無糖派。
この子、目が見えないのか?
どうやってここまで来たんだろう……
「はじめまして、私はハル。あなたの名前は?」
「……」
返事がない。
「とりあえず中に入って。何か飲む?」
「……」
「ハルさん、この子どうしたんすかね。」
「何か理由がなきゃ来ないはずだけどな。」
「……この子特殊クラスの子じゃないかな?」
「特殊クラス?」
「生まれつき身体的なハンディがある子は何かしらの能力がとても大きくなるって聞いた事があるの。そうやって一芸に特化した子を集めたのが特殊クラスなんだけど……」
「……最低だな、人をそんな所でしか判断しないなんて。大切なのはこの子達が楽しく生きていけるようにする事なのに。」
「ハルちゃん……」
「私はハル、女の子だ。で、隣にいるのがルイ、この子も女の子。とっても可愛いんだよ。後ろにいるのがゲス、すっげーゲスい男なんだ。」
「そうでゲス!って違うっすよ心入れ替えたんすから。」
「ははっ、ここでは3人で仲良くお茶して話す、ただそれだけの同好会なんだけど……一緒に1杯どうかな?」
彼女は何も言わなかったが、頷いた。
「紅茶かコーヒーかミルクがあるんだけど……どれがいいかな?」
すると紅茶が入っている入れ物が揺れた。
「そっか、紅茶がいいんだね。今お湯が沸いたから……ゲスは後でいいな?」
「勿論っす!」
……
……
「いやー激甘コーヒー美味いっす!」
「見るだけで胃がもたれそうだな、それ。」
「ハルさんも飲みます?」
「いや、俺は無糖派だから……」
相変わらず目の前の子は喋らない。
でもなんだろう、何かを伝えているような……
「……なぁサクラ、テレパシーってどうやってするの?」
『本来訓練したものしか出来ませんし……こればかりはその人の感覚によるものなので、ハル様ご自身でその感覚を掴んで頂かないと分かりません。』
「感覚ねぇ。」
「無理っすよハルさん、生まれた時にプロテクトしてあるっすよ。」
「なんだプロテクトって。」
『テレパシーが普及してきた時代から、相手に自分の心が悟られないように保護するようになったのです。ですから今では嗜む程度で、テレパシーを使う方は少ないでしょう。』
「俺、ヒロに悟られてたけど?」
『ハル様はプロテクトされておりませんので、思考が駄々漏れなのです。』
「えっ?なんで?」
『ハル様、嘘つけない性格ですから必要ないかと思いまして。』
「ふふっ、私分かる気がする。」
「えっ?!」
「顔にすぐ出るっすからね、何考えてるか丸わかりっす。」
「なんだよ、皆してズルくない?俺だけ筒抜けなの?」
その時だった。
「ふふふっ……」
この子が笑顔を見せた。
「お、良い顔っすね!」
途端ゲスのいる方向を見て元の表情に戻った。
「ゲス、嫌われてるんじゃない?」
「マジっすか!?」
すると彼女は俺にしがみついてきた。
しかしゲスに対して警戒心を解かない。
「……もしかしてゲス君の心を読んでいるんじゃないかな?」
「いやいや、プロテクトかかってるっすよ?」
「……この子はそういった力が強いのかもしれないな。」
もしかしたら人の心が読めすぎて……そりゃ嫌になるよな。
彼女の頭を撫でる。
「俺達は大丈夫だよ、キミの味方だから。少なくとも俺はキミに絶対嘘をつかない。だからさ、名前教えてくれないかな?」
「……シル」
「ん?」
「マクシル。」
「……!?」
「へー可愛い名前だね、マクシル。よろしくな。」
「よ、よろしくね、マクシルちゃん。」
「……っす!」
ゲスが声を出すとそっぽを向く。
どうやら本当にゲスを嫌っているようだ。
「自分何したっていうんすかー?」
「まだまだゲスって事だな。マクシルはどうやってここまで来たんだ?」
するとマクシルは自分の端末を見てせてきた。
『改造型の端末ですね、視覚補助に特化しているようです。』
「ナルホドな、その端末がアシストしてくれるのか。」
「4文字なんで結構良い育ちだとは思うんすけど、なんで新しい目をつけないんすかね?」
