領。
そこでは、銀雪の仔狐たちが、新しくこの地の主となったエラとケイルの結婚を祝して、精霊の祝福の歌を空に響かせていた。
仔狐たちの鳴き声が共鳴するたびに、空には七色のオーロラが揺らめき、ダイヤモンドダストが二人の足元を祝福の絨毯のように埋め尽くしていく。
「エラ。君が来てから、この凍てついた領地も、私の心も、初めて春のような暖かさを知った。君を一生、この仔狐たちの数よりも、そして私の命よりも大切に愛し抜くことを、ここに誓おう」
ケイルは、至宝を扱うような手つきでエラの指先を取り、幾度も熱い口づけを落とした。
「はい、ケイル様。私も……この子たちと、あなたがいるこの場所が大好きです。私を必要としてくれる、ここが私の本当の『聖域』ですわ」
彼の左手の指が私の右手の指に深く絡まり、私を優しく、だが力強く引き寄せた。
目を閉じた私の唇に、彼の温かな唇が重なる。
その瞬間、私にだけ聞こえる仔狐たちの喜びの歌声が、世界を白銀の祝福で満たした。
王都での過酷な搾取も、妹の醜い嫉妬も、今はもう遠い過去の断片に過ぎない。
私の物語は、今、この白銀の光に包まれて、最高に幸せなページをめくり始めた。
(完)
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