「やめろ、どうだっていいだろそんな事。」
「す、すいませんっす……」
この子がさっきみたいに笑ってくれればそれでいい。
それだけで十分だ。
するとマクシルが頬を擦り寄せてきた。
「ハル。」
「ありかとう、マクシル。」
「ゲス、嫌い。」
「悲しいっす!悔しいっす!」
……
……
「明日は学校があるし今日はお開きにするか。マクシルはどこに住んでるんだ?」
「……寮。」
「じゃあルイと一緒だな、帰り頼むよ、ルイ。」
「うん、じゃあ一緒に帰ろっかマクシルちゃん。」
「ハル……」
「ん?」
「ハル。」
「……よしよし、また明日な。待ってるから。」
「また明日っす!」
相変わらず、ゲスの声にはそっぽ向く。
「じゃあ先に帰るね。」
そう言ってルイはマクシルと手を繋いで帰っていった。
……
……
「ルイはハルが好き。」
「えっ?ど、どうしたの急に。」
「私もハルが好き。」
「ふふっ、じゃあ一緒だね。」
「……みんな私に嫌な気持ちを持っている。」
「えっ……」
「私の名前を聞くと皆そう。ルイも。でもハルは違った。あんな風に言ってくれる人、思ってくれる人、生まれて初めて。」
「……」
「ハル、優しい。見えなくても分かる。とっても優しい顔してる。ハルの心、暖かい。」
……
……
「ハルさん、帰る前にいいっすか?」
「ん?なんだ?」
「ハルさんにしたらどうでもいい事だと思うんすけど、マクシルって名前、あれの意味っす。」
「名前に意味なんかあるの?」
「2文字3文字じゃ無いみたいなもんなんすけど、4文字超えるとそれが大事になってくるんす。えーっと……なんて言ったらいいんすかね。」
『ゲスが言い辛いみたいなので私から。文明人、又はそれらに関わる家柄の者は名前の文字数が多くなります。多ければ多い程力は強く、以前お話した言魂も、彼等は強力な物を選べるのです。』
「ふーん。」
『マクシル、その名の意味は“忌嫌われる不幸者”です。言魂には正と負があり、負の方がより強い意味が込められています。しかしながら負の名前をつけるというのは一般的ではありません。理由を考えましたが、あの歳になっても視力をそのままにしているという事は、彼女は実験的な存在なのでしょう。』
「……」
言葉にならない。
彼女には何の罪もない。
これがこの世界の普通なんだろう。
「……自分、彼女の名前聞いた時に少し負の感情を持ったんす。で、彼女それを感じ取ったと思うんす……最低っすよね。」
「……マクシルにとってはそれが普通なんだろうな。ゲスは悪くないよ、悪いのはそういったシステムを作ったこの世界だ。」
「ハルさん……」
「ただな、どうだっていいんだよ本当に。大切なのは俺達がどう思うかだ。ゲスはもう反省したんだろ?次はもう大丈夫だよな。それでいいんだ。次は笑顔でいてやってくれ。」
「次会ったら謝るっす。」
「うん、それがいい。」
……
……
「マクシルちゃん……私……」
「いいの、あなた達が普通。言わなくても分かる。」
「……」
「私ここでいい。」
「……マクシルちゃん、」
シュンッ
「「ごめんね、ごめんっす」」
「良かった、まだ一緒だったか。」
「ハルちゃん、ゲス君……」
「ゲスがどうしても今日謝りたいって言うからさ。」
なんか今ルイも謝っていた気が……
「さっきはごめんっす。マクシルって名前聞いてちょっと引いたっす……それから笑った時に可愛いって思って、それっから下心全開だったっす。これが自分の本心っす。」
こいつ正直過ぎるな。
「ゲス、馬鹿。」
そう言ったマクシルは少しだけ微笑んでいた。
「よーしこのまま皆で飯に行くっす!」
「おー、いいな。俺肉食いたい。」
「ハルさんいつも肉っすね。」
「───」
……
「マクシルちゃん、さっきは──」
「いい、言わなくても分かる。」
「うん……」
「ご飯行く。手、繋いで。」
「うん!」
「おーい二人共どうした?」
「今行くよー。」
───友達が増えました。




